第三章第二十三話 殲滅姫降臨
第三章第二十三話 殲滅姫降臨
翌朝は昨日お残しした蟹を食べて朝食にした。野営の後始末をして、海岸に向けて歩く。この後戦闘なので体力温存のために走らない。全員がフル装備だ。
煌めく魔力を全身から迸らせキラキラ輝いている。良い装備付けてる。まだまだ一流の冒険者とかが装備している伝説級の装備にはかなわないけど、一般の魔法装備の中でも上位だ。
装備の中には神話級だの古代級だのもあるらしいけどお目に掛った事はない。海岸に辿り着くと居る居る。
もう既にジャイアントクラブがシャカシャカ歩いてる。アイダが槍をしごいて一歩前に出る。やる気満々だな~。余程、鬱憤が溜ってたのかな~。
「では、まず私が行かせてもらいます」
そう言ってアイダが消えた。高速戦闘に入ったらしい。そこら中からバシュとかズシャとか聞こえたかと思うとジャイアントクラブの眉間が陥没して消えていく。
マジックバッグに収納しているらしい。相変わらずアイダは見えないけど、どんどんジャイアントクラブが消えていく。
「ほな、ちょっと前進しよか。もう周囲にはおらへんし海岸出て右か左を殲滅しよ」
森の出口から海岸に出て左右を見回す。ザシュとかズシャとかはいまだに聞こえてくる。周囲の蟹があらかたいなくなった頃、蟹の上に乗って高笑いしているアイダが居た。
「あはははは。弱い弱い。どんどんかかって来なさ~い。あはははは」
「あれが殲滅姫?」
「でしょうね。この二つ名ってしょうがなくないかな~。不本意って言ってたけど、そのままだよね?」
ミヤが身も蓋もない感想を口にする。
「・・・ええ。でも気にしてるみたいだから黙っておこうね」
暫くして高笑いも収まった頃、普通に戻ってきた。
「殲滅完了です。海からまだ上がってくるでしょうからお任せします。さあ、発散して下さい」
「「「・・・」」」
清々しいまでに良い笑顔を向けて来る。
「ほな、海岸に展開して海から上がってくるやつを処理しよか」
それから昼近くまで海から上がってくるやつとか砂に潜ってたやつとかを処理していく。昨日までの苦労がなんだったのかと言うほどあっけなく殲滅が進行していく。
まあ、囲まれなかったら俺たちだってそんなに苦労はしてない程度の敵だからアイダが高速戦闘しだしたらひとたまりもないよね。
どうやらあらかた一掃出来たみたい。姐さんが海の方に向かって行く。じゃぶじゃぶと海に入って直刀をそこら中に差し込んではこっちに向かって放り投げて来る。
砂浜に打ち上げられた魔獣たちがビチビチ跳ねてる。
「ぼさっとせんと止め刺しや」
慌てて姐さん達に従って止めを刺していく。エビ、エビだよ。伊勢海老を大きくしたようなやつとか大きな貝とかサメかな? どんどん打ち上げられていく。
アイダもじゃぶじゃぶ海に入って行った。一層打ち上げられてくる魔獣が増える。近海の魔獣も一掃するつもりかな。
暫くして姐さんとアイダが海から上がってくる。もう捕り尽くしたのかな?
「まだまだ、ぎょうさんおるで。疲れたから上がってきただけや。こいつら水中に居ると厄介やけど浜に上げてしまえばどうってことあらへんからどんどんいこか。サメのやつもおったやろ? あれ時間経つとおいしゅうないやつやから尾びれと背びれと胸びれあと核か、だけ取ったら放ってしまい。普通の魚介の餌んなるさかい」
「え~と。そろそろマジックバッグ一杯だから今日の所は勘弁してあげて下さい。ちょっと大シュナイダー領に渡してきます。きっと良い値が付きますよ」
「少しは残してほしいなと僕は思うけど。どう?」蟹、蟹だなミヤ! ほしいのは蟹だろ。
「うん。俺のマジックバッグに入ってる奴は残しとこうか。蟹がメインでエビと貝があればいいよね?」
「そやな。サメのひれは加工せんと食べられへんから。干して皮剥いておく様に言いや。高級食材に化けるよってな」
「それってフカヒレですよね? サメの魔獣でも出来るんですか?」
おお、流石物知りヤルル。フカヒレも知ってたか。なら干しアワビも知ってるかな?
