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閑話休題 次期領主奮闘す

閑話休題 次期領主奮闘す



 ミゲルが旅に出て早3日目。領主館の執務室で唸るマルスがいる。マルスはシュナイダー領の長男、次期領主だ。


 風貌は母親似でくすんだ茶髪に碧眼やさしそうな微笑みを常に浮かべている様な優男風である。


 ミゲルからなに一つ受け継がなかったなどと、揶揄される事もあるが怒る事もなくいつもニコニコしている。


 実はその風貌とは似合わず剣は得意で、ミゲルに迫る勢いだ。それを知っているのは家族だけだがちゃんと突撃シュナイダーの遺伝子を持ち合わせている。


 そのマルスが先ごろからうんうん唸って、書類とにらめっこだ。ここ3日ほどのいつもの光景である。


「カラナム、本村と新村の人口はどの位だ?」


「ええとですな。本村がおよそ150人、新村で60人程でやす」


「うちの領地ってこんなに少なかったのか。3代も続いてるんだぞ、いくらなんでも少な過ぎるだろう?」


「ですがね、新村を作る度に魔獣に根こそぎやられちゃいやすので。今いる人口より今まで魔獣にやられちまった方が多いくらいでさ」


「人口が少な過ぎて対策の立てようもないな。募集はかけてるよな?」


「へい。いつもかけておりやすよ。ここん所ニコラスが魔獣素材を捌きやしたから入植者が増えてきやしたね」


「さてさて、どうしたらいいかな。ここらで一つ博打を打つしかないか。今の十倍、二十倍は人口が欲しいな」


「さいでやすね」


「初年度は税金一割五分、新築家付きとかで売り出してみようか?」


「へえ。良い案でやす。税金が安くて家があればそこそこ人が集まりやしょう」


「もう一声欲しいな。いっそ一年間分の小麦に薪代も支給してやるか。そうすれば開墾に力がいれられるだろう?」


「そりゃそうですが、出費もかさみやすよ? 今は資金に余裕がありやすが、無限じゃねえです。人が増えれば畑も増やさんにゃらんし治水もせにゃならんですよ。道も作らにゃならんです」


「ニコラスに家を建てさせようか? ついでに人も一緒に集めさせるんだ。アイツの所ならいろいろな領地を回ってるから喰いつめてる奴らがどこに居るか分かるだろう? 募集出来たらあいつが建材やら職人やらも集めるだろうし、先に資金を渡してやれば自分で儲けが出る様にするだろう」


「はは~ん。良いかもしれやせん。あいつも行商仲間もおりやすでしょうし、自分ひとりの手に負えなければ伝手をたどって利ザヤで儲けを出すでしょう。ちょいと相談してきやしょう」


 これで人口増加の目処が立った。次は衛士隊と騎士団か。衛士隊は村から募ればいいとしても騎士団はそこそこ腕が立たないとどうにもならんからな。


 最初は屯田兵になってもらうとして、これもどうやって雇うかか~。父様に期待するしかないか。今、うちと繋がりがある家は五家。そこから次男以下をスカウトして来てくれるはず。


 従士家からも引っ張ってこれるかな? 後は新たに正妻として娶る家からも出来るか。う~ん。うちだけで動くと軍務閥ばかりになっちゃうな。


「若、通常業務の方もこなしてくだせえよ。ドサッ」


「はぁ~。なんでこうロクでもない事で揉められるかな~。隣の鶏が畑を荒らしただぁ~。そんなもん抗議して直させれば良いだろうに」


「そうでもないですぜ。鶏が隣に入ったのは荒らされた家で飼ってる番犬が追いまわしたのが原因でやした。ところが囲いが壊れてるままにしたから番犬が入りこめて更に鶏も逃げだした。荒らされた畑は蒔いたばかりの今年の収穫分で早急に修繕しないと一家飢え死にでやす」


「・・・で隣の家に修繕させるとその家が種蒔き出来ないから一家離散とかか?」


「さいです。金で弁償させようにも、どこもぎりぎりの生活になってるのは領主の責任と申してますな」


「・・・入植者ばかり優遇すると既にいる領民の不満がたまる・・・か。よし、どっちにしろ喧嘩両成敗だ。半分は隣の家の者に直させて、残りは自己責任。隣の家は囲いを直すことを義務づけるように。種と囲い修理用の材料は領主家から支給する。両家とも来年は税率を5分アップ。どうだ?」


