第二章第十一話 転移魔法を習得しましょう
第二章第十一話 転移魔法を習得しましょう
転移魔法が非常に習得困難な訳はちゃんと分かって出来る人がいないからだろう。転移が出来ている魔法使いでもどうやって転移しているかは分かっていない。
感覚的に出来ているだけだ。逆に失敗から運用上の注意点は細かく分かっているみたいだな。さて、まずは天才になった気で転移をしてみるか。
「・・・やれば出来る。・・・やれば出来る。俺は天才。きっと出来る。信じれば救われる」
ぶつぶつ。
「なんかサラが危ない状態だけど。平気かな~。ちょっと怖いな~」
くっ! リュディーがなんか言ってるが気にしちゃいけない集中して。直ぐそこに転移だ。空間把握をして自分の周りの空気、およそ30cmくらいまで一緒に転移する感じで転移先を視認し、あそこに跳ぶことをイメージしてと。とぅー!
「・・・・・・」
「どうしたサラ? 大丈夫か? 腹でも痛くなったか? んん?」
「うん。転移魔法が難しい事が分かったよ」
「そ、そうか。でどうすればいいんだ?」
一通りの説明をしてみんなにも試してもらう。速攻でミヤが投げ出す。
「出来ない~。魔力はどうすればいいのよ~。わかんない~」
ヤルルーシカも魔力を使うタイミングが分からず苦戦中みたい。
「ええ。そうね。魔力はいつ使うのかしら。それが分からないと飛ぶ感じじゃ分からないわね」
「まずは空間把握とかそんなことは気にしないで身一つだけでやったらどうですか?」
アンジュ、ナイス提案だ。
「そうだよ。今日はもう遅いから寝てさ。明日お風呂場でやってみればいいんだよ。僕はそう思うな」
みんなのモチベーションが下がったので今日はこの位にしとくか。そんなにすぐ出来るとは思っていないからまあいい。しかし思ったよりこの転移魔法は難題だな。
ここまで何も解明されないまま、天才が偶然習得するに任せていたとは俺でも想像していなかった。もっと才能的な何かが不足して習得できないのかと思っていたのだ。
翌日、いつもの通り朝食を済ませ、試験農園に到着して更に生育している事が分かった。不味い。こんなに生長が早いと思わなかった。
早く麦踏をしないと。やっぱり春蒔きではなく秋蒔き小麦にすべきかな。ドライアドさんは任せろみたいなゼスチャーしてるらしいけど・・・。
取り敢えず麦踏みをして伐採の続きだ。ここまでは滅多に魔獣が入って来ないから、まずは草原地帯を囲むように防壁を作って、放牧出来るようにしよう。
この草原の草をどうにかしないと畑に出来そうにない。簡単なのは草食動物に食べてもらうことだろうと思う。
次は防壁の外にも農地を確保して、さらに第二防壁を作るべきかな。第三まで広げたら後は順次として、次はシュナイダー準男爵領までの道を広げて・・・馬車がすれ違える位までだな。
そしたら道の両側にも防壁を建てて、余暇空間と駅舎を建てとくか。そうしたら入植出来る様になるな。ひぇ~、そこまで開墾するの6人だけか~。
かなりキツイな。その前に人が雇えるようになればいいんだけど、父様と皇家はどう動いて来るかな。その前に他の貴族はどう動いて来るのか。
今までシュナイダー家は、ほとんど他の貴族との付き合いがなかったから味方がいないんだよな。
う~ん。母様の実家スンダ騎士爵家、長兄様のお嫁さんの実家レイダー騎士爵家、姉様達が嫁いでるバウム騎士爵家、マウロ騎士爵家、伯母様達が嫁いでるピエール騎士爵家、カザン騎士爵家、大伯母様のところは・・・もうお亡くなりになってるから無理か。
見事に騎士爵家ばかりだな。うちは人気ないからな~。代々融通のきかない軍家だし、その軍家の中でも上官に逆らうからかなり孤立してるんだよな。
つらつらと今後の事を考えながら作業を続ける。帰り道に試験農園に寄ってもう一度麦踏みをしておく。
それにしても生長が早いな。ドライアドさん頑張り過ぎではないですか。さあ、帰って飯食って、魔法の練習だ。
三日ばかりは、同じことの繰り返しだ。試験農園はもう麦踏みも出来ない位生長してしまった。普通ならもう収穫出来る位の大きさだと思うんだけど、まだ出穂してない。
分けつは・・・まあ凄い事になってるよ一粒しか植えてないのに数十、いや百に近いかもしれない。スイカはもう青々と蔓が伸びてしまっているので棚を作ってそこに這わせるようにしている。
