第一章第三話 帰郷そして大森林へ
やっと戻ってきた。まだ農業は始まらず。第一章は無理かな~?すいません題名に嘘ありです。農業したかったのにな~。作者のモチベーションのために感想評価をお待ち致します。
第一章第三話 帰郷そして大森林へ
カラナム従士長と別れて、一路領都を目指す。シュナイダー領は荒れ地と言う訳でも土地が痩せている訳でもない。そこそこ土地は肥えているし農業にも向いている土地柄だ。
問題は南に広がる大森林。そこから溢れてくる魔獣や猛獣、妖魔達がいるため村を作っても長続きしないからせっかく開墾してもまた荒れるの繰り返しだからだ。
大部隊での遠征や焼き払うなどの試みもされてきたがその度に魔獣が大量に溢れでてきてしまってシュナイダー領どころかその隣領にまでなだれ込んでしまったという経緯があり、溢れた魔獣たちが別の森林地帯や山などに逃げ込み生息しまってさらに厄介なことになったのだ。
だから大規模に大森林に手を出すことは危険過ぎ、自然に溢れてくる魔獣を退治しながらシュナイダー領は運営されている。
自然に溢れる分だけでも時には対処しきれなかったりするため開墾が進まないのだ。
もちろん皇家でも最終防衛ラインに軍を派遣して守っているが、シュナイダー領のはるか北に駐屯している上、魔獣の大侵攻に対して軍がどれほど有効かも疑問視されている。
しかし防衛しない訳にもいかず帝国の重石になっている。
「そろそろ領都だよ。お疲れさん」
「やっと戻ってきたね。途中寄り道ばっかするんだもん。採取好きだよね~」
これはミヤ。俺が薬草採取ばかりするからだろう。覚えたばかりだからやってみたいのだ。
「はは、資金が少ないからね。ちょこちょこ稼ぎながら行かないとすぐに行き詰まっちゃうんだよ。さあ、着いたよ。ただ今戻りました、父様」
「おお、サラか。ん? 仲間を連れてきたのか? 見たことがあるな」
ギロリと俺達一行を眺めまわす。
「ええ、父様。なんでも一度は大森林入りを許可されなかったとかで、私が仲間に引き入れました。一人で入るよりは良いとの判断です。大森林入りご許可願います」
大森林入りは探索が目的ではなく、開拓する旨を伝え彼女達はその護衛兼助手とした。
「ならば、冒険者ではなく、開拓を選択したのだな。仕方あるまい許可する。大森林を後にする時はまた報告に来てくれればよい。注意事項として大森林に火を放つことは許可できないから注意しなさい。それと大森林で入手した物はシュナイダー領で売る場合にかぎり税金はかけないが、持ち出したり他で売る場合は一定の税金がかかる。ただし、シュナイダーに連なる者はその限りではない。つまりお前は自由にして良いと言うことだ」
「はい、心得ています。僕も魔獣の大侵攻の引き金は引きたくありません。ありがとうございます。しかし、そう遠くに運ぶ訳にもいきませんから父様に売ることになると思います。それとこの馬なのですが、しばらく預かってもらえませんか? もちろんお使いになってくれて構いません」
「うむ、引き受けよう。こちらとしても助かる。よく馬を入手できたな」
「はい。偶然ではありますが、夜盗の一味を撃退するときに入手できました。では、少し長老に開墾の手順を享受して頂いてから向かいたいと思います」
「うむ。気をつけるのだぞ。達者で暮らせ」
こうして今生の別れになるかもしれない別れを終え、俺達は長老の元に向かった。最初期のシュナイダー領の開拓時代を知る人物だ。開拓に必要な知識を得るために訪ねることにしたのだ。
生き字引とまでは言わないが開拓のノウハウを少しは持っている人物であることは間違いない。当時は長老も子供でほとんど役には立っていないが開拓時代を見ていたことは確かだ。
「長老はいるかい? 領主の所の味噌っかすが話を聞きに来たって伝えてくれ」
十にも満たない様な子供が玄関前で遊んでいたので来訪を告げて貰った。俺がここを訪れるのは随分久しぶりだ。
昔は長老に英雄譚だの物語を聞きに来たものだ。いつしか現実に圧迫されそんなこともしなくなっていた。
「ほっほっほっ。サラ坊、もうオシメは取れたかいの」
「ああ、ついこの間取れたよ。もう一人で生きてけって父様が言うから開拓時代の事を聞きに来たよ」
「ほっほっほっ。そうかそうか。もうオシメは取れたか。良い哉良い哉。で、何じゃったかな?」
「うん。大森林を開拓する。何をすればいいか教えてくれ」
「なんじゃと! 大森林に手を出しちゃいかん。魔獣が溢れかえるぞい。止めとけ止めとけ。悪い事は云わん」
大森林を開拓すると理解した途端、唾を飛ばして反対して来た。
「そう言う訳にもいかないんだ。俺にはもう開拓できるのは大森林しか残ってないんだ」
