第三章第二十九話 大侵攻の顛末
大三章第二十九話 大侵攻の顛末
合計すると174名が大森林に突入していたことが判明した。それに俺ら16名を足すと190名になる。人数の境界がどこにあるのかはまだ未定だが190名は多い事だけは分かった。
「父様。今回の騒動は人数超過でしょう。人数が多い所に魔獣が集まってくる事が分かりましたが・・・」
「今回はわしの手落ちの様だ。人数把握が不十分だった。わしの指揮下にない部隊もおるようだが大森林入境の許可はわしが持っておる。すまんなサラ」
「いえ。致し方ありません。今回の件で一つ疑問が出ました」
「なんだサラ。言ってみなさい」
もう、疲れた感じで肩をガックリ落としている父様。なんだお前のせいかみたいな態度のエルフとダークエルフの面々。
「大シュナイダー領騎士団以外は俺の指揮下にあります。人数のすり合わせをしていなかったのは俺も同じことです。それとは別に今回人数過多が、大シュナイダー領で起きたため森の外へと大侵攻が起きております。もちろん過去の大侵攻も同じでしょう」
「なにが言いたいのだ?」
「はい父様。では転移で森の奥で人数過多が起きたらどうなるのでしょう? 大侵攻は森の中で起きるのではないですか? まあ、一部は森の外にも溢れるでしょうが大部分は森の中で暴れ回るのではないでしょうか?」
「それに何の違いがある? 森の中の部隊が全滅して森中が荒れるだけではないか」
「はい。ですが森の南海岸線まで引き付ければ、今度は海洋性の魔獣が跋扈して居ります。それにぶつけるのは如何でしょう」
「・・・魔獣同士で潰し合いをさせるのか。・・・海洋性魔獣の大侵攻は森側には影響しない。海の魔獣が拡散していくのは海洋国家方面だけだな。ティアどうだろう?」
「義父様。帝国として今は他国家と揉め事は起こしたくないのが本音じゃが、必ずしも海洋国家まで波及するとも限らん。航路はいくつか潰れる可能性があるの。しかしじゃ。今回判明した事実によれば、人数過多が起きている方に引き寄せられるつまり海岸線じゃ。海洋性魔獣も引き寄せられる確率が高い」
「ですわねぇ~。海洋性魔獣の方が数は多いでしょうけどぉ~。陸に上がると途端に弱くなる特徴もありますからぁ~。潰しあってくれるかもしれませんねぇ~」
ティア、グリンダの意見を聞いて皆が黙りこむ。ここでアイダが言い難い事をズバッと斬り込む。
「しかし、囮役が100名なのか200名なのか、それ以上なのかは分かりませんが、決死隊です。まず勝ち目はありません。立候補させるのですか?」
「・・・」
「転移陣を設置するのはどうだ? 私達が海岸に転移陣を設置する。見事魔獣を引きつけて海岸に辿り着いたものは転移陣を使ってここに戻るんだ」
マイヤが途方もない事を言いだす。でもこれで決死隊ではなくなる可能性が出てきた。
「・・・なるほど。マイヤだったか。おもしろい。一考の価値はある」
「ならば、転移陣がいかほどか知りませんが、その資金は小シュナイダー領が持ちましょう。それで魔獣が減るなら安いものです」
俺が云い切った。俺ってかっこいい。いざとなれば陛下におねだりしてみよう。てへ。
「そうだな。わしも協力は惜しまん」
「リュディーも協力するよ。それで居留地が出来るなら安いものだもん」
「うちらも協力するで、リュディーが言う通りエルフにもメリットがある」
エルフ、ダークエルフを代表して姐さんとリュディーも協力することを申し出てくれた。
「まあ、待ちなさい。大森林に係わる全ての領地が協力することは大前提だが、その前に今回の被害状況を確認せねばならん。まさかとは思うが、世界樹や命の木に何か起きてないだろうな?」
「・・・」
やばい。人命を優先して無茶したんだった。思わず汗がタラーリと流れる。
「どうした。サラ? 顔色が悪い様だが何か心当たりでもあるのか? どちらにしろ森が落ち着くまでは確認も出来ん。お前達はそれまでここで行儀見習いでもしていろ。今回の顛末はわしから陛下に報告しておく。転移陣の話もそこでして来よう。まずはご苦労。解散してくれ」
こうして各部隊の長達は自分の陣へと帰って行く。残りのメンバーは・・・。対応に追われる事になる。
