第一章第六話 大森林中央付近
とうとう来たよ傍まで。でもまだ始らない。ごめんなさい。開拓時代って大変だったんだな。考えただけでもやること満載だ。もう少しお待ち下さいね。感想評価などお待ちしておりますのでよろしくお願いします。
第一章第六話 大森林中央付近
大森林二日目の夜は、静かに過ぎて行った。遠くでバキベキ骨を砕くような音が聞こえるが、俺達が仕留めたあの三匹が森に帰って逝っているのだろう。
体が動かなかった俺は、ヤルルーシカに抱え込まれている。どうやら看護のためらしい。
移動できない俺とヤルルーシカが襲撃を受けた時のために体を張ってでもとめる態勢で周りを囲むようにマイヤ、ミヤ、リュディーが眠っている。
ヤルルーシカの治療がなかったら全身打撲で死んでてもおかしくないのかなとか考える。一応致命傷になりそうな一撃は剣で受けたんだけど巨木に激突したからな~。
腕は動くようになった、足も動く体の各部を確かめながら動かしていく。どうやら大丈夫のようだ。
あまり話さないヤルルーシカだが、心配そうに俺を抱え込んだまま寝ている。言葉数は少ないが心配してくれているのだろう事は分かる。
いや、他の皆も心配してくれている。ちゃんと分かってる。もう少ししっかりしないといけないと思う。せめて怪力、甲殻、俊敏この三つは速やかに取得したい。
ん? そう言えば皆重装備はしてないなと思う。改めてみんなの装備を確認する。全員革の鎧。皮の手袋、革のブーツ、頭部はむき出し。ハードレザーが主体で手だけソフトレザー。
俺は全身ソフトレザーだけど。もう少し良い装備でも良い様な気がする。駆けだしをちょっと超えた程度の装備だ。武器は、鋼鉄製。うん妥当な所だな。
なんかちぐはぐだな。じーーーーー。はっ。ヤルルーシカが起きてこっちをじっと見てる。
「お、おはよう」
「ん。おはようございます。大丈夫そうですね」
「お陰さんで死なずに済んだみたいだ。ありがとう」
他の皆も起き出す。今日は皆寝起きが良いな。いや、きっと熟睡していないのだろう。ずっと警戒を解かないまま寝ていたんだ。
「あ、みんなおはよう」
「おは~」「おはよう」「はい、おはようさん」
「今日は、大樹が見える辺りまでは行きたいな。そろそろ見えてもいい頃だと思うんだ」
味気ない朝食を食べ装備を確認したら出発だ。そうそう冒険者には職業みたいなものはない。専門的にやっている人はいるけど基本、人それぞれ。
取得しているスキルやら魔法やらでなんとなく戦士とかレンジャーとか僧侶とか言ってるだけだ。
「ねえねえ、気になったんだけど皆の装備って弱くない?」
「ああ、言ってなかったか。前の冒険の時の戦闘で溶かされちまったんだ。手持ちの金で武器だけは揃えたんだが、資金不足で他はこのありさまだ」
「だからちぐはぐだったんだ。ん? そうか! だから早急に稼げる大森林を目指したんだな」
「そう言うことだ。他でちまちま稼いで一個づつ装備を更新するんじゃ大変だからな。一気に稼ごうってことにしたんだ。そこそこ腕には自信があったからな。最低でも銀装備かミスリル、魔法付加されたのも良いなとか夢が膨らんじゃってな」
「俺は、マジックバッグ欲しいよ。荷物が重すぎる」
「ははは、がんばれ。その内怪力が生えるぞ」
呑気に会話しながら進んでるように見えるかもしれないが、一日のうちほとんど会話はしてないんだぞ。特に今日は強行軍で走ってるような感じだ。
襲撃もそこそこあるけど全部正面突破。時間をかけずにガンガン斃すことにしてる。ちょっと遅れ気味だからな。主に俺がお荷物なせいだけど。
剥ぎ取り品や核もだんだん溜ってきたが四人分の魔法の装備かミスリルとなるとだいぶ足りない。今のところ小物ばかりだからだ。
核の大きさ色から見てかろうじて中級魔獣に分類できる位か。そんなこともあって早めに奥で、もう少し上級に近い魔獣を狩りたいところなのだ。
水や食料の問題はない。魔獣の肉も食える奴は食える。水は魔法で集められるからだ。彼女達の水の集め方が面白い。
ヤルルーシカが水弾を発射して他の三人が待ち構えて袋で受け止めるんだ。受け止める度に誰かが吹き飛んだりびしょびしょになったり。
何でそんなことしてるのか聞いたらこうしないと水が集められないだろ? なんて真面目に言って来る。
俺が水弾を袋の中に生みだして、渡すと驚いていた。そうなんだ! 彼女達の魔法は攻撃手段だから早く打ち出そうとするものがほとんどだ。
ゆっくり打ち出すという発想がない。まあ、教えてからは曲芸みたいな水集めはやらなくなったけど。実はもう一度見てみたかったりする。ひひひ。
