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第三章第三十三話 再建ときどき訓練

第三章第三十三話 再建ときどき訓練



踏ん張る間もなく吹き飛ぶ俺。牙の一撃は何とか受けたけど、受け切れる気がしない。姐さんは行けるみたいな事を言ってるけど無理、無理ですから~。


「サラ~~!」


ヤルルの悲痛な声が聞こえるけど、今だ俺は空中に居る。クルッと回ってストンと着地。あれ? なんともない。腕がしびれてるだけだ。確かにワイルドボアの突進で致命的な攻撃は受け切ったけどそのまま吹き飛んで大木に激突がいつものパターンなんだけど。


「ほれ、呆けてるヒマないで。相手はやる気満々や。腰が逃げてるで。思い切ってガンといかなあかんよ。」


ポンポンとお尻を叩かれる。直ぐ傍にメル姐さんが立っており、俺を受け止めてくれたみたい。うわぁ、もう来た。考えてる余裕もない。またさっきと同じだ。何も出来ないまま致命傷になる牙だけは刀で受ける。そして空中を飛んでる。そしてクルッと回ってストンと着地。


「・・・ほれ、致命傷になる攻撃は受けきれてるんやから思いっきり行きや。まだまだ腰が引けてるで。」


今度はルル姐さんが傍に立っている。今度はルル姐さんが受け止めてくれたらしい。こんな感じで数回吹き飛んでいるとだんだん慣れて来る。人間て不思議だな。余裕が出てきたらワイルドボアの動きも見えてくる。水平に抜刀した刀を牙に当てて、そのまま突進をドンと受ける。


そして吹き飛ぶ。またクルッと回ってストンと着地。


「そうや。今のはええ感じやったで。もうちょい粘りや。ドン、グググッて感じで押し込むんや。」


メル姐さんが傍で耳打ちして来てる。また肩をぽんと叩いて、ワイルドボアの方に俺を向かせる。刀を水平過ぎると力が入り難いのでやや斜めにしてドン、ググ。また吹き飛んで一回転して着地。お、何か今手ごたえみたいなのがあったぞ。


「・・・そうや。やれば出来るて。一歩踏み込んでみたらどうや?」


ルル姐さんのアドバイスを受け、今度はズン、ドン、ぐぐぐぐぐ~~。止まった! 横っ面に渾身の右フックを叩きこんで蹴りを入れようとした所で吹き飛ぶ。真上に鼻面で打ち上げられてしまった。横からひょいってな感じで掻っ攫われて着地。


「か~~。おしい。おしいで。横っ面張り倒したんまでは良かったけど相手がびくともしてへんのに蹴り入れようとしたら、そらやられるわ。先に下顎に膝叩き込んだったらどうや?」


今度こそズン、ドン、ぐぐぐぐぐ~~。おりゃ~~。膝を叩き込んで右フック。顔の向きがそれた! そのまま回し蹴りも叩き込んで首筋に刀を振り降ろす。じゃりじゃりっと音がして血飛沫があがったが、薄皮一枚が切れた感じだ。


「よっしゃ~。それや。それやで。怪力でもあったらちゃんと斬れとる。」


メル姐さんが雄たけびを上げる。ワイルドボアが怒り狂ってその場で暴れ出した。俺はそのままバックステップで距離を取る。ワイルドボアは首を振り回し、牙で俺を斬り裂こうとしているようだが、距離を取ってしまえばなんて事はない。


「サラ。チャンスよ。こっち。回り込んで同じ所を斬りつけて。」


ヤルルが右側から俺を呼ぶ。ワイルドボアは突進攻撃を止めてて至近に居た俺を狂った様に切り裂こうと首を振り回してるだけで足が止まっている。促されるまま右に回り込んで首を振り終わったタイミングで踏み込み斬り降ろしに切り上げの二連撃を同じ場所に叩きこむ。


これはざっくりと首を斬り裂いた。でもまだ致命傷じゃない。ワイルドボアの首の筋肉がきゅっと締まって出血を抑える。そうだった。体力と生命力がずば抜けてるんだった。


「上出来や。斃し切るまでやるんは時間がかこうてしゃーないで。一気にいてまうよ。」


メル姐さんがそう宣言したら、ルル姐さん、ヤルルも戦闘に参加する。でも正面は俺みたいだ。この後三回程ワイルドボアを受け止める事になる。その隙に全員が攻撃を叩きこんで、体力を削りまくる。ほどなくしてワイルドボアが倒れる。


