16、月の乙女の向かう先
少なくなった水がめの水を足しにいったはずのリオルルが息を切らせて走って戻ってきた。
その手にはあるはずの桶はなく、頬を紅潮させて、興奮気味だ。
「ウタ、レイが呼んでるの」
「何?リオルル。レイが?」
「うん、そう。たぶん、ウタの結婚だよ」
「えぇ!」
あまりのことに詩子は手にしていた、木杓子を落としてしまう。
そんな詩子の様子に構うことなく、リオルルは瞳を輝かせている。
「だって、ミミンが言ってたの。わたし、聞いちゃった。ウタがいい。ちょうどいいって。レイはちょっとしぶっているみたいだったけど。きっとウタにぴったりの人が見つかったんだわ。素敵!」
自分のことのように喜んでいるリオルルに、詩子は困惑をかくせない。
リオルルについていったレイの待つ部屋に、美しい臙脂の髪を高く結い上げたミミンがいた。
しばらくの間、その姿を見かけなかったから、どこかに行っていたのだろう。旅装を解くことなく、ミミンはレイの部屋にいて、ウタを上から下まで、じっと見つめた。
「しばらく見ないうちに、少しマシになったな」
ミミンは艶のある口元に微笑を浮かべ、その横では、レイが沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。
「……ミミン、だめか」
「着飾れば、見れるようにあるだろう。……その話はもう済んだはずだ。レイ」
ミミンの表情は硬くなり、それ以上にレイの顔はこわばり、蒼白だ。詩子を見ることなく、大きく息を吐き、しばらく瞳を閉じていた。
そして、その顔を上げ、詩子をまっすぐに見つめる。その瞳に迷いは見えない。
「……ウタ。会ってほしい人がいる。その人のところへ行ってくれないか。ここの者ではない君に、こんなことを頼むのは見当違いなことは十分に理解している。この俺の、この里のためになんとか受けてくれないだろうか」
詩子には何のことかよくわからない。
「何をしたらいい?私、役に立つなら、いいよ」
レイはその言葉を予想していたのだろう。そうかと言い、息を吐いた。
ドンドンと床が踏み鳴らされ、勢いよく飛び込んで来たのは、アミヒだ。その額からは汗が流れ、息を切らせている。
部屋に入ったとたんに、レイにつかみかかる。
「レイ!どういうことか説明してくれ」
「……早いな。お前に聞かせたくはなかったんだが」
「それは、ウタにとって、いい話じゃないからだろう?!」
アミヒはレイの胸元の手に力をこめる。その手をレイは振り払うことができない。そして、アミヒの視線を受けられず、顔を背けて、目を閉じる。
「この娘、チュプと呼んでいただろう?」
ミミンがアミヒに話しかける。アミヒはうなずく。
「チュプ、その意味は『月』だ。そして、アリアロレスが『月の乙女』を探しているという。こんなめぐり合わせがあるか?しかも、めずらしい黒髪に黒い瞳、なんとも神秘的だ。まるで本当の『月の乙女』でもおかしくない」
ミミンは緊迫した二人をよそにゆっくりと腕を組み、そして、にっこりと微笑んだ。
「アリアロレスに、ウタをくれてやるというのか?」
レイから手を離すことなく、アミヒはミミンに信じられないといった視線を向ける。
「そうだ。アリアロレスに恩を売るいいチャンスだ。それを逃す手はない」
当然というようにミミンはまっすぐにアミヒを見る。
「アミヒ、堪えてくれ。ミミンに借りを返す、チャンスなんだ。ティンティアナの毛糸の流通もミミンに頼らざるを得ない状況なんだ、アミヒ!」
「いいよ。アミヒ、私でいいなら、行くよ」
詩子はよくわかっていた。この里で人である自分が異質であることを。ここにいても、獣人ではない詩子は行き場がない。そして、黒目黒髪の珍しさから、街で人とも混じれない。異界からの来訪者である詩子を皆、何者かと問うのだ。
