第三章第四話 病気はどない?
第三章第四話 病気はどない。
ルル姐さんのリハビリも兼ねて暫くは農業に励む事にした。あの後嫁問題は有耶無耶になっているようだが、普通に従士で良いんじゃないかと思うのは俺だけだろうか。
よくよく考えたらマイヤ達だって従士で良いんじゃないかな。あとは三姫・・・か。これはどうにもならない気がするが15の身空で結婚はな~。
独身時代しかできない事とかあるかもしれないし。成人して即結婚とかいくら貴族でもどうよ。
なんか愚痴ってしまった。そうそう、うどんこ病の対処で今は麦を刈り取っている最中だ。中身もすかすかだから病気ごと焼き払うことにした。
それで暫く農場は休耕地にして休ませる。麦畑のうどんこ病をほっといたのがいけないのか大豆の方でも確認された。大豆のうどんこ病は珍しいらしい。
だからこの後は大豆も刈り取って、焼却予定だ。一か月丸損だよ。既に一年分位の収入はあるからお気楽に構えてるけど本当なら大問題だよ。
「サラ~、サボってないで刈り取りしなさい」
「は~い」
分ケツした麦を束ねてから切り倒す。まとめた麦はマッドゴーレムが運んで行くの繰り返し。三姫は周辺の間引き。姐さん達はリハビリを兼ねた遠出の周辺警戒だ。
よって作業をしてるのはマイヤ達と俺。程々溜まったら畑の隅で焼いてる。あまり大がかりに焼いて大侵攻が起きても困るから少しづつ焼いてるんだ。
これが思った以上に時間がかかる。燃え残りがないようにしないと病気が残っちゃうかもしれないから全部焼く様にするんだ。
「サラそろそろ次の焼いても良いぞ。今度はお前の番だろう?」
「うん。じゃあ、焼きの方に回るよ」
焼きの作業はマッドゴーレムじゃできない事が分かった。焼いてる内に渇いて崩れちゃうんだ。なので人間が火の番をしてる。
「アンジュ、交代だよ。次の山に火を入れるね」
「はい。こちらはもう少しで終わります。灰は畑に撒いて下さい。それから火傷に気を付けて下さい。結構飛んできますから。もう灰だらけになっちゃいますよ」
間もなく雨期に入るけどまだ温かい。その中での焼きの作業は過酷だ。炎に煽られながら、燃えカスが残らない様にかき混ぜるんだ。
普通の藁ならあっという間なんだろうけど、一本一本が太い上に量も多いからバチバチ言いながらよく燃える。これって燃料としても優秀かもと思わせる。
今回のは病気持ちだから全部焼却処分だけど燃料として売ろうかな。相談してみよう。
「ねえ、これって燃料として売れないかな~。そこそこの時間燃えてるよね?」
「どうかな、火力が強過ぎる気がするな。量を少なくすると早く燃え尽きるし、意外に使い勝手が悪いぞ」
「じゃあ、燃え難い物とまぜてから固めて炭にしたらどう?」
「ハハハ、それこそ手間ばかりかかって無理だろう。私達しかいないんだぞ」
「そうか~。そうだよね。問題は労働力なんだよね。北の方なんか燃料用の薪が結構な高値で売れてるみたいだから良いかと思ったんだけど」
「なかなか領主として色々収入源を考えてるんだな。ふむ。小シュナイダー領でも煮焚きには薪が必要だからな一考の価値があるかもしれん」
「なら、そのまま使うんじゃなくて粉々に粉砕しておが屑とまぜて固めて売ったらどうかな? 剛力使ってハンマーでがいーんと叩いて固めるの。僕がいた村は寒かったから薪は重要だよ」
ミヤが提案して来る。うーむ。前世の記憶に引っかかるものがあるな。そうかキャンプとかで薪の代わりにオガライトとか使ったな。
オガ炭とか。あれか~。良いかもしれないけど結局人手の問題があるな~。
「良いかもしれないね。今度実験してみようかミヤ?」