「ようは知らんけど似たようなもんやろ?」
みんなからマジックバッグを回収して、転移する。
「カラナムのおっちゃん。度々悪いね。どう村の方は? 上手く治まってる?」
「・・・サラ坊っちゃん。どうもうこうもねぇでやすよ。何しでかしたんでやすか。大シュナイダー領は激変の真っ最中でやすよ」
「ああ、うん。ごめん。だって陛下とか大公爵様とかがエルフに渡りをつけろって言うからその通りにしただけなんだよ」
「・・・それでこの騒ぎでやすか。ほとほと困った御仁でやすね。どうやったらエルフだのダークエルフだのを恭順させられるんでやすか。物凄い高慢ちきな奴らでやすよ。まあ、なっちゃたものはしょうがねぇでやす。ミゲルは今は増えた領地を巡察中でやす。若は相変わらずてんてこ舞いでやすね」
「うん。そう。それでこれ魚介が捕れたから捌いてほしいんだ。またニコラスに任せるんでしょう?」
「・・・ニコラスも今てんてこ舞いで手が出せるかどうか。新領地の商業ギルドとやり合ってやすよ。しょうがねえです。あっしが捌いときやすから。加工賃は頂きやすからね」
「うん。あとこれサメのひれなんだけど、干して皮剥くとフカヒレになるんだってやっといてくれる?」
「・・・こりゃ。高級食材中の食材になりやすよ。この魔獣あんまり捕れないはずなんでやすけどね。分かりやした」
「そう。良かった。出来たら皆も食べてね。まだ沢山いるみたいだから」
「ありがとうごぜえます。そうそう奥様が呼んでやしたよ。なんだか侍女がどうしたとか言っておりやしたね」
「ああ、あの件か。分かった。顔出してみるよ」
そう言ってマジックバッグの中身をぶちまける。カラナムのため息が聞こえたけど聞こえなかったふりして行っちゃおっと。
そのまま屋敷に入って行くと応接間に腰を降ろしてお茶を飲んでいる母様。その両脇にはジェシカとモニカが佇んでいる。・・・おいおい。大隊長やら総隊長がなにやってるの!
「母様戻りました。お元気そうでなによりです。ジェシカさんとモニカさんもこんにちは」
「あらあら、まあまあ。お帰りなさい。ひどい騒ぎになってますよ、サラ。いつの間にやら私が侯爵夫人ですっていつなったのかしら。まあ、そんなことはあの人に任せておけばいいわ。預かってる侍女たちの事なんだけど3人連れて行くのよね?」
「え~と。そうですね。ティアがそんなこと言ってました」
「なら良いわ。ジェシカ呼んで来てもらえる?」
「はい。マリアンヌ様」
暫くしてジェシカが3人の侍女を伴って戻ってくる。3人の侍女は壁際に並んでジェシカは定位置と言わんばかりに母様の背後に控える。
モニカさんがお茶を入れてくれた。凄いよ。淹れ方で変わるのは知ってたけどアイダより美味い!
「この娘達なら高速戦闘も出来る精鋭よ。連れてってあげて。まだ何人か送れるけどどうするの?」
「え~と、ですね。まだそんなに大人数は住めないのでもうしばらく預かっていてもらっていいですか?」
「ええ。いいわよ。その間に鍛えておくわ。その内全員連れて行けるでしょう。お給金はあなたの稼ぎから差っぴきますからね」
「・・・はい。じゃあ、ちょっと待っててくれる。マルス兄様の所によってから出発するから荷物まとめておいてね」
「「「かしこまりました、旦那様」」」
侍女たちを置いて、執務室に向かうとマルス兄様が書類に埋もれてた。扉は開きっ放しになっててひっきりなしに侍従やら文官やらが出入りしている。
「コンコン。マルス兄様お時間貰っても良いですか?」
「!!! サラ! おまえ! やらかしてくれたな」
ガバッと立ち上がった兄様。目の下にクマが出来てるよ。寝てないのかな?
