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第四章第一話 雨期の始まり、ここは?

この前に人物紹介投稿しましたよ。ご参考に。

第四章第一話 雨期の始まり、ここは?



 暗くじめじめとした石で組まれた地下回廊の中、俺は刀を構えて周囲を見回す。正面にぼうっと浮き上がったのは醜悪な化け物だ。直立で立ち大きく張り出した腹を揺すって近づいて来る。


 顔は豚の様で口からは牙が上向きに生え臭い息を吐き出している。魔物の中でも低級に属しているオークの群れと交戦中だ。両側は壁になっており長物は振るい難い。


 簡素な武器と鎧を身につけ、こちらに歩み寄って来る。力任せの斬撃を回避してそのでっぷりと太った腹に刀を突きだす。意外と身軽に後退してかわすオーク。


 先程からオークの集団と闘い続けているのは俺と、アン、ライラだけだ。


「サラ! オーク相手になにを手間取っているんだ。攻撃が適当になっているぞ。気を引き締めろ!」


 後方で腕を組んだままこちらを叱咤して来るのはマイヤだ。だってこいつで5匹目だよ。こんな狭い所じゃ動きも制限されるし、何より臭い。


 後退したオークを摺り足で追いかけて、上段から斬り降ろす。


 なにをしているかと言えば、未熟者の実戦訓練だよ。後方には奥さん達がずらりと並んで俺達三人に指示を飛ばしてるんだ。魔法はなしのガチ戦闘で撃破すること。


 これが今の課題なんだけど、手間取ると音を聞きつけた別の集団が合流して来るから延々と終わらない。


 俺の斬撃をあっさり片手斧で受け止めるオークが返す刀で切り返して来る。大きく振りかぶったオークの横をすり抜けざまに胴を薙ぎ払う。振り向きざまに背中を肩から脇腹に沿って斬り捨てる。


