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プロローグ

プロローグ


「お前に継がせるものがない。紹介する職場もなし、金もない。縁故も頼り過ぎてしまった。自力で何とかしてほしい。すまん」


 執務室の椅子に座っている父様からそんな宣告を受けたのは十五の春だった。薄々は分かっていたことだったが、いざ現実になると途方に暮れる。


 貧乏貴族の末席も末席、辺境の騎士爵領の五男。長男が家を継ぎ次男はその補佐に、三男はどうにか従士家に婿入りが出来た。


 四男は縁故に頼み込んで帝都で衛士になれた。でもそこまでだったらしい。俺にはもう何も出来ないらしい。


「そうそう、我が領のさらに南は未開地だ。魔物や魔獣を狩る冒険者や開墾を行ってもいい。うまくすれば騎士爵が貰えるだろう。がんばれ」


 手元の書類を処理しながら簡単に言って来る父様。


「・・・」


 さすがにホントに何もなしと言う訳にはいかないと思ったのだろう。鉄のくわ、片手剣それに多少の食料が貰えた。お金は本当にくれなかった。


 自力で蓄えた銀貨34枚と銅貨21枚、貧乏暮らしの平民なら半年位は喰っていけるだけの金額だ。普通の平民でも3カ月位は暮らしていけるだろう。これが俺の全財産だ。


 自分の家の惨状はよく分かっている。駄々をこねても暮らしていけないことに変わりはない。あっさりと諦めて、今後のことを考えるこにした。取り敢えず、冒険者登録はしておこう。


 何かと便利に使えるはずだ。だからって冒険者になる気はない。腕にはそこそこ自信はあるが、命がけで成りあがろうとか稼ごうとか思ってない。死んじゃうからね。ならば開拓しかないか。


 取り敢えず両親・兄弟・姉妹に別れを告げ、隣領の冒険者ギルドを訪ねることにする。徒歩で1週間、子爵領の街にようやく辿り着いた。


 この一週間には色々あった。それはもう波乱万丈の人生の最初の一歩から。まず初日、家を出てから半日ほどで領内の村を抜けて街道を北上、自領内の半ば辺りで野犬の群れに襲われた。


