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第三章第二十一話 何もない日常

第三章第二十一話 何もない日常



 全員が揃ったので、まずは風呂からにしよう。昼間かいた汗を流す。問答無用で連れ込まれるのはいつもの事だが(まだ抵抗している健気な俺)、これって子供扱いなのではと最近思う。


 体を洗い終わって湯船に浸かりながら考えている事は他愛のない事だ。


「今日はどこまで進んだの?」


「西側に小麦を植えて、今、北側の伐採の途中までだ。そっちは?」


「半分まで耕して野菜を植えたよ。明日で終わると思うから明後日からはそっちに合流かな」


「そうか。ちょっと気になったんだが魔獣が出ない。境界線での魔獣狩りが効いてるのか別の原因があるのかは分からん」


「う~ん。たぶん魔獣狩りが効いてるんだと思うけど、やり過ぎかもしれないとは思ってる。大侵攻が起きちゃいそうで怖いんだ。南側の海岸線を調べてみないと分からないけどそっちでも魔獣が減ってたら危ないかも」


「ティアに少し自重させるか? それとも思い切ってエルフとダークエルフの集落でも作らせるか? 本当に魔獣が減ってるのかもしれないしな」


「そうだね。大シュナイダー領の騎士団がどのくらい出来てるかによるかな。万が一大侵攻が起きちゃっても受け止めてもらわないといけないから」


「そうだな」


 マイヤと現状報告をし合う。あっちも凄いスピードで開墾しているようだ。湯船で疲れを癒した所でもう上がる事にする。


 マイヤにタオルでゴシゴシ拭かれてからヤルルーシカに拭き残しを優しく拭かれる。着替えてからダイニングで食事になる。皆が上がって着替え終わるのを待っている間に一休みだ。


「アンとライラはいつも早いね~」


 この二人はカラスの行水だ。体は良く洗うのだが、湯船には少ししか浸からない。何でか聞いたら水浴びの頃の習慣らしい。


 地方の村出身である彼女らは、水浴びに時間をかけてられなかったらしい。怠けてると思われるんだって。だからさっさと身を清めたら出るのが習慣化されちゃってるんだって。


 ここではゆっくりしても良いんだよって言うと。なんだか落ち着かないそうだ。まあ、徐々に長くなっては来てるからその内改善されるだろう。


「サラは長風呂だもんね~。そんなに浸かってたら茹っちゃうよ」


 タオルを雑に頭に巻いたままのアン。普段はポニーテールだ。戦闘中は髪が右に左にふりふり動く。


「・・・気持ち良いもんね。私もちょっと思うよ」


 ライラは前衛職をこなしているが、神職希望だったらしい。けど神聖魔法が習得できなくて今に至ってる。


 まだ諦めた訳じゃなく時折グリンダとかヤルルーシカに神聖魔法を教わっている姿を見かける。ツインテールを更に後ろで束ねて垂らしているのが特徴だ。


 基本的に魔法の素養がある人間が冒険者を目指す事が多い。なので神聖魔法は教育の問題と相性の問題で習得できていないのだろう。


 俺も神聖魔法は習得できていない。うん。神様会った事ないし。だからなのか亜人種の人たちに神聖魔法を使える人は少ない。


 アンジュ達が習得できたのはよっぽど俺の事を心配してくれたからかもしれない。ん。みんな風呂から上がってきたな。さあ、食事にしよう。


 ふふふ。大森林に来た頃の様な食事になっちゃってる。黒パンじゃないけどパンと肉と魚がメイン。残り少なくなってきた絶品スープ。


 また煮込まなきゃ。めちゃくちゃに野菜を入れるのは評判が悪かった。青臭くなっちゃったんだよね。でも勿体ないから全部飲んでから作り直しだ。


「ついこの間まではこの人数だったんだよね。アンとライラが増えてるけど。なんか人が居なくなると一気に寂しくなるね」


「ええ、姐さん達とかティアなんかはムードメーカーですから。良い雰囲気を作り出してます」


 お行儀よく椅子に座ったまま答えるアンジュ。


「アンジュだって落ち着いた雰囲気を作り出してるよ。寂しいのは急に人が減っちゃったからだよ。でも直ぐに戻ってくるから」


「ええ。そうね。落ち着いたらすっ飛んで来るわよ」


「うん。ふふふ」


 食事をゆっくりと終え就寝。静かなままこの日は暮れていった。翌朝には、残りの作業を済ませてしまうつもりだ。マイヤ達もさっさと北を済ませ東も今日中に片を付けると言っていた。


 俺はまた試験農園に向かって歩いていく。思った通りドライアドさんが良い仕事をしてくれている。昨日植えたばかりの野菜が既に双葉の芽を出していた。


 よし、さあ、耕すぞ。昨日の疲れがまだ残っているが張り切って行こう。ザクッ、ザクッ、ザクッ、鍬を入れていく。隣では俺と連動してマッドゴーレムが鍬を入れている。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、残った根っ子を除去しながらザクッ、ザクッ、ザクッ。一人だから無言のままだ。ただただ鍬を入れる音だけがする。ザクッ、ザクッ、ザクッ。


