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不意打ち

 それに最初に気づいたにはやはり準騎だった。スキルの恩恵により遠くの物音聞き分ける彼の耳に届いたのは金属音を奏でながら走る荒い息づかい。その数は四つ。

 比較的都市に近いこの場所でそのような音を立てる存在といえば探索者しかいない。


 さらにその後ろからは複数の地を駆ける音。軽快な音を立てる複数の存在、それはブラックハウンドのような四足獣に見られる傾向だ。

 つまりこの四人はブラックハウンドのような魔物に終われていることを示している。


「ね、ねぇこれって……………………」


「気付いたか」


(この半日でかなり察知範囲が広がってるな、俺がこの距離を察知できるまでどれくらい時間がかかったか……………………)


「追われてるな。探索者が四人。敵は……………………十近くいるんじゃないか?」


 追われている探索者にどれくらいの実力があるのかは分からないが、彼らが向かおうとしている先はわかる。十中八九都市だろう。


 自分達では対処しきれない相手に遭遇した探索者がよくとる行動ではあるが当然そのような行為が好まれるはずがなく、都市の住人に被害が出る事態になれば相応の処分を受けることになる。


 実際に準騎もそのような事態に居合わせたことがあり、その時は都市の住人に三十人近い死者出て、そのような事態を引き起こした探索者達はギルドから探索者としての資格を剥奪され、武器防具を含めた私財の全てを没収されて都市を追放されることとなり、その後どうなったのか準騎は知らない。十中八九死んでいるのだろうが、それとて魔物に殺されたか、家族を失った、仲間を失った人の報復を受けたか噂は様々である。


「これは不味いな」


 現在準騎達がいる場所は都市からそれなりに離れているが、探索者からは都市近郊と言われるくらいには近い場所である。ここまでの道のりでゴブリン達魔物は大分狩られているはずで、場合によっては都市までなんの障害もなくこの追跡者達を都市に招くような事態にもなりかねない。


(本城がいるからできるならしたくはないが……………………)


「迎撃、するしかなさそうだな」


 苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く準騎に、柚子香も真剣な表情で弓を構える。どうやら先日の講習会ではこのような事態に関する講義もあったらしく、ことの重大さに準騎がなにかを言う前に理解できているようだった。


「逃げてくる探索者と合流して迎え撃つ。本城はできる限り下がって弓で援護、チビ、いやオセ達は本城に敵を近づけさせるな。いいな」


 前に出れば足手まといになることを理解しているらしく、柚子香は黙って頷くと子虎達と共に後ろに下がって弓に矢をつがえた。


「味方に当てないように気を付けろよ」


「分かってるよ」


 緊張した面持ちの彼女から視線を逸らし、準騎はテンペスターに装填されている弾薬を確認する。

 今日迷宮に潜ってからと一度も引き金を引いておらず、当然弾倉は満タン。切り札の魔弾もいつでも使用可能だ。


 足音は徐々に近づいてきている。分かれ道の無い一本道の向こうから、それはついに柚子香の耳にも聞こえる場所までやって来た。


「来るぞ」


 最初に飛び出してきたのは四人の探索者だった。金属製に鎧を身に纏い、それが足を一歩前に出すごとにぶつかり合って耳障りな音を奏でる。


 先頭を走るのは赤毛の男だった。左手に盾、右手に抜き身の剣を持ち一心不乱に走っている。続くのは槍を手にした細身の男だった。四人の中では比較的金属の部分が少ないのか、立てる音は最も少ない。その後ろからは悪態をつく小柄な少年で、短剣が主武装なのだろう。腰に複数の短剣を差して時折背後を振り返っては表情をひきつらせて足を速めている。最後尾を走る斧を持った巨漢は時折背後に斧を振り回し、魔物に牽制を行いながら走っているためどうもスピードが出ていないようだ。


 それはどれもが見た覚えのある探索者だった。名前や所属するパーティーの名前までは覚えていないが、都市では中堅処に位置するパーティー立ったはずだ。

 そこそこ腕が立ち稼ぎがいいらしく時折都市の酒場で商売女らしき女性を侍らし酒盛りをしているところを見かけることのある連中だった。ギルドの覚えも良いという話しも耳に挟んだ記憶があった。