 2、3頭ほど撃退できたが数が多すぎた。まだ4、5頭は居る。やむを得ず逃げることにしたがもちろん走って逃げるなんて事は出来ないだろうから木の上に登った。


 木に登るまでにズボンの裾に咬み着かれて引きずり降ろされそうになったが、何とか木の上まで逃げ切った。


 木の上で寛いでいると半日位で野犬の群れが倍位になった。木の上で食事をして下を眺めることさらに半日。合計一日を無駄にしたが野犬の群れは諦めて去って行った。


 父様もう少し領内の治安改善して! さらに一刻ほど待ったが野犬の群れが戻ってくる気配はないので木から下りて旅を再開した。二日目は少し遅れたので急ぎ次の村を目指す。


 夜もだいぶ遅くなったが領境を越えて子爵領の最初の村に辿り着いた。泊る所がないため村の片隅で野宿になったのは泣くに泣けない軽い出来事だ。


 翌朝は村の悪ガキに叩き起こされて村長宅に案内された。(連行されたとは思いたくない)勝手に村に入った事をしこたま怒られたが事情を説明して許してもらえた。


 三日目は早々に村を後にした。ここからは山越えがあるためだ。山ではとうとう魔獣に襲われる。兎型の魔獣だか動きは速いし尖った前歯を突き刺そうとする。


 相手が一匹だったので何とか倒せたがこれで下級魔獣だと言うから心が折れそうになった。四日目に突入したが、後は下るだけだ。


 昨日は魔獣が怖くて眠れなかった。早々に下山して休みたい。そうそう兎魔獣からは核がとれた。街で換金しようと思う。


 当然のように下山途中でも兎魔獣に襲われた。残念だが二匹に襲われたので即行で逃げた。結構速いが全力疾走で何とか逃げ切った。


 前回の兎魔獣の肉を投げ捨てたのが良かったのだろうか。やっとの思いで山の裾野にある村に辿り着く。


 五日目、村が盗賊に襲われた。村の自警団に協力して迎え撃つ。人間相手ならそこそこ戦える。村人たちは押され気味だが村の防御施設を活用しながら防いでいる。


 このままではジリ貧だ。リーダー格らしい一団に目星をつけて斬り込むことにした。


 これでも騎士の息子だ。軍事訓練は徹底的に受けている。盗賊ごときに後れは取らない。リーダー格が落馬したのですかさず馬を奪う。


 馬を走らせながら盗賊連中の中を走り回る。敵がパニックになった所で村人たちも突撃し、蜘蛛の子を散らすように盗賊達が逃げ出した。


 気が付けば一日中戦っていた。もう夜明けだ。馬に乗ったまま村に凱旋、村人の歓呼を浴びた。六日目は休む間もなく村長に呼ばれ、銀貨2枚をもらえた。


 少ない気はするが、盗賊を一人も倒せてないし馬も手に入ったのでよしとする。馬は軍馬ではなく農耕馬だった。恐らくこの馬もどこかの村から略奪したものだろう。


 その日は村長宅で接待を受ける。家の料理と遜色ない位の食事内容だった。うちの食事って子爵領の村長レベルだったのね...。


 食事も終わり部屋に案内されて間もなく、ワインやらつまみを片手に俺の部屋に三人の娘達が入って来た。俺が隣領の騎士爵家の人間であることを知った村長が自分の娘や村娘達をあてがったのだ。


 もちろん好意は受ける気満々だ。部屋で娘達と軽くおしゃべりをしてどの娘にしようか考えていたのだが、お腹も一杯になって慣れない酒、そして二徹、保つはずもなく睡魔に襲われた。


 俺はがんばった。三人の娘とも程良く仲良くなって、いざこれからと言う所で...無念。寝てしまった。翌朝、村長が生温かい眼差しであった。


 最終日、意気消沈したまま村を発った。街までは馬で行けばおよそ半日の距離だ。さすがに街が近いので襲われることはない。


 無事街に着いたが当然税金は取られる。商業活動をする訳ではないので銅貨10枚で済んだ。馬の世話付きで一番安い宿屋に入る。銅貨40枚、馬が30枚だった。――くっ、馬贅沢品。


 まずは領主館に挨拶に行かなければならない。爵位はないが、他領の息子なので下手に疑われる訳にはいかないからだ。


 領主館と言うよりは砦に近い。さすがは子爵家。実戦を考えて城ではなく砦づくりだ。無骨ではあるが、よく考えられた作りだ。なかなかに攻めにくい。


「隣領の騎士爵が息子、入領しましたのでご挨拶に上がりました。父より預かりました手紙とこちら途中立ち寄った村の村長より手紙を預かりましたので合わせてご受領願います」


「御苦労! 確かに受領した。しばし待たれよ」


 そう言って門番の衛士が中に入っていく。頭部の兜に房の付いているもう一人の人物を伴ってすぐに戻ってくる。


「わたしは子爵家に身を置く第一小隊小隊長です。手紙拝読致した。御父君は入領についてであったので問題なくご了承致す。我が領内の村長からは盗賊退治にご協力くださったと書かれておりました。ご助力かたじけなく存じます。多少ではありますがこちら報奨金になります」


そう言って銀貨5枚を差し出してきた。


「かたじけない。頂きます。では、私はこれで」


 挨拶も終わったので領主館を後にした。もちろん子爵本人に会えるなんて思ってないから今の対応に腹を立てることもない。


 ひょっとして領主館に入れるかなぐらいは思っていたけど門前までか~。うちに対する対応なんてこんなもんだろな~。父様か兄様なら客間に通されてたんだろうけど。


 改めて街を見まわす余裕が出てきた。街はそこそこ賑わっていた。うちと比べるべくもない。商店も何軒かあるし各ギルドもある。


 目抜き通りは荷馬車がすれ違える程の幅がある。家はレンガ造りと木造がある。階級に依るのだろう。露天商も数が多く、呼び込みの掛け声やらも響いている。


 近在の村の農作物やら加工品、毛皮に肉、小物類などを扱っている。屋台では軽食も扱っている。これらは街の人間の小遣い稼ぎだろう。


 屋台で鶏肉を炙った串焼きを購入して、朝食代わりにした。おっ、核を取り扱っている店を発見。早速兎魔獣の核を換金してもらおう。


 ...銅貨5枚にしかならなかった。兎魔獣は好戦的だがちょっとした冒険者なら一撃で倒すのだそうだ。まあいい、これからだ。そろそろ冒険者ギルドに行って登録しよう。


 冒険者ギルドは目抜き通りの一角にあった。中に入ってみると鎧を着込んだ男女が複数名居た。俺は受付嬢のもとに行き、話しかけてみた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。クエストの受注ですか? それとも完了報告でしょうか?」