詩子は、獣人にも、人にも、混じれない。
「ご丁寧なことに、青龍の宮までも、黒目黒髪の女を探している。タイミングとしては完璧だ」
ミミンはさもおかしそうに、くすくすと微笑み肩を揺らす。
「え?」
詩子はミミンの言葉がよくわからなかった。どうして、青龍の宮が詩子を探しているのだろうか。
「あの、呪術師か?なんで今さら。すぐには追いかけてこなかったのに、今になって、どうしてウタを探すんだ」
アミヒはレイの胸から手を離す。ここに来るまでに何度も確認をしたけれど、呪術師が追いかけてくる様子は全くなかった。
レイはそうかと呟き、アミヒの向き直る。
「アミヒ、青龍の宮の呪術師に追われているウタを、ここに置いておくわけにはいかない。アルセイの小屋でも不安だ。わかるな。そして、ミミンの依頼を蹴るわけにはいかない。これも、わかるな。お前の蒔いたことだ。これもわかるな」
レイはアミヒに言い含めるように言葉を重ねていく。その言葉を受けるたびに、アミヒは肩を落としていく。そんなアミヒが見ていられない詩子はあえて、明るい声を出す。
「アミヒ、大丈夫。私、役に立つなら、いい」
「だめだ、だめだ、だめだ!」
アミヒにもどうすることもできないとわかってはいるが、受け入れられることではなかった。それを認めることなどできはしない。
「別に、殺されに行くわけじゃないんだ。あんたが、『月の乙女』らしいってことで、引き渡すだけさ。アリアロレスがどんなわけがあって、その乙女とやらを探しているのかは知らないが、アリアロレスも馬鹿じゃないってことさ」
「どういうことだ?ミミン」
レイはその言葉に引っ掛かりを感じ、ミミンに問いただす。
「あんたもわかっているんだろう?ここのところ、凶作が続いている。夏が短すぎる。この国に何か大きな変化が起こっている可能性がある。そこに、『月の乙女』がどう関係するのかは、私にはわからないけど、アリアロレスが何かを掴んだのかもしれない。青龍の宮はアリアロレスを抑え込んでいたけど、状況は大きく変化するかもしれないね」
ミミンはおかしそうに笑う。
詩子をアリアロレスに『月の乙女』として引き渡すことは、誰にも覆せない決定事項となった。
アリアロレス、赤茶の髪の男。あの時、襲われた記憶が詩子によみがえる。自分を守ってくれた紫紺の髪の呪術師はもういない。
――私はどうなるんだろうか
曇りがちなモラガイン山で詩子の肌は本来の白さを取り戻しつつあった。
ミミンの話があってから、それらしく見えるようにと、髪や肌の手入れをされていた。
そして、迎えた約束の日。
その日はミミンが自ら、詩子の顔に白粉をはたき、紅をのせる。
ずいぶんと伸びた髪は何度か洗う内に黒髪に戻っていた。まだ、高く結い上げることは出来なかったが、結わずに背中に流し、丁寧に櫛て梳いていくと、滑らかな輝きを放った。
そして、薄い黄色の衣と、青白い衣を重ねて着せられた。
その衣は、まさに優月と香月の色である。月の光の色を溶かしたようなその色、そして、手触りも滑らかで、月の光を集めて、衣にすると、こんな衣になるのではないかと、詩子は感じた。
滑らかな衣は、軽く、しっとりと体に沿う、その感じがこそばゆく、落ち着かない。
腰ひもを結び、シャラリと銀に輝く、帯飾りをつけられた。
ミミンは少し離れ、上から下まで、なめるように詩子を見つめる。
「いいね。それらしく見える。月の乙女の出来上がりだ」
「……」
「あんたは何も言わないね」
ミミンはじっと詩子の黒い瞳を見つめる。その視線は咎めるような響きをにじませていた。この話を持ってきたのはミミンであるにもかかわらず。詩子はミミンの問いの意味を掴めない。
