第二章第七話 害獣討伐
第二章第七話 害獣討伐
害魔獣認定されたヘビースパロウ。性格は温厚で人を襲撃することはないが、作物を荒らす。これが小鳥程度なら放っておいても良いのだが、巨鳥のためその被害も甚大になると予測される。
よって討伐するしかなかったのだ。またその肉は美味であるとも言われており皆の期待も膨らむ。
「リュディー、アンジュ、世界樹に巻きついている蔓をほどいてくれ。万が一のため根っこは抜かないで世界樹に一回絡めといて。出来るだけ長く確保してね。ミヤとマイヤは捕獲用の縄と網、俺とヤルルーシカで楔を作製するよ。奴を地面に縫い付けるためにね」
まずは討伐用の道具作りから作製を始めることとなった。アンジュとリュディーは、既に世界樹に登り始め、蔓の先端をほどきに向かった。
ミヤとマイヤは蔓や蔦を細かく裂き、より合わせて縄の作製にかかる。俺とヤルルーシカはと言うと。
「さて、あの巨体を地面に繋ぎとめるにはどのくらいの楔を打ち込んだらいいのかな」
「そうですね、たぶんマイヤとミヤの二人ががりでも引き抜けない位の楔でしょうか」
「・・・現実問題としてあの二人が引き抜けなかった巨木の切り株ってあったっけ?」
「・・・いえ、最後には二人掛りで全ての巨木の切り株は引き抜いたと思います。でも、周りの土をゴーレムにしたり太そうな根っこは斧で切ったりしてましたけど」
「・・・」
「どうしましょう?」
「かなり太い木を深く打ち込むようにして、更に返しを付けよう。一本じゃ絶対無理だから複数本を埋め込むしかないね」
準備は着々と進み、世界樹に繋がる蔓二本、固定用楔付きロープ十本、おびき寄せ用の罠一個を用意していざ討伐開始。
世界樹の上でリュディーとミヤが待機。それぞれが片手に世界樹から伸びている蔓を持ち、手ぐすねをひいて待つ。
マイヤとアンジュは後方で待機。討伐要員だ。そして俺とヤルルーシカがくさび付きロープで奴を地面に固定する役だ。
「みんなー。準備いいかー!」
「「「おー!」」」
こうして始まったヘビースパロウの討伐作戦。皆の返事を受けて俺が罠になけなしの小麦を撒く。
世界樹から伸びた蔓を丸くした中に餌を撒いて、アンジュが一気に罠を発動させヘビースパロウの足に絡めると同時に上からもう一本の蔓をミヤが掛ける作戦だ。
さらに俺とヤルルーシカがくさび付きの縄で地面に固定する手筈になっている。ミヤの上からかける蔓は失敗する可能性が高いので俺たちで地面に固定できるかがカギになってくる。
そこまで行けば、アンジュが双剣でヘビースパロウの羽毛を除去し、そこにマイアの大剣でとどめだ。ふふふ。皆疑問に思うだろう。
どうやって楔付きの杭を打ち込むのか。はい、開発しました。土魔法ですね。地面を液状化させ、緩んだ地面に一気に差し込み、魔法を解くとあら不思議。
地面にがっつり食い込んだ杭の出来上がりだ。餌となる木の実や果物も撒いて、ヘビースパロウを待ち構えることしばし。
徐々にヘビースパロウが近付いて来る。ヘビースパロウが餌に食いついたと同時にアンジュが罠を発動させ、蔓が足首に絡まる。
ミヤがすかさず世界樹の上から投げ縄よろしく蔓を投擲する。これは残念なことに外れるが、俺とヤルルーシカは既に走り出している。
最初の縄をかけくさび付きの杭を打ち込んだとと同時に、一気に引っこ抜かれる。ヘビースパロウが飛び立ったのだ。
ヤルルーシカは次の杭の準備のため既に縄から手を離していたが、俺はそのまま引っこ抜かれ、大空高く舞い上がった。
「サラーーーっ!! 手を離せっ!!」
ハッとして、慌てて手を離すも一瞬で20mもの高さまで引っこ抜かれて大空を舞っている。手を離したが、若干遅かった。
さすがにスキルなしの俺がこの高さから落ちたらただでは済まない。ミヤとリュディーは世界樹の上。ヤルルーシカはヘビースパロウに煽られて転がってる最中。
最後方に位置したマイヤとアンジュが全速でこちらめがけて走ってくるが、間に合いそうもない。
俺は槍投げの槍が飛んで行くように放物線を描きながら頭から地面に向かって落下中だ。それもかなりの速度でだ。
ヘビースパロウが飛び立つ勢いが初速となって俺は皆からどんどん離れながら地面を目指している。このまま顔面スライディングを決めるのは頂けない。
両腕に魔力を集めて風魔法を準備する。激突寸前に地面めがけてぶっ放した。当然作用反作用の原理で落下の勢いを殺し上半身が180度クルンと回転し足から着地する。
