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第三章第十四話 晩餐会

第三章第十四話 晩餐会



 陛下の元を辞してから皆のいる部屋に案内された。途中姫様達はご自分の部屋に戻られ何やら用があるようだ。


 部屋では寛いでいるのは母様だだお一人だったけど。お部屋に戻ると侍女さんがお茶の用意してくれて母様の横に腰を降ろした。


「まあ、サラちゃんお話は終わったの?」


「うん。婚約のお披露目するって。母様、明日は付いて来て下さい」


「あらあら、もう、お一人でお仕事をしなければいけませんよ。ご領主さまにおなりになったのですから。いつまで母の背中に隠れるおつもりなのかしら」


「いえ、大公爵様が有象無象の貴族共の盾になって頂いた方が良いとの判断をしてくれました」


「まあまあ、大公爵様がそうおっしゃるなら仕方ないわね。今回だけですよ。でも困ったわ。ドレスをご用意していないわ」


 そこへ針子やらデザイナーやらを引き連れて姫様達が颯爽と現れる。


「待たせたのじゃ。直ぐに衣装に取り掛かろう。時間がないから人海戦術じゃ。この際じゃ、側妃達のお披露目もしておいた方が良いと思うが義母さまいかがであろ?」


「そうね~。あまり宮廷にお邪魔する機会もないからこの際だからみんなで行っちゃいましょうか」


 ならばと全員の衣装の準備に掛る。もちろん俺も衣装を作るよ。男爵になったので装いに付ける飾りが変わるのだ。


 ジェストコールにジュレ。下はキュロットにタイツが基本形だ。刺繍を施すのだけど当然金糸銀糸はまだ許されない。


 また明るい色も許されず地味な色合いだけだ。さらに意匠も凝った物は許されないので精々つる草に花をあしらえる程度。


 騎士爵なんかただの線だけだから幾分かましになる。男爵からは上級貴族に数えられるがまだ高位貴族じゃない。まあ良く分からないので全てお任せで作ってもらう。


 女性陣は大変だ布地から選んで形やらレースやら何やらもう俺には分からない。基本は首から胸元が開いたもので腰はきゅっと締まっている。


 スカート部分はふんわりと開いているのが主流。まれに首元まで覆っている様な物もあるが着こなしが難しいらしい。


 次に宝飾品を選らんでから手袋だ。良く考えたらこれって買うんだよな。お金間に合うかな。ああ、無常。顔に出ていたのかもしれない。


 皆が俺を見ている。ここは男を見せるところだろう。にっこり笑って告げる。引きつって無ければいいけど。


「大丈夫ですよ。好きなものを選んで下さい。例の産品も引き取ってもらえたのでたくさんあります」


 きゃー。ウフフキャッキャしながら選びに戻る。コッソリとお店の人に聞いてみるとそれほどでもないとのこと。


 宝飾品も男爵夫人だと大きなものは付けられないので一個金貨10枚程度だそうだ。ネックレス、髪飾り、ブレスレット、指輪、アンクレット一人頭およそ金貨50枚か。


 なんだ魔法の装備の方が高いや。意匠と採寸が済んでしまえばあとはお針子さんの仕事だ。この超特急の仕事に何人のお針子さんが動員されてるのか考えるだけでも恐ろしい。


 あとで労いのためにチップを多めに支払わないといけないな。チップは普通銅貨5枚から銀貨1枚程度だけどここは名前を売るチャンスかな。


 超特急だし奮発して金貨を出してあげよう。多分だけどここはケチってはいけない所だ。剥きだしで渡す訳じゃないから銀貨1枚と思われるのはしゃくだからな薄い紙に包もう。


 キンキラが透けて見えたら驚くだろうな。チップの用意も済んだし、後は暫く待ちだな。みんなもお茶を楽しんでいる最中だ。


 だんだんこの部屋にも慣れて来たな。母様の影響が大きいけど、皆普通に使ってる。コンコン、おや、誰かな。ここに俺達がいる事を知ってるのは陛下、大公爵、元帥、三姫、宰相位なのだが。


「シュナイダー男爵様。陛下が私的な昼食会にみなさんをお誘いでございます」


 う~ん。みんなは大丈夫かな。まあ断れないんだけど。私的な昼食会だからうちの一張羅で大丈夫だろう。


「はい。一同喜んでお伺い致します」


「それでは、半刻後にお迎えに上がります。ご準備をお願い致します。失礼致します」


 執事風の男が去って行くのを見届けてから皆に昼食会の事を告げる。3姫には別途伝わっているだろうから良いとして、うん。やっぱり腰が引けてるね。


「この後、夜会でお会いになる前に面通しをしておきたいんだと思うよ。出来るだけ俺か母様が答えるけど直接話しかけられたら答えない訳に行かないから頑張って」


「どないすんの? うちこんなやで。このまま答えてもええのん?」


「・・・母様。大丈夫ですよね?」


「ええ、訛りや方言をバカにするような方はこの皇宮では生きて行けません。大丈夫ですよ」


「あとテーブルマナーは少しづつ練習してたから大丈夫だよね?」


「・・・ま、まだ覚え切れてないかも」


「分からなくなったら周りの人のまねをすればいいよ。宮廷の普段着を有り合わせで用意してもらうからそれに着替えて貰ってでいいから。半刻後に迎えが来るから早速着替えて欲しい」


