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第四章第二十一話 魔獣討伐作戦⑤

遅くなりました。色々誤字のご指摘が多かったので、一章から全文見直しに手間取りました。お楽しみください。

第四章第二十一話 魔獣討伐作戦⑤


 ブレスの嵐が吹き荒れる中、俺達は地に伏せ、ひたすら耐えるしかなかった。幸いだったのは狙いが不十分で直撃するブレスが無くその余波を浴びるだけだった事か。


 頭上スレスレを飛び去る高水圧の激流、地面を抉りながら俺達の直ぐ脇を走り抜けていく奔流。その余波だけでも周囲に展開している板状の防御障壁が粉砕されて行く。俺達はただただ耐えるのみ。


「前方、ブレスきます! 直撃コースです」


 索敵要員からの悲鳴が上がる。地面を抉りながら急速に迫って来る。その時雄たけびを上げながら立ち上がる影が二つ。マイヤとミヤ。大剣を頭上で大きく回しながら加速して行くマイヤ。


 ハルバードを同様にして回すミヤ。さらに詠唱もしつつ最高速に達した回転にさらに自身の回転も加え気を練って行く。


 闘気法。各々がまずは最大火力の魔法をブレスに向かってぶっ放す。魔法がブレスに当たって砕け散る。威力を弱めたブレスはなおも接近して来る中、渾身の突きを放つ。それはもう目の前だった。


 マイヤとミヤの気闘法を使った渾身の突きがブレスを吹き飛ばすが、作用反作用なのか二人も後方に向かって弾丸の様に吹き飛んで行く。


 防御障壁から弾き出される前にその二人を受け止めたのはアンジュ。二人を抱え込みながら素早く地に伏せる。全員がブレスの余波で濡れ鼠になる中、ようやくブレスの嵐が治まる。


「気を抜くな! 防御障壁再展開」


折り重なるようにして板状の障壁が次々に展開されて行く。滔々侍女隊も防御障壁を展開しだす。マイヤとミヤも精根尽き果て、転移陣の中に消えていった。


「サラ、先に行く」「僕も、もう駄目」


「またね」


 短い挨拶をかわして消えていった。アンジュとヤルルーシカが俺の傍にピタリとつく。最後の砦が二枚。


「騎士団長。魔力切れを起こした団員からどんどん転移をさせて下さい」


 転移陣の中に消えていく団員達。口惜しそうに次々と消えていく。魔力量の多いエルフとダークエルフがまだ踏ん張ってくれているが、時間の問題だ。


「アンジュ。高速機動は最後まで取って置いて。いい?」


「了解しました。このまま数が減って行けば問題は最後でしょうから」


 そう。人数が減ればその分障壁も薄くなる。その時アンジュの高速機動でわずかな時間を稼ぐしかない。


「けが人も優先して転移させて! さあ、ここからは時間との勝負だよ。全方位に向けて魔法をぶっ放したら、速やかに転移して行く事。防御障壁を攻勢障壁に切り替えて」


 雲霞の如く押し寄せてくる魔獣をなぎ倒しながら一人また一人転移して行く。辺りが闇に閉ざされてからどのくらいが経っただろう。


 団員のほとんどが転移して行った中、アンジュが高速機動戦闘に入った。


「ヤルルーシカ、防御結界で包んで! アンジュ、そのまま転移して」


 アンジュが周囲の敵を薙ぎ払い、最後の特大の魔法を放ってから転移して行った。


「ご武運を!」


「任せといて」


 アンジュが転移陣に消えて行ったと同時に大アルカナを引っ掴み転移する。ヤルルーシカは俺にしがみついたまま防御障壁を展開し続けている。


 俺の転移先は上空。魔獣の包囲網を抜け、巨木のさらに上、夜空の中。双子月も雨の中見えないまっ暗闇。


「ヤルル! 周りが見えない。ライトを!」


「ええ」


 か細いライトの明かりに照らし出され一気の魔獣が押し寄せる。俺が一気にこの場を離脱出来なかったのは大アルカナを維持していた事、座標設定が出来ずに長距離転移が出来なかった事。


 出来たのは視認転移のみ。夏の火に跳びこむ虫の様に一斉に群がって来る有翼の魔獣。


「サラ、もっと上空に逃げましょう」


「ダメだ。落下速度を打ち消せない。魔獣の背中に転移しながら何とか速度を落としてるんだ」


 次々と魔獣の背中に転移しながら、座標設定が出来る安全地帯を探す。転移を途切れさせた瞬間捕まるのが目に見えている。それでもいつまでも魔力が持つ訳ではない。


「じゃあ、地上を視認転移しながら逃げましょう!」


「それもダメだ。せっかくここまで来たのにトレインしながら大森林の外を目指せない。長距離転移できる場所を探すんだ」


 その時背後から猛烈な衝撃が来た。


「ぐはっ」


 パリン。ヤルルーシカの防御障壁が砕け散る。そのまま明後日の方向に吹き飛ぶ俺とヤルルーシカ。直ぐ様防御障壁を展開するヤルルーシカ。俺も転移を繰り返して何が起きたのか確かめる。