ベキバキと凄い音がして俺の両足がへし折れ、後は錐揉みをしながら地面を転がって行くだけだ。
咄嗟に後頭部を両手で保護しながら、丸まろうとはしたけど凄い勢いであちこちに体が引っ張られて地面を削りながら数十mを転がって停止する。ここで既に俺の意識はない。
◇ ◇ ◇
最後方に居たあたしは上空からサラが落下して来るのを見ると同時にダッシュし始めました。前を行くマイヤが何やら叫びながら既にかなり前を走っています。
出遅れたと思いながらも一気に加速して行きます。世界樹の方をちらっと見ましたが、ミヤとリュディーが凄い速さで世界樹から下りてきますが全然間に合いそうにありません。
一番近くに居てコロコロと転がっていたヤルルーシカが回転の勢いを殺して素早く立ち直りダッシュして来ます。
如何せん初動がとれなかったので、こちらも間に合わないでしょう。マイヤかあたししか恐らく間に合いません。
前方を走るマイヤを瞬歩で抜き去り、落下して行くサラを受け止めるべく手を伸ばしますがまだまだ3m程届きません。サラが地面めがけて風魔法をぶっ放しました。
そこで二歩を詰め、残り1m。体を思いっきり伸ばし、手を伸ばします。あとほんの数十センチ足りません。
サラの足が地面に激突します。凄い音がしたけどこれで一気に詰めよりました。後もう数センチ間に合わない!!
サラが頭部を保護しながら目の前で地面に激突して行きます。目の前でサラが壊れて行く様を見続けるしかありませんでした。
やっと止まったサラを慌てて助け起こそうとしたけど怖くて触れませんでした。一瞬の躊躇が功を奏しました。
「触らないでっ!! 頭を打ってるかもしれないから! 生きているかだけ確認してっ!」
ヤルルーシカがこちらに向かって叫んでいます。遅れてマイヤも到着しました。サラの傍に屈むと顔を近づけて呼吸を確認しています。
あたしはそれを棒立ちのまま見てるだけしかできませんでした。血塗れであちこちへんな方向に手足が曲がってる物体と化したサラを眺めて震えているだけでした。
「まだ生きてるっ!! ヤルルーシカ癒しをっ! 急げ! 呼吸が小さくなって来てる」
ヤルルーシカが癒しの呪文を唱えながら、全力で走ってきます。ほんの一瞬、初動がマイヤより遅れました。自分だけは分かっています。
マイヤと同時に走り出していればサラを引っ掴む事が出来たでしょう。後数cmだったのでしたから。凄い後悔が押し寄せて来ました。
これはあたしが出遅れたから間に合わなかった結果です。サラがまだ初心者である事は分かっていました。皆がフォローしているのも分かっていました。
「ごめんなさい。あたしが遅れました。間にあってたはずなのにっ!」
ミヤとリュディーが両側からあたしを抱きしめます。けどそれを振り払ってしまいそうです。自分だけは分かっているのです。出遅れた事を。
「そんなことないよ。アンジュが一番早かった。それでも間に合わなかったんだよ」
「違うっ!! あたしは間に合ってました。マイヤと同時に走り出していればっ! サラを引っ掴む事が出来たのです」
「ふんっ。自惚れなさんな! あんたが私と同時になど走りだせるものか! あれは私だから出来た判断さ。私が瞬歩のスキルを持っていれば間に合ったんだ」
「それこそ無理だよ。僕でさえまだ瞬歩にはなってないんだから」
「グダグダ言ってるんじゃありません!! まだ死んだわけではありませんよ! さあ、応急処置は済みました。マイヤ、サラを拠点に運んで。まだ出血を抑えただけです。早く本格的に治療しないとホントに死にます」
ヤルルーシカの激怒した声が響き渡りました。こういう時癒し手である彼女は強いです。
体のそこら中から骨が飛び出して血まみれのサラをマイヤが抱え上げます。拠点に連れ帰る間中、皆無言でした。
拠点に連れ帰ったサラの衣服を皆ではがして、飛び出している骨を正常な位置に戻して行きます。この作業は凄く辛いです。骨を無理やり体内に戻す度にサラの体がビクンビクン跳ねるのです。
この作業の間ずっとヤルルーシカが癒しをかけ続け、出血を抑えています。
手、足、肋骨、腕、太腿、鎖骨、全ての骨を元通りの位置に直し終わって、サラの腰に入っている万能薬をと思いあさりましたが粉々になっていました。
骨を元に戻した段階で、ヤルルーシカの魔力が尽きました。リュディーが慌ててポーションの材料を取りに行きます。