「え」
言えば何とかなるのだろうか。この世界に来て助けてくれたアミヒの役に立てるなら、それでいいと思っていたし、自分が何かを願ってかなうはずもない、かなうすべもない、それならば願わなくていいと詩子は思う。その思いは言葉にはしていないのにかかわらず、ミミンはすべてを察したように言う。
「すべて受け身に流されるまま、何も求めず、何も願わない。そして、動かない。それでいいのか?」
ミミンは深紅の瞳を詩子にまっすぐに向けて、問う。
詩子は何も答えることは出来なかった。
ならば、どうすればいいというのだろう。詩子には何かできるのだろうか。
今さらながらに思う。どうしてこんなんことになったのだろうか。
あちらにいるころは、聖人君子であったとは言わないが、それなりに誠実に生きてきた。人の嫌がるようなことはしないようにしたし、できることはやってきたつもりだ。確かに、育ててくれた祖父母に感謝が足りなかったと言われれば、そうなのかもしれない。実の母に対して、情が足りなかったと言われれば、その通りだろう。それゆえに、詩子はよくわからないところに、いつの間にかやってきて、こんなことになっているのだろうか。
あちらでいらない子だと言われるほうがずっと、すんなりと納得できる。
――私の居場所なんてない、あちらにも、こちらにも
詩子の口元に自嘲の笑みがわずかに漏れ、ミミンはそれ以上、詩子に何も言わなかった。
辺りは闇に包まれている。
詩子は手輿に乗せられ、ゆっくりと進む。
泣けばいいのか、微笑んでいいのか、詩子にはわからない。
悲しいと言えば悲しいような気もするし、アミヒの、獣人の里の役に立てたと思えば、納得できるような気にもなる。しかし、正直なところ、あまり考えたくなかった。
夢うつつに、揺れる手輿に乗っていた。
手輿が止まる。
輿の中は薄暗く、風の音がするくらいで、とても静かだ。
「ヤフィルタ。あんたが来るとは思わなかったよ」
手輿の薄い戸を経ていたけれど、そのミミンの声ははっきりと聞こえ、詩子は硬直する。
途端に、今から何が起こるのか、自分がどうなるのかわからないことがどうでもいいとは思えず、不安と恐怖でいっぱいになる。
――恐い、怖い、行きたくない。たすけて。たすけて。
思いは言葉にはできない。
涙も落ちてはこない。
ただ、体は動かない。
手輿の御簾がゆっくりとあげられる。うす暗い輿の中にやわらかな月光が差し込んできた。
「この者が?」
「月の名をもつ娘だ」
「見事な黒髪」
背後から聞こえる声に体はこわばり、振り返ることは出来ない。すると急に腕を引かれ、赤茶の瞳に覗き込まれた。
「ほう、黒目」
「……」
詩子は声を上げることは出来なかった。
歯の根が合わず、かたかたなってしまいそうなほどに、怖かった。しっかりと歯を食いしばり、目を閉じた。
御簾はおろされ、手輿が動き始める。
――シンセントさん
紫紺の髪が、濃紺の瞳がそばにいないことが悲しかった。
遠くで、咆哮が響いている。アミヒだろうか。アミヒの役に立てたことが、せめてもの救いだった。
静かな屋敷と呼ぶにふさわしい、建物であった。
輿から下りるように促され、案内の者に従って、長い廊下と渡り歩く。
何も考えられなかった。これからどうなるのか、考えたくなかった。
こうするしかない、誰も助けてはくれない。詩子はそう言い聞かせ、震える足を動かしていく。
美しい庭を取り囲むように、屋敷は並び、豪奢な回廊でつながっていた。いくつかの戸をくぐり、回廊をわたり、一室に連れてこられた。
「今日はここで休みなさい。リマム様には明日の朝、お目通りがある」
詩子と目を合わせることなく、前を歩いていた者は去っていった。
