第一章第九話 拠点作り②
まだ農作業は始まらず・・・。どうも一直線に農業に向かわないな主人公が。作者のせいではないことを明言しておこう。・・・申し訳ない。作者のモチベーション向上のため感想評価お待ち致しております。何卒よろしくお願い致します。
第一章第九話 拠点作り②
翌日、俺はお休みだ。松葉杖をついて歩いてるだけで戦力外通知だ。だから丸太の椅子に座って皆の作業を見てるだけ。たまに立ち上がってトイレに行こうとすると皆が振り向く。
トイレだよって言っても着いて来る。それどころか手伝おうとするんだ。松葉杖があるし胸も痛いからまごまごしてると俺のズボンを降ろしてパンツにまで手をかける。
ここを握らせる訳にはいかない。・・・何回か握られちゃってるけど。やることないから食事の準備位はと思って動くとやんわり止められる。
本当は寝かしておきたいらしい。当然着替えなんかはやられちゃう。あれよあれよと言う間に服を引っぺがされて他にけががないかチェックまでされる始末。
俺がじっとしてないとその度に作業が止まっちゃうから今は椅子に座って木端でコップとかスプーンとかを削り出してる。
お皿が意外に難しい事が分かった。記憶に引っかかるものがある、旋盤だったかな? あれがあれば楽なのに。
そうそうワイルドボアの肉が大量にあるから毎食出るんだけど部位によって旨味が全然違うんだ。俺はアバラの炙り焼きがうまいと思う。
その夜は皆に大事に抱え込まれて休んだ。逆らえなかったんだ。
翌日には松葉杖もいらない位に回復した。元気になったからあちこち動いて作業を手伝う。けどワイルドボアの件が有ってから誰かしら俺の傍に居る様になった。
藪がガサッなんて鳴るとすかさず俺を抱え込んで距離を取る。ちょっと過保護じゃないかな。皆の母性が目覚めちゃったのかな~。まあ暫くはしょうがない。それだけの事をやらかしたんだから。
床用の平板のカンナがけが終わったので敷き詰めるのを手伝う。つるつるに仕上がった床は気持ちい。木の香りもむせ返る様だ。そこがまた新築っぽくて良い。
マイヤが削り終わった外壁用の丸太を積みかせねて行くんだけど俺は手伝えない。剛力生えろ~。だから削りの方を手伝う。荒削りした木材をさらにナイフで削る。
仕上げ削りだけマイヤがやる。仕上げた丸太をマイヤが持ち上げて組み合わせる。ダメなら、もう一度降ろしてやり直す。今回はうまくいったようだ。
床板を貼り終えたリュディーが小分けにされた丸太を加工して組み合わせてる。ちょうど隙間が出来上がって入口になる予定のところかな。
うん? 違った。真ん中あたりに仕切りを作るようだ。あれ? やっぱり入口だ。ああ、そうか。同時進行で外壁と入り口と仕切りが出来てるのか。
やっと丸太が三段目、外壁の高さも腰の辺り位までだ。実際には俺の頭を越えてるんだけど床から測ってと言う事だ。高床なので俺の肩ぐらいが床になる。
そこに丸太を半分に切った基礎をおいてから外壁を組みだす。半丸太の上に平板を敷き詰めて床にしているのだ。床板は側面をちょっと加工して板と板が組み合うようにしてる。
これも前世の記憶。なんでそうするかは分からないけど板が収縮しても隙間が出来ない様にするためかな?
