第四章第六話 激闘キングスライム
第四章第六話 激闘キングスライム
行商人のカイネさんと別れて、俺達は本格的にダンジョンに挑戦する事にする。基本、姐さん達もマイヤ達も道は知っているのでそのまま突入する。
この洞窟は山肌に開いた大きな洞穴だ。自然洞窟がそのままダンジョン化しちゃったみたい。それにしても天井も横幅も大きい。そうじゃなきゃキングスライムなんて住みつけないけどね。
洞窟自体はそんなに複雑じゃない。大きな主要路と枝分かれしている小さな洞窟から出来ている。
枝分かれしている洞窟はもっと小さな物がたくさんあるんだろうけど人が普通に通れるものはそう多くない。
出て来るモンスターは魔獣が多いが、ゴブリンなんかも住み着いてるようだ。ゴブリンは洞窟で遭遇する奴らは厄介だ。駆け出しの冒険者くらいなら奇襲を受けてあっさりと全滅しちゃう程凶暴だ。
まあ、この面子でやられる訳ないんだけど逃げた奴らを追いかけるのは面倒だ。
繁殖力が人間より旺盛だから残すとあっという間に増えて麓の村なんか襲われちゃう。見つけたら全滅させるのが冒険者の中ではセオリーだ。
魔力だまりから発生したダンジョンなんかはこれに該当しないけど自然に出来上がった(魔獣や魔物が住み着いて出来たダンジョン)はこれに相当しちゃう。
餌がなくなれば出入り自由だから必ず襲って来る。
「おい。 そっちに行ったぞ」
「ちょこまかと逃げおって、うっとうしいのじゃ。さっさと掛ってこんか!」
「こいつらの短剣には気をつけろるんやで~。大抵毒が塗ってあるさかいな~」
「なんでメル姐さんは休んでるの!?」
「・・・うちらゴブリンごときじゃ動かへんねん」
ルル姐さんまで休んでる。本当に自由人だな。洞窟に侵入して直ぐにこのゴブリン駆除に嵌っている。逃げる相手の殲滅は本当に大変だ。
油断してると時々物陰から短剣が突き出されて来たりして本当に鬱陶しい。だからゴブリンは嫌われるんだ。
コボルトみたいにとっとと掛って来い。あとゴブリンばっかり気にしてると別の魔獣がいたりしてもうてんやわんや。
「何とか殲滅完了した。みんな本道に戻るぞ」
「この狭いとこだと僕の獲物が使えないからサブウェポンが大活躍だよ」
ミヤのサブウェポンは片手斧、マイヤはショートソードをいつも持ってる。ヤルルは前にも使っていた片手用のメイス。その他は短剣だったり短刀だったりかな。
俺も持ってるよ。長刀村雨と対になってる小太刀だ。もちろん銘は小太刀村雨。セットなんだよ。
サムライは二本差しが一般的だったらしくってセットで入庫したんだ。なので購入する時もセット。
本道に戻って脇道を虱潰しに潰して行く。そこそこの時間が掛ったけど、後ろから攻撃される不安材料は出来るだけ回避するのと退路を確保するためだ。
そろそろ奇襲を受ける辺りに差し掛かる。その手前で準備と軽食をしてリフレッシュ。長期戦になるかもしれないからね。
ウェポン、アーマーブレイク対策にグリンダが各種障壁にブレス障壁までかけてくれる。
キングスライムに取り込まれなくても酸を吐きかけて来る事があるんだってさ。さて準備は良いかな。
「じゃあ、行くか。攻撃するときはエンチャントをかけるのを忘れるなよ。そのまま吸収される恐れもあるからな」
「「「おー」」」
「索敵持ちは周囲と頭上の警戒を怠るんやないで。奇襲は回避したればなんも怖いことあらへん」
「・・・回避に成功したら順次氷魔法を撃つんや。凍った先から破壊して核を目指す。それで終いや」
「「「おおー」」」
これが俺達の作戦。名付けて虫食い作戦。キングスライムの体を凍らせてどんどん掘り進んでいく。核に到達出来たらこっちの勝ち。
警戒をしながら俺達はやや分散した隊形で進んでいく。先に行くのはマイヤ達、魔女の饗宴。その後を狂乱の双生児率いるパーティー。最後尾が俺と姫さんパーティー。
今回、姐さん達は魔法要員だ。かく言う俺もそうなんだけど俺には村雨があるから攻撃参加もできる。凍らせながら切り刻めるからね。
「来るよ! 姐さん達の真上! 回避して」
リュディーからの警告が来ると同時に物凄い大きな塊が頭上から降ってきた。ちょうど真ん中辺なのでパーティーが分断される。
