第三章第三十七話 急いで! 急いで! 収穫しなきゃ。
これで三章は終了です。
第三章第三十七話 急いで! 急いで! 収穫しなきゃ。
奥さん達と外に出るといつにも増してモチベーションの高い団員達が整列して待ち構えていた。大森林に来てから全員が風呂を使う様になったのでこざっぱりして来ている。
今までは体を濡れたタオルで拭くだけだったので草臥れた感じがしていたが、随分さっぱりするようになった。特に女性陣の人気が高くお風呂も好意的に受け止められてるようだ。
「「「おはようございます」」」
「おはよう。今日のパンも美味しかったかな」
「「「はっ! ありがとうございます」」」
くふふ。バターパンはそりゃ美味かったろう。俺でも美味いんだから。そのうち牛乳を手に入れてミルクパンも良いかな。
「じゃあ、今日も一日お願いします」
「「「はっ!」」」
昨日と同じ持ち場にそれぞれが散っていく中、侍女さんだけは部屋の掃除や後片付けをしてから現場に向かうそうだ。申し訳ないがお願いして俺達は西の収穫を終わらせる気でいる。
今日は俺は刈り取りに参加せずマッドゴーレムの輸送に専念する。みんなはマッドゴーレムの量を減らして刈り取りに集中する方針だ。
「よーし。いくよ。マイヤ隊は手前の1反を。姐さん隊は奥の1反をそれぞれ始め!」
そう。今日は隊を2つに分けた。昨日の教訓で人数が多すぎて結構効率が悪かったからだ。これで刈り取りが倍くらいのスピードに上がった。俺が輸送に専念するから十分輸送も追いついてる。
これでもまだ残り30反は厳しい。なので午後には高速機動での収穫を予定している。皆が刈り取りに集中しているので俺も周辺の気配には気を遣ってるんだ。
早く警戒が生えるといいな。午前中は襲撃もなく順調に刈り取りが進んだ。13反を一気に刈り込む事が出来、午後の高速機動刈り込みに期待したい。
今は昼休憩中だ。侍女さんのお弁当を広げて、今日は朝獲ってきた鳥を香草焼きにしている。試験農園のアスパラをバターソテーしたものやピーマンの細切りを炒めたものなど野菜も豊富だ。
トマトは丸々一個を持ってきており食後のデザート代わりだ。
「結構刈り取れたよね。午後は高速機動見せるんでしょ?」
リュディーの質問に姐さんが答える。
「まかしとき。凄いの拝ましたるわ。麦は縛っとかなあかんけどそれ以外は行ける思うさかい」
「・・・先に縛っとけば麦もいけるやろ?」
「行けるであります。腰をかがめての刈り込みなので若干腰に来るかも知れません」
メル姐さんの言葉にルル姐さんとアイダが補足する。
「じゃあさ、僕達がどんどん縛って行けばいいんじゃない。でも奥の方が出来ないか」
ミヤが作業を刈り込みと結ぶ作業とに分けることを提案するが手前しか縛れない事に気付く。
「かまへんで。縛るそばから刈り取っちゃるさかいな。あんたらがどれだけのスピードで縛れるかがカギになるな。うちにルル、アイダにアンジュとリュディーもいけるか」
「え~、姐さんそんな人数が高速機動されたらいくらなんでも追いつけないよ」
まあ、当然無理だろうな。アンの言う通り目にも見えない早さで収穫して行く人に追いついて結んで行くのは無理だ。
「高速機動は長いことやってられないから二人づつにして交代交代に高速機動収穫にして、一人は麦以外を高速機動収穫にするしかないでしょ」
アンの提案に皆が頷く。まあ、やってみないと分からない事だな。午後一番で早速試してみる事にした。麦束を結ぶ人員と高速機動収穫をそれぞれ1反づつに配置して開始してみた。
・・・結果無理でした。どう頑張っても高速機動収穫の方が早い。収穫を一人にしても同じ結果な上、短時間で限界が来てしまうだけに終わった。
「そうそう上手くはいかないか。では根性で頑張ろうか。今日はギリギリまでやるからね」
「「「おー」」」
ここからは根性で頑張ったが、残り2反。辺りが暗くなってしまいもう限界だった。午前中にもう少し頑張っていれば間に合ったのにと悔やまれる。
仕方なしに戻ると、小山の様になった麦が広場にある。せっかく増設したがもう貯蔵庫に入りきらない。
「さて、どうするかな。侍女隊と騎士団の倉庫に入れてしまうか。それでも入りきらないか」