「へい。急場はしのげるでしょう。次の案件はミモナちゃんとの婚約解消に納得できないと」


「諦めろ! 以上」


「こいつはちゃんとやらにゃ~後々問題になりやすよ。水利権がからんでやす。本村と新村の争いですな。本村は今二つの水源がありやすけど、新村は本村の水源と共有してまさぁ~。その配分が6:4でやす。これを5:5にしてほしいとのことでやすね。本村は人数が多いから今でもカツカツだから7:3に改善してほしいと」


「水が足らないのか?」


「いえ、どちらも現状は大丈夫なはずですが新規の入植者が来る事を想定して多く確保しようとしてるんでやすね。どっちの名主も入植者を受け入れて勢力を拡大したいみたいでやすね。まあ派閥争いでやすよ」


「つまり僕がどちらに肩入れするか見てる訳か。次期領主はどっちを優遇するか見たい訳だな。場合によってはケイオスを担ぎあげて反抗すると逆の場合も本村がケイオスに付くか。そのまま跡目争いに発展するか。別にケイオスに譲っても良いんだけど、ここで僕が失脚してもテリオを担ぎ出して同じ事が起きるな」


「さてさて、若どういたしやすか? ひひひ」


「カラナムおもしろがってるんじゃない。まだなにもしてないから強硬策には出られないな。かと言ってどちらにも肩入れ出来ない。現状維持をさせると僕への不満が溜るだけか。父様はどうしていたんだ?」


「ミゲルならこんな不満は出てきやせん。舐められとるんですな。もしくはミゲルがいない今ならと」


「ふぅ~。父様が戻って来たらどうするつもりなんだろう?」


「そりゃあ、元の鞘に収まっておしまいでさ」


「・・・ならしかたない。両村とも割を食ってもらおう。今後の発展のためにね。水問題はもう今後起こさせないよ。北の大河から水を引いて来る! 両村とも労役を課して水路を作ろう。今はきついけど来年以降一気に畑が広がるはずだからね。終端は南の平原まで伸ばして第2村、第3村の基盤にもする」


「へへへ、そうこなくっちゃ。既に手配してありやす。追加で人足も雇ってありやすからそこまで村に負担はかからないでやしょう。ついでに人足には入植希望があれば畑と家、初年度税率1割5分、主食と薪代も支給することにしたら応募がわんさか来ました」


「ちっ! カラナム試したな。ついでに人足達は第2村を作らせろ。第二次募集では第3村もだ」


「へい。自分達の村の水源でやすからやる気も上々でやす。第二次募集は既に始まってやして30人ほどがこっちに向かってやす」


「まいったよ。まだまだカラナムにはかなわないな。と言う事はもう工事も始まってるんだろう?」


「へい」


「なら、従士から剛力のスキル持ちも参加させろ。一気に本村と新村までは水路を作ろう」


「え? 剛力はあっしとラグジュだけでやすよ」


「うん。二人に参加しろと言っている。ふふふ。怪力持ちが後二人いたな? 第2村と第3村の予定地で土を穿り返させろ。直ぐに畑にするぞ」


「うへぇ~。そりゃないですよ若。領主館の方はどうするんでやすか」


「ケイオスとテリオに手伝わせる。ああ、ガイウスは連れてっても良いぞ。あいつも剛力は持っていたな?」


「いけねぇ~。こいつは先走り過ぎやしたね。とんだとばっちりでやすよ。トホホ」


「自業自得だ。夏までに完成させろよ。秋の作付には一気に畑を広げる。この3日魔獣は全然出なくなった父様の読み通りだ。今年の冬を乗り越えられれば、一気に楽になるぞ。・・・問題は食糧か、薪は大森林があるからどうとでもなる。・・・どこから集めるかな」


 ブーブーと文句を言いながらも既にそう言われることを予期していたのかカラナムはさっさと身支度をして外で待機していたガイウスとラグジュを連れて水路工事に向かう。


 水路工事が始まって一週間、既に目標の半分まで水路が完成している。取水口は未だ工事中のままだが、ここも職人が総がかりでの作業中だ。


 水路は幅5m、深さ3m両側には掘り起こした土を盛って堤防とし水害対策もしている。村の女衆がその堤防に茅を蒔いて所々に果樹も植える。飢饉対策と堤防強化、建材確保のためだ。