俺達もキングスライムの巨体の範囲に入っていたのでやっとのことで回避した。前方にマイヤと姐さん達。後方に俺と姫さんのパーティーに分断された。
「いくで! 一気に倒すんや。後ろの組は防御に徹してや。助けてやれへん」
「了解であります。氷魔法だけ遠隔から打ち込んでおきます」
一旦距離を取る。改めてその巨体を見る。確かにデカイ。直径15m以上はありそうだ。着地の時はこれが倍くらいに広がってたから、奇襲を知らなかったら殆ど喰われてたと思う。
色は緑に近いブルーで向こうが透けて見える。ほぼおまんじゅうの様な形でそこら中が波打ってる。攻撃手段は一部が伸びて来て絡め取る感じかゴロンと転がって来る。
アイダが先頭になって氷魔法を打ち込む。向こうでも始まった。そこそこ凍ったら一気に破壊してその周りをさらに固めて穴を掘って行く。こっちは向こうの援護になる。
時折ティアが攻撃を仕掛けて固まった部分を破壊し、こちらからも穴をあける。一応予備だ。向こうは二本穴を空けてる。
偶然三人が穴に跳び込んだ瞬間、キングスライムがその巨体を震わせる。凍った体を自ら破壊して三人を取り込む気だ。
素早く察知した3人は前方に打ち込むはずの氷魔法を後ろに打ち込む。退路を確保しつつ飛び出してきた。
ぶよよん。元のおまんじゅうに戻る。どうやら虫食い作戦は失敗の様だ。
「ちぇっ。元に戻っちゃったよ。多少体積が小さくなったのかな?」
「リュディー不貞腐れてる時間はないよ。この体全部削り切らないと核に到達出来ないんだから。どのくらい時間が掛るか僕じゃあ想像もつかないよ」
「よーし。次の作戦に切り替えるぞ。全員散開して個別に削って行くぞ」
こうなったら仕方ない体力勝負になるけど削りまくるしかない。問題は俺が上からの攻撃を回避しつつ攻撃できるかだけど、無理そうだな~。
回避するのが精一杯な気がする。仕方ない氷魔法は撃つけど離れていよう。誰かが壊してくれるだろう。
そうここで判断を誤った。みんなの傍を離れちゃいけなかったんだ。一人離れて氷魔法を撃つのは失敗だ。急にアイダが振り返って絶叫する。上を指さしながら。
「サラ~~~~~!!」
続いてティア、グリンダも気が付く。が、振り返る暇すらない。アイダが振り返りながら瞬歩の体勢に入るが、そこまでだった。
「え?」
俺はまぬけな声を残し薄紅色の塊に飲み込まれる。そう、もう一匹いたのだ。俺を取り込んだのは色がピンク色のやや小ぶりのキングスライムだ。 通常種じゃない。変異種だ。
青い通常種に比べ何かしかの耐性があるか特殊能力がある。地面から体が浮き上がり踏ん張りが利かなくなる。スライムのボディの中では亀の様にのろいが俺は刀を振り回す。
「サラが別のキングスライムに飲み込まれたであります。変異種の可能性が高いであります。ティア、グリンダ行きますよ」
「チッ。こうも当たりを引き寄せるとは婿殿もほんに強運じゃ」
「愚痴ってるヒマわぁ~、ありませんよぉ~。障壁があるのでぇ~直ぐには溶かされませんがぁ~窒息してしまいますぅ~」
通常種に分断されててマイヤと姐さん達ではこちらに加勢出来ない。俺は突然の事でパニックになっているので集中できずに魔法を発動できない。姫さん三人が全力で攻撃する。
「アイダ~! なんとしても助け出せ。こっちも直ぐに合流する。全員温存なしだ。削り尽くせ」
マイヤが吠え、無言で姐さん達が高速機動で削りに入る。魔法に斬撃が飛び交う中、俺の息が持たない。咄嗟の事過ぎて息を吸い込めなかった。
ここで俺は全身に魔力を集め村雨のエンチャントまでも発動した氷魔法を全周囲に向けて放つ。俺ごと凍るが気にしない。そのまま周囲のキングスライムを砕き風魔法を発動。
空気を吸い込むが周囲からぶよぶよのボディが押し寄せて来る。凍って砕けたはずのボディも溶けてゲル状に戻り合流してしまう。
こいつ魔法耐性を持ってる! 凍り難く溶けやすい。体温が高い可能性もあるのか。くっそ。やっかいな。スライムのボディに覆われる前に自分を魔力の膜で覆う。
転移だ! そう思ったが一呼吸だけでは頭が良く回らない酸欠状態なのには変わりがない。それでも魔力線を通そうとするがキングスライムの中を魔力線が通らない途中でレジストされてる!
