第二章第十四話 やさい、やさい、やさ~い
第二章第十四話 やさい、やさい、やさ~い
改めて目の前の光景を見てみよう。目の前には小さな試験農園がある。農園のあちこちにドライアドさんがガッツポーズをしたり手を振ったりしているらしい。
試験農園一杯に巨大な作物群が生えそろい、たわわに実ったこれまた巨大な実りの数々が風に揺れている。
通常スイカは直径30cmから大きくても40cm位だろう。しかし目の前にぼこぼこと転がっているのは直径1mはあろうかと言うお化けスイカだ。
それが試験農園にボコボコとあるのだ。その横には全長4mに達しようかというトウモロコシの林があり、そこには80cmはあろうかと言うトウモロコシが一つの木に10個ばかりも生っている。
枝豆も俺の身長以上あり、そこにはもう数えきれない位の実がある上に、一つ一つが20cmほどもあるのだ。きっと地下にあるニンニクやジャガイモも凄い事になっているに違いない。
だって上に出ている部分だけで通常サイズじゃないんだ。既に出穂している麦穂も30cm以上ある。それに実がビー玉くらい有るのは気のせいだろうか。
ハッと一早く再起動したのはリュディーだ。どうやらドライアドさんに声をかけられたらしい。ついで順次再起動をしていく。
開いていた口が渇いていることから結構長い間立ち尽くしていたらしい。
「え~と。僕は作物の事は良く分からないけど、これって食べられるの?」
いきなりミヤが核心をついてきた。食べられる品種を植えたのだから食べられるとは思うが、ここまで生長してしまったら別物扱いか?
どんな変化が中身に起きているのか心配だ。ミヤもやや不安そうにしながら俺を見上げて判断を待っているようだ。
「食べてみないともう分からないな。毒はないと思うけど。一応ヤルルーシカは解毒魔法使える? 毒消しのポーションも用意するけど」
「ええ。出来ますわ。魔獣には結構毒を持つ種類が居ますから。でもまだ猛毒までは無理ですわ」
「猛毒消しのポーションがあるから何とかなると思う。じゃあ、収穫してから食べられませんでしたなんて嫌だから一個づつ試食してみようか」
一番気になるのは西瓜だが、直径1mの西瓜を食べきれるか自信がないので次に気になるトウモロコシから行ってみよう。ここまで大きく育ってしまうと逆に恐怖するのか皆収穫したがらない。
しょうがないので俺が手近にあるトウモロコシを全身を使ってもぎ取ろうっと思ったが、採れなかった。仕方がないので、根元を鎌でザクザク切ってやっと収穫した。
西瓜はマイヤが収穫し、がっつり抱えて戻ってきた。大蒜はヤルル-シカが怪力を使って引っこ抜いた。直径20cm以上の大玉大蒜だ。外見の凹凸から中は5粒だろうと予想できる。
ジャガイモはミヤが剛力で引っこ抜いて、サッカーボール大のジャガイモがいくつも付いていた。アンジュが枝豆、リュディーは麦の根元を縛ってから、1cm以上ある茎の束を鎌でザクザクと斬りながらやっと収穫した。
「じゃあ、一旦お家に戻ってみんなで中身を見てみようか。収穫した野菜を食べてみたかったから朝食抜いて正解だったね・・・」
それぞれが一抱えもある収穫した作物を持って、家に帰った。まずはトウモロコシの皮を剥ぎ取って中身を露出させる。中には厚さ3cmの手のひらサイズの実がぎっしりと詰まっていた。
枝豆の中身はソフトボールほどの実が5~7粒ほど入っていた。ジャガイモはサッカーボール~バスケットボールくらいだろうか。大蒜は一粒が大きなおにぎりのような感じだ。
麦は魔法で乾燥させ、ビー玉大の実は手でもぎ取れた。実が大きくなったので脱穀する必要がなくプリッと剥いた中には真っ白な小麦粉の塊が入っている。
「じゃあ、順番に言うからそれぞれが持ってる野菜を調理してくれ。マイヤ、西瓜は氷室に持って行って冷やして置いてくれ。周りを氷で覆って置いてね。リュディーは、その小麦でパンを焼いてみて。ミヤのジャガイモは、マッシュポテトにしようか。アンジュの枝豆は塩ゆでにして、ヤルルーシカの大蒜はもちろん焼き肉のタレにしてくれ。そして俺が持ってるトウモロコシは、トウモロコシステーキにしてみるよ。じゃあ、調理開始」
