第三章第八話 戦闘訓練と家庭菜園でっせ。
第三章第八話 戦闘訓練と家庭菜園でっせ。
結局四人で寝たんだけどいつもとあまり変わらなかった。装いが変わったから見えちゃったり柔らかかったりしたけど基本は同じだし見えちゃうのも一緒かな。
昨日の緊迫感は非常に恐ろしかったけど何やら彼女達も緊張していたらしい。女性の考える事は良く分からないや。ああ、怖かった。
◇ ◇ ◇
昨日は失敗しました。危うくサラにトラウマを植え付ける所でした。まさか次の段階が恋人繋ぎとは思いもよりませんでした。
先が長いとは思っていましたがここまで遅々として進まないとは予想外です。でも順次段階を踏んでいけばいつか辿り着くでしょう。
それまでにババアになってたりしないでしょうか。ちょっと心配です。今回の失敗を踏まえ事前に次の段階を確認する作業が必要です。
そう言えばまだ腕も組んだ事がありませんでした。焦り過ぎは私たちでしょうか? 仕方ありません。次々に嫁候補が現れるのですから。
今はサラとくっ付いて寝れるのですから良しとしましょう。この後の皆への報告は気が重いですが正直に話しましょう。姫様はまだキッスすらできていないのですから。―アンジュの想念から抜粋―
◇ ◇ ◇
翌朝はちょっと遅かった。血液を失ったのが響いたようだ。ちょっとだるい。ってアンジュが乗っかってるからか。横を見るとヤルルは起きていた。
「おはようございます」
「うん。おはよう。今日はちょっと寝坊しちゃったかな」
「大丈夫ですよ。いつもが早過ぎるのよ。もう少し寝ててあげましょう。皆もゆっくりできるから」
「うん。今度からはそうする」
もういつものヤルルだ。ちょっとボーっとした感じもいつも通り。軽くソフトキッスをして反対側を見る。マイヤはまだ寝てる。
正面のアンジュもまだ寝てるけど耳がぴくぴくしてるから起きちゃうかな。今日、いつもと違うのは俺が抱き枕になるんじゃなくて腕枕をしてる事くらいかな。
こうしてみると俺ってみんなの中に埋もれちゃってるな。体が小さいから、しょうがないんだろうけど、お腹から下はアンジュに右側はマイヤに、左側はヤルルに肩まで埋まってる。
それにしても装いが凄いな。スケスケの服に胸覆いとパンツだけとか暑いのかな?
確かにこれだけ密着してれば暑いか。朝は森の中だから結構涼しいはずなんだけど。
そもそもひっついて寝なければ暑くないと思うんだが、そう思うのは俺だけなんだろうな。ひっつくのは俺も嫌じゃないけどね。
ヤルルと話していたら、ピクピク動いていた耳が一斉にこちらを向く。アンジュが起きた証拠だ。
ふふ、分かりやすいな~。尻尾といい耳といい、顔は凛として澄ました感じなんだけど内心がそれぞれに直ぐに現れるからアンジュは。
じーっと見てると恐る恐る顔が持ち上がる。チュッてしたらまた顔が俺の胸に隠れちゃった。クスクス笑ってるとまたゆっくり持ち上がって上目遣いにこちらを見る。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶をしたらもう凛とした顔を持ち上げ、いつも通りだ。寝起きを人に見られた事が無かったからなのか小さな女の子の様だった。
それが今度はもうお姉さんの顔になる。なかなか複雑な内心だね。ふわぁ~と声がしたと思ったらマイヤも起きた。
「朝から楽しそうだな」
「おはよう」
「はい、おはようさん」
三人が起きたのでぎゅっとしてあげたら。マイヤがビックリ顔になった。ちょっと照れてるな。そのままスリスリして来たのでスリスリし返す。
マイヤは立ち位置的にと体が大きいのとでお姉さんをしなきゃならないから普段あまり甘えて来ないけど本当はマイヤも甘えたいんだと思う。
早く俺が大きく成れればいいんだけど、こればっかりは神のみぞ知る・・・いや、マイヤより大きくは無理か。マイヤにもチュ。
暫く四人で話したりふざけたりしてたら、コンコンと扉を叩く音がしてどうぞって言うとゆっくり扉が開いた。
お茶のセットが乗ったワゴンを押すアイダが立っていた。一礼してそのまま静々と入って来て、テーブルにお茶の用意をしてくれる。
お茶の用意が済むとまた静々と戻って行く。扉の前で一礼してから扉を閉める。え~と貴族になった見たい? いやいや、高位貴族になったみたいだ。
俺も貴族だった。折角なのでお茶にする。豆茶か。あまり馴染みがないお茶だ。うんでも美味しいよ。
なんで馴染みがないかって。母様があまり淹れなかったからだよ。普通の領民とかは良く飲むお茶らしいけど実家では母様があまり淹れなかった。
茶葉の方が好きだったからじゃないかな。深い意味はないと思うよ。ちょうどお茶を飲み終わった頃にまたコンコン。このカップどっかにセンサーでもついてるのか?