「ほんまにやる気かいの~。仕方ない事じゃて。ならば大樹か霊木を探しなされ。両方が揃ってる所が最もええ。なぜか大樹の周りには魔獣や獣が寄り付き難い。霊木の周りはけがや病気の獣が休む場所だて争いが起きにくい。そこを拠点にするがええ」
「へぇ~。うん、そうするよ」
「そう言う場所を見つけたら、次は近くに水場があるか確認しなされ。水がないと生きて行けんが、近過ぎても行かん。魔獣や獣も水は飲むからの。水場があるなら拠点の周りをテリトリーにしている魔獣や獣を狩りなされ。確実な安全圏を確保するんじゃ。これは定期的にな。別のが直ぐに棲み付くでな」
「ああ、まだ木を切ったりしないんだな。安全圏の確保が先と。分かった」
「安全圏の確保が出来たら拠点となる部分の木を切り住居を建てる事じゃ。高床式にせいよ。毒虫やらネズミやら小型の危険生物がおるからな。さらに家の周りに柵を建てなされ。これでやっと野営生活とはおさらばじゃ。野営する場所はちゃんと火で焼くんじゃぞ」
「サラ坊、今言ったことは出来るだけ早くすませるんじゃ。バイカルベアやグレーハウンドウルフに目を着けられる前にじゃ。こ奴らは異物を排除しようとしよるから要注意じゃぞ」
「うん。分かった。もし見つかっちまったらどうしたらいいんだ?」
「逃げるしかないの。そこで開拓はお終いじゃ。サラ坊じゃそいつらは倒せんじゃろ。仲間がおる? なら倒せるかもしれん。チャレンジするのは一回だけにしとけ。あいつ等は学習するでな。一匹でも逃せば同じ手が二回使えんのじゃ」
「そうか。なら全て斃すしかないな」
「そこまで来たらあとは拠点の周りの木を伐採して開墾して作物を育てりゃええ。畑まで出来たら一度戻って来て農家の奴にでもちょうどええ作物を教わりなされ」
「よし分かった。ありがとな長老。じゃあ行って来るよ」
心配そうにしている長老のお宅を後にして、そのまま大森林の外縁部が見える辺りまで来る。そこから見える大森林はそこいらの森とは別物だ。
まず木の太さが違う。木の密度も違う。なにより既に魔獣や獣が森から溢れて、その辺をうろついている。まずはそいつらを狩って外縁部に辿り着かなければ始まりもしない。
「さてみんな。あそこから大森林だ。最終確認だよ。あの先に行く気はあるかい?」
「凄い所だね。聞くと見るとじゃ大違いだ。剣歯兎が群れてる。いや逃げてるのか。おお、ブラウンベアか。ふふふ、ただの獣に剣歯兎が追われてるのか」
「ひゅ~。僕もビックリだよ。ただの獣でも結構強そうだね」
「大きさが普通のブラウンベアの1.5倍はありますね。大きいです」
「...」
マイヤ、ミヤ、ヤルルーシカの順で遠目に見える大森林の感想を口にする。父様が処理しきれていない魔獣や獣が溢れていたのだ。
相変わらず無言を貫くリュディー。まあ、その内正体が分かるだろうさ。
「よし、稼がせて貰おうじゃないか。そのためにここまで来たんだ。坊っちゃん・・・いや、サラ行こう。まずはあいつらを蹴散らしてやろう」
「オーケー、マイヤ。ただ、まだ開拓が始まってもいないのに怪我するのはおもしろくない。出来るだけ遠距離攻撃を主体に安全に片づけていこう」
気合を入れた彼女達は凄かった。特にリュディーの弓は百発百中だった。時には二頭三頭を一本の矢でまとめて串刺しにする。あれはエルブンボウじゃないかな。
俺がロングボウで一頭を仕留める間に必ず複数を仕留めてる。マイヤのグレートソードとミヤのハルバードが共にブラウンベアの脇腹に食い込んだ。
倒れ込んだブラウンベアの頭部にメイスを振り降ろし止めを刺したのがヤルルーシカだ。
剣歯兎から核を取り出し回収した後、あとは放置するしかない。そんなに荷物を持っていけないからだ。毛皮くらい取りたかったが残念。外縁部に辿り着いた俺達は大森林に侵入した。
「ん? リュディーなにしてるんだ?」
何やら一定間隔でナイフで木に傷をつけながら、俺達の後をついて来るリュディーに気付いた俺が尋ねたのだ。
「来た道が分かるように印をつけているのよ。サラ」
ビックリした。リュディーから返事があったのだ。声も初めて聞いた。てっきりミヤ辺りが説明してくれるもんだと思っていた。
「マイヤ、そろそろいいわよね?」
そう言ってリュディーがフードをはねのけた。
「ふぅ~、やっと外せるわ。鬱陶しいったらありゃしない。初めましてサラ。わたしがリュディーよ」
そこに現れたのは銀色の長い髪を風に揺らした凄みのある美人だ。切れ長の目に筋の通った鼻梁と小さな口。とがった耳、浅黒い肌。一見怜悧なようにも見えるが目が笑っている。思わず俺が見とれてしまっていると。
「あら? 反応なしはめずらしいわね。普通は剣を構えて叫ぶんだけど」
「あっ! そっか」
