第一章第四話 大森林の洗礼
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第一章第四話 大森林の洗礼
野営の準備を終えて軽く食事を取ったらもうやることはない。周囲は焚火とリュディーの呼びだしたウィルオーウィプスの明かりだけ。
頭上の双子月の灯りは木の葉に遮られてここまではかすかにしか届かない。まだ春の早い時期だ。夜には少し肌寒くなる。防寒対策のマントは今はお尻の下だ。当然彼女達は・・・。
「なんで俺が真ん中なんだよ! 俺は寒くない!」
あまりの恥ずかしさに叫んでいる俺を尻目に他四人は平然と俺を囲んでいる。
どういう状況かと言うとまず俺の膝の上にミヤが乗り左右からリュディーとヤルルーシカが挟み込むように俺とミヤを抱え込む。最後にマイヤが全員を俺の後ろから抱え込んで野営テントをひっかぶる。
「そうか? 私達は寒い。お前が一番体温が高いんだからしょうがない。我慢しろ」
「にひひっ。お子様は体温が高いのが相場だよ」
「ごめんねサラ。こんなことで風邪を引くのは馬鹿らしいでしょ。出来るだけ暖を取りましょ」
ヤルルーシカが謝ってくるがその行動に躊躇はない。
「にひひっ。ほらサラ手は僕に回しても良いんだよ。それとも左右のを触りたいのかな?」
ミヤ言う所の左右とはリュディーとヤルルーシカの事だ。彼女らも俺を抱え込んでいるのでそのまあ、何と言うか・・・胸部装甲が当たっているのだ。
「ち、ちがう。そんなことしてない!」「あん。サラ急に手を動かしちゃ駄目よ。ゆっくり・・・ね」
「い、いや。そうじゃなくて。わ~~マイヤぎゅっとしないで。くっ付いちゃうから」
「なにを言ってるんだ? くっ付くためにしてるんだ」
「ちょ、ちょっとリュディーなんで手が動いてるの? や、やめ。わー、ヤルルーシカまで」
「手が冷たくなるから良いポジションを探してるだけよ。手が凍えてたらいざって時に戦えないわよ。う~ん。下半身の方が暖かいのかしら。」「ヤルルーシカ~、どの辺があったかい?」
「そうですね。内腿の辺り脇の辺りが良いですね。少しさすると途端に温かくなりますよ。サラも手が凍えない様に暖かそうな所に突っ込みなさいね?」
「そ、そうだ! これじゃいざとなった時に俺が戦えない。初動が遅れちゃうよ。そ、そ、い、あ、わー。それだけは握らないで!! わー。そっちも駄目」
「サラ、そろそろ静かにしろ。敵をおびき寄せてしまうぞ。ここは大森林なんだぞ。私なんかリュディーとヤルルーシカの服の中に手を突っ込んでるぞ」
「女の人同士じゃないか! ミ、ミヤ! 僕の手をどこに持ってくの!?」
「にひひっ。サラは恥ずかしがっちゃって、ちゃんと手を温められないと思うからお姉さんが気を利かせてやってるんだよ。ほら、柔らかいだろ?」
なんと本当に俺の手を前に回してミヤは自分の胸に当てたのだ。
「そろそろからかうのは止めろ。サラ、そこら中をいじくりまわしてるのにはちゃんと訳があるんだ。凍えない様にと言うのはホントだ。興奮すると体温が一気に上がるんだ。だから暖を取る時に皆でいじくることにしてるんだよ。経験則だけどな。分かったか? なら声を落とせ」
「じゃ、じゃあさ。あ、明日もやるの? お、おれの位置、変えてくれないかな? 男と女の人では、か、体のつくりが違うから色々困るんだ。」
「大丈夫だ。私達だってその位は承知している。ホントは変にため込むより出してしまった方が良いんだぞ? 女四人に男が一人だ溜るだろ?」
「・・・。もういいです。そっとしておいて下さい」
「シッ! 拙い。騒ぎ過ぎたみたいだね。見えないけど何かが居るよ」
リュディーの警告が入ると、途端に全員が黙る。既に臨戦態勢に入っている。腰のナイフに全員が手をかけている。
さらに辺りの気配を窺いどこかに潜んでいる敵を探す。気配はかなり近いにもかかわらずどこに居るのか分からない。
「どういうことだい? ・・・保護色か!! ブラックスネークだよ! 不自然な黒い物に注意しな」
マイヤの注意は少し間に合わなかった。頭上から突然俺めがけて黒い影が襲いかかってきた。俺の頭を飲み込む様な形で食らいついてきた。
