第一章第五話 襲撃! 襲撃! また襲撃!
もうそろそろ現場に付くかな~。農業始めたいな~。がんばれサラ。感想評価お待ち致しております。
第一章第五話 襲撃! 襲撃! また襲撃!
ブラックスネークの襲撃を撃退した翌朝、やっぱりもみくちゃにされてるかと思いきや寝た時の体勢のままみんなでぎゅっと固まっていた。
おやっ! と思ったが今までは可愛いお子様扱いだったのが可愛い弟位にランクアップされたのではないかと思う。頼れる男になるまではまだ先は長そうだが素直にランクアップを喜ぼう。
いつもの事だが一番早く起きるのは俺だ。最初の頃は俺が身じろぎすると皆が起きたのだが、最近はなかなか起きなくなってきた。
もぞもぞと抜け出そうとするとより一層抱え込まれて、静かにおし! みたいな感じになるので大人しくしてる。
そするとヤルルーシカがもぞもぞしだすので肘でつんつんつつくとバッと起きる。その気配でミヤが動き出すので腿に力を込めてぎゅっとすると抜け出そうとしてもがきながら起きる。
自由になった片手でリュディーの耳を引っ張るとビクッっとして逃げる。最後に両手でマイヤをはねのけて自由を取り戻すのだ。
「おはよう。もう朝だ。飯食ってさっさと出発するぞ」
自由になったおれは仁王立ちしながらそう宣言する。
「おはようございます~」「おは~」「おはよう~」「おはようさん」
朝食は保存食をそのままだ。黒パンと冷えたスープの残り、干し肉をかじって荷物をまとめる。木から下りて再出発だ。
と言いたいがブラックスネークの死骸を樹木から下に落としておいたので下には腐肉喰いの灰色ジャッカルが群れている。当然のように降りたら襲われた。
灰色ジャッカルは五頭、正面をマイヤ、左にミヤ、右にヤルルーシカ。マイヤの後ろに俺、その右後ろにリュディーが弓を構える。戦闘開始の合図はリュディーの弓だ。
右側に居る灰色ジャッカル二頭がぎゃんと悲鳴を上げると同時くらいに一頭が頭をメイスで殴り斃されるので、その内側の一頭の腹に片手剣を埋め込む。
正面の灰色ジャッカルは口からグレートソードを突き込まれて倒される。木が密集しているので大剣であるグレートソードを振り回せないから突き主体の攻撃になる。
長柄のハルバードが得物のミヤも振り回せないので一頭を突き殺した。その時にはリュディーによってもう一頭も射殺されている。
大森林の外縁から一日、既に外縁部が見えなくなって久しい。だんだんと獣の数が増えてきた。さらに奥に進むにつれ。大型の獣が出現しだした。
ジャッカルの次は金毛狐。こいつの毛皮は高く売れるので剥ぎ取っておく。次は黒豹だった。樹上からいきなり飛びかかってきた。
狙われたのはミヤ一番小柄だからかもしれないが、ぶんとハルバードが唸ったと思ったら黒豹が木に叩きつけられた。
ミヤは一見非力に見えるが実はマイヤの次に力が強い。黒豹が立ち上がるより早くリュディーがレイピアを叩き込む。
「さすがに襲撃が多くなってきたわね」
黒豹の毛皮を剥ぎながらリュディーがぼやいた。黒豹の毛皮が見事な艶のある漆黒だったので一応、剥ぎ取ることにしたのだ。
「仕方ないさ。この辺はもう奴らのテリトリーだからな。もっと奥に行けば魔獣のテリトリーに入るだろうさ。グリズリーが出てきたら獣の領域の最後だろう。噂をすればだ。来たぞ」
体長2mのグリズリーがこちらに向かって突進してくる。ちょうど開けた場所だったので出会い頭にマイヤがグレートソードを叩き込む。あっさりと首を切り飛ばされて沈んだ。
「ねえねえ。熊の胆だっけ? キモは取っておこうよ。結構な高額で取引されてるみたいだよ」
「了解」
ミヤの提案を了承する俺。獣の領域からさらに魔獣の領域に踏み込む。ここからが本番だ。強い物がより獲物がいる奥に棲家を構えるのは自然の摂理だ。
通常の森なら最奥に居る様なグリズリーが外縁からちょっとの辺りに居る。大森林が恐れられる所以である。
「さあ、気合を入れな。こっからが冒険の始まりだよ。もう魔法を温存しないで全力で行くよ。チャンスがあったらスキルも叩き込みな」
魔獣の領域に踏み込むのにマイヤが気合を皆に入れる。森の様相が様変わりした。さっきまでは鬱陶しい程木が密集していたのに今はややまばらになり倒木の数が増えたのだ。
誰がこの巨木を倒すのか考えたくもない。さっきまでじめじめしていた地面だったが苔に覆われるようになってきた。
程良く日が入るため苔類も繁茂しているのかもしれないし苔を食べる様な生き物がいないのかもしない。
魔獣の領域に入って暫く襲撃が止まる。魔獣の領域の外縁部なのだろう。そのままずんずん進んでいく。今日はここまでかと思った所で最初の魔獣に襲われる。