ミヤも着いて行くようです。気絶したヤルルーシカを寝かせて、マイヤがサラの血を拭きとって行く。あたしは見てるだけしかできませんでした。
◇ ◇ ◇
俺が目を覚ますとヤルルーシカがやっぱり俺を抱え込んでいた。そっと問いかけてくる。
「目が覚めましたか?」
「ああ、すまない。どうなった? ヘビースパロウは仕留められたかい?」
「最初に聞く事がそれですかっ! 君は生死の境をさまよっていたのですよ!」
「え? うまく着地出来てなかった?」
どうやらヤルルーシカを怒らせてしまった様だ。目覚める前と後でほとんど変化がないのでどうなったか分からなかったのだ。
「最善ではありましたけど、最良には程遠かったようですね。ヘビースパロウに引っ張られた初速分はどうにもならなかったですから」
「あちゃー。そうか、ただ落ちただけじゃなかったもんな」
「どこまで覚えていますか?」
「ん? 風魔法をぶっ放したとこまでかな?」
「そうですか。あれから3日経ってます。皆を呼んできますからそのまま寝ていなさい」
そう言って寝具から抜け出したヤルルーシカはなにも身につけていなかった。全身に淡く光をまといながら衣服を着用していく。
だんだんとその光が消えて行った頃に衣服を着終わっていた。慌てて顔を背けようとしたけど体が動かなかった。
そっと部屋を後にして行くヤルルーシカを眺め、三日も経ったのか~とか思っているとだだだっーと皆が集まって来た。
「サラ。気が付いたんだね。良かったよ。もう目覚めないのかと思っちゃったよ」
「うん。うん。治療したのにピクリとも動かないから、どうしようと思ったよ」
ミヤとリュディーが真っ先に声をかけて来る。
部屋に来るまではものすごい勢いで皆が駆け寄って来たけど、その後は恐る恐る触ってくるだけだった。半泣き状態のミヤとリュディーが俺の頬を撫でる。
青い顔のままその後ろで立ち尽くすマイヤとアンジュ。俺は二人を見ながら手を伸ばそうとするけど動けない。直ぐに近寄ってきた二人に笑いかけながら謝罪した。
「ごめん。判断を誤った。咄嗟に手を離せなかったよ。マイヤの声が聞こえなかったらもっと高くまで行ってたかもしれない。助かったよ。アンジュは早かったね~。絶対間に合わない距離だと思って魔法の準備したんだけど目の前まで来るとは思わなかったよ。ありがとう」
「ち、違う。間に合わなかった。あたしがもっと速く走りだしてたら間にあったのに!」
「ははは。そりゃ無理だよ。あれで間に合ってたら、俺の方が驚いちゃうよ。あれは俺の判断が遅かったから引っこ抜かれたのさ。現にヤルルーシカは手を離していたからね」
「私が瞬歩をマスターしてれば間にあったのにすまん」
「ぷっ。そんなこと言ったら俺が甲殻やら俊敏やらマスターしてれば良かったのにって言うのと同じだよ。また変な所を気にしてるんだな。どっちにしろその後の対応が早かったからこうして生きてる。みんなありがとう」
マイヤとアンジュが泣きながらごめん、ごめんを繰り返しているが二人に責任はない。あれは油断していた俺の責任だ。
何の脅威もない魔獣だからって油断し過ぎていた。あっさり討伐して美味しい肉を食べようとか思ってる段階で油断していたんだ。
「二人に責任はないよ。こっちが申し訳なくなってくるよ。謝らないで。そこは叱るとこでしょマイヤ。それよりその後はどうなったんだ?」
その後の顛末を聞いて、俺の状態が凄まじく酷かった事を知った。よくあれで首の骨が折れていなかったと感心されてしまった。
アンジュとマイヤが責任を感じ過ぎてるのは、あまりにも酷い状態を目の当たりにしたからだろう。結局ヘビースパロウは、そのまま逃げて行ったらしい。その後は戻ってきてないそうだ。
目覚めない俺の面倒は、ヤルルーシカが一手に引き受けて全身で癒しの魔法を行使しながら俺を抱え込んでいたらしい。
ヤルルーシカが力尽きた後は皆で抱え込んで体温を保っていたそうだ。ほとんど仮死状態で放っとくとそのまま死んでしまいそうだったらしい。
随分迷惑をかけちゃったな~。昼間はお家を直して過ごして。夜は皆で抱え込んでくれていたようだ。
あのあと、リュディーはエリクサーと万能薬を製作しようと頑張ってくれたらしいが成功しなかった様だ。申し訳なさそうに申告して来る。
そんなにあっさり作れるような物じゃないんだからシュンとしなくても良いのに。ふふ。こうしてヘビースパロウ討伐作戦は失敗に終わった。




