表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/107

第二章第九話 大森林開拓始め

第二章第九話 大森林開拓始め



 圏内には世界樹を中心にそれぞれ命の木や薬草が同心円状に広がっている。世界樹の幹が直径約20m、なにも生育していない部分の幅が15mの帯状、命の木が生育してる辺りが15mの帯状、そのまま薬草園と呼んでる辺りが40mの帯状、そして草原と呼んでいる部分が120mの帯状に広がっているここまでが世界樹の圏内だ。


 その外側から森が延々と続いているのだ。この森だけでシュナイダー準男爵領に匹敵する大きさも有り、更に西には山岳部を有している。


 南になにがあるかは分かっていないが、海があるのは間違いない。遠洋航路から岬が確認されているのは確実だからだ。


 しかし近付く航海者はいない。魔物の巣窟になっており海側からこの大森林に近づくのは自殺行為とされている。


 いつも通り、ごちゃっと固まって寝ており、俺が一番に目覚める。たぶんだけど本当は皆も起きてる。


 けど危険がないからそのまま惰眠をむさぼってるだけだと思う。こんなに寝起きが悪かったら冒険者なんかやってられないと思う。あっさり野宿でお陀仏だ。


 ごそごそと動き出して塊から抜け出る。最近は遠慮なくみんなを押しのけて抜け出すようになった。多少触ってしまうがもう気にしない。


 気にしないったら気にしないんだ。そう決めた。ヘビースパロウ討伐作戦で負った負傷でさんざん醜態をさらしているんだ、もうなにも恥ずかしい事はない。


 だからって寝方を妥協するつもりもない。いつか改善してやる!


 さっさと塊から抜け出して、お茶の準備を始める。朝一番のお茶の習慣も大分馴染んで来た。


 最初はお貴族様の坊っちゃんはこれだから話にならんみたいな態度だったけど、今では皆優雅にティータイムからゆっくり起床することが板について来た。お茶は心の平安だ。


 うーんと伸びをしてから魔法で水を生みだす。軽く体を拭いて、顔を洗い歯を磨く。その頃にはお湯が沸くのでお茶を準備しておく。


 朝の支度はお風呂場で行っている。水が一番使われているのがお風呂場だからだ。生活用排水はここから溝を掘って薬草園の方に排水している。


 今のところあっという間に地面が吸い込んでしまうのでぐちゃぐちゃしてない様だ。


 その頃にはヤルルーシカが身支度を整え合流して来る。最近は朝の挨拶の時にハグするようになった。その時にぺたぺたと俺の体を触って何やら確認している。


 うん、この間の負傷からの習慣だ。残念ながら拒否権はない。負傷が癒えてからもこの習慣は残り、最後にはほっぺでスリスリする事が加わって来た。親愛の表現と受け取っている。


「おはよう」


「おはようございます」


「・・・」


ハグとスリスリが止まらない。軽く背中をタップしてやっと解放された。そのまま俺の横に陣取る気の様だ。


 お茶を入れて出すとふぁ~っと伸びをしながら俺に寄りかかるようにしてお茶を飲みだした。皆もそれぞれ起き出して来て身支度を整える。


ハグ、スリスリ、ペタペタ。


ハグ、スリスリ、ペタペタ。


ハグ、スリスリ、ペタペタ。


ハグ、スリスリ、ペタペタ。


ハグ、スリスリ、ペタペタ。


 全員が俺の体調を確認してやっと終わる。マイヤのハグは豪快だ。むぎゅーってなるくらいに抱きしめてくる。リュディーははずかいしいのか後ろから抱きついて来る。


 後ろ手にハグし返すのはなかなかの難事だ。こんな感じで全員が俺の確認を済ませてからお茶タイムがここ最近の日課になっている。


 朝の水分補給で体が目覚めたら朝食だ。そうそう、卵をゲットした。世界樹の上の方には結構な数、何かの巣があることが分かったんだ。少しずつ頂戴して目玉焼きにしてる。


「さて、みんなで薬草園の畑を確認してから伐採に行こうか? 全周ぐるりと伐採して草原部分を囲うように外壁を作ろう。そうすれば放牧も出来るんじゃないかなと思ってるんだ」


「にひひ。薬草園との間にも柵が必要だね。そんで牛飼えば牛乳飲めるようになる~」


 ミヤは育ち盛りだから牛乳大好きだ。続いてマイヤの報告。カップを片手にお茶を飲みながらだ。


「さかなが異常繁殖しだしてるから、さっさと間引かないととんでもない事になるぞ。やっぱり皮のなめし工程短縮で泉に毛皮を沈めてるから餌が豊富になったのが原因だろうな」