昼食も歩きながら軽くすませ、ひたすら進む。陣形はリュディーを先頭にミヤとマイヤを左右に配置。中央に俺、後方にヤルルーシカ。
これが索敵陣だ。索敵か警戒がない俺は役立たず。大抵はリュディーが獲物を発見して一気に接近し不意打ちに近い形で戦闘に突入、撃破がパターンだ。俺が魔法を撃ち込む事もあまりない。
ミヤはいつも笑っているが本当は笑ってない。緊張してるんじゃないかと思う。この中では一番若かったろうミヤは嫌われないように必死だったんだと思う。
だからいつも笑ってる。もっと若くて役に立たない俺が加入したことで大分安心して来てる。リュディーはお姉さんぶっているが好奇心でいっぱいだ。
いつも楽しそうにわくわくしてる。子供みたいだ。
たぶんマイヤが一番お姉さんだ。常にパーティーメンバーを気にしてる。姉御風でぶっきらぼうだけど一番皆を気遣ってる。
物静かでおしとやかに見えるヤルルーシカだけどホントはあまり考えていない。ぽや~としててもそう見えないだけ。リュディーとは違った意味で子供のままなんだ。
だんだんとパーティーの事が分かってきた。でもいざ戦闘になるとさすがはD級だと思う。それなりに修羅場を潜り抜けてきた貫禄が備わり始めてる。
バランスの良いパーティーだと思う。なんで今だにD級にとどまっているのか不思議な位だ。問題は何だろう?
ギルドランクは実際の実力とは関係ないはずだよな。ん? いや違う。冒険者カードを更新してるのはギルドだ! そうか、ギルドからの信頼がないのも実力に反映されてるのかもしれない。
何でクエストをこなさないんだろう? ちょっと聞いてみるか。
「ねえ、皆は何でクエストをあんまりこなさないの?」
「特に理由はないけど、リュディーの件とギルドに行くと男どもが直ぐに粉かけてくるのが鬱陶しいからあまりギルドに近づかないからかな」
「な、なるほど。でもギルドランク上げてみないか? たぶんみんなD級の実力じゃないと思うよ」
「にゃは。なんで? D級はD級でしょ。更新はしてるよ。僕達」
「うん。仮説なんだけど、ギルドランクって信用なんだよ。その信用がない実力って言う要素が加味されちゃってるんじゃないかと思うんだ。現実にはこの大森林で運も良いけどそれなりに戦えてるしね。ここって最低でもC級じゃないと戦えないって言われてるんだ。運が悪いとB級でも全滅する位だし」
「・・・と言うと私達は実力を正しく評価されていないと言うことでしょうか?」
「その可能性があるってことだよ。例えば俺はそこそこ軍事訓練を受けてる。剣の実力だけならそこそこだと思う。でもF級なんだ。魔力だけでも中級クラスの魔術師並みなのに。変でしょ?」
「そうか、あたし達ギルドランクEだもんね。戻ったらギルドランク上げも良いかもね」
リュディーが今気付いたかのように言う。
「さて、ここらで休憩しよう。薬草類も大分溜ってきたからリュディーとサラで調合してくれるか? かさばってしょうがない」
「あん。了解です。サラの訓練を主体にしよう」
「リュディー、ひょっとしてめんどくさい?」
あせあせしてる。こめかみにちょっと汗が浮かんだ。あ、にっこり笑ってごまかしてる。実はリュディーが調合すれば失敗しないどころかワンランク上の物に出来るんだけど。
練習しないといつまでたっても俺が出来ないままだからしょうがないんだけどね。
俺も失敗は少ない方だけどワンランク上まではまだ出来た事がない。どうやってるんだろう? リュディーと薬草類を調合してると他のメンバーが軽食とお茶の用意をしてくれるようだ。
調合はやっぱりワンランク上には出来なかったけど失敗もしなかった。俺が作った傷薬にもう少し薬草を足して再調合して上傷薬に作り直しているリュディー。
失敗しなくなったからここから更に上位の調合を教えてくれることになった。あまった傷薬どうしに微量の媒体を足してヒールポーション、上傷薬からハイポーション、マナポーション、ハイマナポーションなどの薬液。
おお、薬液を更にスキルで固めて小瓶を作った!? あっ! 中にちゃんと薬液も入ってる。容器ごとポーションなんだ。だから使うと容れ物ごとなくなるんだ。
ポーション系の調合でワンランク上の調合はリュディーでも難しいらしい。出来る人はやっぱりいるらしいけど。本職の薬師とかはそこまでやる。
さらに上にフルポーション、フルマナポーション、万能薬とかエリクサーが有って奥が深いぞ薬師。
傷薬系統で説明すると、薬草そのままだと自然治癒よりちょっとまし位、傷薬にするとちょっとした切り傷擦り傷位ならスッと治る。