のろのろと剣を抜こうとしてると。
「ははは。無理にしなくても良いわよ。あたしもあんまり気分良くないから。それにしても、サラはあまり驚かないのね。私はダークエルフよ?」
「ああ、そかそか。いや驚いたけど、凄い美人だったから思わず見とれちゃったんだ」
「ありがとう。無用な争いを避けるためにフードをかぶって人目を避けていたのよ。あたしはホントに若いダークエルフなのよ二十二歳ってのは実年齢よ。生まれてからのね」
自分は何もしていないのに蔑まれ邪悪とか言われ、隠れる様に棲んでいることに納得がいかなかったから街に降りてきたらしい。
やっぱり見た目で色々トラブルを抱え込んでしまったらしいが、そんな時に他の皆と会ったらしい。それから一緒に冒険をするようになったんだとか。
ホントはダークエルフの中ではまだ赤ん坊扱いなんだって。千年も生きる人がいる中で二十二歳は赤ちゃんなんだとか。
それでもダークエルフの中では上位種に当たるとかで、ハイダークエルフとかエルダーダークエルフとか呼ばれる種族らしい。
見た目は変わらないそうだが、寿命が長く魔法適性が普通のダークエルフよりかなり良いんだって。
「こんな美人のお姉さんに股間をいつもグリグリされてたのか~」
「あっはっはっ。確かにそうだ。こいつすっごい美人なのに朝は弱いからね」
とはマイヤの言だ。思わず声に出して感想を言ってしまった。そう言うマイヤだっていつも僕の顔をそのでっかい胸に抱え込んでるんだけどね。
あれどうにかならないのかな~。こっちが恥ずかしいんだけど。先頭を歩いていたミヤが片手を上げて止まれ、集まれのしぐさをする。
途端に緊張が走る。全員黙ってススーって感じでミヤの周りに集まる。
「なんかいる。リュディーわかる?」
「ええ、中型の獣のようね。どうする?」
「回避できそうか? ミヤ」
「出来るよ。向こうはまだ僕達に気づいていないよ」
結局ただの獣だったらしく、すんなりと回避に成功した。
「それはそうと、どこに向かっているのでしょう?」
ヤルルーシカが質問をして来た。
「ああ。昔、大森林の中央辺りにでっかい木が生えてるのを山の上から見た事があるんだ。まずはそこを目指してみようと思う。木が大き過ぎていま一つ距離は分からなかったけど平地なら二、三日の距離だと思う。こう足場が悪くって木が密集してると進行速度が遅いから、もう少しかかるかもしれないけど。」
「へぇ~、そんなのがあるのかい、初耳だね」
「うん。領主家の人間しか入れない山だからね。たぶんシュナイダー家の人間しか知らないんじゃないかな」
「ねぇねぇ、そろそろ暗くなっちゃうよ。野営の準備しようよ」
「そうだな。木が大き過ぎるから暗くなるのは早そうだ。良さそうな場所があったらそこで野営にしよう」
ミヤの提案にマイヤが同意を示す。
「樹上よ。樹上にしましょう。あたしの村があったのもかなり古い森だったのよ。こう言う所では夜間は激ヤバなのよ。樹上でもヤバいんだけど地上よりはましなの」
「オーケー、その忠告は助かる。ならリュディー、君がどの辺が良いか決めてくれ。俺じゃ分からん」
「ええ、そうね。なら、あそこにしましょ。ほら、枝と枝が絡まってる所。まずあたしが昇ってロープを垂らすから順番に上がって来て」
そう言うとリュディーはナイフを巧みに使ってスルスルっと登って行ってしまった。暫くしてロープがポトリと落ちてきた。
ぐいぐいっと引っ張って固定されてる事を確認し、まずはヤルルーシカを押し上げる。次にミヤがひょいひょいと登って行った。
その後に俺が何とか登って、最後がマイヤだ。マイヤを引っ張り上げるのはちょっと骨が折れた。
隣り合った三本の木の枝が複雑に絡まり合っている辺りの枝をいくつか払って弱そうな部分にマイヤのグレートソードとミヤのハルバードを渡して補強する。
全員のマントを広げてピンと張る様に枝にかぶせていく。中央やや右寄りにマントをかぶせない部分を作って。鍋を引っ掛ける。その中で焚火をするそうだ。
リュディーが周囲にウィルオーウィプスを呼び出し、ミヤが枝の周囲に簡易警報装置を仕掛ける。
マイヤが鍋の焚火の上に更に鍋を駆けスープを作りだす。俺は何もしていない内に作業が終わっていた。
「皆、さすがに手馴れてるね。何も出来なくて悪いな」
「なら、抱き枕になる位は我慢してもらおうか」
「・・・それはそろそろ勘弁してもらいたい」
「善処しよう。しかし、寝ている時の制御まで出来んと思う」
「・・・」
さっさと食事をして休む態勢になる。まださすがに皆寝ない。樹上での危険についてリュディーに聞く事にした。
リュディー曰く樹上で厄介なのはツリーバイパーとかブラックスネークだのの蛇だそうだ。