遠い。アイダやティア、グリンダが全力で攻撃してるけど5m以上距離がある。俺の体はどんどんキングスライムの中心に運ばれて脱出が困難になって来る。
ならば俺を中心にウィンドボールを発生させる。体も切り刻まれるけどキングスライムとの間に隙間が出来呼吸も確保できる。
レジストされる傍からウインドボールを発生させ体を切り刻まれるのを防ぐために俺は丸く出来る限り小さくなる。あとはお任せするしかない。
「サラがウィンドボールの殻に閉じ籠ったであります。窒息の危険は回避しましたが、切り刻まれてる事に変わりはありません。急ぎますよ」
「分かっておるのじゃ。こなくそ! ええい! 次々とレジストしおって。火力が足らん。そっちはどうなっておるのじゃ!?」
「まだです。削りきれてません。あと少しで核に届きそうなのに元に戻ってしまうんです。えい。壊れなさい」
あっちも苦戦しているらしい。全身を切り刻まれながらうっすらと思う。これヤバイかも。血がどんどんなくなってる。回復ポーションは取り出す傍から切り刻まれて体に降り掛るだけ。
飲んだ方が効果が高いんだけど仕方ない。ふふふ。行商のお姉さんから買ったポーションもあるからまだまだあるな。助かった。ちょっと血を失い過ぎてるかも。視界が闇に染まっていく。
何か聞こえるけど、分からない思考能力が低下してる? だれだ? 俺に話しかけるのは。もう少し待ってくれ。そうすればみんなが来てくれる。俺の全身から徐々に力が抜けていく。
ポーションはあっても使う力がない。ここまでかな? 大森林なら何か加護があるかもって言われてるけどここじゃあ、遠いよね大森林は。
「ルル! 時間がない突っ込むで。核まで一直線や」
「・・・こいつ突き抜けた後はどないすんねん!? マイヤ達に任せるんか?」
「しゃーないやろ。こいつどうにかせんと向こうに加勢も出けへん。マイヤー! うちらはここで脱落や。しっかりやるんやで」
一声残してメル姐さんとルル姐さんが抱き合いながら刀をクロスさせて突き出す。ものすごい勢いで回転しだす。高速機動を回転に全部まわしながら核めがけて突っ込む。
とめどなく前方に氷魔法を発射し突き進んでいく。姐さん達に触れたキングスライムのボディがはじけ飛んで行く。
それでもこの巨体だ。退路は塞がれる。キングスライムの中に取り込まれる様な形だが、それでも姐さん達はそのまま突き進んでいく。
核を撃ち抜きさらにキングスライムの体を突き抜ける。そこで力尽きた姐さん達が地面に激突する。
「メル姐さん、ルル姐さん! グリンダ回復して下さいであります!」
直ぐにグリンダが回復をするも気を失った姐さん達は起き上がってこなかった。魔力枯渇の様だ。
「姐さん達、良い仕事しました。あとは任せて下さい」
核を撃ち抜かれた通常種のキングスライムが溶け崩れる。瞬歩で一気に間合いを詰めたアンジュの高速機動と高速斬撃により変異種の肉を削りながら進んでいく。
アンジュの退路を確保するため次々にみんながアンジュの開けた穴に飛び込み肉を削り魔法で凍らせる。アンジュの動きが鈍くなっていく。まだ半分。
次はリュディーの連続突きと高速機動のコラボだ。力尽きたアンジュは一気に後退して姐さん達の傍に横たわる。意識はあるようだが動けない。
リュディーが力尽きて、アイダ姫も力尽きる。あと少しが届かない。今まで開けた穴を維持するのが精一杯だ。高速機動持ちじゃないと無理やり穴を空けられない。
「サラ~。起きろ! こっちに来い。手を伸ばせ」
徐々に穴の維持すら難しくなって来る。一人また一人と脱落していく。アン、ライラが力尽きる。ティア、グリンダもここまでだ。人数が足らなくなって来る。
やむなく全員が穴の維持を諦め飛び出して来る。それでもキングスライムを削る事は諦めない。また誰かが叫んでる。なに言ってるか聞こえないよ。うえ? 上がどうしたって?
何を言ってるのか分からないんだ。もう俺に出来る事はないよ。あとはここで切り刻まれながら耐えるだけでしょ? 違う? うえ? もうなに言ってるんだよ。体中切り刻まれて動けないんだ。
刀で上に全力で攻撃するの? 分かったよ。どうせもうここまでだし最後にやるってば。突きでいいの? 魔力も全部つぎ込んだやつね。はいはい。じゃあ、行くよ。
おぼろげな記憶の中俺は全身を伸ばすように上に向かって渾身の突きを放つ。全身を襲っていたウインドボールにさらに魔力を追加してこれと同時に放ってやった。
俺の全力攻撃でも1mも進めば肉の壁に阻まれてかき消されてしまう。いつの間にか俺はキングスライムの中心まで運ばれ捕食されようとしていた。
俺の上にはそうキングスライムの核があったんだ。1mの距離を進んで俺の突きが核に突き進む。俺の持っている武器が長刀でなかったら届かなかったかもしれない。
それでも微かに届いた。核の下端に俺の渾身の突きが。最初は何の変化も現れなかった。風の加護がなくなり伸びきった俺の体がキングスライムのボディに飲み込まれて行く。
周りから息をのむ音が聞こえそうなくらい驚愕に顔をゆがめさらに攻撃を加え続けるみんな。みんなにも俺が何をやったのかは分かったみたいだ。
でも変化は何もない。俺の攻撃では核を破壊する事が出来なかったと判断したのか一層激しく攻撃を繰り返す。
その時ビシッと音がした。キングスライムの核に亀裂が入る。その亀裂は次々に走り、滔々核が粉々に砕け散った。
変異種のキングスライムが一震えして溶け崩れる。意識のない俺の上にキングスライムのぶよぶよのボディーだったものが溶け落ち地面にしみ込むのにそう時間はかからなかった。




