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6.社会の縮図で

「生家では皇帝の落胤である僕が扱いずらかったみたいでね。そりゃあそうだよね、なんで妓楼に皇帝の息子が暮らしているんだって。でも僕には他に行くところがどこにもなかった。父は僕の存在を知らなかったし、僕は未婚の女が生んだごくつぶしの子供でしかなかったから。ああでも、僕が初めてこの命を狙われたのは十歳の時だったから、その頃にはさすがに父も僕のことは知っていたんだろうな」


 話をするために、龍崇はかんざしをひどくゆっくりと扱う。あれは驚いたな、と他人事のようにつぶやくのを珪己はただ黙って聞いていた。


「……妓楼ってのはね、社会の縮図みたいなところなんだよ。簡単に言えば成功した者と失敗した者、食う者と食われる者で成り立っている。食われる者は大抵が少女で、もちろん彼女達自身には何の咎もない。ただ一つ罪があるとすれば、それは体を売らなくてはならないような事情を作った肉親を持ったことだけだ。売らなくてはならないほどの罪を犯した肉親を持ったことだけなんだ」

「……そんな。そんなことが罪になるわけないです」


 珪己の声が震えて響く。


「うん、僕もそういうふうに思っていたよ。でもね、僕の周りにはそう言ってくれる人は誰もいなかった。祖父母も色を買う者も、誰もが当然の権利として驕っていたし、商品となった者達は、初めは散々泣いて、でも最後には仕方のないことだとあきらめていった」

「……あきらめなくては心を保つことができなかったんですよね」

「うん、そうだと思うよ。僕も同じさ。どうしても逆らえないことが生じれば、それは運命でしかなくて。ならば受け入れるしかない、いや、受け入れるべきなんだって思ってた」

「それは……」


 ためらいがちに珪己が問うた。


「龍崇様は皇帝陛下のお子であることが辛かったのですか?」


「はは、そんなふうに真っ直ぐに僕に訊いてくる人は君くらいなものだね。でも、うん、そうなんだ。僕はこの出生を憎んでいたのかもしれない。僕には真の自由はなかった。生きることも死ぬことも、僕一人で決めることはできなかったから」

「真の……自由」

「妓楼で日がな同じような年頃の者が食いつぶされていく様を見ながら僕は育った。それにね、いつ僕の存在が父や有力者にとって不要となるか知れたものではなかった。僕はいつ誰に殺されるか分からない不安を抱えて生きてきた。毎日三食に困らず、贅を凝らした部屋を与えられ、望めばなんでも買ってもらえて……でも、全てが地獄でしかなかった」


 だから、と龍崇は言いながらくるりと珪己の髪を最後の簪で巻きあげ固定した。


「だから僕は売り物となった女の髪を結うようになったんだ。彼女達のためではなく自分のためにね。僕は彼女達と似た境遇だけど、決して同じではない。僕は彼女達を搾取する強者の側にいたから。美しく結われた髪で少しでも心を癒せたら、なんて思っていた。でも、こんなことで彼女達の誰が癒されただろう? どうせすぐ乱される髪を整えたところで……」


 龍崇は口を閉ざした。そして軽く珪己の肩を叩いた。


「はい、終わったよ」


 珪己は軽く髪を触り、そして龍崇に振り向いた。


 龍崇は常のごとく、軽妙で華のある笑みを見せていた。ただ、その瞳の奥にはどこまでも深い世界が広がっているようであった。そして深淵の最奥には燃えさかる炎が見えるようだった。


(この方は色々と見てきたから……だから)

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