 慌てて湯浴みをして、着替える。化粧を軽く施してぎりぎりだった。侍女さんに案内をされて部屋を出る。


 先頭に俺と母様が立ち、その後をぞろぞろと皆が付いて来る。回廊を随分と奥まったところまで来てやっと着いたようだ。


 既に陛下と3姫、大公爵、元帥がいらっしゃる。それぞれ女性を伴っているから奥方だろう。と言うことは義母様か。みんなから見ても義母様だろう。


 ・・・と言う事は陛下の横に居らっしゃるのは皇后陛下か!? 何と皆さん席をお立ちになり出迎えてくれる。


 恐れ多い事だ。皆が席に着き恐縮していると。真っ先に声をかけてくれたのが皇后陛下だ。


「シュナイダー男爵殿、もう婿殿で良いですね。初めまして婿殿、わらわがティアの実母ぞ」


「はっ。皇后陛下。お初にお目に掛ります。サラ・シュナイダーにございます」


「婿殿。鯱鉾ばる必要はないぞえ。皆も普通で良い」


「ありがとうざます」


「では次に私がグリンダの母ですぅ~。婿殿」


「ふふふ。私はアイダの母ですよ。婿殿」


「大公爵夫人、侯爵夫人お初にお目に掛ります。サラ・シュナイダーです」


 その後側妃達を紹介して、母様だけ、なぜかみんな知っていた。昼食会に突入する。


「婿殿。まずはわらわからの礼ぞえ。先の黒毛大いに気に入ったぞえ。お陰で長年の仇敵、あの女狐めに一泡吹かせてやれたぞえ。感謝を」


「おお、そうだ。お陰であれ以来皇后の機嫌が良い。助かっておる」小声で陛下からも謝意が伝えられる。


「まあ、あの品は婿殿からでしたのねぇ~。うらやましいわ。ねえ?」


「そうですわね。本当に。国宝級の扱いですもの」


 大公爵夫人に侯爵夫人もうらやましがる。


「これこれ、お前。あれは二つとないからこそだ。婿殿とてそうそう得られぬよ」


 一応穏やかに大公爵がおねだりに釘を刺す。


「のうティア。あれ以来パンが美味しゅうてかなわん。少々お肉が付きそうじゃぞえ。ほほほ」


「母上様、まだまだでございます。あの後開発したくろわっさんなるパンはまた美味しゅうございます」


「なんと、まだあれ以上があると申すか。これは食さねばならぬぞえ」


「料理長にレシピを渡してあります。近々宮城でもお目見え致しましょう」


「まあ、うらやましいわねぇ~。やっとこの間そのパンのご相伴に預かれたばかりだと言うのにもうそのような物が」頬に手を当てながら侯爵夫人がうらやましそうだ。


「本当に婿殿が来られて以来、皇后様の周りでは流行品の発信源ですわぁ~」やはり親子グリンダ姫様と似たようなしゃべり方だ。大公爵夫人も話に乗っかる。


「ほんにすまぬの。婿殿。新レシピも貴重じゃぞえ。良いのか?」


「はい。義母様方に喜んで頂けるなら何程の事もございません」


「ほーほほ。皆さま方、聞いたかえ。ほんに嬉しき事よな。マリアンヌ良い子を生んだの」


「まあまあ、皇后様。お褒めに預かり恐縮いたしますわ」


 流石は皇族。皆にそつなく話題を振る。全てにフォローを入れる事も出来ずおのおの答えを返している。言葉使いも出自も気にさせない。


 全員がおおよそ自分の素姓を話し終わったころ昼餐会はお開きとなった。ほとんどゲロさせられていた事に気づかず、良い人たちでしたね~なんてこと言ってる。


 まあ、隠す程の素姓もないのでいいんだけどね。さて、ここで若干問題となるのが、ヤルルーシカだ。出奔しているとはいえゲシュタル伯爵家の人間であることが判明。


 しかし幸いなことに保守派に属し親皇家とはいえないまでも危険視されていない。よって皇家派に取り込む事となった。


 本人は実家と係わるつもりはないようなので安全のためだ。まあ、自分をひひ爺ーに売り渡す様な実家なので興味もないとのこと。


 父母から既に代変わりして、今では年の離れた兄が当主らしい。今夜の夜会にも一応招待されている。部屋に戻ると直ぐ、衣装合わせだ。


 早い! 既に大まかに仮縫いが終わり微調整を施すらしい。ここでお針子さんを統括しているお店の人(?)に完成したらお針子を集めておいてくれるように頼む。


 もちろんチップを渡すためだ。皆は既にコルセットなる拷問器具でウエストをぎゅうぎゅう締め付けられている。


 夕方には本当に完成した。お針子達には薄々チップが貰える事が伝わっていたらしく、嬉しそうに集まってきた。


 お針子一同に手ずからチップを渡して行きキラキラが見えて大歓声を浴びる。今回は特別である事を伝え超特急を労う。


 晩餐の夜会に向け湯浴みにもまた入る。衣装をそれぞれが身につけ、装身具を着用して行く。俺? いつの時代も男なんて簡単なものだよ。