「サラ! ハイスピードビートル・・・」


 この期に及んで最も会いたくない敵が来た。俺とヤルルーシカでは対抗手段がない。どうにかヤルルーシカが視認できる程度だ。


 俺はランダムにあちこち転移を繰り返しながら回避を続ける。滔々東の空が白み始めた。ふと海上に目をやると先ほどブレスの嵐を吐き出した相手が多数鎌首を持ち上げている。


 海竜だ。余所見をしたのがいけなかった。再度ハイスピードビートルの突撃を喰らう事になる。


「きゃああああ」


 ヤルルーシカの悲鳴が響く中、またもパリンと防御障壁が砕け散る。板状にした防御障壁に比べ全周を覆う様に展開している防御障壁の方が脆い。


 一か八か。海上の海竜を横目で捕えながら転移を試みる。出現したのは海竜の口の中。素早く長刀村雨を海竜の上あごに突き刺しのみ込まれるのを防ぐ。


「ヤルルーシカ、防御障壁を!」


 俺の求めに応じたのかその前から準備していたのか直ぐに防御障壁が展開される。飲み込まれさえしなければここは安全地帯の筈。


 例え飲み込まれたとしてもヤルルの防御障壁が少しの時間守ってくれるはず。直ぐに座標設定を始めようとしたその時、ドシュ! 海竜の頬を突き抜け反対側に抜けていくハイスピードビートル。


 さらに激震が襲う。周囲の海竜が俺達が隠れた海竜に咬み付いたのだ。のたうち回る海竜の口から逃げ出すように転移し、辺りを見回す。


 大森林から溢れた大侵攻の魔獣と海から溢れた海洋性の魔獣とが大規模な激突を繰り広げていた。どちらの勢力もしゃにむに俺達目掛けて突進して来ている。


 立塞がる物は何であろうと突き破り四散して行く。大森林の魔獣の方が優勢の様で海岸まで押し寄せて来ていた。しかし海洋性の魔獣の真骨頂は海。


 海岸を境にして急激にその強さを増す。つまりそこで両陣営とも拮抗しているのだ。一体の海竜が仲間からの襲撃を受けてその巨体を海中に没したとき、その凶暴な攻撃性が俺達に向く。


 ああ、海竜の素材高く売れるだろうなとか思う間も余裕もない。安全地帯を探して見回してもどこも魔獣だらけその矛先は全て俺達に向いている。


 その時視界にちらりと入った。ジャイアントタートルの成体。やっぱり居たんだ。


 幼生体が居たから成体も居るとは思っていたけど、周囲からの攻撃をものともせずその巨体を生かして暴れ回っている。


 防御力だけなら魔獣の中でも随一。幼生体ですらマイヤの逆鱗の一撃がなければその防御力を突破出来なかった代物だ。その成体ともなればいかほどか。


 もう十分な程、大森林の魔獣と海洋性の魔獣をぶつける事が出来た。このまま放置したとしても恐らくさらに被害? が広がることは間違いない。


 止める指揮官もいなければ恐怖に竦み上がる事もない、魔獣同士のぶつかり合いだ。後は逃げるだけになっているにも拘わらず逃げる事が出来ない。


 座標を確定するのに数十秒もあれば十分な筈が、その数十秒が確保出来ない。


 海竜の口の中ならば数十秒なら確保できるかと思ったが、案に相違して周囲の他の海竜の攻撃の的になってしまい、数秒すら確保出来なかった。


 このまま座して死ぬわけにはいかない。ましてやヤルルーシカを道連れにするなんて、最後にそう思い海竜の攻撃を転移で避けながら、海岸線を目指す。



     ◇     ◇     ◇



 一方転移で逃れた者たちの間でざわめきが広がっていた。最後のアンジュが転移して来てから、かれこれ2時間は経っている。


 数分で転移して来ると思っていた最後の二人がいくら待っても転移してこないのだ。


「不味いよ。帰ってこないよ。サラとヤルルーシカが。どうしよう。僕見に行って来るよ」


「落ち着けミヤ。今から海岸を目指しても二日はかかる。どうにもならん。それよりアンジュ最後に別れるときの二人の様子はどうだったんだ?」


「そうですね。そりゃ必死でした。ヤルルーシカがサラにしがみついて防御障壁を展開した状態でした。私が転移するときにはサラが大アルカナを掴んでいましたから転移と同時にどこかに跳んでると思います」