 30分もするともう俺の体は悲鳴を上げ始めた。腰は痛いし、掌はもうマメが潰れている。剣ダコとは位置が違うから力を入れている場所が違うんだろうな。


 俺は一休みして腰を伸ばす。う~~ん。いててて。額の汗を拭いながら、上着を脱ぐ。もう暑くて着てられない。首にタオルをかけて空を見上げればどんより曇り空だ。


 雨期が近いせいだろう。もう何日かで雨が降り始める。雨が降り始めればどんどん雨脚が早くなって最盛期にはどしゃ降りになる筈だ。


 それが一カ月くらい続く。そうしたらもう夏だ。夏までに南の街道を整備して、塩田を作りたいな。塩田も儲かると思ってる。


 この世界は岩塩が基本だ。前世の記憶を持つ俺は海塩が基本・・・(工業塩が基本かも)。だから海水から塩の作り方は知っている。にがりと呼ばれる成分を除去しないと美味しい塩にならない。


 この世界は下手に魔法があるから海水から塩を取るのは簡単なんだ。海水を一気に乾燥魔法で水分を抜けば出来上がるからだ。


 でもそれだとにがりの成分、マグネシウムだのとかも結晶化して塩に混じっちゃうから不味い。それを取り除くためにひと手間をかけないといけないんだ。


 まあ、それは塩田を作る時のお楽しみだね。もう一頑張りだ。ザクッ、ザクッ、ザクッまた鍬を入れ始める。


 地味な作業だな。最初だけ本当の最初だけ鍬を入れて土を掘り返すのが楽しい。土弄りだから。あっという間に体が悲鳴を上げ始めるから後は苦しいだけ。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ。更に30分位がたった。もう一回休憩しないと保たない。タオルで首の周りから胸の汗も拭って腰を伸ばそうとするけど痛たた。


 同じ姿勢のままだから腰が固まっちゃって伸ばすのも一苦労だ。ちょっと水分補給と塩分補給。干し肉をかじって水を飲む。


 熱中症の知識はここにはないけど経験則で水分補給はマメにしろって言うのがある。梅干し、梅干し食べたい。ここには梅干しないけどね。前世の記憶が言ってる。


 そうか梅干し食べたいのは塩分が不足しだしてるからか! なる程。今、気が付いた。梅干し食えって言うのは塩分補給のためだったんだ。


 ばあちゃん要らねえとか言ってごめん。前世の記憶のばあちゃんに謝っておく。やっと半分。もう一頑張り。ザクッ、ザクッ、ザクッ。2時間後にやっと一反を耕し切った。


 2日で一反を一人で耕したんだ。俺って凄くねえ。・・・マッドゴーレムも俺が操ってるから一人だよ。魔法がなかったらこの5倍は時間が掛ってるのか。


 俺って酷くねえ。ヘタレも良いとこだな。まあ、仕方ない貴族のお坊ちゃまなんだから。本格的に休憩しないともう倒れる。畑から出て座る。


 お茶を作って干し肉を軽く炙ったおつまみと一緒に飲む。昨日から全然魔獣が獲れてないんだよな。マイヤ達も遭遇してないって言ってたから。肉も減る一方だ。


 ワイルドボアとかアーマードオックスなんか出ないかな。あいつら美味しいんだよな。一人じゃ斃せないけど。


 ワイルドボアはこの間、俺がコテンパンにやられたやつ。アーマードオックスは硬い外皮を持った暴れ牛。角をめちゃくちゃに振り回すから近寄れないんだ。


 遠くから魔法で攻撃しても暴れながら近づいて来る。外皮が硬いから生半可な攻撃は弾いちゃう。唯一の弱点がお腹。お腹には硬い外皮がない。


 氷とか土魔法で槍を下から出して串刺しにしてから仕留める。畝を作ってしまおう。そうしたらお昼御飯だ。今日もみんな来るかな。


 今日はもろこし粥。溶き卵を回し入れてふわっとさせるんだ。お昼御飯が楽しみって、可哀想過ぎるだろう。いやいや、早く畝を作らねば。


 昨日と同じように台形に土を盛って行く。マッドゴーレムも俺に連動して盛って行くけど土の状態が違うから後で修正しないといけないのが面倒臭い。


 仕方ないんだけどね。鍬で左右から土を集めて山盛りにする。山になったら形を成型して台形にしていく。マッドゴーレムが出来なかったか所を修正して終わり。


 よし。お昼御飯にしよう。皆も来るだろうから。もろこし粥もたくさん作っておこう。粉にしたもろこしと粒のままのもろこしをサイコロ大にカットして入れて干し肉で味付け。


 水の代わりに絶品スープ、最後に溶き卵を回し入れたら完成。三つ葉を乗せたら食べても良いよっと。お、来た来た。東から来たってことはもう北も終わって東の開墾をしてるんだな。


「お疲れ~。今日はもろこし粥だよ。出来るだけ美味しくしたつもりだけどどうかな」


「おお、初めてじゃないかもろこし粥なんて。こっちもいつも通り魚と鳥を仕留めてきたぞ。焼いて食べてしまおう。火も起こしてあるなら串に刺して周りに置いておけばいいだろう」