庭の見渡せる、その部屋に一人残された詩子は据えられた寝台に横になることもなく、ぼんやりとその庭を眺めていた。
とても長い時間そうしてぼんやりしていたらしいことに気が付いたのは、東の空が白み始め、鳥の声が聞こえたからだった。
長時間冷気にさらされた手足はこわばり、頬はひどく痛んだ。
東の空から、うっすらと空は白み始め、たなびく雲が青から紫、赤へと変化していく。稜線が燃えるように赤く染まり、庭の木々を真っ赤に染めていく。
きらりと一筋の光が顔を見せると、あたりは光に包まれていく。
その光が詩子に射したとき、その温かさが肌にしみて、こわばりがほどけていくようだった。
なんとも美しく、温かな朝焼けだった。
詩子は息をすることも忘れて、その朝焼けを見ていた。
「そんな顔をして、朝日を見るものではない」
「!」
突然かけられた声に詩子は驚く。
「別にそなたを取って食べようと思っているわけではない。少し話をしたいだけだ。この世の終わりみたいな顔をして、若い娘がそのようなことではな、せっかくの衣装も台無しぞ」
詩子はその声の主を見る。
しゅっと衣を鳴らし、詩子に近づいてくる。その衣装は一見、簡素であったが、その滑らかさ、光沢は、今までにこの世界で見たことはない。
美しく結い上げた髪、目元や口元にいくつかの小さなしわがあるけれども、凛とした美しい女性、落ち着いたその声にふさわしい、風格を兼ね備えていた。
そして、蒼い瞳がまっすぐに詩子を見つめていた。
その瞳は、光の射す深い海のように、透明でありながらも、濃く深い蒼。
「蒼い瞳」
「そうじゃ、私はリマム・アルデイスト。この国の王となる資格を持つのじゃ」
「王?」
「フフ、月の乙女は無垢であるのか?この国の理も知らぬのか?ならば、教えてやるまで」
リマムはにっこりと微笑む。
「この国の王は、この瞳を持つ。この瞳を持つものだけが呪術師と契約することができる。この国の王が死期を迎えるころに、次の王が生まれる。そして、呪術師はまた、新たな王と契約するのだ。そうして、呪術師は、呪術はこの国に受け継がれてきた」
「この蒼い瞳は、王の証……」
獣人の里で見たリオルルの瞳と同じ蒼。ならば、リオルルも王であるというのであろうか?リマムに問うこともできず、語られる言葉を理解することがやっとだ。
リマムは続けて語る。
「しかし、不思議ではないか?そんなにうまい具合に、蒼い瞳の赤子が生まれてくるのだぞ?」
「……」
「見通しの術で生まれ出る赤子の瞳が蒼いとわかった時、青龍の宮の長は、胎児を殺めるのよ。たくさんの子を殺めて、この国は呪術師を統制してきたのだ。王など傀儡もいいところよ。呪術師がこの国をいいように蹂躙している。政のために生まれるべき赤子を殺める。その瞳がただ、蒼いというだけで。……呪術師の好きになどもう、させぬ」
リマムは表情のない青白い顔をしている。淡々と語られるその言葉の恐ろしさに言葉を失う。リマムの言葉が真実であるなら、どうしてここに、その瞳を持つ者がいるのだろう。あの里にその瞳を持つ者がいるのだろう。
詩子の疑問に気が付いたようにリマムはふっと笑う。
「先の青龍の宮の長は、ナラティスと言ってな、低能の長と呼ばれておった。いまだかつてないほどに呪力が弱い。もちろん、歴代の宮の長に比してな。じゃが、ナラティスのおかげで、わたくしは今、ここにある。わたくしの瞳が蒼いことを胎児の間に見通すことができず、また生れ落ちてからも、わたくしを弑すことができなかった。そして、ヤフィルタと出会い、誓約を交わした。わたくしとヤフィルタが誓約を交わし、ヤフィルタの呪力が失われることがない。それはつまり、神はわたくしたちを認めているということだと思わぬか?」