どうぞと言うとまたアイダだ。扉を開け、一礼して入ってくる。今度は手に着替えを持っている。ん? 今度は後続がいる。桶と水瓶かな。ベッドに着替えを並べて置く。
アイダは桶を受け取ると、そこに水瓶から水を注ぎ入れて俺の前に持って来る。何やら他の娘達もマイヤを始めアンジュ、ヤルルにも同じような事をしている。
ゼスチャーで顔を洗う仕草をすると頷くので顔を洗う。歯磨き用の枝を渡されて歯も磨く。着ている服を剥ぎ取られて体も拭かれ、お召変え(?)される。
ここまで来ると何をされているか分かってきた。個室が出来たから個室の中だけは貴族家として振舞えってことかな?
全員の身支度が終わった。・・・普通はこの後どうすのだろう。することがないから出て行きたいけどなんか出て行き難いな。
「なんだろうね。このあとどうするの? ヤルルは実家ではどうしてた?」
「自分のお部屋で寛いでいましたわね。普通、予定でもない限りお部屋からはあまり出ないのよ」
「そうなんだ。俺なんて部屋に居る方が少なかった気がするよ。ひょっとしてこのままここに居たら朝食とかも出てきちゃいそうだからダイニングに移動しよう」
「そうだな。なんだかむず痒いぞ。慣れない事はするものじゃない。行こう」
四人で部屋から出るとバタバタと走り回って準備をしている。あっ! とか聞こえたけど。
「なんや。もう出てきてしまったん? 貴族の生活を堪能したらええのに」
やっぱりそいうことか。どうやら扉の向こうは貴族の部屋と決めたらしい。
「うん。俺だってそんな生活してなかったよ。なんだかすること無くて手持ちぶさただったから出て来た」
ダイニングに移動すると朝食の準備の真っ最中だった。
「もう。これから朝食だったのに。早いよ。裏方の仕事を見るのはルール違反だよ」
「ははは。ごめんごめん。でも朝食はみんなと一緒の方が良いだろ? ありゃ? 姫様達も侍女さんみたいなことやってたの?」
「だって順番だものぉ~。私の時はしてもらうからぁ~。ねえ、ティア」
「うむ。そうじゃ。久しぶりに優雅なひと時をと思っての。アイダがあれこれ知っておるからその準備をしていただけじゃ。こうしてみると自分がいかに色々な人の手を借りて生活していたかが分かると言うものじゃ」
「ふふふ。良い経験になりましたか。俺もこんなのは初めてだったから落ち着かなくて」
「されどお前様には慣れてもらわねばならんぞ。今後はこういう生活じゃ。まだ先は長いがの」
あ、アイダが近寄ってきた。
「もう。早いであります。もう少し頑張って頂かねば。しびれを切らして出てくるとは思っておりましたが早過ぎます」
「だって部屋でなにしてたらいいか分からなかったんだよ。ごめんよ。せっかく準備しててくれたのに」
結局みんなで朝食を食べた。本当ならこの後朝食を部屋で取って髪を整えたりして午前中が終わるんだって。
その後お庭の散策やらお勉強やら執務があって、お茶会に出席したり昼食会だの人に会うだのするそうだ。
「まあ、追々慣れて行こうよ。今は無理。非常に気不味いからやられてみれば分かるって」
大森林に来て朝お茶をしたりゆっくり起きたりして優雅かと思ってたらとんでもなかった。午前中はほとんど何もしない。午後からが貴族の本番らしい。
それで晩餐会で遅くまで過ごすんだとか。だから朝が遅いんだね。人と会うのも仕事の内なんだってさ。でも俺達に晩餐会やらは無いから朝からきっちりする方が良い。
「グリンダは今日はサラに付き合ってやってくれ。万が一があるからサラを一人にしたくない。何かあったら頭上にファイヤーボールを打ち上げてくれればすぐに行く。その間は結界の中に隠れていればいいだろう」
「ん。分かりましたわぁ~」
西の開墾は一時中断して高速戦闘の訓練を皆でするらしい。アンジュとリュディーは姐さん達を相手に一対一で高速戦闘に慣れることから始めるらしい。
他のみんなはアイダがハイスピードビートルになるからその迎撃訓練というしごきに耐えるらしい。
絶対対応出来ないからしごきだって。そうしてるとその内スキルが上がるんだって。本当は金剛とかも有った方が良いけど急ぎは瞬歩と索敵の方。
これがないとどうにもならないらしい。ちょっと見てみようかな? なんて思ってたら俺の横を凄いスピードでなにかが飛んで行った。慌てて振り返ったらティアだ。
「見えてはおるんじゃが、体が反応できん」
今度はマイヤがすっ飛んで行く。次々とすっ飛んで行く。思わず呆然としてしまった。当然アイダがどこに居るかは分からない。
姐さん達もアンジュもリュディーもどこにも居ないけどキンキン音だけは鳴ってる。
「サラ、行きましょう~。見てても見えないから練習にもならないわぁ~」
「グリンダは見えてるんだよね?」