転移魔法の方も進展があった。前の持ち主のメモ書きが挟んで有ったんだ。メモ書によると魔力は自分から転移先に繋ぐのがよしとなっていた。
細くとも必ず通す事、魔力線を通した後に転移する物を魔力の膜で覆うとなお良い。その魔力線を滑る様に飛び込むか魔力線の中を通る気で飛びこめとなっていた。今夜早速試してみるつもりだ。
食事も終えて、魔法の訓練のために風呂場に向かう。既に何回か行っているが裸になって余計なものなしで転移は訓練しているんだ。他に付随物が有ると難易度が増すからね。
今日は上手く行く気がする。メモ書きがあってればだけど。風呂場で早速魔力を構築していく。転移先は湯船の上だ。魔法構築よし。魔力線通した。魔力の膜で自分を覆って、いざダイブ。
「・・・・・・」
「どうしましたか? 風呂には入らないのですか? サラ? んん? 魔力が高まってますね。転移するつもりの様です。ああ、魔力が霧散していきます」
「ふ~。魔力線の上を滑るとか中を通るとかってどうやると思う、アンジュ?」
「さあ? やったことないですね。普通は魔力を飛ばしたり、伸ばしたりはしますが」
「じゃあさ。みんなでやってみようよ。一人じゃ出来なくても皆でやれば出来るかもしれないし」
リュディー、ナイス提案。行き詰った時は何でも試してみるべきだな。
「よし。そうだな。魔力が足らないのかもしれないからな。俺がやるからみんなは俺に魔力を供給してよ。それからみんなで飛ぶから僕に掴まって。空間把握がめんどいから出来るだけ固まってくれ」
視認して湯船の上に転移先を確定する。自分から魔力線を通して湯船の上に伸ばす。自分の周りに空間把握で大きな膜を張る。
「よし。みんな僕に掴まって、魔力供給を始めてくれ」
背後からマイヤ、前からアンジュが抱きつくような感じで、俺の首に手を回し密着して来る。リュディー、ヤルルーシカが左右の腕に体ごと密着する。
正面にはミヤが立っていてどこに掴まろうか考えているようだ。マイヤ、アンジュ、リュディー、ヤルルーシカから魔力供給が始まった。
「ミヤ! 早く。もうみんな始めてるよ!」
みんなから送られてくる魔力を体内で練り直し、みんなを包む膜に流す。ついでに転移先までの魔力線を余剰の魔力で太くしておくことも忘れない。
「ミヤ! ミヤ! 後君だけだよ」
「え~と。魔力はもう練って有るけど、どこに掴まろうかな? しょうがないな、じゃあこれで」
ミヤがなにに掴まったかは、語るまい。とんでもない物に掴まったとだけは言っておこう。
「ど、ど、どこ握ってるの!?」
咄嗟に腰を引こうとしたが、後ろにはマイヤ、左右にはリュディーとヤルルーシカがいて逃げ場がない。
「こ、こら。逃げるな。お、お、何か握りやすくなってきたぞ。ひひひ。少しサービスしてやろうかな? 両手で握ってと。元気、元気」
「ちょ、ま、待って。やめて、やめて」
それでも俺は魔力構築を手放さなかった。うん、大したものだと思う。魔力を構築したら多少の事では手放してはいけないとリュディー先生とヤルルーシカ先生から厳しく訓練を受けたからだ。
魔力構築中に叩かれたり投げ飛ばされたり色々やられた賜物だ。でも、心が逃げたがってるんだ。
思わず魔力で逃げ出した。ザブン。気が付いたらみんなで頭から湯船に突っ込んでいた。
「ぷはっ! な、なに? どうしたの?」
辺りを見回して叫んだのはリュディーだ。続けて皆がお湯から顔を出して、辺りを見回す。掴まれていた俺は一番最後にお湯から顔を出した。
「ぷはっ~。げほげほ。お湯飲んじゃったじゃないか! ・・・あ、あれ? なんでお湯飲んだんだ? え、湯船の中?」
「やったな! 転移成功だ。数mだが転移したんだ」
「おめでとうございます。サラ。転移魔法習得ですね」
「「「おめでとう」」」
みんなからの祝福を受けてやっと俺もなにが起きたのか把握した。ミヤから逃げようとして転移してしまったのだ。ミヤが湯船から顔を半分だけ出しながらスイ~っと近寄ってきた。
「ひひひ。サ~ラ~。僕のお陰じゃないかな~。サラはこれを握られると転移出来るんだよ。元気、元気」
「わっ! ち、違うに決まってるだろ。いつまで握ってるの!」
「理由はさておき、これで片道一週間前後かけて通っていたシュナイダー準男爵領への道行きが楽になるな。その内いっぱい稼いで固定の転移陣を設置すれば、安全に行き来が出来るようになる。まあ、まだまだ先の話になるだろうけど」
