表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/56

1.二人の枢密院事

「ちーす、戻りました」

「ただいま戻りました。今日からはまた宮城にて勤めますのでよろしくお願いします」


 その朝、自身の執務室で机に向かっていた李侑生は二人の青年の声に顔をあげた。そこには懐かしさすら覚える二人の部下の顔があった。


 緋色の袍衣に身を包む二人、恰幅がよく上背もある朗らかなそうな男を隼平しゅんぺい、すらりとした思慮深そうな面持ちの男をこう良季りょうきという。


 離れて二か月とたっていないが、二人が枢密院事すうみついんじ、つまり枢密すうみつ副使ふくし直下の部下となってからこれだけ長期間離れたことは初めてのことであった。だから侑生にしては珍しいこの感傷的な気分も当然であったのかもしれない。


「よく戻った。呉隼平、高良季。ご苦労だったな」


 筆をおき両手を机の上で組み少しほほ笑んだ侑生に、二人が首をかしげた。


「どうしたんだ?」

「……なにが」


 その侑生の言い方や仕草の一つ一つが、努めて冷静にふるまおうとする意識的なものだと、これまで密接に付き合ってきた二人には容易に察せられたのだ。


 良季が無言で侑生を見つめる中、隼平はずかずかと机の向こう側の侑生に近づき、その肩を太い腕でがしっと抱いた。


「俺らがいない間に何かあった? もしかしてさみしかった?」


 覗きこんだ隼平と侑生の目があった。


 束の間じっと見つめ合った後、侑生はようやく合点がいったという顔になり、


「いや、うん……いや、さみしいなんてことがあるわけがないだろう。お前達がいない分、仕事が増えて大変ではあったがな」


 と答えたが、それは余計にこの場に違和感を生じさせた。


「本当にどうしたんだよ。忙しすぎておかしくなってないか?」


 部下であるはずの隼平の遠慮ない言葉、だがこれに侑生はかぶりを振った。一つ呼吸をおいて顔をあげた侑生は、すると彼らが宮城を立つ前の頃のような見知ったものになっていた。侑生は肩に回された隼平の手を柔らかい所作で取りはずすと、


「いや、大丈夫だ。ではこれから朝議に行ってくるからあとは頼む」


 と言って、隼平と良季、それぞれに視線をやった。


 何も訊くな。


 雄弁に語るその双眸に、枢密院事の二人は解消しない疑問を飲み込むしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