「そっちは時期を見て投網で一気に獲ってしまおう。干物の作業の方が大変そうだね。う~ん。マジックバッグに入れて父様の領地で人手を雇って加工してもらおう」


「卵はどうする? 結構あるよ。獲り放題だよ? こっちも今後の農業の事考えたら間引いておいた方が良くないかな?」


「そうだね。害鳥になる種類もいると思うから、これも獲っちゃおう」


「ポーション類に手が出せなくなってきたね。てへへー。これも薬草だけ取っておいて、加工はお願いしちゃおうか?」


 相変わらずリュディーは薬師の仕事は怠けようとする。


「周辺の魔獣は大分狩りましたが、続々集まってきている感が否めないですね。毎日、二、三十頭位は狩ってるけどなかなか減らないですね」


 アンジュは真面目に討伐数の報告だ。


「そっちも問題なんだよね。魔獣が減らないと人も連れてこれないし、いつまでたっても人手不足のままだからね。と言っても皇家の方で世界樹の発表が出ないと連れてはこれないんだけどね」


「まあ、なんだ。周辺の伐採が済めば自然と減ってくるだろうから、まずは伐採を進めるのが良いだろう。その後は南と西を切り開きながら鉱石と塩や海産物だな。特に塩は早急に手を打っておいた方が良い」


 塩は今も昔も重要だ。これがないと生きていけない。


「マイヤの言うとおり。塩は早めに自給できないと詰むからね。それは俺も考えていたよ。そうなると製塩か~、誰か知ってる?」


「知らないだろうね。ヤルルーシカが知識として多少はあるぐらいか?」


「ええ。本で読んだ事がある位よ。実際には、海水からの製塩はえぐ味が多くてだめらしいとは聞いているわ」


「うん。そこに関しては俺に考えがあるんだ。任せといて」


 前世の記憶がある俺には、にがりが塩の味を悪くしている事を知っている。恐らくこちらの世界の人は海水を完全に乾燥させて塩を作っていると思う。


 だからにがりもそのまま塩に残っちゃってるんだと思う。魔法があるから乾燥が簡単なんだね。ウィンディーネさんに出て行ってもらえばいいんだから。困ったもんだ。


「まずは、試験農園に行って作物の様子を見てから、圏外をぐるっと伐採してみよう」


 食後のお茶も済み、後片付けもした後、皆で連れ立って試験農園を目指す。昨日の約束通りリュディーと手を繋いでいる。


 反対側にはミヤだ。三人で繋いだ手を振りながら歩いて行く。近いからすぐ着くんだけどね。


「おお~。芽が出てる。やった~」


「いやいや、芽が出てる以上だろ!? おかしいだろ? 昨日植えたんだろ?」


 無邪気に喜ぶリュディーにマイヤがめっちゃ突っ込んでくる。確かに既に5cmほどに成長している芽は双葉も過ぎて、四、五枚は葉を付けている。ちょっと生長が早い。ちょっとか?


「しょうがないさ~。だってドライアドさんが元気だもん。やる気満々だね。めちゃくちゃ手ー振ってるよ」


 なんて、リュディー先生が宣う(のたまう)。リュディーは種族特性のせいか精霊が見える様だ。俺達人間の場合には、スキル精霊視がないと見えない。


 悩んでもしょうがないので生長が早いのは良い事としておこう。結構早くに収穫出来ちゃうかなー。残りの種も植えちゃおうかな。一回収穫してからで良いか。明日以降が楽しみだ。


 リュディーに頼んでドライアドさんにお礼を言ってもらい、その場を後にする。シュナイダー準男爵領に続く道の前まで来た。


 東側は昨日既に伐採が済んでいるので西側を皆で伐採していく。伐採した木は直ぐに枝打ちして乾燥。丸太の先端をとがらせる。最近開発した土魔法で地面を液状化させて杭を打ち込んでいく。