「はい。やっと斃れましたわ。上級とはいえこいつは体力あり過ぎですよね。姐さんまで含めて総攻撃したのにこんなに時間掛るなんて。」


ヤルルが額の汗をぬぐいながらそう言った。


「・・・そうやな。こいつはそうそう単独で撃破は難しいよっていつも苦労するわ。他の上級魔獣に比べても体力はずば抜け取る。でも攻めが単調やから斃すんは簡単なんやで。」


ルル姐さんのとんでもない見解出ちゃったよ。簡単じゃなかったよ。みんなは無傷だけどさ。そうか上級相手に無傷ってそうそうないもんな。だから簡単なのか。


「さあ、おしゃべりはそこまでや。間引きを続行するよって気い引き締めや。」


この後ぐるっと一周するんだけど出る敵出る敵みんなガチンコで受け止めさせられたよ。まあ中級がほとんどで、たまに上級が混ざる程度だったからまだ何とかなったけどね。結局スキルは生えなかった。姐さん曰く、そないすぐ生えよる訳あらへん。1年以上かかるのが普通やで。サラやんは大分濃い修行になっとるから半年もすれば生えよるかもしれんけどな。うふふ。だって。


一周して拠点に戻る。獲物を侍女さんに渡して後の処理を任せる。毛皮を剥いで、枝肉にしていく。毛皮は泉に沈めておく。枝肉の内すぐに食べる分を氷室へ、残りは塩漬け肉と干し肉にするみたい。塩が大量に手に入る様になったから塩漬け肉も出来る様になったんだ。


「サラ。前から欲しがってた燻製小屋、侍女たちが作ってくれたぞ。早速薫香すると思うぞ。」


おお、やった! これで干し肉が一段と美味しくなるよ。ベーコンとかソーセージとかも作れる。燻製小屋はそこそこ大きい小屋だ。中をいくつかに区切ってあり、少量でも大量でも出来るようになってる。小屋は燻すから高床式じゃない。煙が出るからその周辺には毒虫なんかは近寄ってこないからね。


「こっちも順調だね。じゃあ、塩漬け肉も海岸組に持って行くよ。こっちは塩いるよね? 今日はそのまま天幕に泊まって来る。」


「そうか。了解した。」


拠点組と別れてまた海岸に戻ってきた。野営地に出現したけどまだ誰もいない。まだ海岸に居るらしい。ここに一人でいても仕方がないので、海岸を目指して歩く。野営地となる広場から海岸まではそれほど離れていない。ここに村が建設されてから海岸に出やすいようにしたためだ。


海岸までの道は南街道と同じ両側に防御壁が並ぶ街道だ。隙間からは樹林が見え、海風によって木々はやや内陸に傾いている。南街道と同じなので結構広い道が真っすぐに続く。地面は整地されているので滑らか且つ石などはない。馬車が通る事を想定しているから起伏は出来る限り減らしているのだ。


マッドゴーレムがいい仕事をしている証。そんな道をゆっくり歩きながら海岸を目指していると正面に終着点となる門が見えてくる。さすがに門は破壊されてない。前方と左右に門があり馬車が回頭出来る円形の広場、馬車回しがある。右側の門からは例のヌシが住んでいた入り江に向かう道が延びており、左側の門はまだどこにも通じていない。正面の門を抜ければもうそこは海岸の目の前のはずだ。


俺は正面の大門ではなくその脇にある通用門を開けて外に出る。途端に海風が吹き髪の毛を撫でていく。ここは森の切れ目でこの先木々はない。雑草が生えた草むらが少しあり、その先はもう砂浜だ。砂浜に出るとまだみんな塩を作っている。ひぇ~。結構な量を作ってるな。予想以上のハイペースだ。


「うわぁー。結構頑張ったね。今日はもうその辺にしとこうか。」


俺がそう声をかけるとグリンダが答えてきた。その作業を見ているとものすごくきれいな流れ作業で、1tの海水から塩を作るまでにおよそ1分しか掛ってない。


「ええ、そうですわねぇ~。この袋が一杯になったら終わりにしましょうかぁ~。」


「チッ。そっちは何袋目じゃ? アイダは?」


舌うちと供にティア姫が他の2列に問うてくる。ん? なにを気にしてるのかな?