上傷薬は多数の切り傷や擦り傷も一辺に治せる位。効果範囲が広がるでいいのかな? ポーションになるとざっくり切れてるみたいなのも治るけど効果範囲が狭い。
ハイポーションで体中切り刻まれてても治るらしい。フルポーションまで行くと治らない傷はないんだって。でもこれらは欠損までは治らないんだ。
欠損を直せるのはエリクサーだけ。万能薬は欠損以外全てを癒す事が出来る。
治癒魔法があるのに何でポーションが発達してるかだって。もちろん治癒魔法が使える人は少ないし魔力にも限りがある。
それに比べて薬は作り貯め出来るからたくさんの人が使えるからかな。広く一般に使われてるのはポーションまでハイポーションなんかは施療院に行かないと使われてない。
だけど冒険者は別。フルポーションまで良く使う。エリクサーは滅多に見かけないらしい。原料があまりないからだって。世界樹の葉、万能薬は命の木の葉が原料。この二つは原料から違うんだ。
「よし完成。これだけでも一財産にはなるね。これでミスリルの装備が近付いたな」
「いや、薬系は売らないよ。出し惜しみして死んじまったら元も子もないからな。だから自分達で使う。余分があれば売るけどね」
ミヤが大量の毛皮を背負って揺するような仕草で問うて来た。
「そろそろ毛皮も邪魔になってきたかな? 兎魔獣とかのは捨てちゃう?」
「まだ大丈夫だ。その内、背負子でも作ろう。そうすればもっと持てるさ」
なかなかしっかり屋さんのマイヤが集めた毛皮を捨てることに難色を示す。
「ねえ、ミヤ。ミヤは鍛冶師のスキル持ってるんだよね。自分で作っちゃうわけにはいかないの?」
「へ? うん作れるよ。インゴットか鉱石でもあれば。鉱脈ってのはだいたいもう持ち主がいたりして勝手に掘れないんだよ。新しい鉱脈でも見つけられれば作った方が安上がりだね。でも鍛冶には助手が必要だからサラに手伝ってもらうよ。にひひひ」
「ああ、いいぞ。俺も鍛冶には興味あるからな。鉱脈見つかるといいな。大森林の西の方は山もあるから期待大ってところだな」
「う、うん。いいんだ。助手」
「よし。もう一踏ん張りしよう。出発」
そこから小一時間ほど進んで目の前に小さな丘が現れたと思ったらカメ。亀の魔獣。ジャイアントタートルの幼生体。半径2m位の大きさだ。とにかく硬い。皮膚も固いけど甲羅は手が出ない。
こいつは上級魔獣、でも幼生体だから中級クラス。動きは遅いんだけど攻撃が効かない。ポイント弾を撃ち込んでみたけど甲羅でうまい具合に弾きやがった。
狙うのは頭しかないんだけど噛み着いて来る。うぉ。マイヤが赤い闘気を噴き出した。これが逆鱗のスキルか?
カメの頭めがけて大剣を振り降ろしたけど外れた。でも地面ごと爆発してる。まるで爆撃を受けたみたい。
カメがやばいと思ったのか頭を甲羅の中に隠した。マイヤが側面からすくい上げる様にしてカメをひっくり返しちゃったよ。
頭を伸ばして元に戻ろうとするが首を切り落とされて終了だ。すかさずマイヤに治癒魔法をかけるヤルルーシカ。爆心地に生身で飛びこんだみたいになってたもんな。
「ひょっとして、甲羅でも割れたんじゃない?」
「ああ、たぶん出来たと思うけど。もったいないだろ? こいつの甲羅は高く売れるんだ。斃せれば解体できるからな」
「えぇ~。こいつの解体嫌だな~。甲羅は内側からしか解体出来ないんだもん」
ミヤが解体を嫌がる。なぜって? 血みどろになりながらの解体だからさ。結局パンツ姿の俺と下着姿だけのマイヤがそこに立っていた。
最初は俺だけでやることになっていたのだが高い所は二人いないと届かないと言うことでマイヤが手伝うことになった。クジラの解体とかってこんな気分なのかな~。
首の辺りと甲羅の隙間にナイフを入れる。この辺は甲羅に隠れている部分だからか何とかナイフが通る。甲羅と肉を引き剥がしながらカメの肉をえぐり取っていく。
俺達が入るための穴を掘っているのだ。この辺はまだ肉だから良いけど内臓の辺りは確かにいやだな~。
内臓を掻き出して、内側から甲羅を六角形の部分で切り離しながら解体していく。俺もマイヤもドロドロで生臭い。
一通りの解体が終わったら、頭上に水球を生み出して体中を洗う。当然全裸だけど気持ち悪い方が先に立つので欲情しない。誰だって生臭くって血みどろの女には欲情なんかしない。
甲羅は皆で分担して運ぶ。マイヤが一番多いけどね。さらに小一時間ほどしてとうとう大樹が目視できる辺りまで来た。やっとここまで来た。あとちょっとだ。