トウモロコシの房から一粒づつ粒を取りだす事から始めた。粒の皮は結構固いので潰れてしまうことはなかったが、しっかりと芯に喰いついているため包丁で切り離す事にした。
生でも行けるんじゃないかと思うくらい切り口から甘い香りが漂い出している。中は瑞々しく汁けもたっぷりある。
軽く汁を舐めてみたら、エグ味もなくしっかりと甘い。生食もいける事を確認した。しかし今回は焼いてみる事にしているので、鉄板を温めてバターを軽く引いた上に切り出した粒を乗せて焼いて行く。
結構な厚みがあるので弱火でじっくりと焼いて程良く火が通ったら強火で焦げ目を付けて出来上がり。甘辛醤油タレが欲しいが、これは前世の記憶なのでない。塩バターで我慢する。
「出来たよ~。皆はどう? 出来たみたいだから試食会と行こうか。じゃーん。まずは俺のトウモロコシステーキです。結構固そうだったから表面の皮はナイフで切って中を食べてね」
どれどれ俺も食べてみようかな。やっぱり皮は硬いかな。でも一口。おおパリッとしてなかなか。良く火を通しておけばいけるかもしれないな。ではでは、中身をいってみましょうか。
ナイフとフォークで四角く切りだす。中は柔らかいな。サクサク切れる。まずはそのまま。は~、やっぱり甘いよこれ! 凄いな。
もっとおお味なのかと思ってたけど、そんなことない。火を通したから生食より甘く感じるな。歯ごたえは弱いけど、しっかりクリーミーだよ。
お、これ芽になる部分かな? おおこれはしっかりとした歯ごたえでホクホクしてる。メロンかそれ以上の糖度があるんじゃないかな。
塩バターを付けて食べるとさらに甘さが際立って、更にバターのコクと相まって美味い。
「あま~い。トウモロコシの団子とかあんまり好きじゃなかったけどこれはもう別物だね。バターがまたいい味引き出してて、ふぁ~」
早速ミヤが感想を口にした。
「皮もパリパリして美味しいよ。味がしみ込まないし甘さも控えめだからお口直しになる」
お、リュディーは皮にも挑戦したのか。そうなんだパリパリして皮の部分もおいしいんだよな。甘さ控えめでしつこくない。
トウモロコシは好評だな。次は枝豆ちゃんにしようかな。シンプルに塩で茹でただけだけど、しっかり豆だ。ホクホクして食べごたえもある。
うーん。さすがに中まで味が染みてないか。この大きさで塩茹でだけじゃしょうがないか。ならば塩を軽く振って、はぁ~、うまい。
ジャガイモは、っと。マッシュポテトだな。おいしいけど、普通かな? じゃがバターの方が楽しめたかもしれないな。潰しちゃってるから、食感も普通のジャガイモと変わらない。
ホクホクしてるかもよく分からなくなっちゃった。味は濃厚な事は分かるよ。これは料理の選択を間違ったかも。だからと言って普通のジャガイモに勝るとはいえども劣る訳ではないな。
「パンが焼けたよ~。匂いはもうすごくいいよ。食べてみて」
パン窯から取り出して来た焼き立てパンだ。
「これは凄くふかふか柔らかに仕上がってますね~。こんなの皇帝陛下だって食べてないじゃないかってくらいじゃないですか。香りもすごくいいですわ。少なくとも伯爵家ではこんな上等なパンは食べていませんでしたよ」
「ふぁ~。これ! ほんのり甘い! 砂糖使ったの?」
もうメロメロになってるヤルルーシカとミヤ。うん、普通の白パンでもメロメロだったのに砂糖を使ったんじゃないかと思う程の甘さがある白パン。勝てないよ。
「ううん。使ってないよミヤ。普通に焼いただけ。こんなにフカフカになるとは思わなかったよ。色も真っ白になったし。普通のはどうしても殻が入っちゃうけどこれは殻が剥きやすいし、中身も取りやすいからいいね」
これは確かに前世の記憶でも一流どころのパンと変わらない位のパンだ。色、香り、味、うん遜色ない。
たぶんこれにバターを練り込んだりしたらもっと美味しくなるんだと思う。これで水と小麦粉だけだって言うんだから凄いな。
「では最後にお肉食べましょう。これこれ。このガーリックソースを付けて食べてみて下さい」
実はさっきからもう暴力的な程のニンニクの香りが漂っていて、肉が食べたくてしょうがなかった。これは絶対うまい! どんな肉を使ってても美味いに違いない。パク。う~~~~。美味い!