「うん」
粉砕機は水車を利用して出来るな。水車はどうやって作ろう? 前世の記憶にはあるけどここらへんじゃ見かけないんだよな。
所詮藁だからそんなには硬くないし、ないよな? 結構固い? でもまあ、木材よりは柔らかい。冬場に売れそうだ。
冬場は仕事もないから内職で作って卸せば領民の冬場の仕事も増えるだろうし収入も増えるな。
「サ~ラ~。手が止まってるぞ」
「あ~はい、はい」
慌てて藁束の山に火を付ける。暫くするとゴーって音がするほどの勢いで燃え始める。それにしてもあっついな。
小麦より藁の方が多いから良い資源になりそうだ。冬の仕事を考えながら藁束の山を燃やす。麦を刈り終わった頃周辺警戒をしていた姐さん達が戻ってきた。
「やんな~。刈り取りはどうや~? こっちは一回戦闘になったわ~。なんか火に寄ってくるな~」
「え? やっぱ来る? でも一回だけ? うーん。普通の襲撃より少ないかも、姫さん達が狩りまくってるのかな?」
「そうなん? 姫さんたち頑張ってはるな~。まあ、ルルにはちょうどええリハビリや~。はぁ~。のんびりするわ~」
「そうそう藁束でジャガイモ焼いてるから、塩振って食べてみなよ。まよねーずもおいしいよ」
「ほぅ。ほな頂こか~」
「うっま! ライラ、ライラ。美味い。美味い」
「・・・アンちゃんったら、朝ごはんあんなに頂いたのに。まぁ! 美味しい」
「・・・メル。なくなるで」
ライラは物静かな感じの娘でルル姐さんはしゃべるのがめんどくさそうな感じ。似たようなしゃべり方なのに印象は随分と違うな。
「枝豆もまだ実がなってない。刈り取って焼こう。リュディーとヤルルは乾燥させてって」
「うん」「は~い」
「大豆の方が狩り取りは楽だね。分ケツしてないからまとめる必要もないしね。今日一杯は刈り取りと焼却に時間喰っちゃうね」
「そうだな。畑を耕すのは明日だな。それで次はどこに畑を作るんだ?」
「直ぐ傍ってわけにもいかないから、西側かな。鉱脈への道にもなるし」
「了解した。ふぅ~。それにしても暑いな。冬場なら楽しいんだろうが、夏前の焚火は堪えるな」
「ふふ、また水浴び行こう。ドクターフィッシュも久しぶりだよ」
リュディーが提案して来たのは風呂を作る前に行った泉での水浴びの事だ。
「ひひひ。今じゃ餌が良いから小魚じゃなくて大物もいるけどね。サラのなんかパクっと行かれちゃうかもよ」
「なんやなんや。水浴び場もあるんかいな。風呂もええけどこう暑いと水にも入りとうなるな」
「ええ。ものすごく冷たいですけど。最初に入った時は小魚が肌の角質を食べてくれてビックリしたけどお肌がツルツルになりましたわ」
姫さん達もどこかで休憩してるかな。さて午後も頑張りますか。午後には大豆も刈り取ってしまい焼却した。
ちょっと早いけど今日は終了して、水浴びに行く事にする。拠点に戻ると姫様たちも居たので合流して連れ立って水浴びに行く。
「ほう、水浴びとな。ここに来て初めてじゃの」
「うん。水が冷たいからあまり行かないんだよ。でも今日は焼却やらがあって暑かったから行ってみようって。ドクターフィッシュがいるよ」
いつもの泉に着くと魔獣の毛皮を引き上げ前処理も済ませてしまう。泉を覗き込むとなるほど大きいのもいるな。
30cm位かな。まあ、大丈夫だろう。さっさと全裸になって飛び込む古参の冒険者達。もちろん俺は剥かれて叩き込まれた。
「やっほーい」ざぶーん。「ひゃほー」ざぶーん。ってな感じだった。
それを見ていた姐さん達が装備を外して全裸になる。
「ほな行くで」ざぶーん。「ひゃー、めっちゃ冷っこいで。心臓止まるかとおもたわー」