 ニコラスの建設ラッシュが本村、新村の両方で一気に始まっており木工屋が悲鳴を上げている。当然両村共きこりは連日連夜徹夜で伐採中だ。


 そうすると悲鳴を上げるのが炭焼き小屋でここでも材木の争奪で争いが起きる。


 新規入植者は自分の畑を耕すので精一杯だから戦力外、子供たちも遊ぶ暇もなく茅、竹を集めて小遣い稼ぎに余念がない。


 公共事業で臨時収入があれば普段は買えない買い物を思い切ってする家や、小遣を使う子供たちが村唯一のニコラス商店に押し掛ける。


 弟子や行商仲間の伝手を使って物資を集め、臨時の人足も含めて膨れ上がった需要に対応している。ここで流石なのはニコラス君。


 大口の建設の受注と自分の商店の立ち上げをこなす力量が自分にないと思いきや、仕入れを仲間内の行商人に振っていること。


 大口の建設だけはちゃっかり確保しつつ建材その他の購入も仲間に振っちゃってる事。弟子には入植者の確保に向かわせながら塩だけは購入させている。


 自分は各行商人から仕入れて商店での販売に従事し、次の仕入れの予測を図っている。塩だけは自分で確保しているのは絶対に失敗しない商品な上、シュナイダー領の急所を押さえられるからだ。


 一遍に多量の購入はさせず何往復もさせるのは流通経路を確保するためで定期的でかつ安定した購入は仕入れ業者の信頼を確保するためだ。


 仕入れ業者も一挙購入より少量でも安定した購入をしてくれた方が毎月の収入が確定するため嬉しいのだ。


「やあ、ニコラス。儲けてるようだね」


「あ、若様。いつもお世話になっております。お陰さまで店も構える事が出来ましたし繁盛させてもらってます」


「そろそろ恩を返してもらっても良いかな?」


「えっ! まだ何かやるんですか? まだ家も水路も終わってないですよ。税収もまだ上がってないでしょうに」


「うん。まだだね。でもこの間の魔獣製品の売り上げを使いきったくらいなだけだよ。入植者が遅れてるよ。君ならもっと集めてくれると思っていたのに、残念だよ。そろそろ他にも振った方が良いかい?」


「い゛、まだまだこれからですよ。ははは」


 たらーり。他に振られては堪らない。せっかく順調に伸びてるのに一気に傾いてしまう。自分から入植者募集を他に振れってことか。


 仕方ない儲けが減るけどなくなるよりはましだ。サッとそう計算したニコラスは、仕事を振る行商仲間を数え上げる。


「期待しているよ。先に払っている分を早く終わらせて次の契約が出来るといいね。次は第2村と第3村を同時に立ち上げようと思うんだ。今は本村と新村だけだろう? そこはそのまま増やしてもらっていいから追加になるね」


「え゛、若様。倍に手を広げなさるんで?」


「そうだよ。新村に支店だしても良いよ。まだ店舗があるのは本村だけだろう。そろそろ新村も百人を超え始めたからね。そうそう農家のみんなもそろそろ卵とかも食べたいと思うんだよね。どう思う?」