「まあ、仕方ない。もう戻れないからな。それでなんだ今度は? もう何も出ないぞ」
「うん。また投資しようと思って。金貨100000枚程持ってるんだけど。ほらこの間の晩餐会でお披露目したエリクサーと万能薬の代金としてもらったんだよね。使い道がないからこっちに投資しとこうと思って」
「・・・100000枚か。助かると言えば助かるが、凄い金額だぞ? うちももう大分儲けてるから増やせるとは思うが。わかった。預かっておく。国家予算並みだな。ははは」
「うん。宜しく。じゃあ、もう行くから海産物をカラナムのおっちゃんに渡してあるから後で食べてね。じゃあ」
応接間に戻ると、小さなバックを持った3人の侍女が待っていた。3人を連れて転移する。もちろん海岸線だ。
「ただいま。ティア、グリンダ、アイダ。お待ちかねの侍女さん連れて来た。まだ何人か来れるみたいだけど住む所がないでしょ? だからもうちょっと待ってもらったよ」
「おお、やっと来おったか。これで貴族家らしくなるじゃろう」
「ええ。助かりますわねぇ~」
「貴様ら高速戦闘までこなせるな? 油断するな。ここは危険地帯だと思っておくが良い」
「「「はい。奥様」」」
「まずは野営の準備をしておれ」
「「「・・・」」」
「野営でございますか? あ、あの、その、ええ~。どう致しましょう。いきなり野営とは思わず何の準備も致しておりません。申し訳ございません」
「うん。その辺の砂浜に火を起こして、お湯を沸かしておいてくれる。毛布とかは各自で持ってるから大丈夫」
「て、天幕がございませんが・・・」
「天幕は使って無いよ。雨が降ったら木々の間にマントを張って雨を凌げばいいよ。君達毛布持ってないよね?」
「生憎用意致しておりません」
「そう。じゃあ、マント貸してあげるから寒くないと思う。俺らはちょっと実験するから後はお願いね。あ、食材はこのマジックバッグに入ってるから適当になんか作って。みんな結構食べるから多めで良いと思う。自分達の分も忘れちゃ駄目だよ?」
きっと屋敷に行くものと思っていたんだろうな。そうしてあげたかったけど、みんなここに居るんだもの仕方ないじゃん。
でもよく訓練されているらしく戸惑いつつも何とか動き出したみたい。これなら大丈夫かな。
「じゃあ、ちょっと実験してみようか。海水を1トンくらい持ち上げて、そしたらこの布を通して異物を取り除きます。ゴミとかあるからね」
大きく縦に張った布を水の塊が通過して行くとぽとぽとと異物が落ちていく。この布は濾し用の布なんだ。1トンあった海水から魔法で水を徐々に抜いていく。7割くらい減ったらやめる。
「ほら、白い塊が少し浮き出てきたでしょ? よしよし。また濾し布通して下に落ちる白い塊があるでしょ。この塩は苦いんだ。だからポイします」
「へー、じゃあ、こっちの残りの水は? どないするん?」お、メル姐さんが食いついて来た。
「また下の水からこんどは95%くらい水分を抜いていきます。ほらほらこれが海塩だよ。ペースト状くらいまで水分を抜くんだ」
今度は横に張った布をみんなで持って、その下にたらいを置いてさっきの塩を置きます。布にくるんでぎゅっとすると下にまた水が溜るでしょ?
これはにがりと言います。これも苦いからここで塩と分離します。今は使いませんので放置します。ここで出来た塩に真水をサッとかけて洗います。
ゆっくりやると全部なくなっちゃうから注意だよ。これでさらに苦み成分を洗い流します。
「最後に完全に水分を抜くと海塩の出来上がりでーす。最後にやった水洗いはなくても大丈夫だけどこの水洗いの程度で塩の味が変わるんだ。大体30キロくらい取れたね。本当はもう少し取れるんだけど水洗いで溶けちゃった分少なくなってます」
「おお。あっという間に出来た。でも魔法使えない人はどうするの?」
うん。いくつか方法があるんだけど海水を運ぶのが重労働なこと。海水を濃縮するのが重労働なこと。海水を加熱して水分を飛ばすのが重労働なことが問題なんだ。
だから海水を汲むのは足踏み式ポンプを作ります。それで海水を汲んで水路に流します。出来るだけ長くして太陽の熱で温めます。
途中でより蒸発しやすように逆茂木を置いてそれにかけたりします。最終的に貯水槽に溜めて塩水を作るんだ。
後はゴミを除去して大釜で煮る。苦い塩を一度捨てて、更に煮る。ペースト状になったらにがりを取って水洗いして乾燥させれば完成です。
「こんな感じかな。本当は乾燥魔法だけ覚えてもらうのが良いんだ。だから訓練から始めるのが一番いい。海水を煮るのは薪も必要だからね」
「基本的にみんな魔法は使えるから乾燥魔法に限定すれはかなり多くの人が使える様になるよ」
リュディーは魔法肯定派だな。
「今日は作った塩を使ってもらって試食会と行こうか。さて、どんな味になるかな。楽しみだね」
侍女さんが作業している所に塩を持って行って料理に使ってもらうことにした。岩塩に比べてミネラル分が入っている塩は旨味があって美味しい。
けどその旨味が邪魔をする料理もあるから使い勝手としては一長一短な事が分かった。これなら岩塩とすみ分けも出来るかな。
なんて考えてしまう。どうしても海塩は潮臭さが残るから好き嫌いも出るよね。
実は水洗いをもっと良くすればほとんど分からないくらいまで減らせるんだけどせっかくの旨味もなくなっちゃって塩辛さが際立っちゃうんだ。取れる量も減るしね。
明日は更に海の魔獣を狩り尽くそう。