 身軽なリュディーが杭にスルスルッと登って行って上端をロープで固定していく。下端は俺がロープで固定する。


 剛力コンビは伐採と切り株の引っこ抜きだ。切り倒した木を枝打ちして先端をとがらせた丸太にするのはヤルルーシカとアンジュだ。


 二人が怪力で丸太を縦に持ち上げ、杭の上からリュディーが乾燥させて、下では俺が地面を液状化させて待機する。


 リュディーが怪力で丸太を受け取ってズボッと液状化した地面に突き刺してまたロープで固定していく。


 当然の様にみんなマッドゴーレムを生成して整地作業をさせたり枝打ちした枝を集めさせたりと同時進行させている。


「なんか来るよ。全員作業を止めて迎撃態勢準備」


 ミヤが真っ先に警告をとばす。真面目モードのミヤだ。即行で防具を身につけ武器を構える。マイヤ、アンジュ、ミヤのスリートップ、その後ろに俺。


 最後尾に弓を構えたリュディーとメイスを構えているヤルルーシカ。


「はん! やっとお出ましだよ。バイカルベアだ。視認出来てるのは一頭。四足歩行のままこっちに突っ込んでくるよ」


 長老がこいつが来たら逃げろって言ってた魔獣の最後の一種。肩や背中、額、頭部から大小さまざまな角が刀剣よろしく生えている。


 大きさはおよそ3m強。小ぶりな方だ。まだ若いオスのバイカルベアなのだろう。


「まだ小さいよ。こう言うのが来る時は、でかいのがどっかに居るから注意しな。まったくグレーハウンドウルフとおんなじで連携して来るから始末におえないよ」


「でもグレーハウンドウルフほど賢くないので連携をそこまで警戒する必要はないわ。それよりも全身に生えてる角に注意して」


 マイヤとヤルルーシカの警告が飛ぶ。俺にとっては初お目見えの魔獣だ。なるほど接近するのも困難だな。


 周囲の警戒は恐らくアンジュに任せておけばいいから、俺は魔術に集中して後ろ脚辺りを打ち抜けば後は前衛が処理してくれるだろう。


 先制の矢がリュディーから放たれた。真っすぐバイカルベアの目にめがけて飛んでいく。ひょいってな感じで頭を下げ、必殺の矢を額の角で受け、そのまま突進してくる。


「ちぇっ! やっぱりだめか」


 失敗を前提で放たれた矢。たぶん俺に見せるために放ったんだろうな。狙いを額にしたら弾かれると。やっぱり先に足を殺すべきだな。


 魔力を集中して後ろ脚をロックオン。発射ーー。――っ!?。発射と同時に跳びやがった。あの近距離からの魔法攻撃を避けられたのは初めてだ!!


「サラ! バイカルベアは魔力の流れを読みます。チンタラした構成で発射したんじゃ避けられますよ」


 アンジュからの指摘が飛んで来た。あちゃー。先に教えてよって言っても。これ以上早く構成を編めない。こんなところで練度不足が露見してしまった。


「あー。ごめん。あれ以上早く編めないや。石弾は諦める」


「了解した。ミヤ! 二人で一旦あいつを止めるよ。エンチャントを広く延ばして正面から叩きつける。剛力全開で吹き飛ばすくらいで行くよ」


「はいな~。おりゃあああああ」


「ふんっ」


 前衛二人が正面から迎え撃つ。ドゥゴンッ! 凄い音がしてバイカルベアが停止する。そこから一頭対二人で力比べかと思いきやアンジュが既に右斜め後ろから後ろ脚に双剣を叩き込んでいた。


 もんどり打って倒れ込むバイカルベア。今だっと思って、顕わになった心臓めがけて石弾を発射。


 三本の脚だけで飛び跳ねてかわす。そこには既に細剣を構えたリュディーと両手用メイスを大きく振りかぶったヤルルーシカが待ち構えている。


 ここで横から標準体型のバイカルベアがもう一体、俺めがけて突っ込んでくる。こちらの陣形を崩すのが目的だった小型のバイカルベアは、後退する間もなくリュディーとヤルルーシカに仕留められている。


 問題は俺に突っ込んでくる標準体型5mほどのバイカルベアだ。もちろん俺の体勢は崩れてないので迎え撃つ事は出来るけど、果たして怪力も剛力もない俺で迎え撃てるだろうか?


 ましてや堅殻や金剛もない俺が無傷または軽傷で済むだろうか? 答えは否だ。では俊敏も瞬歩もない俺がさっとかわすのも無理と。絶対絶命かな。


 最初から俺狙いだったのね。よく見ていらっしゃる事バイカルベアさん。苦し紛れの土壁の魔法で足止めを試みるも、あっさり貫通してそのまま襲いかかって来た。


 構えた刀にエンチャントはもちろん出来ないまま迎え撃つ。俺の刀を額に受け、その場で止まる。両肩に大剣とハルバードの一閃を受けて止まってるんだけどね。


「ひひひ。あまいよ、あまい。そんな見え透いた手に引っかかるミヤちゃんじゃないよ」


 一歩下がって、バイカルベアの口めがけて刀を突き込む。俺の刀がバイカルベアの口に吸い込まれるのと同時に両側からミヤ、マイヤともどもバイカルベアの腕に抱え込まれる。


 金剛ペアが俺を挟んで互いに腕を押しながらバイカルベアのベアハッグに耐える。もちろん卵の殻の様に柔らかい俺に負担をかけない様にしているが如何せん体勢が悪い。


 俺がいなくなれば二人はもっと力を込められるはずだが、二人に挟まれて俺も動けない。俺の両手突きはバイカルベアの口の中を貫通して背中に抜けている。


 周りからリュディー、アンジュ、ヤルルーシカの攻撃が叩き込まれているが、体を揺すって角で牽制するため決定打にはなり得ない。


「切り刻め村雨!」


 俺の長刀から無数の氷の刃が発生し、バイカルベアの頭部を切り刻む。数秒後にはドサッとくず折れるバイカルベア。


 その頭部を一閃して切り飛ばす。二頭を仕留めた俺達から複数の気配が遠ざかって行く。ようやく戦闘終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