外壁の丸太を組む時に少し円の頂点を平らにして組み合わせる。線で合わせるより面で合わせるためかな~。
接着剤代わりなのかその間に粘土? みたいな土? を少し塗る。きっと隙間を塞いでるのだろうと思う。
うぅ~。相変わらず暑い。丸太が相当な重量になるのでそれを持ち上げるのはフルパワーだから。俺以外はひょいっと持ち上げるんだけど。やっぱり汗が噴き出しているから暑いと思う。
「あぁ~暑い。水浴びしたい」
思わず声に出してしまった。四人が反応する。全員が思っていたようだ。ふふ。今日は午前中で作業は終了して水浴びに行くことになった。
今、小道が通っている水場は三か所。泉、小川、湖だ。小川は水浴びする程の水深がないから除外する。泉と湖なんだけど悩ましい。
泉は結構深い。それこそ四、五mはあるだろう。泉の縁からいきなり深くなってるんだ。上り下りが楽じゃない。
湖は世界樹の圏外になる。何がいるか分からないからな。なので出入りが面倒だけどまずは泉に行くことになった。
泉の周りの藪やら木を伐り払ってしまい見通しを良くしておく。万が一のためだ。そこそこ広い直径で10m位かな。
「ひゃっほ~い」
ざぶん~。いきなりミヤが飛びこんだ。今、見ちゃいけない光景が見えた気がする。泉の中でごしごし体をこすってる。体を拭くぐらいしかできなかったから汚れが溜っている。
小魚がミヤの周りに集まってツンツンしてる所を見ると古い角質を食べてる? ドクターフィッシュの様だ。いやいや、そんなことじゃない。わ~。マイヤが続いて全裸で飛びこんだ。
「ひゃ~。冷たいな。しかし気持ちいぞ。久しぶりに体が洗える髪の毛もだ。ちょくちょく来ても良いな」
「ちょ、なんで全裸なの! パンツ位履こうよ」
「今さらだろ? この間サラを着換えさせたのは私達だぞ。その時いつも元気なのに萎れているあれを見たぞ?」
「わー。な、なに言っちゃってるの。そう言うのは言わないのが花でしょ。服をはがさないで」
ヤルルーシカとリュディーにとやかく言いながらも指の隙間から見ている。俺は服を剥ぎ取られて泉に叩き込まれた。ザブン。
あれ? 中に入ると下は見えない? 気を取られてる間にヤルルーシカが足を大きく広げて万歳をしながらお尻から飛び込んで来た。金色のふさふさしたのが見えちゃったよ。
どぎまぎしながらもあれっ? と思う。ミヤの次に自由奔放なリュディーが来ない。
「どいてどいてーーー」
遠くから走り込んで真っすぐピンと伸ばされた体が宙を舞った。逆光の中一本の棒の様になりながら泉の中央に頭から飛び込んで来た。
さすがにここまでやられたらもういいやって気持ちになる。どこに居たのかってなぐらい小魚達が集まって来て古い角質をつっ突く。
ひとしきり泳ぎ回ってから柑橘系の実の皮を袋に詰めたもので体をごしごし洗う。
泉の壁面は結構凸凹していて、疲れたらそこに乗っかると立っていられる。ミヤが出っ張りに乗っかって背中を洗えって。
終わったらリュディーがスーと泳いで来てミヤを突き落して自分が乗る。次はあたしの番宜しく背中を向ける。結局ヤルルーシカが来て、マイヤも来た。
全員の背中を流し終わったら俺を岩棚に押し上げて洗ってくれた。色々弄られた気がする。ひょっとして俺が興味ある様に皆も興味ある? まさかね。ハハハ。
結構いろいろやってるようだけど実は10分位しか入ってない。めっちゃ冷たいから。早々に上がったんだ。皆でぶるぶる震えちゃったよ。
「ひ、久しぶりに気持ち、よ、良かったけど。や、やっぱ、さ、寒いね?」
「そうね。私達はそこまでじゃないけど。なんだかんだ言っても女の方が皮下脂肪が厚いですからね」
「そ、そうなんだ。俺は、け、結構寒いね。ま、まあ、直ぐに、あ、暑くなるだろうけど」
「戻ってすぐお昼にしましょう。サラの唇が真っ青になってるわ」
心配そうにしながら俺の顔を覗き込んでヤルルーシカが提案して来る。
「そうだな。さっさと戻って飯にしよう。こんなことで風邪でも引かれたらかなわん」
そそくさと拠点に戻って昼飯にした。まだまだあるワイルドボアの肉。汁物はやっぱり豆のスープ。豆しか持ってきてないからね。
ん? 香草も入ってる。おお。香りが違う。しゃきしゃきしてる。でも味は塩スープ。ちょっとだけ美味しいかな。
「あのさ、お風呂。お風呂作ろうよ。毎回泉じゃ冷た過ぎ」
「お風呂? なんだそれは?」
これもヤルルーシカが説明してくれた。
「お湯に浸かったり蒸気の満ちた部屋に入って体を温めて汚れを落とす場所ですね。浴場の事ですよ」
「ふぇ! それは水浴びと違うの?」
「貴族の家とかにはたまにありますよ。お湯に浸かったりしますから血の巡りが良くなって美肌効果があったりしますわ。ワイン樽みたいなのにお湯を貯めて浸かったりします。私も何回か使った事がありますわ」
「俺が言ってるのはもっと大きな湯船に浸かる奴。お湯の中で体が伸ばせて気持ちいいんだ」
「へぇ~。それは私も初耳ですね。お湯を沸かすのに結構薪を使うので贅沢なはずなんですけど」
「よし。これから作ってみよう」
拠点作りもそっちのけで家の横にお風呂を増設することにする。高床にまで水を汲むのは大変なので地面よりちょい上ぐらいの所に簡単な基礎を建てて平板をちょっと隙間が開く位に敷き詰める。
簀の子みたいな感じ。前世の記憶を頼りに。檜風呂を思い出す。板の厚さは結構厚かった気がする。水圧対策だな。
さて、ここで困ったな。組み立て方が分からない。水漏れしない様にしないといけないから内側から力がかかった時にピッタっと接触するような構造にすればいいと思うけど。
前世の記憶~。木の接合方法にそんなに記憶がない。家を建てるときにやる木に穴を空けてそこに押し込む様な接合方法と三角形みたいに加工した木を組み合わせて押しこむ方法しか思い出せない。
そうだ思い出した穴に木を突っ込んでその反対側から楔みたいなのを撃ち込む方法もあったな。それで行ってみよう。
板と板をつなぐのは溝を掘ってスライドさせながらかみ合わせる。深さはマイヤでもゆっくり座れる位だから70cm位か。大きめの板二枚で良いや。
長手方向の板にノミで四角の穴をあけて、横手方向の板は出っ張りがある様に加工する。多少長すぎる位でもいいや。
両側から挟み込むように合体すると。底板も一緒に穴に刺す感じで合体させる。組立てが面倒だったけど。とりあえず形になった。
排水用に穴を開けて一応完成。逆さにして丸太で作った足の上に置く。すこーしだけ傾けて排水し易いようにしておく。完成かな?