「援護する!呼吸を整えて前を固めろ、ここで殲滅するぞ」


 声を張り上げることで四人が準騎に気付いたようだ。四人が互いに顔を見合せ準騎の脇を駆け抜ける。


「ハンドレッドアイズハウンド……………………!」


 四人が退いたことで見えた敵に、準騎の驚愕する声が漏れる。

 それは都市から大分離れた場所に出現する狼型の魔物で、ブラックハウンドの上位種に当たるまものだった。

 黒と灰の斑の毛皮に赤黒く輝く単眼、仲間の影から影へと移動する能力を持ち、一度先頭となれば影を介して仲間を呼び寄せ瞬く間に百を超える群れとなることから名付けられたAランクの魔物だ。


「なんて厄介なやつを……………………!

 コンセントレイト!!」


 悪態を突きながら引き金を引き、銃身から鋼の弾丸が吐き出される。スキルの恩恵に寄り意識が加速し、オートで放たれる銃弾を一発一発別々の敵へと狙いをつける。

 先頭を走るハンドレッドアイズハウンドの眉間を貫き、次の弾が別のハンドレッドアイズハウンドの顔半分を吹き飛ばし、さらに次の弾が別のハンドレッドアイズハウンドの喉を引き裂く。


 吐き出される弾一発につき一頭の敵を仕留めていくまさに神業。影の中から姿を現す端から命を散らして行くハンドレッドアイズハウンドだったが、それでもテンペスターから放たれる弾は一度に一発。倒れる敵も一発に一体。

 対するハンドレッドアイズハウンドはそのような制限はなく絶え間なく数を増やしては少しずつ、彼らにその牙を突き立てようと前に出る。


『ガキン』


 そしてテンペスターの弾が切れた。それは当然のことだろう。テンペスターの連射速度は秒間五発。一度に三つ装着可能なマガジンは一つにつき三十発の弾が納められているが、一度も止めることなく射ち続ければ六秒で一つ、十八秒ですべてのマガジンが空になる計算だ。

 その僅か二十秒弱の間に放たれた九十発弾丸が一発も外れることなく、放たれたのと同じ数の敵を殺してのけたというのだから準騎の腕がどれ程のものかを物語っていると言えよう。


 だがそれでも、増え続けるハンドレッドアイズハウンドを殺し尽くすには至っていない。しかしテンペスターは弾切れを起こし次のマガジンを即座に装填する必要がある。


「おい、まだか!?」


 加速していた意識が通常の物へと戻り、引き伸ばされていた音も元へと戻り準騎は背後から戻ってこない四人に声を張り上げた。


 しかし、帰ってきたのは予想もしていない言葉だった。


「逃げて!」


 柚子香の声にこの状況でしてはいけない行動だと言うのに、準騎は目の前のハンドレッドアイズハウンドから視線を逸らし振り返った。


 故に映った。視界の隅に煌めいた銀閃が。


「っっ……………………!?」


 咄嗟に身を捻り、銀閃が脇腹を掠める。鋼糸のコート出会ったがゆえにその程度では傷一つ付かなかったが、衝撃が準騎を襲い歯を食い縛って耐えるも即座に体勢を戻せない。


「余計な真似するな!」


 小柄な少年が怒声と共に短剣を引き抜き、柚子香に切りかかる。


「ガァウゥッ!」


 それを阻止せんと子虎が動く。一頭が片腕に噛みつき動きを封じ、さらにもう一頭が喉笛に牙を突き立て、少年の攻撃が乱れた。咄嗟に頭部を守ろうと上げた腕を短剣が切りつけジャケットを切り裂くが、袖に仕込まれた鉄芯が柚子香に傷つけることをギリギリのところで阻止し、柚子香はその攻撃でバランスを崩してその場に尻餅を突く。


「クロケール!」


「た、たす、ひぇ……………………」


 クロケール呼ばれた少年の助けを呼ぶ声が響くが、残る探索者達が動くよりも早く最後の一頭が飛びかかり、反対側から首に噛みつき勢いのままに迷宮の床に引きずり倒した。


 ボキリ、という骨の折れる音と共にクロケールの首が落ちる。首を失った身体から流れる血の臭いが通路を満たしていく。


「く……………………!」


 準騎を背後から襲った細身の男が踵を返して走り出す。当然それを追い……………………かけることはできなかった。相手が踵を返すのと同じくして準騎も背後を振り返っていた。