王と呪術師は、この国のために力を使うことを誓約するという。この国のためにならぬならば、ヤフィルタの呪力は失われるはずだとリマムはいうのだろう。
しかし、神という存在を感じることなく、生活をしてきた詩子にとって、理解しがたい。神はすべてを知っているのだろうか。そもそも、存在しているのだろうか。
詩子の思いは言葉にはならない。リマムは何も言わない詩子を気に掛けることもなく、思いをはせて、言葉をつなぐ。
「ここで、幼き日のキーレンと交わした約束が、果たされることはない。何を企んでおるのか、わからぬ。しかし、キーレンは動かない。何度も、何度も、私はキーレンに言った。呪力を還せと。天へ返せと。しかし、動かない。まだ時が満ちぬ、そればかり。挙句の果てが苦し紛れに『月の乙女』などとごまかす。そなたも祭り上げられてしまったのであろう?もう、私は待たぬ」
「そうだ、いいことを思いついた。そなたもともに参ろうか。青龍の宮に。『月の乙女』だと、そなたを差し出してみようかの」
「リマム様、短慮はおやめください」
いつの間にか、傍に控えていたヤフィルタが硬い声をかける。リマムはふと笑い、少し戯けて応えた。
「ヤフィルタ、お前にそのようなことを言われる日が来るとはな」
「リマム様を喪うことはあってはならない」
「フフフ、そうよの。キーレンの呪力はヤフィルタを凌駕するからの。私の命が尽きれば、そなたの呪力も天に還ってしまうからのう。呪力のないヤフィルタはヤフィルタとは言えぬな。だがな、ヤフィルタ。私はもう、飽いた。ずいぶん長い間、堪えたと思わぬか?すべての企みはキーレンに知れ、つぶされてしまう。なぜかはわからぬが、あの者に説き伏せられてしまうのじゃ。否と言えぬ。あの凡庸な茶の瞳に、屈してしまうのよ。不思議じゃ」
「リマム様……」
「それにな、ヤフィルタ。お前もそろそろ、動かねばならぬと、思っているのであろう?」
「?!」
「気づかぬと思うのか?呪力が落ちているのであろう?お前の焦燥を私に隠せるとでも思っているのか?こんなにも長い時間をともにしてきたお前のことが分からぬと思うのか?」
リマムは大きく息を吐き、ヤフィルタにそっと微笑む。
「もう、頃合いじゃ。参ろう、キーレンのもとに」
ヤフィルタはそっと、平伏した。
その様子を詩子はただ、見ているしかなかった。
キーレン、詩子はその名をどこかで聞いたことがあるように思ったが、思い当たることはなかった。
ただ、どこかに連れていかれることは感じ、そして、そこがどのような場所であっても、詩子は逃げることも、拒否をすることもできない。従うしかないことを十分にわかっていた。よくわからなくても、問うこと必要などない。わかる必要などない。どこに向かうのかが分かったところで、詩子にできることは何もないのだから。
速やかに支度は進められ、立ち働く者たちに追い立てられるように、詩子はなされるがままだ。
ミミンに着せられた豪奢な衣装から、比較的動きやすい衣に変えられた。帯紐だけでなく、肌着も変えるように言われ、その紐に手をかけられたけれど、人の手を借りて、着替えることになれていない詩子は、頑なに拒んだ。
踝まである、その衣は女物であり、素肌に触れる生地は滑らかで、くすぐったかった。腰につけられた帯飾りがシャラリと音を響かせ、その一つの玉の色が濃紺であることに気付く。
深い濃い紺でありながら透き通り、わずかな光でも煌めく。決して大きくはなく、その周りの薄青の玉のほうが大きかったけれども、詩子はその濃紺の玉から目を離すことができなかった。
今、あの人はどこで何をしているのだろうか。
体調は回復したのであろうか。
いつものように朝もやのなかで、太刀を振っているのだろうか。
――会いたい
詩子の思いは言葉にならない。