大きめの水球を生み出してゆっくり水を入れていく。一発目は問題なし。二発目・・・大丈夫。四発目で満タンになった。
ちょっと不安だけど今のところ大丈夫? 多少水は漏れてるがその内木が膨張して止まるはずと思いたい。
よく洗った石を焚火で炙って次々に投入しいく。程良い温度になった所で上に浮いた汚れを取り除いて、石も取り除く。ぬるくなった時のために石は焼いておく。
「出来たよ! 誰から入る?」
「・・・水浴びもしたからもう良いかなって。てへ」
ミヤが舌を出しながら遠慮がちに言う。初めての物だから尻ごみしてるんだ。
「あ、・・・」
自分で入ることにする。はぁ~。大森林のなかの露天風呂。頭上では星がきらめき風が世界樹の梢を渡る。おずおずと皆が集まってくる。
お湯に入る習慣がないから不安だったようだ。俺が入ってる様子を確かめながら。気持ちいの? とか聞いて来る。もう暗いので見えないはずだから隠してない。
「気持ちいいよ~」
ガサゴソと衣擦れの音が鳴り、俺がいるのとは反対の湯船からそっと誰かが入ってきた。ザバーッと湯船のお湯が溢れる。
「ふわぁ~~~。はぁ~~」
なんとも間延びした声が聞こえてきた。好奇心を抑えられなくて入って来るのはミヤかリュディーだと思っていたが、なんと声からするとマイヤだ。
俺は夜空を見上げていた顔を正面に向ける。真っ暗でなにも見えないと思っていたのだが思いのほか近くにマイヤの顔があった。
「これはいいな!! はぁ~。皆も来い! いいぞ。いい。水浴びも良いがこの気持ちよさはないな。なんでだ? なんで気持ちいいんだろう。はは。分からんけどいい! 初めての体験だ」
マイヤの呼びかけで一斉に周囲で動きがある。ちょ、ちょっと。いくらなんでも全員が入れるようには作ってないんだけど。止める間もなく次々と入ってくる。ザババーッ。
「ひゃ~~。にゃははは~」「ふぅ~~~」「はぁふぅ~~~」
「ほんとだ~。気持ちいいね。でも狭い。にゃははは」
「ええ、気持ちいいです。樽風呂もこんな感じでしたね。足が伸びるだけましかな?」
「ははは、さっきまではもっとゆったりしてたんだがなー。さすがにこの人数は多いな」
「サラ、良い物作ったねぇ~。明日もう少し大きく改良しょうね。せめてこの倍位の大きさにしてみようよ。横手方向と長手方向の長さを一緒にしてこの風呂桶?
ああ、湯船ね。これはさもう少し高い位置に設置し直してお湯の供給用にしよう。さっき焼いた石を入れてたでしょ? あれ専用にしよう」
明日の湯船改良構想を練るリュディーは楽しそうだ。たしかに湯船がぎゅうぎゅうだ。ゆったり湯船に入る解放感は半減だ。
まだ知り合って半月ほどしか経っていないが、随分昔から一緒にいた仲間の様に感じてる俺がいる。こんな日があっても良いかなと思う。
皆が喜んでくれるならそれでいい。夜空に浮かぶ双子月を眺めながら俺はそんな事を考えていた。明日も頑張ろう。そう思える一日だった。