 振り返る勢いのままに振るわれるテンペスターが、その重量をそのまま武器として飛びかかってきたハンドレッドアイズハウンドの横っ面を叩き吹き飛ばした。


「急げ、逃げるぞ」


 斧を持った男から準騎へと投げナイフが投擲され、それを翻したコートの裾で絡めとり再度振るったテンペスターが飛びかかってきた別のハンドレッドアイズハウンドを叩き落とし、その頭部に銃口が突きつけられる。


『ズドン』


 重い炸裂音と共に銃身の下の筒から鉄杭が射出される。爆発の威力で打ち出された鉄杭は筒内部のライフリングに沿って回転しながら突き進み、突きつけられたハンドレッドアイズハウンドの頭部を射ち貫いた。


 俗にパイルバンカーと呼ばれる武装だ。

 準騎はハンドレッドアイズハウンドの身体を足蹴にして杭を引き抜きテンペスターを振るう。すると内部の機構が作動して機構銃の内部へと杭が収納される。


 バックステップを行いハンドレッドアイズハウンドから距離をとり背後に耳を傾ければ、三人の探索者はクロケールと言う少年を置き去りに逃げ去るつもりのようだ。


「糞が、なんの躊躇もなく俺たちを囮に使いやがった。おまけにご丁寧にこっちの戦力を削ろうとまでしやがった。

 本城無事か!」


「……………………」


「本城!!」


「うぇ、あ、だ、大丈夫!ジャケットのおかげで……………………」


 呆然としていた柚子香だったが、準騎の二度目の呼び声に正気に戻り怪我がないことを伝えるも、その声は本人は自覚していなかったが確かに震えていた。


(魔物とは違う、同じ人間に向けられた殺意。そして初めて見る人間の死。本城の反応も仕方がないか。)


 新しいマガジンをセットする時間はなく、ハンドレッドアイズハウンドが準騎を討ちとらんと迷宮の通路をかける。ほんの僅かな間に再び数えきれぬほどに数を増やした敵に準騎は舌打ちをして手元のボタンを操作する。そして再度引き金を引いて放たれるのは輝く魔力の弾丸達。

 準騎本人や大気中の魔力を取り込み、それを弾の代わりにするテンペスターの特殊機構。その性質上準騎本人や大気中から魔力が取り除かれでもしない限り尽きることなく弾を放つことができるが、その威力は低く実体弾ならば一撃で仕留めることが出来ていたハンドレッドアイズハウンドは、魔力弾を受けて弾き飛ばされはするものの即座に起き上がり再び彼めがけて走り始める。


「ちっ、やっぱりこいつじゃ威力不足か」


 一体に集中し攻撃できるのならば話は違ったのだろうが、数の暴力で襲いかかってくるハンドレッドアイズハウンドを相手にそんなことができるわけがなく、牽制、足止め程度の意味しか成せない魔力弾を準騎は諦めることなく打ち続けた。


 ビン、と弦を弾く音ともに準騎の背後から矢が放たれる。

 先頭を走る一頭の頭部に突き刺さる矢は、当然彼の後ろにいる柚子香の放った物だ。無限に仲間を呼び寄せ続けることからAランクに分類されるハンドレッドアイズハウンドだが、個体としての強さは今の柚子香の攻撃でも倒せる程度の物でしかない。とはいえ増え続けるこの敵を相手に彼女攻撃は焼け石に水にしかならないのだが。しかも一撃で仕留めることができるのは頭部などの急所に攻撃が当たった場合のみである。彼女の腕では百発百中といかない以上焼け石に水にすらならないかもしれない。


「矢はいい!退がって自分の身を守ることに集中しろ、というかむしろ逃げろ!」


 テンペスターの引き金を引きながら少しずつ後退しながら声を張り上げる。


「そ、そんなことできるわけないじゃん!!何いってるのさ!」


 おまけに逃げたとしてもここまでの道のりを準騎の案内でやって来た迷宮での活動の経験が全くない彼女が都市へ逃げ戻ることができる可能性はほんのわずかである。そういい意味では悪手と言える手だ。

