第四章第二話 地下迷宮
第四章第二話 地下迷宮
アンもライラも肩で息をしている。十数体のオークを俺達3人で相手をしたんだから疲れるよ。
アンとライラも姐さん達と潜るのとお荷物の俺を抱えて自分達だけで潜るのでは勝手が全然違うらしくかなり苦戦したみたいだ。
「アン、ライラごめん。きつかった?」
「え、いやいや。きつかったけど、サラのせいじゃないよ。今までどんだけ姐さんにおんぶにだっこだったのか思い知っただけ」
「・・・うん。いつもは1体づつ相手してれば良かったからね。どんだけ敵がたくさんいてもいつも1体だけしか相手にしてなかったから」
「早よ、次いこか。次はアンとライラだけ魔法解禁してええよ」
「やった。これで楽になる」
「・・・そうかな? あたし達大した魔法使えないよ? アンちゃん」
「うふふ。魔法はイメージだよ。大森林で苛め抜かれたあたし達が成長してないはずがないじゃん」
「・・・」
アンとライラの会話を背中で聞きながら左の壁に沿って進んで行く。暫くそのまま進むと木製の扉がある。後ろを振り返るとアンとライラが大きく頷くので突入するのだろう。
地下迷宮には玄室と呼ばれている部屋が多数存在する。そこは魔物の住処になってたり、安全地帯だったりと色々だが、宝箱なんかもここにある。
木の扉を蹴り開けて一気に突入する。広い空間だ6m四方はある部屋になっていてその先にはまた木の扉がある。正面には犬の様な顔をした直立2足歩行の魔物、コボルトが4体居た。
直ぐにアンが石礫の呪文を唱え先頭のコボルトを攻撃する。小さな石がコボルトの胸にゴツッと音がしてぶつかるけど、ちょっとよろめいただけだ。
攻撃を受けて一気に魔物達が押し寄せる。先頭に居るコボルトの片手剣を刀で受けて踏ん張る。鍔迫り合いになったがその後ろに居た1匹も足を止める。
両脇に居た二匹はそのまま俺に斬りかかろうとするけどアンとライラが受け止める。
「・・・アンちゃん、魔法効いてなかったね」
「・・・。おかしいな。なんでさ? あんなに苛められたのに!」
「呪文唱えたからじゃないかな。いつも通りだったでしょ?」
「うん。大森林に行く前と同じだったよ。あ、分かった。呪文の通りのイメージだったんだ」
「・・・うん。そう。ほら、ここで成果が出せるよ。動きながらでも魔法唱えられるでしょ?」
後ろに居た1匹が回り込んでライラを襲う。ライラは鍔迫り合いをしていたコボルトを蹴り離して、2匹と対峙する。
俺は鍔迫り合いをしながら、何とか引き剥がしたいけど相手の方が力が強い逆に押し込まれてる。
アンも蹴り離したコボルトにファイヤーボールを叩きこんでそのまま切り捨てようとするけどレジストされちゃってる。
「アン! コボルトごときにレジストされる様な適当な魔法打つんじゃない」
マイヤから叱責が飛ぶ。2匹を相手にしているライラも片方にウィンドカッターで牽制を入れてもう一匹を切り捨てようとしているが相手も上手く動いてなかなか切り捨てられない様だ。
俺? もちろんピンチだよ。どんどんと押し込まれてじりじり下がって行くしかないんだから。
2人から俺がどんどん切り離されて、単独になりそうなのを見てアンが焦った様に戻ってこようとするけど、もう1匹が回り込んで来て分断に成功する。
するとライラが相手していた2匹のうち1匹がライラをすり抜けて分断した俺の方が与し易いと思ったのか、こちらに来る。
不味い。不味い。鍔迫り合いから離れられない。と言うより離してもらえない。
剣歯をむき出しにグルルルル~と唸りながら俺の顔に臭い息を吹きかけ続けているこいつをどうにかしない事にはもう1匹に後ろから斬られちゃうよ。
全力で目の前のコボルトを押し込もうとするがびくともしない。逆に押し返された。そこで一気に力を抜いてクルリと回り込む。
たたらを踏むような感じに前のめりになったコボルトの首に刀を振り降ろす。でも横から別のコボルトも斬り掛って来ている。