「私の所はぁ~。これで299袋ですよ~。」


「私はこれでちょうど300袋であります。」


グリンダとアイダが答えて来る。


「くぅ~。ダメであったか。わらわの所は、297袋じゃ。負けじゃ。負け。アイダとは3袋も差が付いておったのか。グリンダですら2袋とは・・・。」


あ~。どうやら数を競っていたみたいだ。それでティアの列が負けたのか。負けず嫌いなティアにとっては悔しいだろうな。ん? おいおい、合わせたら50t越えてるんじゃないの。1日でこれか。予想以上の生産量だ。


でも無理は禁物なんだけどな~。これを毎日やれって言われたら体を壊しちゃうんじゃないのかな? 競争なんかしてるから大分無理してるだろうしね。


「あんまり無理すると長続きしないよ。みんな大丈夫?」


「そうでもありません。単調な作業が続くのでこうでもしてないとやる気がどんどん落ちてしまうのです。連携をうまくつないでいけば、それほど負担はない様です。」


アイダが体の各所を点検しながら、特に調子が悪い所もない様子で言い切った。ふーん。そうか、体の負担より精神的苦痛の方が大きいのか。確かに単調な作業だものな。4人が少しづつずれて全部の作業をこなし一連の作業を覚える様にしたみたいだ。それでも変化に乏しい作業なんだな。


出来た塩の袋をマジックバッグに収納して、とりあえず野営地に移動しておく。俺のマジックバッグを使っても3往復もかかった。今はサラサラだけど塩は湿気を吸って固まっちゃうから保管は気をつけないといけないんだよね。まあ100t溜まったら直ぐに皇宮に持ってちゃおう。


「このペースならエルフとダークエルフから人員を引き抜いてこなくても良いかな?」


俺が独り言を漏らすとティアが反応する。


「いや、人員の補充はするべきじゃ。精神的に来るものがあるから交代要員は必要じゃ。今日は晴れておるからまだいいのじゃが雨など降ったら作業は出来んのだぞ。晴れてる時にもっと造り置きが出来る様にしておかねばとても陛下の要望にはこたえられぬ。」


「そうだね。先を考えるならそうした方がいいか。でもこのペースなら明日で目標に達しちゃうから一旦終了して街道の防壁の修理を先にしてからまた始めようよ。それまでに人員補充しておくよ。」


俺はそう答えておいたが、明日にでも人員補充しないといけないかなと思う。少しづつでも造っておかないと陛下達がおっしゃっていた数字は途方もないものだったからだ。海岸から離れ南街道を逆にたどって野営地に帰る。


「侍女さん達は今日の塩造りどうでした?」


「はい。いつもと違う仕事でしたので新鮮でしたが、最初のうちだけであとは単調な作業でした。今は1tづつ分けて作業していますが、にがりですか? あの部分を改良できれば流水のままでも作業が可能かと思いました。」


「私はそれほど苦痛ではありませんでした。特に考える必要もありませんので高位の方のお世話の方が緊張します。魔獣は厄介ですね。集中力が乱されます。」


なるほどね。結構人それぞれだ。ここでも魔獣は問題か。正直今のメンツを塩造りに使うのは勿体ないんだよな。だから本当は専門の人を置きたい。やっぱり塩村化が重要か。水魔法だけできる人で良いんだもんな。


出来た塩は全部俺が買い取って、帝国に納めればいいのか。税金も塩で貰って、その他の物資を供給すると。う~ん。なんか自由に売り買いできないと村の人が奴隷みたいになっちゃうな~。お給金制にした方がいいかな? それの方が過酷かな? いくら働いてもお給金分だけだものな。


難しいな。もう少し考えよう。つらつら考えながら歩いていたら野営地に着いた。早速侍女さん達が野営準備に取り掛かる。良く働くな~。これが本業なんだよね。別途ご褒美出さないと悪いかな? おっと。そうだ。あれを作ろうと思ってたんだ。


マッドゴーレムを呼び出して、四角い穴を作る。俺はアイダに頼んで丸太を薄切りにして板材を作るとその穴の外壁に沿って貼り付けていく。隙間から洩れない様に板と板を重ねて内圧で密着する様にする。穴の中に作っとけば強度を気にしなくていい簡易版だ。こんなもんかな。穴の周りにすのこを配置して、お湯玉を入れれば完成。屋外風呂~。


「なんじゃ。なんじゃ。お前様、ここでも風呂を作ったのか?」


俺の作業を見ていたティアが完成してやっと何を作っていたか分かったらしい。


「うん。海風に当たるからお風呂入りたいでしょ? 土に埋めたから簡易版だけどね。排水も出来ないから残り湯を捨てるのも魔法が必要だよ。」


「でもありがたいですわぁ~。お湯玉に入ってるだけよりもぉ~。数段良いですぅ~。あと外壁があればもっといいのですけどぉ~。」


グリンダも誉めてくれる。


「外壁は明日にでも建てるよ。」


そうこうしてる内に侍女さん達が食事の準備を終え、呼びに来た。いけね。塩漬け肉だすの忘れてた。忘れる前に渡しとこう明日にはまた使えるだろう。さて侍女さん達が腕によりをかけて作ってくれた食事を頂くとしようかな。

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