 だからと言って残ることが最良かと言えば乱戦になれば直ぐにハンドレッドアイズハウンドの波に飲み込まれることになってしまうだろう。


「糞が、どうする!?」


 後退しながら魔力弾を撒き散らし、準騎は必死に頭を働かせる。今欲しいのは数の暴力である目の前の敵を蹴散らす火力だ。

 魔法ならばそれも可能かもしれないが、準騎は杖などの媒介無くして目の前にいる敵に効くような魔法を行使することができず、現在必要な大規模な魔法となればテンペスターを射ったりしてないで魔法の行使に意識を集中させる必要すらある。とても現状で採れるような手ではない。柚子香はそもそも魔法をまだ修得していない。彼女にできることは矢を射ることとこん棒を振り回すこと、三頭の子虎に指示を出すこと、おまけして周囲の気配を探ることぐらいだ。けして現状を打破できる手段を持ち合わせてはいない。


(マガジンを換えることができてもこいつら相手にはじり貧だ。かといってこのままでもその内連中の爪牙にかかることになる。マジックシューターは、くそ真っ先に射つべきだった。あれには僅かだが溜めが必要だ、現状じゃその溜めの間に食いつかれる!)


「いや待て、本城!」


 しかし浮かぶ針穴がごとき現状突破の糸口を見いだし、しかし自身の手が足りぬと柚子香の名を叫ぶ。


「な、何!?」


 大声で名を呼ばれて驚きながらも急ぎ準騎の元へと駆け寄るのは、自身に打てる手は無くともどうにかしたいと思っていたからか。駆け寄る彼女に呼び寄せる手間が省けたと準騎は勤めて冷静にしかし手短に現状の突破案を説明した。


「俺のコートの下、腰のベルトに弾丸がある。それを取れ!」


「え、コートの下って……………………」


 言われて躊躇しながら準騎の腰に視線を送った柚子香は、直ぐにハンドレッドアイズハウンドが近づいてきていることを思い出し、顔を僅かに赤らめながら彼のそばに膝立ちになってコートを捲り上げた。

 三本の帯が前後で交差するようにして巻かれたベルト。その真ん中にある地面と平行に巻かれた帯にそれはあった。並べて縫い付けられた革製の筒に納められた弾丸。その一つにてを伸ばして引き抜くと、それは弾頭部分が翡翠色に輝く宝石でできた特殊な弾丸だった。


「と、取ったよ」


 捲り上げ被るようになっていたコートの裾から抜け出し準騎を見上げて告げる彼女に顔を向けることなく頷くと、準騎は次の指示を飛ばした。


「そいつに魔力を込めろ。要領は気配察知と同じでいい。とにかく弾丸に意識を向けて魔力を込めるイメージをしろ」


「うぇ、魔力を込めるって、え、そんなこと言われてもできるか分からないよ!」


「できるかできないかじゃない!やらなきゃ後がないんだ、失敗なんか考えずとにかくやれ!」


「失敗しても知らないからね」


「安心しろ、失敗しても俺が許す。というか失敗しても成功するか死ぬまでやれ!」


「伊久津島君の鬼ーーーーーー!!」


 悲鳴混じりの叫び声を上げながらも数歩下がった柚子香はベルトから抜いた弾丸を両手に持ち、両目を閉じて手に触れる弾丸へと意識を集中させる。


 要領は気配察知と同じ。意識を拡散し伸ばしていく感覚だった気配察知、しかし今回のそれは弾丸に魔力を込めるという、拡散とは真逆の行為だ。その事実気付いていた柚子香はそれをどうすればいいのか見当もつかなかったが、弾丸へと意識を向けている内に気付く。それはその行為だけを見れば真逆の行いであれ本質は同じ物であることに。

 気配察知を幾度となく行う内に気づいた不可思議何かの流れ。気配と共に常にあり、彼女自身にもその身を包むように存在していた感覚。意識を伸ばすと共に一緒に拡がりを見せた不思議な何か。あれが魔力なのならば……………………。


 彼女の意識が拡散することなく手元の弾丸へと収束し、自身を覆っていた何かもまた弾丸の中へと注ぎ込まれていく。

 そして瞬く間に弾丸の中を何かいや魔力が満たしていき、許容量と思われる量をオーバーして注ぎ込まれる。


 柚子香が目を開くと、彼女の手の中には翡翠色の弾頭を眩く輝かせた弾丸の姿があった。


「できた!」


(いきなりで成功させたか、やっぱりこいつは天才か……………………)