1反で4人の人間が1年間暮らせると言われていて、半分を税金で持ってかれるとしたら税金のない俺たちなら倍の8人分だ。
さらに一粒が通常の麦の10倍以上、分ケツが3倍強で実の付き方もさらに2倍強くらいだ。まあ諸条件にもよるけどたくさんでいいや。
結局侍女隊と騎士団の倉庫に入れて残りは野ざらししかなかった。その日は騎士団もやっと1反の刈り込みが出来、侍女隊は3反までを行えたようだ。そ
れでも自分達が不甲斐ないとガックリ肩を落としていた。
「明日は、ちょっと麦穂から実をもいでほしいから、騎士団は拠点で作業して下さい。あとからもどんどん送り込むので頑張ってほしい。殻から出すまではしなくていいよ」
「はあ~」
副騎士団長がガックリと肩を落として、戦力外通知を受けたみたいにへこんだ。申し訳ないが、その通りなので慰めようがない。もう雨期がそこまで迫っていてのんびりしている余裕がないのだ。
3日目は、騎士団に実のもぎ方と袋詰めの指導をして残り2反をあっという間に完了する。すぐに北の侍女隊と合流した。
北の畑に着くと案の定刈り取りは済んでいるけど畑はそのままの5反があったので、剛力持ちがあっという間に土を練り込んだ。
「お、やってるね。侍女さん達。ふむふむ。エンチャントの魔力強度不足はやっぱりでるね」
パリンパリンと音が鳴る畑を見てリュディーが一言つぶやいた。
「しょうがないよ。エンチャントだけで刈るんだもの。普通は武器の切れ味を上げる程度にしか使わないのよ」
ヤルルが援護している。この畑は侍女さんに任せて、その向こうから俺達は始める事にした。
ザクザクと2反同時に刈りこんでいく俺達の様子を見て、エンチャントに魔力を練り込む侍女さん達だが、如何せん総量が上がっていないので小一時間もすると全員がへばってしまった。
どうにか午前中で侍女さんが3反を終えた頃俺達ははるか遠くで刈り込みを行っており、さらにそれまでの畑は土を練り込み済みだ。
それと自分達を比べてとぼとぼと近づいて来てお昼の支度をしてくれる。若干元気がない。
「・・・え~と。まだ慣れてないから仕方ないよ。その内慣れるから大丈夫」
「・・・はい」
元気づけようと思ったんだけど、逆効果だった。魔力増幅の訓練もしてないし毎日毎日開墾してた訳じゃないから仕方ないんだけど、納得出来ない様子だ。
あんまりの落ち込み様に仕方ないからちょい指導する。全然足りてない魔力量を輪っかになって大幅に流すことで底上げして、マッドゴーレムでの輸送もなくしてあげてみた。
午後からは格段に良くなったよ。マッドゴーレムを出さなくなったので機敏に動けるようになって、魔力を一時的とはいえ増幅できたので残り10反まで行けた。
意気揚々と拠点に引き上げてきたら騎士団員達もぐったりしてたけど、やりきりましたみたいな感じで出迎えてくれた。
袋詰めされた実が所狭しと置かれて、藁はひとまとめにされ、おうちの裏に山となっていた。倉庫内に置かれている分はまだそのままだが昨日残したものと今日送った分は実をもぎ終わったらしい。
結構な量があったと思うのだが騎士たちのへろへろ具合をみると相当頑張ったのだろう。世界樹の枝葉の隙間から見える空はどんよりと曇り今にも雨が降り出しそうだ。
最近では星を見る事も少なくなってきた。せっかくの収穫日なのに少し残念だ。カラッと晴れてくれれば気分も良いのにと思う。しかし雨期の雨が木々には必要な事も分かっている。
漸く一息つき終わったのか、各人がそれぞれ三々五々と就寝までの作業に戻っていく。騎士たちは訓練に、侍女たちは夕餉の準備にと立ち去っていく。
残りは領主組だけだ。俺達は領主館のダイニングに戻りティーブレイクだ。これでも誰よりも働いて来たのだ。その収穫の多さが物語っている。
「もうそろそろヤバいよね。雨が降っちゃいそうだ」
ダイニングテーブルに突っ伏しながら両手を前にのばしてだらけている俺に、緑茶を一杯おいてくれるのはもちろん侍女さんだ。
順次皆の前にもお茶が配られていく。俺の両脇にはティアとグリンダが陣取って正面にはマイヤ、ヤルル、アイダがきちんと座っている。
「そうじゃな。あと2,3日持ってくれれば何とかなるのじゃがな」
ティアも空模様を気にしながらお茶を一啜りする。片手に持ったお茶にもう片手を底において両手で飲む。誰に教わったのか。品がいい。