そいつはゆっくりとこちらに近づいて来た。堂々としたものだ。自分がこれから斃されるとはつゆほども思っていないのだろう。
見た目は犬に近い。肩から角が生えてなく尻尾が二股に分かれていなければの話だ。体毛は短めで茶色がかっている。
剣歯は長めだが口からはみ出すほどではない。威嚇するように歯を剥き出しにしてグルルルル~~~と唸っている。
いきなりマイヤがグリズリーを一撃で倒したのと同じ斬撃を放つ。奴は素早い動きであっさりとかわして見せた。
かわした先にはリュディーの矢が既に放たれていた。さすがにこれはかわせない。しかしあろうことか体を捻って肩から生えている角で弾いて見せたのだ。
矢は二つに折れてもう使い物にならない。今までは回収して大事に使ってきたのだ。
これらの攻撃で奴も本気になったようだ。頭を低くしていつでも動ける体制に移行した。グリズリーを一撃で倒して気分が良かったマイヤ。
貴重な矢を失ったリュディー。マイヤとリュディーの両方がいきり立っているようだ。
「マイヤ、リュディー落ち着いて。あいつだって余裕でかわした訳じゃないよ。ちゃんと追い詰めてからコンパクトに攻撃すれば簡単に倒せる相手だよ」
大きく息を吐いてマイヤが落ち着く。リュディーは矢を折られていきり立っただけなのでそこまで興奮していない。
「ふ~~。ありがとね~。サラ。大丈夫、次はちゃんとやる」
マイヤが慎重に動き出した。じりじりと間合いを詰め大剣を正眼に構える。リュディーも弓を捨てレイピアを構える。
『炎よ! 踊れ踊れ我が剣と共に 炎剣』呪文と共にリュディーのレイピアに炎がまとわりつく。炎が薄く平らにレイピアを覆う。
まるで段平の様になった。早速イメージを変えて刺突武器であるレイピアを炎の段平に変えたのだ。
ヤルルーシカがホッとした様に手を胸に当てている。マイヤとリュディーの年長組が熱くなるのはいつもの事なのだろう。
過去に痛い目にでも見てるのかもしれない。大人しかったミヤが魔獣の死角から一気に接近して先手を打つ。
「マイヤ、リュディー、おっさき~。にひひ~」
大上段からの石附での攻撃をまるで見ていたかの様にかわす魔獣。しかしその攻撃は囮で空ぶったハルバードを手元でクルッと回して本命のハルバードが突き込まれる。
必殺に近かったこの攻撃でもかわして見せた。何とそのまま垂直に2m位ジャンプしたのだ。
『石よ! あまたの小さきその身で敵を貫け。 石雨』
魔獣の身のこなしがあまりにも素早いので面で制圧することにした。俺が唱えたのは針のように細かい無数の石弾。それを同時に発射したのだ。
ちょうど空中に飛びあがってかわしようがないその時を狙ったのだ。ギャウン! と小さく悲鳴を上げて落下した。もちろんそんな小さな石弾では致命傷にはなりえない。
細かな打撃でもまとまって数が当たればそれなりに隙も出来る。落下地点にはマイヤとリュディーが既に待ち構えていた。それで終りだった。
「気を抜かないで! まだよ」
ヤルルーシカの声と同時にヤルルーシカが吹き飛ぶ。先の魔獣は囮で本命は背後に回り込んでいたのだ。一回り大きな魔獣。仲間を倒されて怒り狂っている。
ヤルルーシカを吹き飛ばして俺の真横に居る。肩から生えている角が俺に向かってくる。かろうじて片手剣の腹で受けたがヤルルーシカ同様俺も吹き飛ぶ。
周りからはヤルルーシカと俺が同時に吹き飛ばされた様に見えた事だろう。
ヤルルーシカは空中でくるっと回転して巨木の幹に着地したが俺はそのまま激突する。そして暗転。気がつくと俺はヤルルーシカに抱えられ治療を受けていた。また俺だけ負傷したようだ。
「ぐっ。すまん。どうなった?」
「へへへ~。僕が仕留めたよ。でかい方はスピードはそこそこだったからパワー勝負なら僕とマイヤで何とかなるからね」
「また俺が足をひっぱったのか」
がっくりと肩を落としてヤルルーシカにもたれかかってしまった。
「ええ~と。まだブラックスネークの負傷から回復してなかったのでしょうがないです。その前のスピード型の方が苦戦しましたから助かりましたよ?」
そこでなんで首をかしげながら疑問形なんだ。ヤルルーシカは天然キャラか! 油断した。清楚なお嬢様キャラかと思ってた。
「気が付いたか。あそこからは少し移動した。今日はここで野営だ。地面は炎で焼いて周りには虫除けの草を燻してる。心配ない。じゃあ、食事にするか」
ヤルルーシカがひょいと俺を抱き上げて焚火に連れて行く。もちろん体は動かなかったが、子供扱いだ。屈辱だがどうにもならない。