マイヤの構想を否定する俺。シュナイバッハ侯の説明を思い出す。
「あ~。転移陣はちょっと難しいかもしれないな」
「ん? なぜだ? 巷では転移陣が有ればもっと楽なのにとか良く聞くぞ」
「うん。まず転移陣がどこかの公爵家だか侯爵家の専売品な上に作るのがすごく大変らしい。その上、寿命も短いから直ぐに交換しないといけないから普及出来ないんだ。さらにものすごく高い。皇家とか一握りの高位貴族しか使ってないんだって」
「なるほどな。それで噂は聞くけど実物はお目にかかれないんだな。だから高くても転移の魔導書を買った訳か」
「まあそんなところ。さあ、みんなも練習しよう。コツはね逃げるんだよ魔力ごと。ふふふ」
一度コツを掴んでしまえば、もう転移魔法は出来る様になった。お風呂場の中をヒュンヒュンと転移して皆の魔力をチェックしていく。発動の練習のため転移を繰り返してるんだ。
みんなはやっぱりなかなか出来ない様で苦労している。口でいくら説明しても理解が出来ない様なんだ。魔力線の中をニュルっと滑って行く感じじゃ伝わらないよね。
「うーん。よし。じゃあ、みんなでもう一度跳んでみよう。今度は俺に魔力を供給する必要はないから俺の魔力に自分の魔力を乗せて流れを掴んで見て。ミヤはもう握らなくて良いからね!」
先ほどと同じようにみんなが僕に掴まる。アンジュは俺の胸に手を回し、ミヤは腰に手をまわして抱きつく。俺が魔法を構築していくと皆の魔力が僕の魔力の上をなぞり始める。
俺がゆっくりと転移の前準備をしていざ転移する瞬間、魔力線に魔力を流すのと同じように俺達を覆っている魔力の膜ごと俺たちを流した。ザブン。次の瞬間には全員で湯船の中に立っていた。
「どう? 感じ分かった? ニュルっと流れたでしょ」
「へへへ。あたし分かっちゃったかもしれない。確かにニュルって感じたよ。これって女の方が分かりやすいんじゃないかな?」
リュディーが気付いたようだ。なにに気付いたかは分からないけど。
「? どういうこと? 僕分かんない」
「ああ、そいうことか。確かにニュルっとな。ミヤとヤルルーシカはやったことないか?」
「? どういうことでしょう? なにをでしょうか? アンジュも分かりましたの?」
「ああ、分かるよ。やったことはないけど知識としてはな」
「あん? やったことないのか? リュディー、やってやれ。 ミヤ、ヤルルーシカは私がやってやるから、こっち来い」
ひゃんとかヒッとかヤンとか言ってニュルっとされていた。まあ、指をニュルっとね。真赤な顔をしたヤルルーシカがなんて事するんですか!
とか言って怒ってる。ははは、すまんすまん。年頃になると自然と自分で普通はやるもんなんだが、むっつりだからまだなんだろうと思ってな。なんてこと言うんだ。俺がいるところで!
「コホン。確かにニュルは、実感しました。魔力の膜ごとニュルですね。おおよそは理解しましたが、出来るかどうかはまた別の話です。そこそこ魔力も使うようですから可能性があるのは現状ではリュディーと私だけですね。マイヤ、ミヤ、アンジュはもう少し魔力量を増やす方の訓練をしないと難しいかもしれません」
「そうですか。最近そこそこ増えてきたと思ってましたが、まだ足りませんか。もっと魔力を限界まで使うようにして鍛えないといけませんね」
「え~と。じゃあ、ちょっと試してみたい事があるんだけど。魔力量の少ない順に手を繋いで行って輪っかになって、マイヤが一番少ないのか、思いっきりミヤに魔力を流して見て、次の人は同じ量だけとなりに流していってね。俺が最後少しだけ多く流すからマイヤは、その魔力をそのまま次の人に渡す感じで流してくれ」
最初はちょっとだけだったのがギュンギュン魔力が流れて、ヤルルーシカがめいっぱい流す位でマイヤ、ミヤ、アンジュが音を上げた。
ヤルルーシカとリュディー、俺で再度試すと今度はリュディーが限界を超えてもう少し行ったところで二人とも音を上げた。
「な、なにこれ。自分の限界以上の魔力が体の中ギュンギュン通って広げられてるって言うか広がってるって言うか」
「やっぱりあまり魔力を流してない方が一気に広がるね。今度は自分の魔力を流してご覧」
「ひょ~。流れる流れるまだまだ行けそうだよ。ギュンギュンギューン」
慣らしながらおいおい広げて行けば一気に魔力量も増えるだろう。さてそろそろ上がって寝るか。