「父上! 事の顛末とその後の展望はいいとして、現状4000人もを養うことは無理です。どうするのですか?」
「幾分かは野営地から持ってこられよう。マルス、カラナムとニコラスを呼んでくれ。緊急で対応せねばならん。サラ、お前の所の部隊は金くらい持っておろうな?」
「ええ~と知らないかも。リュディー、姐さん。そっちの部隊はお金持って来てるよね? ティア、グリンダ、アイダそっちは?」
「うむ。持って来ておる。わらわの生活費じゃな。ほとんど使っておらんはずじゃ。物資は現地調達する気でおったからの。皆の所も似たり寄ったりじゃろう」
「あたしの所は知らないよ~。でもお金はあんまり持ってきてないと思う。現物じゃないかな~」
「うちんとこも現物やな。お金はあんまり持ってないさかいな」
ティア、リュディー、メル姐さんが答える。
「全員分の食料がまず必要か~。持って来た物資は置き去りにしてきたんだよね? 徐々に回収するとして近寄れるようになるまでに3日くらいかな? 生鮮食品は諦めるしかないか。父様の所の3000人分がここ大シュナイダー領で物資補給するんですよね?」
「う。うむ。そうなるな。それでも足らないだろうから隣から持って来る事になろう」
「うちの分は・・・ないか。兄様達の所から買って来るしかないか。1人一日小麦1kg消費するとして1000人で1t。3日凌ぐのに3tか~。とりあず3tの小麦を仕入れてくるよ。父様の方はどうしますか?」
「余分に仕入れて来れるなら仕入れて来い。お前達が食う分もなくなる可能性もあるからな」
「え~。僕、飢えるのはやだよ」
「心配しないでミヤ。とりあえず海鮮の素材は結構あるから、小麦さえあれば凌げるよ」
まずは皆からマジックバッグを回収して中身は、全部出す。それぞれの部隊に分配して、在庫量も調査してもらう。みんなのお小遣いも回収して、急遽転移する。
ガイウス兄様がいる領地。ここは大規模な穀倉地帯を抱えてるから買えるだろう。転移で移動をする。
「ガイウス兄様~、サラです。お願いがあってきました」
「どうしたサラ? 随分急じゃないか。一人か?」
「ええ。ちょっと緊急事態が発生しまして、食糧難です。小麦売って下さい。最低3tできれば12tくらい」
「おいおい。いきなり何を言い出すんだ。そんなにある訳ないだろう。まず事情を説明しろ。領地から集めるにも時間が掛るんだよ」
「端的にいいますね。大侵攻発生直前まで行きました。それは回避したんですが、物資を置き去りにしてしまったので今食べるものがありません。規模は4000人分です」
「・・・ちょっと待て。ここの在庫分だけでは足らない。ケイオス兄上とテリオ兄上にも在庫を開放して貰おう。すぐに使者を出す。在庫を持ってきてもらう」
「どのくらい有るんですか? 小麦以外の食べ物もあります?」
「・・・。あるものは全部かき集めてやるからちょっと待て」
くふふ。これでガイウス兄様も領地も好景気にわいちゃうな~。特需だね。うぉ! ガイウス兄様が凄い勢いで指示飛ばし出したよ。
ん? 商家だけじゃなくて農家にも指示だしてるみたい。どういうことかな? ひょっとしてあんまり在庫がなかったのか? 不味いな。
おおよその指示を出し終わった兄様に聞いてみた。
「どんな塩梅ですか? 兄様。」
「どうもこうもない。1tだ。在庫にあるのは。今そこら中からかき集めてる。12tなんてどうやったら集められるか分からん。少々高くつくが農家の在庫分も集めてる。金庫に金だけはあるから問題ないが来年は財政難になるかもしれんのは覚悟しとけよ」
「え~。そこは兄様の手腕で何とか回避して下さいよ。多少なら持ってきましたけど。とりあえず金貨36000枚ありますから勘弁して下さい」
「な、そんなに持って来たのか!? ある所にはあるんだな~。まあ財政はこれでどうにかなるな」
おお、実はまだ投資してる分もあるけど黙っとこう。夕方にはケイオス兄上とテリオ兄上が到着した。
在庫をたくさん抱えて来てくれたみたい。二人合わせて1t他にも野菜とか肉とか卵も持って来てくれた。