「・・・ゆっくり入らないから。きゃあー」ざぶーん。
「・・・なにさらしとんのじゃわれー」
すごい勢いでメル姐さんに咬み付くルル姐さん。下から引き摺り込まれたんだ。ライラもアンに手を引かれてそのまま飛びこむ。なんかあわあわ言ってる内に一緒くたに飛び込まされてた。
「ふむふむ。ではアイダ行け」
「滅相もございません。殿下を差し置いて先になど行けませぬ。ティア様どうぞ」
「・・・」
「遠慮するでない。グリンダどうじゃ?」
「姫様からどうぞぉ~」
「・・・」
「では一緒にどうじゃ?」
「怖いのですか? 剣姫ともあろうものが!」
「こ、怖くなどないのじゃ。ただな、ちと深い。決して泳げぬ訳ではないが、まあ得意ではないの」
「ならば良い機会です。ささ、ご練習なさいませ。アイダが見届けましょう」
「・・・アイダ。見届けは不要じゃ。付いてまいれ」
「・・・えぇ~。なんで私が。グリンダ様一緒にお戯れになってはい如何ですか?」
「アイダ、私を売るのはおやめなさいなぁ~」
「まあ、取り敢えず脱ぐのじゃ」
なんかしぶしぶと言った感じで脱ぎ始める三姫たち。背後から恐怖の大王が穏身をしながら今や遅しと待ちかまえてる事も知らずに。
三姫が脱ぎ終わって泉の縁から中を覗き込んでいると、がしっと掴まれ、ひゃっはーの掛け声と一緒に問答無用で泉に叩きこまれた。
「がぼがぼがあー」「げぼげぼ」「・・・ぶくぶく」
突然叩き込まれた泉で半分溺れかけている三姫たち。どうやら泳ぎはあまり得意じゃない様だ。何とか岸壁に辿り着くと荒い息をつく。
「な、なにをするのじゃ! 死ぬとこであったわ!」
「え~。死なないよ~。あたし達いるもん」
のほほんと答えるリュディー。スィーってな感じで泳ぎ回る。
「思い切りが大事です。飛び込んでしまえば何とかなります」
ぶち込んだ張本人達が無責任な事を言っている。リュディーとアンジュだ。
「ははは、まあ、何はともあれ泳ぎは覚えたほうがいい。水棲の魔物もいるからな。パニックになられたら目も当てられん。さあ、手を離せ」
「や、止めるのじゃ。マイヤ、こら。い、いかん。そちは胸部装甲が浮き輪の代わりになるから浮けるのじゃ。わらわはこれからじゃ」
スパルタで泳ぎの特訓が始まった。触らぬ神にたたりなし。俺は隅に退避することにした。
「冒険者でも泳げんのんは結構おる。マイヤ達の特訓の頃を思い出すな~」
「・・・あれは姉さんがやったんや。うちはちょっとだけ手え貸しただけや」
諸悪の根源はあんた達か! まあ、今ではマイヤ達も自由自在だから良かったのかも知れんが。
「どれ、下から引き摺り込んでやろう。どんな事が起きてもパニックにならない様鍛えんと冒険者は危ないんやで~」
そう言って静かに水中に没した。怖い。鬼や鬼がおる。次々と引き摺り込まれる三姫。既に虫に息の様な気もするけど、その内全身の力が抜けて浮く様になるから不思議だ。
きっと疲れ果ててからが本番なんだな。おお、上手くなって来てる。すごいな。スパルタ教育。
嫌な予感がする。そろそろ上がろう。間一髪で危地を脱した俺。ルル姐さんの舌打ちが聞こえるよ。泳ぎを覚えといてよかった。本当に良かった。
「そろそろ上がろうか? 体冷えちゃってるよね?」
全身から湯気を立ち上らせながら上がってきた三姫。既に水中格闘戦までこなして来ている。命がかかると覚えるの早いな~。
「ふしゅ~。誰でもかかってこいや~」
ああ、グリンダ姫さんが壊れてるぅ~。聖女様なのに。聖女様なのに。そんなこんなはあったけど一応水浴びは終了して拠点に戻る。