 出来たとしてももう少しかかると思っていた準騎は、背後から聞こえてきた報告に内心畏怖に似た感情を覚えるも、それを表に出すことなく次の指示を飛ばした。


「そいつを連中の中に放り込め!」


「わ、分かった!」


 魔力を込められた弾丸を握り締めた柚子香が彼女を守るように立ちながら唸り声を上げていた子虎達を脇にどかせると、数歩下がって空いた距離で助走をつけてその弾丸をハンドレッドアイズハウンド目掛けて放り投げた。


「あぁぁぁーーーーっ!」


 しかし投げた弾丸は力を付けすぎたのか真っ直ぐに飛んだ先で迷宮の天井にぶつかり、ハンドレッドアイズハウンドのすぐ目の前に落ちていった。


「いや、むしろ丁度いい位置だ」


 呟くような準騎の言葉。続くコンセントレイトの叫びに準騎の精神が加速。自分以外の何もかもがゆっくりと動く中、当然天井にぶつかり落下する弾丸もスローモーションで地面へと向かっている。そんな弾丸へとテンペスターの銃口が向けられて、準騎は引き金を引いた。


 世界の速度が通常に戻り、放たれた魔力弾が魔力のオーバーフローを起こす弾丸を撃ち抜いた。






 弾丸が暴発し内包された魔力が媒体として弾頭に納められていた風の魔力結晶を介して変質、風の魔力となって吹き荒れる。


 それはまるで質量をもった暴風だった。


 そうとしか表現できない風の暴力にさらされた柚子香は思わずすぐそばに立つ準騎にしがみついてそれに堪えようとする。


 そして見た。


 同じように風の濁流に曝されながらも微動だにせずに次の行動を起こす彼の姿を。






 風の爆発により吹き飛ばされるハンドレッドアイズハウンドを睨み付けながら準騎は行動する。暴風に吹き飛ばされぬようブーツの底に仕込んだ魔法媒体を発動させ足はおろか腰辺りまでを凍結させて身体を固定し、仰け反りそうになるのを筋力を総動員して耐えて見せる。

 そうやって暴風に抗いながら手はテンペスターの側面のレバーへを掴み、それを引く。


 多目的機構銃の内部で仕掛けが動く。

 特別弾倉に込められていた魔弾が薬室へと送り込まれ、今度は適切な量の魔力が装填される。


 テンペスターの銃口が魔だ収まらぬ荒れ狂う風の向こうにいるハンドレッドアイズハウンドへと向けられる。


「消し飛びな、マジックシューター!!」


 テンペスターの引き金が引かれ、魔弾が解き放たれる。

 翡翠色の弾頭を持つ弾丸が銃口より打ち出され、荒れ狂う風壁を貫き突き進む。


「荒れ狂い切り刻め」


 込められた魔力が変換され、魔弾を中心に風の刃と化して壁を床を天井を、ハンドレッドアイズハウンドを切り刻む。


「まだだ!」


 再びレバーが引かれ次弾が薬室に装填される。最初の暴風が勢力を弱め、風刃の嵐も早くも収まろうとする中倒すべきハンドレッドアイズハウンドはまだ残っており新な個体も影の中から這い出ようとしている。


「もう一発、マジックシューター!」


 次に放たれた弾丸は、銃口を飛び出した直後にその力を解放した。

 銃口から僅か数センチの場所で変換された魔力は先に解放された荒れ狂う風を飲み込み、真横に伸びる竜巻となって通路を埋めつくし蹂躙し、生き残っていた、影から這い出てきたハンドレッドアイズハウンドをことごとく殺し尽くした。


 竜巻が収まり準騎の下半身を覆っていた氷が音を立てて砕け散る。


「ぐぅうおん」


 最初の暴風で後方へと転がされていた子虎達が駆け寄ってくる。


 呆けた様子の柚子香が準騎の腰から手を離し、風の収まった通路を眺める。

 彼らの前、視界に映る中に動く物は無い。

 津波のように押し寄せた敵が全滅した瞬間だった。





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