咄嗟に頭を捻ったが肩口に咬み付かれ、そのまま四人の中から俺だけをひっこ抜こうとする。凄い力だ! 頭部の大きさは俺の頭と同じくらいある。
ぬらぬらと光る様な鱗全体が真っ黒だ。これじゃあ見えないはずだ。
俺は両手でブラックスネークの頭を掴む。俺の腰にリュディーとヤルルーシカが抱きつき引っこ抜かれるのを阻止しようとするが三人いっぺんに持ってかれる。
咄嗟に立ち上がったマイヤがブラックスネークの胴体を引っ掴んで引きずり降ろそうと渾身の力を込めて引っ張る。これでやっと綱引きが均衡する。
ミヤがリュディーとヤルルーシカの頭をふんずけながらブラックスネークの体を伝って上に登っていく。
俺は噛み付かれたままブラックスネークの口に手を突っ込んで強引に開かせようと力を込める。
肩が引きちぎられそうな痛みに耐えながら渾身の力を込めているがガッチリと閉じたブラックスネークの口は開かない。
ヤルルーシカとリュディーがじりじりと僕の体を這い上っていく。どちらかが手を離した瞬間に俺は頭上に引っこ抜かれるだろう。
突然ドサッとブラックスネークごとミヤが落っこちてきた。途中で斬り落とされたブラックスネークの尻尾を掴みながら。
落ちた衝撃でブラックスネークから自由になる。急に上方への力がなくなり体勢を崩して転んだ他三人。
素早い動作で俺達から離れ樹上の野営地の中央付近でとぐろを巻き鎌首を持ち上げるブラックスネーク。
でかい!! 5m以上ありそうだ。さらに太い。俺の胴周りとそう遜色がない太さだ。普通の蛇なら太くても俺の太腿くらいだろう。
体勢を直ぐに立て直せたのはミヤだけだ。俺とリュディー、ヤルルーシカはマイヤの上でひっくり返ってしまったためマイヤは動けない。
リュディー、ヤルルーシカが体勢を立て直したところでミヤが突っ込む。
肩を負傷していて動きの鈍い俺を強引に背後に庇ったマイヤが立ち上がる。すっ飛んできたミヤをマイヤが受け止める。ブラックスネークの尻尾の一撃を浴びたのだ。
やっと戦闘態勢が整って俺達の反撃だ! と思いたいが武器がない。パワーでは圧倒的にあちらが上だ。足場も悪い。さらにここから落ちたら戦線離脱だ。結構な窮地だ。
「全員散開するんじゃないよ。一人じゃあっという間にどっかに連れ去られるよ。リュディー!! 奴の周りに灯りをまとわりつかせな。武器を持ってるのはヤルルーシカだけかい?」
「俺が片手剣を腰に刺してる!! 利き腕側の肩を食われたから使えん。ミヤ、使え!」
「頭を下げさせて下さい! メイスを叩き込みますから」
「わたしが魔法をぶち込むから後は任せたよ。『風刃よ! 疾く走りて敵を切り刻め 乱舞』」
マイヤの一言で魔法の事を思い出したお俺。マイヤといっしょに呪文の唱えて魔法を使う。
『石弾よ! 回り回りてその力を開放せよ。ポイント弾』
マイヤの風の刃がブラックスネークを切り刻むが耐えきられた。そこに俺が魔法を撃ち込む。イメージは銃の弾丸だ。
おぼろげな前世の記憶だが、先端が丸くへこんだ円錐型で貫通力はないが衝撃が強いと記憶にはある。
真っすぐ飛ばすために弾丸は回転しながら飛ぶような記憶もある。それをそのままイメージして石弾を発射した。
ドン! と言う凄い衝撃音を出しながら石弾がすっ飛んで行った...のは見えない。狙いは若干ずれたが鎌首を持ち上げてる首の一部を爆散させながら突き抜けて行った。
首を持ち上げる筋肉の一部を失ったブラックスネークがもんどり打って倒れ込む。
「「「え?」」」
一瞬何が起きたのか理解できなかった彼女達が固まるが、目の前に堕ちてきたブラックスネークの頭部に全員が攻撃をぶち込む。ぶち込む。ぶち込む。
完全に動かなくなるまで頭部への攻撃は止まなかった。
「はあ、はあ、はあ。やったか?」
俺は傷薬を潰して自分の肩に振りかけながら確認する。俺の右半身は真っ赤に染まっている。出血が多かったのか目の前が暗い。右肩がホンワカ暖かくなり痛みが消えていく。
服を剥ぎ取られているようだが抵抗できない。意識がはっきりして来るとパンツ以外の服を剥ぎ取られて肩には包帯が巻かれている。気付くとさっきと同じ体勢で休んでいた。
「ああ、すまん。意識はあったんだがはっきりしてなくて。ヤルルーシカが治療してくれたんだな。ありがとう」