 さっさと鳥と魚も捌いて塩をつけて串焼きにする。焼き上がるまでにもうちょい時間が掛るからその間にもろこし粥を配る。


「うん。サラ。上手に出来てる~。おいしいよ。出汁はなにかな? 良い味出てるな~。とうもろこしも粒が食感に変化を出してるし、もともとこのトウモロコシも甘くておいしいんだよね」


 やっぱり最初に感想を言うのはリュディー。今日はリュディーが最初に感想を言ってるけどミヤとどっちが早いかって言う感じだ。


「上手に出来てますね。これは結構な評価ですわ。もっと粗末なイメージでしたがなかなかどうして庶民はこんなに良い物食べてるんですね」


 ヤルルーシカはもろこし粥初体験かな? 貴族目線になってる。


「いやいや、ヤルルーシカさん。これ別物ですよ。全然違いますって。そもそも卵なんて入ってないですから。ねぇ~ライラ?」


「・・・うん。これは別物です。こんなに美味しくないと言うかもっと激マズですよ。正直もろこし粥って聞いてうぇ~って思っちゃってました。しいて言うならとうもろこしのリゾットとかじゃないですか」


 アンとライラが良く知っているもろこし粥と比較してビックリ顔だ。


「はい。私も美味しいと思います。これなら何杯でもお代わり出来そうです。ほらだってミヤがしゃべらないで食べることに専念してますもの」


 アンジュが匙でミヤを指して肩をすくめる。


「はぐはぐ」


「よかった。喜んでもらえたなら。とうもろこしって乾燥とかさせると甘みがなくなっちゃうから美味しくないんだよね。でもこの大森林産のトウモロコシなら甘みが残るからいいよね。そして決め手は出汁。これをしっかりしとかないと美味しくないよね」


「炙ってから入れたのでしょうか? 干し肉も香ばしいですね。良く考えてあります。有り合わせの材料なのに凄いですよ。戦闘はヘタレですけど、料理はいいです」


「そりゃないよ~~。アンジュ。あははは」


 粗末な料理だけど高評価で良かった。こんなので1カ月は凌ぐのか色々考えながら飽きがこない様にしないとね。


「俺の方は今日で終わるから、明日には合流できるよ」


「いや、私達の方も今日中にけりをつけるつもりだ」


 マイヤも今日中に終わらせる気でいるみたいだ。


「なら、明日はみんなで南の街道を開通させちゃおうか。とうとう海洋の魔獣とご対面だね。海岸線を征服出来たら塩田で塩が作れるよ。とうとう塩を買わなくても済むようになるどころか塩も出荷できる。また財政が豊かになるよ」


「ちょっと待って。塩も売る気なの? それは止めた方がいいですわ。塩ギルドが黙っていませんよ」


 驚いた様に言うのはヤルルだ。


「塩ギルド? 塩は帝国の専売でしょう? 皇帝陛下に献上したら買い取ってくれるんじゃないの?」


「専売は専売ですけど実際に塩を作っているのは塩ギルドです。高位貴族と組んで帝国の塩を牛耳ってますよ。皇帝陛下ですら手を出すのを控える位の力があります」


「そうなんだ。ただでさえ南部域の貴族たちを敵に回したっぽいのに更に塩ギルドに係わる貴族、それも高位貴族を敵には回したくない。でもせっかく作るんだから塩も売りたいな~。う~ん」


「まずは自領だけに流通させてそれ以外はティア達と相談してからにしましょう。結構危ないですから」


「・・・うん。そうする。でもまあ、塩を作ってからの話だからね」


 結構たくさんもろこし粥を作ったつもりだったけど全て綺麗になくなっちゃった。それに魚と鳥肉も食べたんだよ。凄い食欲だった。


 昼食後にお茶を飲んでゆっくり休憩する。他愛のない会話をして午後の作業に戻って行く。さて俺もやるか!


 午後は種を蒔いて、また木の葉を採取してと、食事の下ごしらえも終わって。待っていると昨日より遅い時間になってやっとみんなが帰ってきた。きっと東の開墾も終わらせて来たのだろう。


「お疲れ~。遅かったね。終わったの?」


「ああ、全て小麦と大豆を蒔いて来た。一部トウモロコシとニンニクも作ってあるぞ」


「え! 種蒔いちゃったの? 畑どのくらい作ったのさ?」


「え? 全部20反だぞ」


「うそ!? あちゃ~。順繰りに種蒔きして、4カ月に一回づつ種蒔きするつもりだったんだ。ほら南の農場を休耕地にしてるでしょ。一回作ったら休ませないとだめかもしれないから」


「そうだったのか。やってしまったよ」


「仕方ないよ。俺もちゃんと言って無かったから。出来ちゃったら出来ちゃったで。次はジャガイモでも植えればきっと大丈夫だよ」


 20反でもパニックになったのに60反だとどうなっちゃうんだろう。怖い。でもいいや。エルフとかダークエルフとか飛び地もあるし、大シュナイダー領も人口は増えただろうから消費しきれるよね?

 今日も魔獣に会うことなく、穏やかに一日が暮れてしまったのでした。

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