第二章第二十二話 姫様参戦⑤
第二章第二十二話 姫様参戦⑤
軍隊アリとの熾烈な戦いのさなか、グリンダ姫からの爆弾発言。貴族の末席も末席だった俺は上位貴族たちの生活を垣間見た。
そう言われてみれば誰々伯爵の息子の何々男爵とか良く聞くな~。未亡人の女伯爵様とかに粉かけられたりして父様も困ってたっけ。あれって婿にとって領地を吸収するつもりだったのか。
ん? でも下位貴族達ってそんなに分ける程領地ないよな。兄様達も準騎士爵とかだし。それも名前だけだったよな? 俺が自分に照らし合わせて考え込むとグリンダ公女が追加で説明してくれた。
「そうですね~。下位貴族とかは分けられないので父親より一つか二つ下の爵位を名乗りますね。これはただの習慣で実際の爵位ではないんですよぉ~。上位貴族でもたまにありますね。実際に分けるんじゃなくて名乗る爵位と同じものを持たせますよって感じですかねぇ~」
「え~と、要りませんとかは出来ないんですか?」
「ふ・ふ・ふ。それは私に価値がありませんと言うのと同じことですから絶対にあり得ません。貴族は見栄の生き物ですからそんなことになるなら死を選びますよ。盛大に周り中を巻き込んでですね」
「あ~、はい。すいません。でもですよ、父様の領地も俺の領地も騎士爵領としてはかなり大きいですよ? 辺境も辺境ですけど伯爵領位の大きさありますよ? 未開地ですけど」
「ええ、そうですねぇ~。未開地は数に入ってないんですよ。開発できれば美味しいですけど実際には開発出来ないから辺境なんです。誰だって苦労ばかりで実入りが少なくて文明から遠ざかってるような所に住みたくないですよね? 大きな街が一つでもあるか、それこそ儲かる場所じゃないと開発出来ないんですよ」
「あ~、うん。分かります。父様のところもず~と村が二つでした」
「でしょ。ところがここで大発見! 凄く儲かるどころの騒ぎじゃ済まないくらいの儲けが出る辺境領地が発見されてしまいました。その辺境領地をまた別の辺境領地が蓋をしていて誰も入れない。さらに実際に儲けが出てしまった。皇族や貴族が放っておく訳がない。さらに大店の商人や外国勢も加わる可能性があるって言うのが現状ですねぇ~」
「はぁ。勉強になりました。で、どうすればいいんですか?」
「サラ殿次第ですぅ~。有象無象に喰い荒されるか、うまく立ち回れば一国を立ち上げるなんて事も出来ますねぇ~。私としてはそんなことをしてほしくありませんが、教会と帝室を繁栄してくれたらと思います。私達三人は基本的には帝国が今後も繁栄してくれるようにと思って嫁いできてますので旦那様宜しくお願いしますね」
「ええ、大それたことは考えていませんので期待に応えられるように頑張ります」
「さて、随分話し込んでしまいましたねぇ~。現実を打開しましょう。そろそろこちらから撃って出て軍隊アリを片づけてしまいましょうぉ~」
「はい。暢気におしゃべりしている場合ではありませんでした。アイダ姫! そちら殲滅したらダンジョンは一旦お終いにしましょう。撃って出ます。アンジュ、リュディー! そろそろ女王アリを仕留めましょう」
「ええ、了解です。アイダ姫の殲滅終了と同時に撃って出ます。後ろから大きいのを一発撃ち込んで下さい。それと同時に進撃開始します。ティア殿下、リュディー、ヤルル呼吸を合わせて下さい」
「アイダ姫! 殲滅終了と同時にダンジョンから出ますので合図お願いします。マイヤ、ミヤ準備いい? グリンダ姫様も良いですか?」
「こっちはいつでも良いぞ」「僕もオッケーだよ」「はいな~」
「アンジュ、リュディー、ヤルルーシカそろそろ行くよ。ティア殿下ちょっと抑えて下さい」
「おう!」「分かっておるのじゃ」
「ゴー!!」
アイダ姫の合図と同時に亜音速でガトリングガンを十発ダンジョン出口に向けて発射。近衛アリ数体を巻き込んでズタズタに切り裂きながら虚空に向けて消えて行った。
前方に居たアンジュ、リュディー、ヤルルーシカ、ティア殿下が一斉に飛び出していく。その後ろには既にアイダ姫が続いている。合図と同時に反転して俺達の横を駆け抜けて行ったのだ。
アイダ姫を追ってマイヤ、ミヤ、グリンダ姫と続き最後尾を俺が追いかける。くっ、早い。スキルなしの俺ではとても追いつけない。
それでも全力でダッシュして追いかける。ダンジョンを飛び出した俺が見た光景は残りの近衛アリを抑え込むようにして撃破しているティア姫とアンジュ。