残念だけど斬られる訳にはいかないので攻撃を中止して回避する。これで2体1になっちゃった。
「え~と。姐さん魔法使っちゃだめ?」
「ダメや。この程度刀だけで何とかしいや。アン、ライラ! 魔法解禁してやったのになんでそのざまなんや! サラが護衛対象ならクエスト失敗やで!」
うん。きっと俺の事が気になって、いつも通りの動きが出来てないんだな。俺が苦戦するから気になっちゃうんだろう。2足歩行の魔物は人間と同じように動くけど、力は人間以上。
なのでどうにも人間相手と同じ動きをすると力負けして苦戦する。けど人間相手と同じように対応しちゃう癖が出る。ああ、もう。
仕方ない。正眼に刀を構えてどちらにも対応できるようにすると。1匹がほとんど四つん這いじゃないかと思うくらい姿勢を低くして突っ込んで来た。
ここで人間と違う動き! やられた。回避主体で相手の剣を弾きながら一撃を入れようと思ってたのに。
咄嗟に振りかぶって斬り降ろそうと体が動いちゃった。剣先が消えた途端もう1匹も斬り掛って来る。
人型の魔物はやり難い。最初の1匹が空いた胴を横なぎにして来るまた1歩後退する。横なぎに剣を斬り返して来て右に左にと振り回して来る。
横からもう一匹の剣が迫ってくる。後退しながらその剣を弾いて、回り込む。今! 刀を手首の動きだけで切り返して腕を斬り飛ばす。
ギャオ~ン一声吠えて蹲った所を首筋にもう一回それで首が飛んだ。その死体を蹴り飛ばしてもう1匹にぶつける。
ふぅ~。擦り足で急接近しながら、残りを追い詰めていく。俺が1匹を倒すとアンとライラに本来の動きが戻る。
それぞれが簡単に相手を斬り伏せてこちらに駆け寄ってくる。その時には俺の刀がコボルトの喉に突き刺さっていた。
「だめやな~。今のは誉めるとこ全然なしや。まずサラやん。鍔迫り合いにもってったのが間違いや。次にアン、ライラ良いとこ無しや。サラやんが気になるんは分かるけど、そんで逆に窮地に落としてどないするの。サラやんがFやEなら死んどるよ」
「「すいませ~ん」」
「どうしたサラ。なんかやり難そうだな」
「うん。魔物の動きが人間ポイのに違う動きもするからどうにも惑わされちゃって」
「なるほど。そういうことか。それは慣れるしかないぞ?」
「うん」
マイヤが俺のぎこちない動きからおかしいと思ったのか聞いて来た。
「だめやな。ここに居っても訓練にならへん。もう二つくらい降りよか。緊張感が足らんのや」
姐さんの一言でさらに2つ降りていく。今度は魔法も完全解禁だ。ティアとグリンダも参戦する。5層に降りると姐さんもマイヤ達も完全に戦闘態勢に入る。
ここからは全体を攻撃して来る魔法を使う敵も現れるためだ。
「アン、ライラ。遊び半分でいるとほんまに死ぬで。ここじゃあ、サラやんはもう足手纏いの何ものでもないよってな。気い引き締めや」
「「はい!」」
最初に遭遇したのは、イビルウィッチに率いられたミノタウロスだ。接敵すると同時に周囲をファイヤーストームの魔法が襲う。火炎の渦に飲み込まれて呼吸が出来ない。
格段に強くなった魔物達。5層でこの強さは反則じゃないかと思う。火炎の渦はあっさり消え軽いやけど程度しかダメージがない。
「ファイヤーストームじゃない!」
驚いて思わず叫んだ俺の目の前にもうミノタウロスの戦斧が迫る。剛腕から繰り出される戦斧。受け止められる気がしない。すかさず下から戦斧を片手剣が弾き上げる。
「ふむ。魔法攻撃には驚いたが、そう腑抜けてはおらんのじゃ。それ、お前様油断するでない」
「ふふふ。スキルのないあなたでは~、ちゃんとぉ~回避しないとぉ~死んでしまいますよぉ~」
唯一無傷のグリンダ。魔法障壁に守られたグリンダまでは先の魔法は届かなかった様だ。ミノタウロスの一撃を軽々と弾いて見せるティア。
俺の石礫の呪文が背後のイビルウィッチに突き進むが、守護のミノタウロスの戦斧で軽く弾かれる。ポイント弾なのに!