「ははは、・・・鶏も仕入れてきます」


「う~ん。ニコラス。もう一声ほしいな。うちの南には草原もあるからね」


「う、牛なんかどうでしょう? 牛乳も取れますし、肉も上手いですからね。シュナイダー領は地味が肥えておりますから羊とかは人気がないでしょう」


「うん。そうだね。羊毛も南部だからあまり需要はないかな。じゃあ、よろしくね。いつ頃入荷予定かな?」


「あ゛。1週間ぐらい頂けると助かりますです」


「そう。結構かかるんだね。もう手配してあるかと思ってたよ。分かったよ。宜しくね」


「・・・はい。急いで仕入れます」


「ああ、そうそう、うちも騎士団を作ろうかと思うんだけど」


「はいはい。まずは鉄剣ですね。何本いりますか?」


「そうだね。鉄剣は50、鉄やりも50、あと、鋼剣も20位かな。軍馬は10頭で良いよ」


「いやいやいや、それは不味いですよ。そんなに買ったら謀反を疑われてしまいますよ。それに鋼剣は帝都でしか購入できませんよ」


「そうかい。なら陛下に申告しておくよ。鉄剣は衛士隊用で騎士団は20ですよって」


「またまたご冗談ばかり。・・・ホントですか?」


「ふふふ。多分大丈夫でしょう。父様が何とかしますよ。では頼みましたよ。ちゃんと値切ってくるんですよ!」


 さて、後は父様が戻ってくれば何とか格好がつくかな。これからは訓練計画と開発計画を同時進行だな。ニコラスがどこまで喰らいついて来るかな~。


 そろそろ限界のはずだけど頑張ってるね。あ、いけない侍女隊の方はどうなってるんだっけ。


 領主館に戻る道すがらやり残していること、これからやらねばならない事を考える。女衆のまとめを頼んでおいてすっかり忘れていた事に気づいたマルスは早速家に着いて声をかけた。


「母上。母上。女衆はどうしてます? 侍女隊出来ましたか?」


「あらあら、急にどうしたの。放ったらかしだったくせに」


「そう苛めないで下さい。色々やることが多すぎて対応しきれないのですよ」


 居間のソファーに座って何気なくお茶を飲んでいる。おや? 誰が自分にお茶を淹れてくれたかを確認すると見た事のない女衆が立っていた。


「基本の振舞や教養の研修が終わったのよ。今日から実地研修に入った娘よ。厨房にも2人、それからお掃除に3人、お庭にも2人、買い出しに行ってる娘が1人。全員で9人が実地訓練に入ったわ」


「早いですね。もう実地ですか。父上は戦闘メイド隊をイメージしていたみたいですが、流石に戦闘はまだですよね?」


「そうね。帝都の戦闘メイド隊は普通のメイドの中からと近衛隊の中からの両方から選抜されるのよ。つまり戦闘特化型メイドと侍女型戦闘メイドがいてその中でも両方を十分にこなせる一部の優秀な方を再度訓練してなるの」


「へぇ~。知りませんでしたよ。超エリートじゃないですか。今は侍女型戦闘メイドの育成ですか」


「そうね。近衛みたいな騎士団がいないとなかなか戦闘特化型メイドは出来ないわね。だから侍女として一人前になったら戦闘訓練をする予定よ。あなた下がっていいわよ」


 後ろに控えていた侍女が一礼して下がって行く。礼の仕方、歩き方はまだまだぎこちない。実は紅茶も渋かったりする。


「さて、ご領主代行殿。お給金の話よ。研修中は週に銀貨1枚よ。研修が終了したら銀貨2枚、中堅で3枚、ベテランで5枚よ。これが普通の貴族家の侍女の場合。高位貴族や帝室になるとこれが3~5倍に跳ね上がるわ。貴族の家格に寄るのね。さらに戦闘メイドになると10倍に跳ね上がるの。その上が帝国戦闘侍女隊よ。さらに10倍位かしらね。お給金も金貨での支払いよ。ふふ。良家の女子のあこがれの職業よ」


「・・・ちょっとそれだと高位騎士と遜色ないじゃありませんか。それどころか帝国戦闘侍女隊だと将軍級ですよ」


「当然ね。侍女と騎士を両方こなすんだから。当然身分は上級帝国騎士と同等ですよ。普段大人しいからと言って舐めてはいけませんよ。戦場では兵士を率いる資格も能力もあるわ。もうそこまで行くとどこの貴族家でも引っ張りだこよ。職で困る事も結婚で困る事もないし、好きな相手を選べるわ」


「理解しました。うちではそこまでならないですよね? 破産してしまいます」


「そうね。精々なんちゃって侍女型戦闘メイドくらいまででしょうね。10人で月に金貨40枚もあればいいわ。何人まで増やすの?」


「現状まででお願いします。ひょっとして母様・・・。いえ、なんでもございません」


「あらあら。そんなことでは困っちゃうわ。帝国中に配置して情報戦を制する事も出来るのよ。前々からの構想なんだけどね。絶対凄い情報持って来るわよ。そこら中の貴族家の裏事情が筒抜けになるわよ。本当の戦闘メイドは守秘義務も完璧なんだけど、うちはなんちゃってだから大丈夫よ」


「・・・母様。なんでうちに居るんです?」


「ふふふ。昔のミゲルはカッコよかったわよ。敵の横っ腹に少数で突っ込んだ姿は凄かったわ。おかげで命拾いしたもの。ふふふ」


「・・・」


 知りたくなかった事実を仄めかされて、母には逆らわなわない事に今更決める次期領主殿であった。

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