「夜は、ステーキをさっぱりワサビで食べようか。こってりしたのが続いたからいいよね」
「ほうほう。ワサビですかぁ~。楽しみですねぇ~。メルにはたっぷり塗ってあげましょう~。ふふふ」
グリンダ姫様が~。
「じゃあ、スープは止めて、シチューにしましょう。お野菜も一杯入れて煮込んじゃいますね」
三姫は俺と一緒に水魔法の練習がてらお風呂を作る。
「まず水魔法で中空の球体を作って、その中心に火魔法で火球を作る。そうそう。水魔法を操作して下部に穴をあけて風魔法で燃える空気を送り込むんだ。空気には燃えるのと燃えないのがあるから燃える方をイメージして。ああ、水魔法の制御だけはしっかりしないと台無しになっちゃうよ」
「ぐぐ。のあ~。ま、待ってぇ~。お願いお水さぁん、崩れないでぇ~。危なかったですわぁ~」
何とか湯を入れ終えた頃、既に食事の準備は出来上がっていた。今日のパンは大きめでフカフカにしてある。食卓を囲んでいる面々を眺めてずいぶんと賑やかになってきたとしみじみ思う。
「じゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
食事を終え風呂もいつも通り入って、寝る前のお茶会。
「ルル姐さんはどんな具合? こっちは全滅、全て処分だよ」
「・・・まあまあ。筋肉とか少し落ちとうて、もう少しかかりそうや」
「周辺の状況はいつも通りであります。魔獣も多くもなく少なくもなくと言ったところであります。異変は感知できません」
「なら明日も予定通りで良いかな。南の畑は耕しててもらってから西に畑を作ってもらう。周辺警戒は無くして開墾にしよう。姐さん達は引き続きリハビリをしてもらうけど、ヤルル、明日は付いていってあげて回復手段もあった方が万が一の場合安心だから」
「ええ。了解よ」
「そんなに心配せえへんでも大丈夫やで? 手傷を負う程でもあらへん」
「うん。突然来るんだよ。経験則だけどそう言うのがそろそろ来ると思う。ちょい強い奴。俺もリハビリの方が良いかな?」
「そうだな。戦闘経験を積んだ方が早く怪力なりのスキルに目覚めるだろう。こっちは姫さん達もいるから大丈夫だ。姐さんサラはスキル持ってないから初心者と変わらない戦闘力だ。その辺でよろしく」
「了解やで、ちょい前までのアン達と一緒や。まかしとき」
「・・・あれ~。俺行かない方が良いんじゃね?」
「そんなことないよ。サラは直ぐ狙われるからそこだけ注意してればこっちは楽になるからね。後ろからザクッとやっちゃえばいいだけだもん」
「魔獣とかって弱い奴が分かるのかな~。ちょっとショック」
「ハハハ、分かるさ。外は弱肉強食の世界だから、魔獣だって楽して食べたいだろ?」
「さて今日は休んで明日に備えよう。姫さん達も明日は最終試験だ。多重移動遠隔操作魔法習得して見せてくれ」
「ふん。いつまでもお荷物と思われるのは適わんのじゃ。見せてやろうではないかグリンダ、アイダよいな」
「・・・私達の中じゃ姫様が一番魔法苦手なのよ~。しょうがありませんわぁ~。お手本を見せて差し上げましてよぉ~」
「な、なんやて? たじゅういどうえんかくそうさまほう?」
「うん。魔法を複数展開して自分も動くんだよ。さらに遠くでも操るんだ。コツを掴むまでが大変なんだけどすぐ慣れるよ。その内姐さん達にもやってもらうから」
「・・・エルフに魔法を教授しようなんて傲慢やね」
「あわわ。あたしたち自信無いな~。ライラはそんなのやったことある?」
「・・・ないよ~。魔法は止まって撃つもの」
不安を抱えながら明日に備えて眠る事にする。