「おーい。今ある分だけ持って来たぞ。ガイウス!」
「ケイオス兄上、お手数をおかけします。サラが転がり込んで来たのですよ」
「こんばんわ。兄様。緊急事態で申し訳ありません。とにかく今ある分だけでも貰って行きます。明日また取りに来ますけどまた2tくらい用意できます?」
「・・・僕ん所で持かき集めてるけど、時間が掛るよ。明日中に着くのは1tにも満たないと思うぞ」
「そんな~。テリオ兄様、部下が飢えてしまいます。何とかお願いしますよ。父様の所でも集めてると思いますけど縦に長いからあっちも時間掛ります」
「ちっ。4000人分じゃ一食分にも足らないか。明日にはもう少し用意しておく。とりあえず今のまま行け」
ケイオス兄様の指示通り俺は2tプラスアルファーの食材をマジックバッグに詰め込んで戻る。戻るとそこに父様は既にいなく帝都に行った後だった。
報告に行ったのだろう。さらに奥に行くとダイニングにはドレスを着たみんなが母様の前に整列している。
「・・・。母様? 何事でしょうか?」
「あらあら。まあまあ。サラちゃんお戻りになりましたね。早速行儀作法から始めましょう」
みんなの涙目が俺に突き刺さるが俺にだってどうしようもないよ。一応目で訴えておく。
「え~と。父様かマルス兄様の所に顔を出さなければなりません。場合によっては転移で別の場所に買い出しに行く事になります」
「まあ、お忙しいのね。寝る暇はあるかしら?」
とんでもない事をさらッと言いだす。ええ~。睡眠削っても行儀作法習うんですか母様!? 早く戻ってこようと誓うサラであった。
取り敢えず今ある食料を渡さなければならない。マルス兄様を探して執務室に行くと。喧々諤々、カラナムとラグジュ達従士と言い争っている。
「お邪魔します。サラ戻りました」
「おお、サラか。食糧は? 待ちかねたぞ。今夜の夕食分も足らん。大シュナイダー領に備蓄があまりないん。」
飛び地から急遽集めて来た2tプラスアルファーの食糧を出す。
「これだけでは、海鮮を合わせても明日の朝までくらいだぞ」
マルス兄様が頭をかきむしっている。他に当てはない。ここで行き詰ってしまった。
「父様が追加で送らせてるのはいつごろ着くのですか?」
「明後日だ。明日分がない。それに明後日着く分もせいぜい1t程だそうだ。順次送るように手配はしてくれているようだが」
「・・・。どうしましょうか。兄様」
「・・・」
「カラナムのおっちゃん。どっかにないかな。お金ならあるんだから」
「そうでやすね~。明日は朝から各商家を回って少しづつでも集めてもらうしかないでやすかね~。後は帝都の食糧庫ですか。解放してくれるとありがたいんですが、まず無理でやしょう」
「ティアに頼んで解放してもらうのは?」
「いくら王女殿下でも備蓄食料は解放させられんでやしょう」
「さてさて、どっかに食糧がわんさかある所は・・・思いつきやせん」
「だめか~。しょうがない。宿営地に行って在庫の食糧持って来るしかないかな」
「馬鹿を言うな。せっかく回避した魔獣がまたぞろ戻ってきてしまったらどうするんだ」
「でも兄様。食う物がないと暴動までは起こらなくても、何か起きそうですよ。まだ人心の掌握できてませんから」
「どこかの貴族家に泣きついても、精々2,300人分の食糧しか備蓄してないしな。泣きつく貴族家もない。困ったな」
「明日の朝一番に、またケイオス兄様達の所に行ってきます。今集めてくれてる所ですから」
「それに期待するしかないか」
兄様の執務室を辞して、ダイニングに戻ると皆が静々と輪になって歩いてる。頭には本が乗っていてそれを落とすと叱責が飛ぶ。
「ティアさん。どういうことですか? この程度基礎でしょう。まさか皇家の子女がサボっていたのではないでしょうね」
「うぅぅ。義母様決してそのようなことはないのですじゃ。ただ得意ではないと言うだけですじゃ」
「それ、それですよ。もうお子様ではないのですからじゃはおやめなさい」
「はい。義母様」
ティアでさえ叱られてるよ。母様容赦ないな。モニカさん手の持ってる鞭はなんですか? ヒュンヒュン鳴らすのは勘弁して下さい。この後当然俺も参加させられた。




