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佐倉坂アマネの日常

※ショートです。

 私の名前は佐倉坂アマネといいます。サガミ学園に通う高等部の一年生です。

 今日は平日で、時刻は午後十二時くらい。本来なら学園で昼食をとっているころなのですが。


「けほっ! ごほごほっ……!」


 ちょっと熱を出して、学園をお休みしてしまいました。


「はあ、情けないな……」


 私はふかふかのベッドの上で上半身を起こして、額にしていた濡れタオルを取りました。うーん、ぬるい。それに急に起き上がったからちょっと頭がくらくらする。

 ぬるくなったタオルを、部屋に持ってきていた洗面器にひたします。洗面器には冷たい水が張られて――いたはずなのですが、さすがにこちらもぬるくなってしまっています。でもそのままよりかマシなので、一度強くしぼって額に乗せなおします。


「はぁ~、冷たい」ような気がします。


 座っていると体の節々が痛くなってくるような気がします。私は再び横になって布団の中に潜ると、鼻をずびずびいわせました。

 体調管理には気を付けていたつもりなのですが、季節の変わり目に風邪をひくなんてたるんでる証拠ですね。もっともっと頑張らないと。でないと彼に笑われてしまいます。


「いまごろ、西村くんたちお昼ご飯かなぁ?」


 自然とそんな言葉を口にして、脳裏には彼の顔がくっきりと浮かびあがります。

 あ、駄目。急に熱があがった気がします。おでことほっぺただけがやけに熱く感じられます。それ以外が寒くて、ちょっと気持ち悪い。

 もう少し寝ようっと。それで明日元気になって学園に行くんだ。

 朝、学園に行って教室に着いたら一番に西村くんに挨拶しよう。それからソラちゃんや赤威くんたちにも。その後いつものようにダンジョンに潜って。みんなを後ろからサポートして。あと、みんなでおしゃべりも。

 なんてことを考えていたらいつまでたっても眠れません。


「困りました」


 病人というのは眠れないと暇になるものです。だってほかになにもすることがないから。


「名前で呼んじゃおうかな……」


 あまりにも熱に浮かされて、私の頭は少し阿呆になっていたのかもしれません。


「は、は……はるひ……」


 私は枕に耳を引っ付けて横になりながら、もごもごと口を動かします。誰にも聞かれないようにそっと、彼の名前を口にします。

 けれども。


「ああん、やっぱり無理!」


 無理です。名前は無理です。恥ずかしい。


「ソラちゃんがうらやましいなあ……」


 ふたりは幼いときからの幼馴染で親友です。パーティを組んで深く知るようになって半年の私には、入る隙間なんてこれっぽっちもありません。これはもう嫉妬です。単純に嫉妬してしまいます。


「あれ……お姉ちゃん?」


 こんこんと扉をノックする音が聞こえました。布団に入ったまま私はたずねます。

 すると部屋の扉が開き、そこから大学生の姉が顔を覗かせました。今日は私のために大学を休んでくれたようです。


「ああ、うん。大丈夫……」


 姉は私のことを心配してくれました。


「えっ!? ち、違うよ、男の子の名前なんて呼んでないよ!」


 ど、どうしてでしょう。姉は私が布団の中でそっとつぶやいた言葉が聞こえていたようです。きっと収音魔法でも使って、盗聴していたのでしょう。なんてひどい姉でしょうか。


「お姉ちゃん、そういうのはもうやめてっていつも言ってるでしょ! べつになんでもないよ……早く学園に行きたいなって思ってただけ……」


 その言葉に嘘偽りはありません。早く学園に行けるようになって、みんなとおしゃべりしたい。たった一日でもひとりきりはつらいです。

 なんて唯一の肉親である姉が話相手になってくれてるのに、私ってば失礼ですよね。


「え……私明るくなった? 半年前より?」


 うーん、姉はそういうけれどよく分かりません。そもそもどうしてそんなことを聞いてくるのでしょうか。


「そんなことないと思うけどな。ええ、なにもないよ……べつに、うん……うん。ちょ、お姉ちゃん!? 違う、なにか誤解してる、そんなんじゃないの! 友だち、友だちなんだからね!」


 そんな私の必死の弁明にも姉のにやにやが止まりません。はあ、まったくこれ以上熱をあげさせないでほしいものです。意地悪な姉です。


「あ、いいよ、私自分でするから……あ、ありがとう」


 洗面器の水くらい自分で替えにいけるのに。


「ご飯はさっきお姉ちゃんの作ったおじやをもらったよ、私まだそこまでボケてないよ!」


 妹とは姉にとってただの玩具のようです。


「……うん、分かった。ありがとう。それじゃもうちょっとだけ寝るね……ふぁ~、お姉ちゃんと話してたら眠くなってきた」


 やっと眠気がやってきたと思ったら、すぐに頭の中でとぐろを巻いて居座ってしまいました。もうこれ以上は我慢できそうにありません。


「うん……おやすみ……なさい……」


 私は姉に返事すると、すぐに寝てしまいました。

 夕方には熱がひいていることを願って。

※次回、第五話――予告。


マコト  :「鉄マコトだ」

マコト  :「誰だって? ふっ、当然だな。本編で何度かセリフはもらっているが、名前が出たのは一度だけだからな……では説明――む? いらないのか……そうか。それより予告しろ? そうか……」

マコト  :「次回は西村パーティの死亡回だ。主人公が死亡して打ち切り展開? なーに大丈夫だ、蘇生魔法で生き返れる……」

増田アケミ:「そうよ、オクラホマ州ではよくあることよ!」

マコト  :「キミはそのセリフを言いたいがためだけに出てきたのか……」

増田アケミ:「なによ、なんか文句あるの?」


次回、『記憶はダンジョンにある!』


マコト:「おっとここで補足情報だ。おれはみんなから、テッシンと呼ばれているぞ!」

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