その後ろから翅アリを撃墜しているリュディー、全体に防御力アップの魔法をかけているヤルルーシカ。それらの頭上を飛び越えて女王アリに切り掛っているアイダ姫。
ミヤとマイヤとグリンダ姫が大きく迂回しながら軍隊アリの退路を塞ごうと後方に居る女王アリに肉薄している。
状況を見て取った俺は、地上は任せても大丈夫と思い、上空に居る翅アリをポイント弾の連射で撃ち落とす事にする。
暫くして殲滅が完了した。けが人なし・・・嘘です。スイッチするときに俺が足を負傷しているので軽傷一人です。
「ふぅ~。結局殲滅してしまいましたね。素材を確保して拠点に戻りましょうか。疲れましたからね」
そう言ってアンジュが率先して回収を始める。マイヤ達もみんなそれに続く。
「あ~~~~。いっけね。カラナムのおっちゃんと約束してたんだ。魔獣素材も出荷しちゃおうって。あと魚と卵も収穫して持ってかないと奥様方集めてくれてて加工してくれるって言ってたな。あちゃ~。間に合うかな~」
「たいへん。急いでみんな! 素材集めて! サラ、何でもっと早く言わないの! 早く早く。翅、翅~それも素材として使えるから回収して。ほらほら、サラ。転移して。ミヤ、リュディー、アンジュ拠点に着いたら卵取りに行ってね。マイヤと私でさかな取ってくるから、サラは姫様達と拠点に残ってる素材を集めといてね。お肉も持ってちゃって良いからね。ほら集め終わったわ、転移して」
ヤルルーシカが慌てて仕切る。疲れた体に鞭打ってみんなが素材を回収したら、すかさず転移。拠点に着いたらそのまま皆が散り散りになって作業を開始した。
「あ~~、ヤルルーシカ! 魚はそのままでいいからね。加工は向こうでするから生きてても良いよ。そのままマジックバッグに突っ込んじゃってね」
「は~~い」
「ティア殿下とグリンダ公女は干し肉回収して下さい。裏手に干してありますから。アイダ姫、倉庫に有る素材をマジックバッグに詰めましょう」
「了解であります。木材なんかも出荷しますか? ポーション類はどうしますか?」
「え~と、どうしようかな。ええい、いいや。出荷しちゃえ。在庫なくなっても直ぐ貯まるから」
バタバタと慌ただしく倉庫の一斉処分に走り回る。一杯になったマジックバックを持って俺は転移した。
「カラナムのおっちゃんごめん。遅くなった」
「サラ坊っちゃん。どうしやした? 随分お疲れでやすね。こっちは多少待っても大丈夫でやすよ」
「すまん。助かるよ。向こうに戻ったら軍隊アリの巣分かれに遭遇しちゃってさ。そのままこっちに流れそうだから誘導したりしてたんだけど結局殲滅することになっちゃったよ。それでダンジョンも発見しちゃってもう次から次へと対応できないよ~」
「軍隊アリの巣分かれですって!? 大事じゃないですか。それを9人で殲滅して来たんでやすか?」
「俺だってしたくなかったよ。でもこっちに来そうになっちゃってさ。しょうがなく攻撃したら追いかけ回されたよ。そしたらダンジョンだろ~。そこを巣穴代わりにされちゃ、たまらないから入口に陣取って殲滅作戦だよ。ダンジョンからはアンデッドが湧きだして狭撃受けるし、ヒドイ目に合っちゃったよ」
オイオイ。そりゃ~坊っちゃん、普通は死んでますぜ。なんで何事もなかったかの様に切り抜けてるんでやすかね。
いくらA級とB級が居たってお荷物も抱えてるんでやすよ。うまくいっても2,3人は死んでなきゃおかしいでしょうよ。まったくうちの坊っちゃんはバケモンですかい。
「そりゃ~大変でやしたね。けが人は大丈夫でやすか?」
「うん。俺が足咬まれたくらいで済んだよ。まったくいつになったらお荷物から脱却できるんだよって話だよ」
なんですって! 軽傷一人で切り抜けたんですかい! こりゃ~ひょっとすると本当にうちの坊っちゃんにはなんかの加護があるのかもしれませんやね~。数は暴力でやすよ坊っちゃん。
「よし。あと2,3回往復するから任せたよおっちゃん」
「へい。ようござんす。程々で休んでくだせぇ。帳簿の方もこっちでやっときますから心配しないでくださいや」
「あ~~、帳簿もあるのか。ごめん、もう今日は無理。頼むよ。じゃ行って来る」
往復すること5回。やっと全ての出荷品が終了した。魚も卵も実はかなり不味い状態だったらしい。獲れるわ獲れるわ。