「ええ。見える事は見えますわねぇ~。ちらちらとだけですよぉ~。まあ、本当によくこれだけの戦闘の中を生き延びられましたね。ティアを始めほとんどが最初の一撃で戦死ですわぁ~。アンジュとリュディーがかろうじてまだ生きてますけど時間の問題見たい。ほら」
二人が別々にすっ飛んで行く。とうとう受けそこなった見たい。まだまだ攻撃し返す余裕はないみたいだ。受けられるようになってからだね。
俺とグリンダはその場を後にした。いても仕方ないからね。グリンダがそっと手を繋いで来る。
「二人っきりになるのは滅多にないから良いですわよねぇ~」
「うん」
試験農場までの間、手を繋いでいた。試験農場が近付くと野菜が繁茂しているのが分かってくる。あの後自分達が食べる分だけってことで持ってた種を色々植えたんだよね。
どうなったかなっと。色とりどりの野菜が2~3本づつ植えてある。どれもみずみずしくされど大きい。巨人の国の菜園にでも紛れ込んでしまった錯覚に陥る。
どれが収穫できるかな。ああ、リュディーか姐さん達がいないと分からないか。しょうがない。ちょっとづつ確かめながら取ろう。まずは待望のキュウリ。
これが出来ると一本漬けとかも出来るしお新香の定番だね。浅漬け、溜り漬け、糠漬け。ん? 糠なんてあったかな? ああ、醤油もないから溜り漬けも無理か。記憶は有れども素材がない。
「きゅうりと言うよりもう瓜で良いんじゃないかって気がする。長さ60cm、太さ10cm外観は一緒だな。一本取って食べてみよう。塩とまよねーずは持って来たから。なにこれ棘もでかくなってる」
「小手を嵌めながら収穫すると良いですわぁ~。きゅうりには棘がありましたのねぇ~」
ガントレットを嵌め、キュウリの表面をさっと撫でると棘がなくなった。そのまま片手で掴んで根元を鎌で切り落として収穫する。水魔法で水球を生むとグリンダが洗ってくれた。
「なんか手馴れてるね。良く野菜とか洗うの?」
「ええ。奉仕活動がありますのでぇ~。教会では貧しいお宅や孤児たちに焚きだしなど行いますのでぇ~。料理も作りますわよ~。良い奥さんになりますねぇ~」
「ははは。自分で言っちゃうと何やら隠れてるものがありそうだ。実は味付けが苦手とか。はは・・は。あれ? そこは黙っちゃ駄目な所だよ」
「味付けぇ~。難しい。永遠のテーマ。それはこの上なく私を惑わせる。なぜ、なぜなの塩と砂糖。似ているのに全くの別物。お酢と調理酒。お酢ではフランべ出来ない。一摘みと一掴み似ている響き」
何か急に饒舌に語りだした。言ってる事は分からなくもないけど一回間違えればもう間違わないよね? 最後の一摘みと一掴みはゴロが似てるだけで全然違うでしょ。
「えと・・・頑張ろうね。まよねーずはいくらかけても大丈夫だよきっと。そ、それより食べてみようよ。出来過ぎたキュウリは水っぽくなって種もあるから美味しくなくなっちゃうんだ。見た目は出来過ぎのキュウリだけどどうかな」
二つに折ってから縦にも割る。まだ大きいな。縦に8等分してまよねーずを着けてカリッとかじる。うん、普通に美味い。
中身も詰まってるし青臭さが少ないな。そして極めつけは外皮が意外と固くない。元々そんなに固くないけど、皮を剥かなくてもそのままいけるな。
根元の方の外皮も苦くないな。まよねーずはいっぱい食べると飽きてくるな。そこで塩で口直し、塩が旨ーい。
「どう?」
カリカリカリカリ。リスみたいな感じで黙々と食べてる。
「美味しいですわねぇ~。味付けしないで食べられるものは好きですわぁ~」
気に入ったみたいだ。残りは持って帰ろう。次はトマト。これがあればトマトソースとかケチャップが出来るかも。ミートソースなんかも出来るのかな、色的に。
そうだ、野菜が増えたらソース。とんかつソースとかウスターソースとか中農ソースは関東だけだっけ? なんかも作れるんじゃないかな。
いやいや、今はトマトだ。うん、大きいな。これも洗って、そのまま齧り付く訳にはいかないから切るか。かぼちゃサイズのトマトだからな喰いきれない。
これって子供の好き嫌いがはっきりしてる野菜だ。好きな子は好きだけど嫌いな子は嫌いなんだよね。
「適当に切って、俺は塩派だから塩を振ってカプリ。うん。うん。甘いな。これってフルーツトマトかな? ソース用にはもう少し酸味のある方が良いからもう少し早めに収穫したりして調節しよう。でもこれは、もうフルーツじゃね」
「ええ、ええ。フルーツですわね。この甘さはスイカを食べた時に匹敵しますわぁ~」
・・・あとは食べるって訳にはいかないぞ。茄子、アスパラ、ニンジン、玉ねぎ、長ネギ、キャベツ、レタス、ピーマン。
先入観はいかんな。確か記憶を探ると、アイドルが畑作る番組ではそのままかじってるもんな。
次々と野菜を試食して行く俺達。基本大きくて甘い事が分かった。何個か食べきれるくらい収穫して持ち帰ることにした。