アンとライラもそれぞれミノタウロスを相手取り苦戦中だ。直ぐに刀を納刀する。俺の刀ではダメージを与えられないと判断して、ならば・・・。
「魔法打ち込むからタイミングに合わせて。『右手に炎、左手に風。追いて混ざりて弾けよ。火弾乱舞』」
久しぶりに詠唱を唱え、俺は初級魔法ファイヤーボールとウインドボールを時間差で発射した。
ファイヤーボールを追いウィンドボールが走る。丁度敵中央でファイヤーボルが火球に変じ、その中にウィンドボールが飛びこむ。一気に火勢が強まり黄色い炎が青に転ずる。
そのまま周囲に弾け飛び敵を巻き込んでの大爆発を起こす。この一撃でミノタウロスを倒すまでには至らなかったが大ダメージを与えた。
魔法を打ち込むと同時に退避行動を取っていたティア、アン、ライラが直ぐに追撃で3体のミノタウロスを仕留める事に成功する。
俺も正面から突っ込む。直ぐ後ろにグリンダとヤルルが追走して来る。狙いはミノタウロスの後ろイビルウィッチだ。
問題はミノタウロスの横をすり抜けられるかだが、考えてる事はグリンダもヤルルも一緒だろう。先程の魔法のダメージで動きに精彩の欠いたミノタウロスが戦斧を大きく振り被る。
ゴーと音が聞こえそうな一撃を紙一重でかわし、その横をすり抜けるためにさらに突っ込む。あとは後ろの二人が上手くやってくれる筈と信じて強引に行く。
ガギンと音が鳴ったと同時にバグゥンと肉を打つ音が響く。ミノタウロスの一撃をグリンダの物理障壁が受け止めヤルルのフルスイングを胸板に受けたミノタウロスの胸部が陥没する。
最後の防壁を抜いてイビルウィッチは目の前だ。走りよる勢いのまま抜刀して胴を横なぎにする。ガツッ。あら? 俺の刀をステッキで受け止めてにやりと笑う。
余裕で受け止められちゃった~。誰か助けて~。と心の中で思うけど、ここまで辿り着いたのは俺だけ。直ぐに刀を引きながらポイント弾を放ちつつ距離を取る。
「あちゃ~。サラやん舐めすぎや~。そいつ強いで」
遠くで姐さんの声がするけどそれどころじゃない。ステッキで円を描いたと思ったら全てのポイント弾を受け止め跳ね返してきた。
うそぉ~ん。距離を取ったのはさらに失敗だった。遠距離の方がこいつ得意だ。すぐに次の呪文が飛んでくる。ファイヤーアローが数十本、俺をめがけて放たれた。
何本かを刀で撃ち落とし、何本かを回避するが肩と腿、脇腹にそれぞれ攻撃を受ける。ぐさっと刺さったかと思うとじゅ~と肉の焦げる匂いがして激痛が走る。
直ぐに腰からポーションを抜き取り振りかける。痛みが引くも十分じゃない。しかしこれ以上の治療をする時間もない。残りは鎧が受け止めてくれたみたい。
ひょっとして俺は勘違いをしていたのかもしれない。後衛職なら互角に戦えると錯覚していた。グリンダやヤルルとの訓練を思い出すと確かに打ち合えてた。しかし2人ともスキルを使っていたか?