ゆっくりとオークが前のめりに倒れていく。斃れた所に心臓を刀で刺して止めを刺しておく。


「よ~し。ええやん。皮鎧でも付けてると一刀では切り殺せないからちゃんと追撃するんやで。ほんでとどめも刺しとかんと急に足元で暴れよるから注意や。ちゃんと出来たな」


「時間をかけ過ぎだ。いつまでたっても終わらんぞ! そら、もう次が来ているぞ。気を抜くな!」


 姐さんは飴でマイヤが鞭なのかな? どうにか3人で処理しきった時には十数体に膨れ上がった敵を倒していた。



     ◇     ◇     ◇



「今日も雨やね~。どないする? うちら内職とかあらへんから暇やな~」


「うん。ちょうど良いから、前々から懸案として残ってるクエスト完遂しに行こうか」


 始まりはこの姐さんとの会話だった。昨日収穫を終えたばかりだが、とうとう大森林も雨期に入ったらしい。翌日も雨となった。


 侍女さん達は家事全般と小麦の殻剥き。騎士団は魔獣の間引きに薬作りと藁の処理と忙しく働いている。俺達はと言うとなにもやる事がない。


 今までやっていた作業、侍女隊と騎士団が代わりにやってくれている。なのでティーブレイクしかやる事がない。


 直ぐに飽きてきたみんなが俺の周りに集まってより掛ったり撫でまわしたりとちょっかいを出すようになる。何気に俺は魔導書を読みこんでたりするから暇でもないんだけど。


 しょうがないのでここは一時、騎士と侍女に任せて、気になっていたクエストのリベンジをしに行くことを提案したのだ。もちろん全員さっさと身支度を整えてしまう。


 騎士たちと侍女に1週間ほどで帰ってくる事を約束して皆を連れて迷宮都市へと転移した。転移した先は例の貴族御用達の宿屋だ。


「いらっしゃいませ。シュナイダー様。お久しぶりでございます。本日はお泊りでよろしいでしょうか?」


 揉み手をしながら支配人が近付いて来る。うん。ちゃんと覚えてた様だ。心付けを渡しておいたから無碍にはされないな。


「ああ、久しぶり。今日は13名だ。どこが空いてるの?」


「はい。はい。今日は人数も多めですのでスィートを貸切では如何でしょう」


「うん。それでいいよ。しばらく滞在するからこれ手付ね」


 大金貨を10枚程渡しておく。いくら貴族御用達でも一泊で金貨までは取られない。これだけ渡しておけば10日やそこらは大丈夫だろう。


 ニコニコとそれでもしっかり受け取る支配人。ここに来た事がないメンバーはほぇ~ってな感じで見まわしている。


 まあまあじゃ、何ぞとほざいてるのは姫さん達だけ。最初からここに泊まるつもりだから侍女も連れてきていない。


「わぁ~~。僕ここに入るの初めてだよ」


「リュディーも初めて~」


 早速辺りを物色するミヤとリュディー。そんなことは気にせずドカッとソファーに座るのはティア。


「まあまあじゃな。ロイヤルでも良かったのではないかお前様よ」


 ロイヤルスィートでも良いけど貸し切りにしたここより狭いんだよ。早速お店のメイドさんがお茶の用意をしてくれる。


 程々いいお茶を使ってくれているので美味しい。荷物を片づけて装備を早速整え直す。すぐにでも討伐に向かいそうな面々を抑えて姐さんが口を開く。


「まあ、ちょい待ちや。せっかく迷宮都市まで来たんや。サラ、アン、ライラの底上げもしとこうやん」


「どういうことだい? 姐さん」


「そのままや。このままのサラやん達やとちょいとあのキングスライムは不安なんや。迷宮に潜って実地で戦力増強しとうこうって話や」


「なる程です。戦力的に不安があるのはその3人ですね。ティアとグリンダは慣れの問題なので4、5層辺りからでいいですね」


 アンジュが肯定的な発言をするとヤルルも自分から私も少しやっておくという。


「ほな、今日は小手調べ程度やから10層くらいまでにしとうこか。一旦ギルドに顔出ししてから補給も買うておこか」


 装備を整え終わった面々を引き連れてギルドに向かう。受付カウンターに顔を出した姐さんが受付嬢に申告する。


「よ。戻ってきたで。そろそろうちらも復帰してもええ頃やろ? 2パーティーで肩慣らしから始めよるさかい。魔女の饗宴とうち。ルルとこいつらやで、2パーティーで潜るで」


「き、狂乱が戻ってきた! 弟子も呼び戻したの!? 増員してなにするつもりですか!?」


「決まってるやろ。クエスト片しに来たんやないか。あれはこないだ報告した通りやからまだ残ってるやろ? 並みの奴らじゃ返り討ちにあうよって封鎖しときい、言うとった奴や」


 ここで受付嬢が雰囲気を変える。おお、凄い負けてないよ。


「狂乱! 今度は行けるのでしょうね?」


「せやな。もう種は分かっとるから、しくじったりせえへんよ。きっちり落とし前はつけたる。その前にコンビネーションやらの確認せなあかんから、肩慣らしや」


「了解。2パーティーのリーダーはメルさんで良いのね。もう片方はルルさん?」


「ああ、それで登録しとって。それと誰が狂乱やねん!」


 どうやら話は終わった様だ。話しの間にギルド内の購買でマイヤ達が消耗品やらを買足して来たので全員に配布する。干し肉やらの食事系とポーション系は充実してるので補助アイテムだ。


 ギルドを出て都市の中心部に向かう大通りは下り坂になっている。その道を真っすぐと下って行くと大きく口を開けた地下への入口に繋がっている。


 入口は石で補強されたのがいつの事なのか疑いたくなるような、あちこち角が丸くなってしまっている石材を組んで門となしてある。


 床はなんの血なのかもうどす黒いしみがこびり付いてしまって元の石材の色が分からない。


 地下迷宮の入り口、その前の防壁門だ。ここには領主の騎士と衛兵が常時詰めている。入るのにはギルド発行のカードと許可証がいる。


 門前で入場料を支払い、お約束らしい入手品の売買一切は領主の権利である事。自分達で使用する場合は取得税が掛る事を告げて来る。


「・・・よいな。買い取りなどはそちらの受付だ。救援依頼を出すならこちらの騎士団詰め所に出す事。以上だ」


 これで手続きは終了だ。眼前にあるのは大きな鉄の扉だ。それがゆっくりと開いて行く。もちろん油断などしない。


 ここを開けた途端トレインして来た魔物達が溢れかえることなどざらにあるらしい。どうやら内門は破られてないらしい。多くの冒険者が開かれた門から帰還して来た。


 思い思いの装備に身を包みボロボロの状態で瀕死の仲間を担いで帰還するものや一山当てたのか大量の素材とアイテムなどをぎっしり詰めた袋を抱えて帰還する冒険者がワイワイガヤガヤしながら俺の横を通り過ぎていく。


 この防壁門が開かれるのは決まった時間だけだ。通常は何があろうと開く事はない。日に3度だけ開かれる。これは都市防衛の要なので仕方がない。この先に本当の迷宮の入り口がある。


「ほな、いこか」


 慣れた感じで姐さんがいとも簡単に一歩を踏み出す。それに続く面々も何の躊躇もない。当然みんな経験者だ。


 ここに潜るのが初めてなのは俺だけ。ティアやグリンダですら数回程潜った事があるそうだ。防壁門をくぐると周りは頑丈な石壁の通路がしばらく続く。所々に空気穴なのか小さな穴が開けられてる。