 全てが整った頃、晩餐会場に向かう。家格の高い家から入場して行くのでそこそこ最後の方だ。それでも男爵家としては一番最初の入場だ。


「シュナイダー男爵ご一同様ご入場~~」


 控えの間に居る他の男爵家の嫉妬の眼差しを受けつつ、今度は高位貴族の好奇の視線にさらされる。


 女性をこれだけ従えて入って来ればそりゃあ注目される。それも今まで聞いた事もない様な男爵家が筆頭として入ってくるんだから注目も浴びるさ。


 そこに近衛騎士所属戦闘メイド隊大隊長ジェシカがもう一人を伴って近づいて来る。母様の前で片膝をついてまあ、俺の前でもあるんだけど。場がざわめいた。


「マリアンヌ様。総隊長をお連れ致しました」


 もう一人の人物も母様の前で片膝をつく。今度はどよめいた。


「マリアンヌ様お懐かしゅうございます。ご挨拶が遅れた事申し訳ありません」


「あらあら、今はあなたが総隊長なのね。こういう時は忙しいでしょう。しょうがないわ。さあ二人とも立って頂戴。皆が驚いていますよ」


「はい。これはシュナイダー男爵。お初にお目もじ致します。かつてマリアンヌ様の従騎士をさせて頂いていたモニカと申します。お見知り置き下さい」


「よ、よろしくお願いします」


「マリアンヌ様から先代のカエナ様に総隊長が引き継がれ、十年ほどお勤めして居りました。その後自分が引き継ぎましたが御縁もなく長々と努めさせて頂いております。先代もさぞお会いしたかった事と思います」


「まあまあ、あなたならさぞ色々ご縁談もあったでしょうに。また色好みしてたのね。あなたの面食いにも困った物だわ」


「ふふふ。恐れ入ります。さあ、この様な所で立ち話もなんでしょう。こちらへ。今日はジェシカをお付けいたしますのでお困りの事がございましたらお申し付け下さい。私は何分務めがございますので申し訳ありません」


「あらあら、いいのよ。皇帝陛下のご身辺警護がおありでしょう。行ってちょうだい。またお会いしましょう」


「はい。では後ほど」


 え~。母様、戦闘メイド隊に所属していただけじゃなくって総隊長やってたの。どういうことよ?


「マリアンヌ様は在籍わずか2年。歴代最強とまで言われておいででしたのに。本当に惜しまれてのご引退でした。入隊1年で総隊長に就任してすぐの大戦でした。大変な時代でございましたよ。シュナイダー男爵様。おっと、そろそろ陛下がいらっしゃいます」


 話し込んでいる間につつがなく貴族達の入場が終わったらしい。流石は皇家主催の晩餐会。貴族がこんなにいるのかと思う程居る。


「皇帝陛下並びに皇后陛下御入来~~~~」


 皇后陛下を傍らに皇帝陛下がその姿を現す。玉座の前に立ち皆を睥睨してからおもむろに話し始める。今日の晩餐会は皇帝その人がホストだから、無礼講扱いだ。


「皆のもの、急な催しにもかかわらずよう集まってくれた。楽しんで行ってもらいたい。さて、いきなりじゃが新進気鋭の若き英雄を皆に紹介しよう。シュナイダー男爵並びにその奥たちじゃ。こちらへ」


 陛下に呼ばれて静々と檀上の下に並ぶ。


「見知っている者も些少は居ようが、彼の南部大森林を開拓したつわもの達じゃ。たおやかに見えても奥たちも一騎当千じゃ、覚悟を決めてから手を取る事を薦めるぞ。はっはっは。冗談はさておき、先ごろからこの帝都でも有名な産品は南部大森林産じゃ。今宵は男爵の好意で中央に多数用意した。存分に味わうが良い。余を夢中にしておるパンもあるぞ。存分に食せ。さあ、晩餐を始めようではないか」


 贅をこらした晩餐の中央に巨大な作物のオブジェ。その周りには料理長渾身の食事が所狭しと並べられている。


 試食会に参加した事のある高位高官がまず集まって行く。既にその美味しさを知っているのでそれぞれが好みの物を取り分けて行く中、まだ知らぬ者達がほとんどだ。


 恐る恐る驚異のオブジェを尻目に近づく者達がいる。手に取り一口、途端に絶賛。後は食事を進める。美食で名高いその者が脇目も振らずに次々と食事に手を付けて行く。


 それを見ていた他の貴族も同様どんどんチャレンジしていくとそこはもう阿鼻叫喚の巷と化した。ご婦人方では近づく事も出来ない。みるみるその数を減らしていく。


 残念そうなご婦人方。しかし皇家に抜かりはなく。貴族達が散ったと思ったら既にその次が運ばれて来る。


 今度はご婦人方に若年層が殺到する。そんな阿鼻叫喚を壇上から眺めていた陛下達だが頃や良しと見たのか次の爆弾を投げ込む様だ。

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