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第5話 瓜生 隆

瓜生隆は言った

「おまえ等の関係気持ち悪いな・・・・・・」

憐れみでも嫉妬でもない、僕の心の奥底をのぞくような目をして抑揚もなく。

僕にとってそれは懐かしい経験だった。

久しぶりにオマケではなく、一個人としての視線をぶつけられた気がした。







高校に入学して一年経った日。

その頃には学校にも慣れ、僕の位置付けも確固たるものになっていた。そして僕自身、学校だけでなく対人関係にもいやな意味で慣れてしまっていた。

朝、いつもより少し早めに家を出て学校に向かった。

しかし学校に着くと、もうすでにたくさんの生徒でごった返していた。

僕も例にならって掲示板を見に行く。軽い高揚感を含む空気が漂う中、人ごみを軽く押しのけながら前に進む。


その日はクラス替えの日だった。


人ごみの中に未兎の姿を見つけたが、声をかけなかったのは緊張していたからだろう。

張り出された紙が見える位置まできて僕は軽く目をつむる。

「神様、どうか・・・・・・」

無神論者な僕でも、この時ばかりは敬虔なクリスチャンさながらにいのった。

そして目を開く。

一組から順に目を通していった。圭介は二組だった。首を何度も何度も上下させ目で名前をおっていく。そして、いい加減に疲れたと思い始めた頃、自分のクラスをみつけた。


・・・・・・はぁ・・・。

溜め息をつきながら、踵を返して校舎にむかった。




教室には僕以外に一人の男子生徒しかいなかった。

喧噪が遠くに聞こえた。イベント事では会話にはながさくようだ。それにまだHRまで時間があまっている。すぐに教室に行くなんて根暗な奴ぐらいで、ほとんどの生徒がまだ外に残っていた。

その男子に声をかけようか迷ったが、黙々と本を読む彼に気を使い、その後ろの席につきうつ伏せになった。窓際最後方の席は、殺人的なくらい日の光が気持ちよく、すぐにまどろみの中に引きずりこまれた。


また同じクラスになった・・・。


僕は一年生の時を思い出だす。

入学式の日、同じクラスになったことを未兎は喜んだ。

一人あぶれた圭介はふてくされ、僕は笑っていた。

まるで心の内の懸念を悟られないように。


女の子は突如として変化する。要因は何であろうとそれは突然にくる。そのトリガーとなったものは何なのか知らないが、それは未兎にも訪れていた。

もともと素材がよかったぶん彼女の変化は顕著だった。

腰まで届く絹のように艶やかな黒髪。

透き通るように白い、雪のような肌。

僕の半分ほどしかないのではないかと思われるほど小さい顔に、その中で際立って大きい瞳。

体型も女性らしい丸みを帯びてきていた。


彼女は幼なじみの僕ですら、はっとするような女性に変貌した。

予想どうり、それを普通の高校生がほっておくわけがなかった。

はじめの挨拶でクラスメート全員に覚えられ、数日後には学年全体、さらに数日で学校中に知れ渡った。

そしてプライバシー保護法なんて無論無視なクラスメート達によって、僕、未兎、圭介の関係も誰しもの既知な要項となった。


僕はこの状況を喜んで迎え入れた。

二人の間にいればわかる事実。想い合ってるという事。それなのにくっつかない二人。そんなもどかしい現状を打破できると確信した。二人のためなら道化になることも厭わないつもりだった。



・・・しかし、謀とは往々にして外れるものらしい・・・・・・。



結局、変わったものは二人の距離ではなく、うざったい周囲との関係だけだった。



「おまえ、宇井野のと知り合いなんだって」


「星野君って福部君と親しいんでしょ」



何度聞いたかわからない。彼らは壊れたステレオのように同じ言葉を聞いてきた。

そして僕を未兎たちへのパイプとして利用しようとした。

決まってそいつらは、僕から目的のものを引き出すと、連絡が途絶えた。彼らの携帯には、削除された僕のアドレスの代わりに、未兎や圭介のアドが入っているのだろう。


人と付き合うのに吐き気がした。男子も女子も笑い顔を殴りたかった。


人と接する事を避けるスキルだけがどんどん積みあがっていった。


大勢の知り合いの中に、友達と呼べる奴は数えるほどしかいなかった・・・・・・・・・。



―――

こんなネガティブな事ばかりだと誤解されるかもしれないが、未兎と近くにいることが苦痛な訳じゃない。

それに、今回のクラスには一年の時に仲良くなったシュウや渡会(わたらい)もいたし、なんだかんだいって楽しくやれそうだとも思う。


ただ、不安なのだ。


本性を見せられない人付き合いがこの先も続くことに。僕のことを友達だと思ってくれる奴らに、本当に僕のことを友達だと思っているのかと問いただしたくなる自分のことが。

時折見せる未兎の儚げな顔が、今の僕のすべてを見透かしているのではないかということが。

大声で、未兎は圭介のものだとすり寄ってくる知り合いたちを突っぱれない自分の不甲斐なさが。

不安なのだ・・・。







――頭をたたかれて目が覚めた。

思考にトリップした僕の脳が、一瞬にして現実に戻ってくる。

顔を起こすと、そこには頬を膨らませた未兎が立っていた。そういえば、クラスがだんだん騒がしくなってきた。

「なんだよぉー。同じクラスなんだから待っててくれてもよかったじゃない!」

普段落ち着いた雰囲気を纏った彼女の、たまに見せるこういう表情は酷く可愛らしく見える。

そのまま彼女は僕の頬を軽くつねってきた。

「ごひぇん」

おもわず情けない声が出た。

「もうっ!」

僕の頬を最後に強くひねった後、しらないと呟いて未兎は女子のかたまりの方に近づいていった。

僕はその姿を見つめ続けた。まるで先程の考えを溶かすように、何かにすがるように。

一分ほどそうしてじっとしていただろうか。

あまり見つめてても変に思われるから、と思い視線を前に戻すと、さっきの読書男子がこちらを振り向いていた。

僕のことをじっと見据えていた。


「なに?」


その瞬間、彼が読んでいた本のタイトルが見えた。

「人の心理を読み解く方法」なにやらきな臭いものだった。

尚も彼は僕の質問を無視しつつ、凝視するのを止めない。

そして、どうしたものかと僕が軽く目を泳がせたとき、彼は呟いた。

「おまえ等の関係気持ち悪いな・・・・」

いうまでもないが、それが瓜生隆とのファーストコンタクトだった。

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