「サラ。所々穴があいてるだろう? これは万が一魔獣や魔物が溢れたらここで仕留めるための穴なんだ。矢とか槍とかを突き入れるためにあるんだよ」


「へぇ~。そうなんだ。空気穴かと思ってた」


「最初に来る人はみんなそう思うみたいよ。だってどんどん下がって行くでしょ。地下に入って行ってるのが分かるからそう思うみたいね」


 マイヤに解説を聞いていた俺にヤルルが追加で情報を入れて来る。まだここは迷宮じゃなくただの通路なのだ。それにしては結構酷い匂いだ。


 色々な匂いが混ざってしまっているので判別しづらいが、すえた匂いにむわっとする体臭、鉄錆の様な血の匂いから吐瀉物の様な匂い。


 そんな匂いに包まれた通路を下って行くと開けた場所に出る。ここが都市防衛の最前線迷宮の入り口を守る場所だ。


 正面には鉄の扉があり、いつでも閉じられるようになっている。現在は門の傍に一個小隊の衛兵が張り付いて、迷宮の入り口の方を確認しながら解放されている。


 広場には他にも周囲をぐるりと囲う様に衛兵が立ち警戒をしている。そんな中ギルドの出張所もあり緊急の対応や補助アイテムの販売なども行っている。


 広場の中央にはぽっかりと空いた穴がある。高さはそれほどでもない。人の身長くらいだ。手前から階段で下りられるようになっており、さらに先があるのだろう。


 そうこれが本当の迷宮への入り口だ。何の変哲もない石階段。そこからはもう迷宮となっている。俺達と一緒に防壁門をくぐってきた若手の冒険者が早速石段を下りていく。


 皮装備に身を包んで己の命をチップに一攫千金を狙う冒険の旅に行くのだ。俺が見つめる中、はしゃいだ様子で下りて行った。あんな粗末な防具じゃほとんど効果など無いのに・・・。


「よう。メル。久しぶりじゃねえか。随分いい装備になりやがってどこで稼いできたんだ?」


「あん? ビックスか。まだ生きとったんか。自分らもこれからか?」


「言ってくれるじゃねえか。ついこの前までしょげてたってのによ。いい稼ぎ場所があるなら教えろよ?」


「ふん。そんなもんあるか。ちゃんと苦労したわ。そうだ。ふふん。ほれ」


「? なんだギルドカードがどうした。げっ! Sランクになってるじゃねえか。お前ついこの間までCだったよな? 何やったんだ」


「元々Sだったらしいで。ギルドランク上げよったら勝手に上がりよったからな。自分らうかうかしてっとアンとライラにも追い越されるで。マイヤ達ももう自分らに並んださかいな」


「な! 本当かマイヤ!? お前らこの間までDランクじゃねえか」


 鬱陶しそうに髭の大男を見る。でもさりげなく冒険者カードを見せてる所を見ると自慢したいらしい。


「ひひひ。ビックスの髭じい。小物ばっかり相手してっといつまでたっても中級どまりだぞ。くふふ」


 ミヤが余計な事を言うもんだから。顔を真っ赤にして怒ってるよ。後ろの仲間に向かって『おい気合入れろよ。今日は20層まで降りるぞ』なんてわめきながら行っちゃった。


「コ~ラ。ミヤ、あれでビックス達が帰ってこなかったらあんたのせいだからね」


「ひひひ。大丈夫だよ、ヤルル。髭じいは慎重だから結局20なんて潜らないよ。だから長い事冒険者なんてやってるのさ」


「喋ってても始まりません。3層位から始めましょう。サラなら単独でその位は行けるでしょうから」


 アンジュが促すと、パーティーが動き出した。俺達は13人の大所帯な上、全身を魔法の武具防具で身を包んだ女性パーティーなもんだから目立つ事甚だしい。


 早速粉をかけようとする輩がいるけど、一にらみで声もかけられない。ビックス達でBクラス、周囲に居るのは精々Cクラスが最高でDやEがほとんどだ。


 全員がずた袋に色々詰め込んで担いでいる。迷宮内での食糧やアイテムなどを持ち込むのだ。マジックバッグなどを持ってる様な冒険者はまれなのだ。


 ここに居るほとんどがその日暮しが精一杯で装備すら更新できないのだ。迷宮入口の階段を下りるとそこは薄暗くカビの匂いがするジメジメとした通路だった。


 少し行くと右に曲がる道とそのまま真っすぐ行く道がある。俺は周り中をみんなに囲まれてて先の方までは見えない。しばらく進んでさらに下へと続く階段に辿り着く。


 地下1層ではほとんど敵に合わなかった。その辺を小型の魔獣がちょろちょろしていたけど、こちらにちょっかいは掛けて来なかった。そのまま2層も突っ切って、3層に降りる。


「ここからはサラやんが先頭で左右にアンとライラ、最後尾がヤルルや。でバックアップにティアとグリンダや。バックアップはよほどの事がない限り支援だけやで。うちらは後からついてくだけやさかいな」


「え~と。道は?」


「・・・好きにしたらええよ。全部分かっとるから」


 ルル姐さんが好きにしろって言うから俺は直ぐに左に進むことした。左手の法則で進む事にしたんだよ。そうして進むことしばし初めて接敵したのがオークだった。

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