「い、いや。登録をしようと...」


「ご新規登録ですね。ではこちらの用紙に必要事項を記入して頂いて登録料が銀貨一枚になります」


 金を取るのか! 予想外だった。銀貨一枚は痛いが止むを得ない。必要事項を記入して銀貨一枚を支払う。


「はい、頂きました。ではこちらの装置に手をかざして下さい」


 怪しげな装置だが思い切って手をかざす。――っおお! なんか俺から光の粒子の様なものが出て装置に吸い込まれた。さらに今度は装置から何やら俺に光の粒子が流れ込んでる。


「はい、登録完了です。こちら身分証になります。失くさないでくださいね。再発行にはまた銀貨一枚が必要になりますから。このカードは魔法のアーティファクトになります。あなたの情報が数値化されてますのでときどき更新して下さいね」


「はい。この冒険者ランクとギルドランクとは何ですか?」


「はいはい。今、説明致しますね。冒険者ランクはあなた個人の力量を数値化したものです。その下に筋力、魔力、生命力、体力、精神力、知力と在りますね。これはあなたの現在の能力値を数値化したものです。この能力値から攻撃力と防御力が算出されます。」


「ほほう。凄いですね。武器や防具などはどうなるのですか?」


「はい。今現在身につけている物が反映されますよ。試しに片手剣を外してみて下さい。攻撃力が減りましたよね」


 言われるがままに片手剣を外すと、おお! 攻撃力が10下がった。父様結構いい武器くれたのですね。原理は分からないがとにかく凄い事は分かった。


「ふふ。次にギルドランクですがこちらはギルドでクエストや依頼をこなしていくと上がっていきます。要はホントの実績値ですね。あなたは登録したばかりですのでどちらもNランクです。新規登録したばかりですと実績がなにもありませんから評価外と言う意味です。次に何か行うとF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなります。最高値はSSSです。現在ギルドに加盟している方でSSSの方はおりません。がんばって下さいね」


「分かりました。ありがとう」


「それとランクがNの方はギルド講習を受けることが出来ます。基礎講習ですね。いきなり死なれたりすると困るので。どうなされますか?」


「宜しくお願いします」


「はい、了解しました。講習費は教材も含めて銀貨一枚になります」


「...はい」


 商売上手だな。しかしこれまでの旅で思い知った。俺は弱い。ここは講習を受けるべきだろう。


 受付嬢の後に付いて行くと教官がいて新人講習ですと言って俺を置いて受付嬢は戻って行った。講師はゴツイおじいさんだった。


「ふむ。では始めようか。ここでは剣、槍、盾など武器や防具の使い方を教える。これが教本になる。基本事項が書いてあるから。ここで教わった事を忘れたら読み返しなさい。毎日の鍛錬が一番重要だ」


 一時間ほど教わって人間と魔獣、魔物との戦い方の違いを教わった。なるほど。おかしいと思った。


 これでも子供のころから武術教練を父様から叩き込まれていたのに兎魔獣に苦戦したのは相手が強いからではなく俺の動きに問題があったのか。


「おお。すごいぞ。かなり鍛えてあるじゃないか。人間相手の戦い方に引っ張られているがその内慣れるだろう。これでお終いだ。ついて来てくれ」


 講師のおじいさんについて行くと次はいかにも魔法使いと思われる女性の所に連れて行かれた。


「は~い。ここでは魔法を教えるわ。基本的に魔法は誰でも使えるけどマナを消費するの。才能がないと魔法一発撃ったら気絶、なんて事になるから実際に魔法が使えるのはごく少数になるわね。どれどれあなたの魔力は...あらあらかなり高いわね。――っえ! 訓練なしでこの数値! 凄いじゃない。中級レベルくらいまであるわ」


「はあ~。あまり実感としてはありませんが」


「まあそうよね。でも魔法を使えば分かるわ。じゃあいい、始めるわね。魔法は基本的に想像力よ。自分の思い描いた通りにマナを変換して事象を改変するの。でも普通はそれって難しいのよ。だから呪文があるの。想像しやすくするためよ。例えば『火よ疾く走りて敵を撃て!』」


 ――っおお! お姉さんの指から火の玉が飛びだして的に当たった。


「こんな感じ。でも慣れてくると呪文を唱えなくても出来るようになるわ。これが無詠唱魔法。基本魔法なら無詠唱が出来る魔法使いは多いわね。次に『火よ』を『火刃』に変えるとほら薄い火の刃が飛んで行ったでしょ。これが想像力。魔法を変えることが出来るの。色々試してね」


 基本の四種類、地水火風の基礎を教わり、教本を貰って講習は終了した。俺には魔法の才能があるようだ。


 実は誰にも言っていないが俺には前世の記憶がおぼろげながらある。科学技術が発展した世界に居たらしい。まあ、そんなことより晩飯を屋台で購入して宿に帰るか。明日はどうするかな。

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