湯呑には持ち手は付いていない。侍女さんも淹れるお茶でちゃんと茶器まで分けているのだろう。
今日の食事は誰も指図していない。バターを練り込んで来るかどうするか侍女さんの手腕の見どころだ。ほどなくして食事が運び込まれて来る。
なんと白パンで固焼きパンを作ってきた。外はカリカリで中はフワッとしている。ガーリックバターが塗られて、その上に焼いた肉や野菜が乗っていたり、お豆の煮付けが乗っていたりと色々な具材を取りそろえているようだ
。もちろん何もしていないままのパンもありシチューと一緒に出される。シチューにはしっかりと胡椒が振られて香り豊かなシチューにアクセントを添える。
「わぉ。侍女さんもやるなー。まさか固く焼いて来るとは思わなかったよー。はむ」
すぐにかぶり付いたのはリュディーだ。続いてミヤもかぶり付く。ムグムグと一生懸命咀嚼する。
「これはこれは。なかなか噛みごたえがありますね。ほうほう。パンの味がしっかりと味わえます」
アンジュの言う通り、固く焼いた分咀嚼に時間が掛る。するとパンの味がしっかりしてくるから不思議だ。顎が疲れて来たならシチューに付けてまた一口。
シチューを吸ったパンは柔らかくなるので今度は食べ易い。工夫を凝らした食事を終えて、お風呂に入ったら昼間の疲れが出たのかもうみんなが眠そうだ。
早々に寝室に引き上げて就寝する。今日は根性で収穫したから疲れたのだろう。俺もさっさと寝る。相変わらずの抱き枕だが、今日は疲れたので文句を言う気も起きなかった。
さて三日目だ。北の残りを侍女さんに任せる事にして東に向かうことにする。昨日の感じなら侍女さん達で処理しきれるはずだ。今日もどんより曇り空。
本当に時間がなさそうだ。東の畑はまだ丸々残っている。今日は3組に分かれて3反づつ進める予定だ。昨日、一昨日と作業して少ない人数の方がやりやすい事が分かってきた。
1反くらいなら4,5人もいれば十分らしい。俺も刈り取りに参加しているけどスキルなしだと刈り込むのに時間が掛る。茎が太い上に数も多いので一気に刈り込めないのだ。
ジョリジョリとやっている内に隣でザクザクと刈り込まれてしまう。それよりはマッドゴーレムで輸送に専念した方が戦力になる。
俺が担当してるのは一列だけだ。猫の手よりはまし程度だな。めげずに一つ一つ処理していく。藁で縛るのはそんなに差はない。
藁を片手で持てないのもみんなと同じなので結んだ藁をつかんでエンチャントの鎌を入れる。グッと引っ張るけど4,5本切れるだけ。一旦力を緩めて再度勢いをつけて引っ張る。
ぐぐ。今度は10本ぐらい切れた。それを繰り返してやっと藁束を切る。皆を見るとすでに3束目か4束目を結んでいる。
ちょっとため息が零れるけど刈り取った藁束をマッドゴーレムに預けまた刈り込みを再開する。夕方にはポツリポツリと雨が降り出した。その日は早めに引き上げて明日で決着をつける。
拠点に戻れば、騎士たちは全ての実をもぎ終わり各倉庫に入れてあった。明日からは、麦刈りに復帰する気満々の様だが、次は麦の殻剥きと試験農園の収穫、魚の漁をお願いした。
副騎士団長の哀愁漂う背中が哀れだったが、いずれやらなくてはならない作業なので心を鬼にして頼んだ。
明けて4日目は朝から霧雨の様な雨だった。白い霧に煙る森も神秘的だが視界が悪いのには困ったものだ。朝から霧雨などものともしない魔獣たちの襲撃を受ける事になる。
領主組と侍女隊がいるのでそうそう後れは取らないが霧の中からいきなり飛び出してくるグレイウルフにはギョッとさせられる。
何とか捌いて手傷を負わずには済んでいるが、いつ負ってもおかしくない。早く生えてこい警戒と思わずにはいられない。
この苦労をしてるのは俺だけなのだが。霧雨に魔獣の襲撃と作業が遅々として進まない。それでもあと少しで収穫は終了だ。
「ふぅ~。もうじき終わるね。最後に降られちゃったけど。どうにか間に合った」
「ああ、これでお終いだ。体が冷えてるからさっさと帰って温まろう」
マイヤが撤収の声を上げる。拠点に戻れば騎士たちがもぎ作業も終わらせており、氷室に各種野菜も入っていた。ははは。ご苦労さま。
ちゃんとやっといてくれたみたい。雨の中でも騎士たちは訓練を行っている。