ミヤとヤルルーシカに食事の世話をされるがままだ。食事が終わっておもむろにヤルルーシカが俺のズボンを脱がそうとする。
「な、なにするの? や、ヤルルーシカ。やめてやめて」
ヤバイ素が出てしまった。これでも貴族のお坊ちゃまだったのだ。威厳を出そうと出来るだけ勇ましい言葉遣いをしていたのに。
「おトイレ。行きたいでしょ?」
「いや、いや。まだ行きたくないよ」
じーーーーー。俺をずっと見つめるヤルルーシカ。思わず目をそらしてしまった。
「わー、待って、待って。ち、違うから。うそじゃない。ホントに行きたくないって」
「そうですか・・・。行きたくなったら言うんですよ?」
このままでは男の子の何かが壊れてしまう。早く回復せねば。傷は全て治っているはずなのであとは体力が回復するだけだろう。
ミヤがひひひと嫌な笑い方をしながらこっちを見ていた。ヤルルーシカが俺をひょいと持ち上げてリュディーに渡し自分の食事を始める。
「それにしてもDランクになると筋力が凄いんだな。こんなに簡単に持ち上げられたのは子供の時以来だよ」
「??? ああ、そうか。サラはまだ冒険者になったばかりだったな。違うぞ。スキルだ」
「スキル? どんなスキルを使ってるんだ?」
「ヤルルーシカは怪力のスキルを使ってるんだ。私はその上位スキル剛力だ」
どうやら意識しなくても常時発動してるらしい。怪力でも瞬間的には通常の五倍~十倍の力が出せるらしい。剛力になるとそのさらに十倍くらいだ。
つまり通常の百倍は瞬間的だけど出せるということか。ミヤも剛力、リュディーで怪力なんだそうだ。
「へえ~。いいな俺にも教えてくれ」
「これはだいたい前衛職の冒険者なら持ってるスキルだ。力仕事をしてると勝手に生えてくる。逆に力仕事をしない魔術師とかレンジャー、スカウト、治療専門の僧侶なんかはあまり持ってない。ヤルルーシカはメイスで戦うようになって生えたんだ。逆にスカウトとかレンジャーなんかは俊敏その上位スキル瞬歩なんかが生えやすいな」
「そうだ! みんなはどんなスキルを持ってるのか教えてくれ。おもしろそうなのがあったら俺も取得してみたい」
「ふふふ、そう簡単に取得されたらこっちの立つ瀬がないけどまあいい。教えとこう。ホントはあんまりスキルの公開はしないんだぞ。注意しとけよ」
「そうなんだ。わかった。人には教えないことにする」
「まず私からだな。さっき教えた剛力、それに金剛、俊敏、剣術、体術、警戒、逆鱗だ」
「にひ。次は僕ね。剛力、金剛、俊敏、槍術、体術、索敵、潜伏、鍛冶師かな」
「わたしは、怪力、甲殻、俊敏、治癒術師、棍術、警戒、天啓、鑑定です」
「あたしは、怪力、甲殻、瞬歩、索敵、魔術強化、穏身、狩人、薬師よ」
マイヤ、ミヤ、ヤルルーシカ、リュディーの順でそれぞれのスキルを公開してくれた。
「おお、色々持ってるな~。僕は、薬師と識別だけだよ」
「!! 識別ですか。それって未確認スキルじゃないですか。鑑定の上位スキルって言う噂もあったのですが違いそうですね」
「え~と。薬師スキルを取得した時に一緒に生えたんだ。何でかは分かんないから聞かないで」
基本的に冒険者をやってると自然に生えるスキルが多い様だ。職業系のスキルは各ギルドで教えてもらえる。出来るかどうかは本人次第。
甲殻の上位スキルが金剛で俊敏の上位スキルが瞬歩、潜伏の上位スキルが穏身、警戒の上位スキルが索敵。鑑定は物の真贋が分かるスキル。
分からなかったのが逆鱗と天啓。どっちも未確認スキル。逆鱗は自分の防御を無視して攻撃特化になる。その攻撃力たるや恐ろしい位に跳ね上がるらしい。
天啓は突然ひらめくらしい。何をと思うが自分で制御できないらしく、くだらないことだったり神がかってるようなことだったりするらしい。
「あちゃ~。複数の気配がこっち来る。一旦樹上に逃げよう。残ったのだけ倒せばいいよ」
これが索敵スキルか。警戒でも何か来るのは分かってるみたいだけどその精度と範囲が違うんだな。ぎりぎりで樹上に逃げることに成功した。
トラみたいなやつと、トカゲみたいなやつそれにカマキリ!! 昆虫型の魔獣は初めて見た。
あ、トカゲがカマキリに喰われた。トカゲ馬鹿だ。正面から突っ込んであっさり鎌で切られた。と思ったらカマキリいきなり食べ出した。
そりゃ注意がそれたら襲うよな。うわ。カマキリも馬鹿だ。自分が攻撃されてても食ってる。
トラは手強かったけど、皆で袋叩きにした。俺も一発いいのを入れられた。怪力が生えたかと思ったけど違ったクリティカルだ。
野営地が魔獣たちの体液でドロドロになったので移動することにした。トカゲの牙、カマキリの鎌、トラの牙と毛皮を採取。核も取り出して後は放置して移動した。