否。|使う必要のないスピードの攻撃だから使っていなかったのではないか。
それに引き換えイビルウィッチはスキルも全開で使って来ているだろう。例え俊敏でも俺が追いつけるわけがなかったんだ。
くっそ。これだから人型の魔物は・・・スキルまで持ちやがって。愚痴っても仕方ない。誰かが追いつくまでここを凌がなければ死ぬだけだ。
ここで追撃をせずイビルウィッチが詠唱に入る。助かったと思ったが違った。全体攻撃呪文。ファイヤーブルームだ。先程初めて喰らってファイヤーストームと勘違いした魔法だ。
せっかく優勢になったのにここであいつの詠唱を止めないと逆戻りになる。片足を引きずる様にしてイビルウィッチ目掛けて走り出すけど間に合わない。
二発目の全体魔法を喰らう。くぅ~。後方でも呻きが響く。残りのミノタウロスはまだ片付かないのか。接近と同時に斬り掛るが余裕でステッキで受けられてしまう。
フェイントなどにも引っかかってるんだけどそのまま引き戻してまた受けられちゃってる。やっぱりスピードに格段の差があるんだ。至近距離でポイント弾を打ち込んでも物理障壁に弾かれる。
打つ手がない。このまま攻め続けてこいつに魔法を使わせなければ何とかなるのか? 全ての攻撃を軽々と受け止められてそのまま詠唱をしだす。
もう勘弁して下さい。移動しながらの魔法まで使い始めた。仕方ない。腕一本やるよ。ステッキと鍔迫り合いになったと同時に右手をのばし奴の胸倉をつかむ。
そのまま強引に引き寄せるも掴んだ右腕をステッキが打ち据える。ボキ。あっさりへし折れた。そのまま左手に持った刀で貫くつもりだったけど右手を外され回避される。
詠唱の中断には成功した。しかしもう満身創痍になっちゃったよ。初めてイビルウィッチが俺を邪魔だと認識した。
終わっちゃったかな? 奴の周りにファイヤーアローが浮かび上がりこちらに狙いを付ける。
「待たせたの。なんじゃ。婿殿生き残っておるではないか。てっきり死んだと思っておった。無茶をするからの」
俺の横にティアが並び、背後から癒しをかけて貰う。二重の癒しだ。
「まさか突っ込むなんて。敵う訳ないでしょう。なにを考えてるの! サラ」
ははは。ヤルル知ってたんだ。敵わないって。
「ん~。訓練で手を抜き過ぎましたぁ~? スキルがあるとなしじゃ全然違うんですよぉ~」
はいはい。実感した所です。姐さんが背後からあっさりイビルウィッチを仕留めて終了した。
「はいはい。注~目。初見殺し相手にようやった方と言いたいけど、今回はティア、グリンダの上級者がおってこれじゃあ先が思いやられるで」
「・・・ティア、ミノタウロス相手に手間取り過ぎ。グリンダなぜサラを追わなかった。サラじゃあイビルウィッチの相手にならない事は知ってるやろ」
「「ごめんなさい」」
「ティアもグリンダも自分より下位者との戦闘経験がないのだろう。今まで傍には戦闘メイドか上級騎士だけだったのだろう?」
「「はい」」
「アンとアイラではまだフォローしながら敵を倒せないみたいだし、ヤルルも後衛職だから状況判断が甘いらしい」
「ごめん。いつもは何も言わなくても誰かがフォローに入ってくれてるから咄嗟には指示出せなくて」
「最大の問題はサラにスキルがない事でしょ? こればっかりは時間が掛るよ?」
「ああ、リュディーの言う通りですね。あの火弾乱舞ですか? あれは凄かったし良い具合にミノタウロスが魔法抵抗値が低いのを見抜いたのでしょう。そして最も厄介なイビルウィッチを先に仕留めようとした状況判断はあっているでしょう」
「そこも問題なんだ。アンジュ。下手に状況判断が正しいから自分の実力で討ち取れない敵に突っかかって行っちゃってるんだ。敵の力量と自分の力量が分かってないんだな」
「ごめん。だっていつも訓練ではグリンダとかヤルルと打ち合えてたから勘違いしてたんだよ。まさかスキル使って無いとは思って無かったんだよ」
マイヤの指摘に思わず言い訳をしてしまった。
「そりゃ~。スキル使ったら瞬殺されて訓練にならないからだろう。そこまで分かってなかったか。そうか。まだ冒険者になって3カ月くらいか。そう言えばまだ全然早いんだな」
「そうやったね。下手に魔法の威力もあるし状況判断もええ、Cランクにもなってるから、うちらも勘違いしてもうてるんやな。ほんとならまだまだFよくてもE程度の経験しかないんやった」
「どうするの? 本当なら1層か2層をうろちょろしてるころ合いだよね」
ミヤが正直な所を言う。
「せやな~。曲がりなりにも初見殺しらを仕留めてるんもほんまやし、一旦宿戻ろうか。ちょいと考えんとどうにもちぐはぐでどうしたったらええかよう分からん様になってもうたよ」
こうして迷宮の初陣は終わりを告げた。