「なら、恐らく視認転移やろな~。座標固定までよう出来ひんやろ。そんでもって安全地帯を探すんやろうと思うで」


「・・・その安全地帯の確保に手間取っているのやろ。いくらサラの魔力量が多くてもそろそろ限界が近いと思うで」


「じゃ、じゃあ、どうすればいいの? 誰かほかに転移出来ないの? 迎えに行ってあげようよ。小人数なら大侵攻も大丈夫でしょ?」


「いや、大侵攻が発生してしまったら、人数は関係ないんだ、リュディー。動いてる人間目指して次々に襲いかかってくる。・・・」


「そんな~。マイヤ、どうにかしてよ。もう随分時間が経っちゃったよ。このままじゃ帰ってこれないんだよ。何か援護しないと隙を作れないのかもしれないし」


「ミヤ・・・。アンジュ、なんかいい考えはないか? あたしでは思いつかない。直ぐにでも転移して来るかと思ってたんだ」


「・・・距離があり過ぎます。こちらからの援護は間に合いません。当初の予定のあの岩場の影に入る事さえ出来れば転移して来る筈です。そこにすら辿り着けない状況ということか岩場自体が安全な場所ではないのか・・・」


「そやな、今回ぶつかり合った所から岩場まではちょい距離がある。雨も降っていたし周囲は既に暗くなっとた。見つけられへんのかもしれんから朝になるまで粘るッちゅうんも考えられるよってもう少し待とうか」



     ◇     ◇     ◇



 海上から海岸線まで戻った俺とヤルルーシカ。当初の岩場が粉々になっているのも発見している。ジャイアントタートルに踏みつぶされ、粉々に粉砕されていたのだ。


 ジャイアントタートルの甲羅の上で呆然とそれを見つめている。


「サラ! サラ! 当初の岩場は使えないのよ。呆けてるヒマはないわ。次の安全地帯を探さなきゃ」


「う、うん」


 どっちに行けばいいんだろう? どっちに行けばより安全なのだろうか? ヤルルーシカだけでもどこかに隠せないだろうか? 俺の魔力が尽きたらもうお終いだ。


 その魔力ももう残り僅かまで使ってる。限界まで使ったとしても休めば回復出来る。魔力が枯渇しても安全な場所に隠れればいい。魔力が持てばそのまま転移できる。


 安全な場所。安全な場所。強固で魔獣たちの攻撃にもちょっとやそっとでは壊れない。もしくはそう簡単には見つけられない所で俺の視界の中にある所。


 そんな都合がいい所なんてあるもんか。その場所になるはずの所があの岩場だったんだから。ちくしょう。どうすればいいんだ。


「サラ! ジャイアントタートルの口の中に飛び込みましょう。海竜よりも頑丈よ」


「無理だよ。口の中に空間が無いんだよ。ほとんど舌で埋もれてるんだよ。・・・。ん?」


 無理に口の中じゃなくてもいいんじゃないか? 小山ほどもあるんだし体の中は見えないから転移出来ないけど・・・。


「ヤルルーシカ! 一か八か賭けに出るよ。土魔法を用意して次の次に転移したら二人分が入れるくらいの穴を掘って! 一瞬しか時間がないかもしれないから」


「え? ええ、分かったかけど、一瞬じゃそんなに大きな穴は掘れないわよ?」


 俺が転移したのはジャイアントタートルの直ぐ脇の地面。次に転移したのはジャイアントタートルの腹の真下だ。


「ヤルルーシカ!」


 直ぐ様、地面から数体のマッドゴーレムが立ち上がり穴が出来る。ヤルルーシカを下にして寝そべる様に穴に跳びこむ。ズシーン。


 間一髪。俺達が飛びこむと同時にジャイアントタートルがしゃがんだのだ。


「ぐはっ。穴が浅すぎる。もっと掘らないと・・・」


「きゃあ~。お、重い。胸が潰れるぅ~~」


 俺達二人がかろうじて入れるくらいの穴ではジャイアントタートルがしゃがんで体を地面に打ち付けた勢いで陥没した分が賄い切れなかった。


 面積が大きいのとしゃがむだけなのでそれほどの勢いが付いていなかったのとヤルルーシカの胸部装甲が思いのほか変形出来たのが幸いした。ズシーン。


「むぎゅ~。ヤルルーシカ。む、胸が邪魔。俺が窒息してしまう」


「痛い。痛い。そんなに顔を押し付けないで。きゃ~。何やってるのサラ!」


「だってこの胸部装甲が邪魔で息が出来ないんだよ。悪いけどどかさせてもらうよ」


 鷲掴みにした胸部装甲を思い切り左右に開いて何とか顔が入るスペースを確保する。さっきから細かく上下動を繰り返すジャイアントタートル。


 周り中から押し寄せる魔獣。ズシーン。ペチャンコに潰れてるよ。


「次に立ち上がったら、体の下からマッドゴーレムを生みだして」


 ジャイアントタートルが立ち上がった隙を見て体を起こし、さらにマッドゴーレムを生みだし穴を深くする。そして時間を確保できた俺達は・・・。

そうそう。全文見直しのついでに今まで気になっていた部分に加執したり変更したりもしています。大筋に変更はありませんので、気になる方はご覧ください。

それと大きな変更ですがスキル名を変えさせて頂いてます。危険感知、と危機察知を警戒と索敵に変更しました。正直どっちがどっちだかと危機だか危険だとか感知か察知かがごっちゃになっちゃって分からなくなってしまうのです。申し訳ありません。

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