「大丈夫ですよ。パーティーなんですから。洋服は血で汚れてしまったので脱がしましたが着替えが分からなかったのでそのままです」
真剣な口調でマイヤが質問をぶつけて来た。
「・・・サラなにをやった? 石つぶての呪文のようだったが初級の呪文じゃ、あんな威力は出なかったはずだ」
「うん? さっきのか? 冒険者ギルドで大枚をはたいて魔法の講習を受けたんだ。その時に魔法はイメージで変化させられるって聞いてたから弾の形を変えたんだ」
「石つぶての形を変えたのか? それでも威力があり過ぎじゃないか?」
「えーと。平らな板を動かすより先端がとがって細長い方が早く飛ぶだろ? 弓矢がそうだな。でも平らな板を弓矢と同じ速さで発射したら凄くないか? だから石つぶてを円錐形にして先端をとがらせずに丸くしてさらにへこませたんだよ」
「なんとなくわかるが、まわりまわりてと言うのは何だ?」
「ああ、風の抵抗を受けると真っすぐ飛ばないだろ? だから弾を回転させながら発射したんだ」
「それであの威力か...。みんな聞いたな? 理解できたかどうかは置いといてそう言うことらしい」
「よく理解できなかったけど、魔法はよく考えて使うと凄いってのは分かったよ。まさか初級の魔法でブラックスネークがもんどり打って倒れるとは思わなかったから。それも掠っただけでしょ?」
ミヤが考える事を放棄して大まかに理解する。
「うん。始めて魔法使ったから、どうやって狙いをつけるのか分からなかったんだ。皆も魔法が使えるんだね」
「ええ。私は癒しと水を、マイヤは風と火、リュディーも火と風、ミヤは風と土が得意です。他の系統も使えますが魔力効率が悪くなるみたいで回数が減ります」
「俺はどれが得意かも分かっていない。地水火風全部使えるけど癒しは習ってないな」
「癒しの魔法は教会に寄付をすることで教えてもらえます。でも癒しの魔法はイメージしにくいのか使い手は少ないですね。寄付も安くはないですし。あとで私が教えてあげますね」
ヤルルーシカが親切にも教えてくれるようだ。これで癒しもゲットできるかもしれないな。
「そっれにしてもビックリしたね。僕、思わずブラックスネークに攻撃するの忘れちゃったよ。皆も驚いたよね?」
「ええ。ダークエルフは魔法が得意なのですが、あんな事をした人はいませんでした。人間は凄いですね。短命なのに向上心が高いですね」
リュディーが感心したように言うがミヤが訂正する。
「い、いや~。人間でもこんなの始めてみたよ。普通は習った通りに魔法って使う物でしょ?」
「ふふふ。だから習った通りに使ったのでしょう。魔法はイメージです。これは魔法を習う者が一番最初に習うことですよ」
俺が何をしたのか一番理解しているのかヤルルーシカがフォローを入れてくれる。
「俺はなにか拙い事をしたのか?」戸惑い気味に聞いてみる。
「いや、問題ない。Fランク冒険者を侮っていただけだ。自然と守ってやらねばと思っていた者がとんでもない魔法を撃ち込んだからな。お陰で私達も勉強になった。これからはもっとイメージして魔法を使うことが出来るかもしれん」
「そうか。よかった。これでもギルドでは魔力が高いと誉められたんだ。中級ぐらいあるって」
「な、なんだって! 中級だと。魔力だけなら私達以上ってことか! うーむ」
「そんなことよりひと暴れしたからおなか減ったわね。ブラックスネークはおいしいって聞いたことあるわよ」
ブラックスネークの死骸を指さしてリュディーが提案する。俺の治療が先だったのかブラックスネークはそのままだった。
ミヤ、ヤルルーシカ、リュディーが食事の準備をしてブラックスネークの肉に塩を振り炙り焼きにした。俺はと言うとマイヤが放してくれなかったので、マイヤに抱え込まれたままだ。
どうやら離す気はない様だ。唯一負傷した俺は安静に休ませると言うのが彼女達の見解のようだ。
なぜかって、腕ごとマイヤに抱え込まれて身動きできない状態の俺の食事の世話を他の三人が焼きだしたからだ。あーんは俺が小さい頃、熱を出したときに母様にやられて以来久しぶりだ。
でも甘んじて受けることにした。残念ながらこのパーティーで唯一負傷をした不甲斐ないのは俺だけだったから。