「美味い、美味い。これは凄い大蒜だ。サラ! 美味いぞこれ。大蒜の香りがもう堪らん。食欲をそそるこの香りに、大蒜の辛みが効いて肉を一層美味くしてる」
「このガーリックソースをパンに塗って、軽く炙ってパク。う~~美味いな~」
「な、なんてことを思いつくんだ! サラ」
「あ~~~わたしもやりたい。やりたい」「ぼくもぼくも~」
なんだこの野菜たちは! めちゃくちゃ美味しいじゃないか。採りたて新鮮なこともあるんだろうけどそれを差っ引いても美味し過ぎる。
どれもこれも栄養が詰まってる感じがひしひしと伝わってくる。さて最後はデザートのスイカだけど入るかな~。ちょっと食べ過ぎたかもしれない。
一抱えもあるスイカをマイヤが持って来た。さてどうやって切ろうかと思っていたが、俺の持つ村雨で切るらしい。
「ええ~! 俺の村雨ちゃんが!」
「長刀だしエンチャントで冷えるからちょうど良いんだよ。ミヤ奇麗に研いでくれ」
スパッと切れるのはもちろん村雨が銘刀だからだ。しくしく、こんな事のために買ったんじゃないのに。でもあんまり役に立ってなかったから仕方ない・・・のか?
切られたスイカの断面を見ると種は少なめで食べ易そうだ。1/4程をザクザク切って残りは重ねてロープで縛ってマジックバッグに仕舞っておく。さて試食だ。水気は多いな。
まあ、スイカだからこれは当たり前として、真っ赤に熟して見た目も良い。大玉だから皮よりも実の方が多いのも良い。
さてお味はと・・・サクッ! シャクシャク! 凄いみずみずしくて甘過ぎ! 歯触りもシャクシャクだ。水っけは多くて、その汁はスイカジュースに砂糖を足したような感じ。
いやいや、ただ砂糖を足しただけじゃこんなにならないな。スイカのエキスを濃厚にした感じか。
・・・そうだ、前世の記憶では塩を振ってたな。甘くないスイカを甘く感じる様に食べるために塩振ってるとか聞いたことあるけど試してみるか。
・・・これだけ甘いと効果は微妙だな。まあさっぱり味のスイカだったら塩けも合うけどさ。
「そうそう、スイカの種取っておいてね。乾燥させて空煎りして塩振って食べると美味しいから」
「あら? そうですの。知りませんでしたわ」
「僕は聞いたことあるよ。この種は大きいから喰いでもあるんじゃないかな」
これも前世の記憶だ。ヤルルーシカが知らないのも仕方ない。ミヤはよく知ってたな~。
「皆はどれが一番うまかった?」
「パン! パンだよ!」「パンですね」「パンだな」「パンでしょう」「パ~ン~」
うん。全員一致でパンだな。そりゃしょうがないか。フカフカ柔らか真っ白パンは見たことないからね。
俺としてはスイカとトウモロコシ、うーんトウモロコシだな、が良いと思ったけど。総括としてどれも絶品だったと。収穫量も申し分なし。大森林での農業はそれだけで特産品足り得ると。
「じゃあ、早速収穫しちゃおう」
「「「おー」」」
収穫は予想以上に多かった。まずスイカ23玉、ニンニク10株、トウモロコシ54本、ジャガイモ117個、麦穂1016本、枝豆100さや。
枝豆はまだあるが、大豆にするためまだ収穫しないことにした。残りの大豆はおよそ900さやはある。ドライアドさんは明日には大豆にすると言っているらしい。
スイカ及びトウモロコシはまだ今後も収穫出来る様だ。花が咲きまた実を付けているからだ。ここは試験農園のため数粒しか植えてないにも拘らずこの収穫量だ。それも巨大な実がだ。農場には持って来た種全てを植えてしまった。
「不味いな。収穫が多すぎる。貯蔵庫にも氷室にも入りきらないぞ」
「通常の収穫で考えてたから、5~6人頭で10アールなんて考えていたけど作り過ぎだな。どうするサラ? 少し間引くか?」
「いや、もう手遅れだと思う。それにドライアドさんが頑張ってくれたので無駄にしたくない」
「なら早急に捌く手筈を整える必要がありますね。ほとんどの作物が保存ができますから問題ないでしょうがスイカは保存ができません。売り払うようにしましょう。氷室を拡大してスイカ優先で入れて行きましょう。持って来た雑納袋では全然足りません。結局どのくらいの種を蒔いたのですか?」
ヤルルーシカの問いに俺は答えた。
「それぞれ大体100粒だ。スイカだけは20粒だ。」
「そうするとこの大きさの収穫物が100から1000倍位になると思ってればいいですね。途方もないですね」
「・・・今から俺は別行動する。まずサンプルを持って父様のところに跳ぶ。きっとそのまま陛下に献上することになると思う。グレーハウンドウルフの毛皮とかも献上してしまおう。それと世界樹と命の葉も100枚位持って行く。売り先を決めてくるよ。俺が戻るまで後の事は任せる。頼んだよ」
「分かった。精々高値で捌いてこいよ。はっはっは」
「任せといて。じゃあ、直ぐに持って行く物を集めて!」