それぞれで一往復分の収穫になった。数日分の食料を残してすべて出荷したよ。帰りに帳簿を受け取って確認だけしてくれって。
いくら儲かってるのかもう把握してない。後で皆と確認しよう。でももう無理。ちょっと休みたいよ。
「お帰り~。ご飯出来てるよ。お風呂もやっといた。お疲れ様~。今日はハードだったね~。僕が良い子良い子してあげるから」
「ふふ、さあ、ちょっと休みなさい。足見せて。咬まれてるんでしょ?」
久しぶりにマイヤの膝の上に乗っかって、ヤルルーシカに癒しをかけて貰った。甘い紅茶を貰って飲みながら脱力した。
「ふぅ~。姫様方申し訳ない。こっちに着いた途端にこんなに慌ただしくなっちゃって。皆も疲れてるでしょ? お茶飲んでゆっくりしようよ」
「そうですね。夕食も運びこんじゃいますからゆっくりしましょう。ミヤ、装備の手入れは後で手伝いますからこっちに来て休んだらどうですか?」
「うん。そうする。アンジュありがと」
「うむ。それミヤ、リュディー。茶じゃ。宮廷仕込みの入れ方じゃ同じ茶葉でもちと違うぞ」
「ふわぁ~。本当に違う! 淹れ方でこんなに違うんだ。でもアイダ姫が入れたんでしょ?」
「うっ。確かにアイダが入れたのじゃが、そこはそれ、主人の得点じゃろ?」
「いえ、殿下。ここは素直に私の得点です。ひょっとしたら私が第一妃なんてことも。一応私も皇族のはしくれですから、おばあ様ありがとう」
「くっ、抜け目ない。狙っておったか! じゃが所詮は傍流よ。直系たる私を押し除けるにはちと弱いの。ほーほっほっほ」
「あー、うん。まあ、それはさて置き、明日は大豆を収穫してしまってナス、キュウリ、トマトを植えちゃいましょう。残りは小麦と大豆ですね。スイカとニンニク、ジャガイモは試験農園の方に自分達が食べる分だけ植えましょう。みんなは他に食べてみたい野菜とかありますか?」
「アスパラなんかもおいしいですよ。サラダによし。お肉を巻いてもよし。揚げてもよしです」
アンジュはアスパラ押しと。
「ねぎ、ねぎを忘れていましたわ。薬味が足りませんもの」
おお、ヤルルーシカは相変わらず薬味系か。
「なら胡椒も少しは栽培しておきません事? あと唐辛子とか」
珍しくグリンダ姫様も香辛料をお薦めか。
「あ、あ、小川があるんですからワサビも作ろうよ。ステーキにも合うよ」
リュディー良いとこに気が付いたよ。俺も忘れてた。刺身がないからワサビは気付かなかった。
「なら三つ葉もついでに植えておきましょう」
「はいはい。なんかまだ色々ありますね~。オーソドックスな所ではニンジン、ピーマン、玉ねぎ、キャベツにレタス、ブロッコリーにチンゲン菜、ホウレン草、それから・・・」
「大丈夫ですよ。全部種は確保してますから。順次植えて行きましょう。小川でのワサビ田は盲点でしたね。豆類と穀物類も増やしたいですね。しばらくはドライアドさんにお任せ出来るのでなんでも行けそうですしね」
今後の作付けで盛り上がる一行でした。しかしこの人数でそんなになんでもかんでも出来るのかという問題は棚上げされたままでした。
翌日には大豆の収穫を終え、畑を耕してしまい当初の予定通り小麦と大豆は2面ずつ残りにナス、キュウリ、トマト、ニンジン、ネギ、キャベツ、アスパラ、ピーマンを植えました。
試験農園にはスイカ、ニンニク、トウモロコシ、ジャガイモ、胡椒、唐辛子、生姜、茗荷、紫蘇、胡麻を少し植えておきました。
そうそう小川の開発もしました。ワサビ田、みつば、クレソンなんかも植えてみました。試験農園と水場の野菜は基本放ったらかしです。
食べたい時に取りに行って少しずつ食べるだけ用です。ドライアドさんが怖いので間引くことは忘れない様にしました。一度生長してしまうと際限なく広がるおそれがあります。要注意ですね。
思い切って種類を植えたのは今後の主要野菜を決めるためです。小麦と大豆は主食なので外せないとしても産業として何を育てるべきか検討するためですね。
保存性や運送、需要、利便性との兼ね合いですね。獲れ高が異常ですので保存性は重要です。あと人数が少ないので利便性も重視しています。
「ふぃ~。みんなお疲れさん。色々植えてみたけどちゃんと育つかは心配していません。きっとドライアドさんがうまい事してくれるでしょう。これで暫く生長待ちになるので今夜は前回の出荷結果を検討します」




