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かけがえのないモノ

「おっ、もう射的やったのか?どうだったよ戦果は?」

しゃがんだままの唯の傍らにある紙袋を発見し、信二は勝手に中を見る

「うおっ、5個かぁ、やっぱパーフェクトは難しいよなぁ」

「、、、、、」

勝手に1人で喋っている信二の横で、唯は俯き、顔を隠していた 顔が熱くなっている事に自分で気づいていたからである

(信二が来て安心したなんてバレたら、、、絶対いじってくる、てゆうか、、、恥ずかしい、、、)

唯はしゃがみこんだまま顔を俯かせているため、はたから見ると真ん丸くなっていた

(、、、あ、、、この格好、、、)

唯はある事に気付き、血の気が引く感覚がした

ある事とはこの服装、浴衣の事である 浴衣など着て夏祭りに来たのは初めてである しかもその柄が白色で撫子である 活発でサバサバした性格の唯からは想像も出来ない可愛らしい浴衣だ

それと同時に、やはり唯の脳裏には4年前の出来事が思い出された

「、、、、、」

唯は全身に悪寒が走り、気持ちの悪い冷や汗が流れた

「どした唯?具合悪いのか?焼きそばとクレープ同時に食ったりしてねえだろうなぁ?」信二がそう言いながら唯の目線に合わせてしゃがむと、それと同時に唯は立ち上がった

「えっ?」

入れ替わりで立ち上がられ、信二はどうしていいか分からず、とりあえず紙袋を木にもたれかけさせた

すると突然、何も言わずに唯は走り出した

「、、、、、え?」

信二は呆然として、走っていく唯の背中を眺めた 浴衣と下駄を模したサンダルを履いた唯は、走りにくそうだが持ち前の運動神経でどんどん信二から離れていく

「、、、?ちょっ、、、ちょっと!」

信二はしばらく固まった後、慌てて立ち上がり走り出した

「あっ、、、!」

少し走ったがすぐにまた先ほどまでいた木の場所まで戻り、唯が獲得した商品が入っている紙袋を持って改めて走り出した この呆然としていた時間と、取りに戻った時間で唯とはかなり差をつけられた しかも、ここまで走ってきたために信二の体力は限界に近かった


「おーい!唯!どこ行くんだよ!」

信二はかなり遅れて走り出したが、やはり浴衣にサンダルではいくら唯といえどまともに走れなかった 唯は少し人通りの外れた公園の中でも自然の多い林の方へ走って行っていた

「唯!危ねえって!そんな格好じゃ転ぶぞ!」

「、、、はぁっ、はぁっ、、、」

唯は黙ってただひたすらに逃げていた 一切後ろを振り向かず、一心に前だけを見つめていた

「そっちは道も舗装されてねえし、、、止まれって!危ねえから!」

信二の言葉に耳を傾ける様子もなく、唯は足を動かし続ける

「、、、唯!」

信二はついに追いつき、唯の腕を荒っぽく掴んだ

「危ねえって言ってんだろ!ケガしたらどうすんだよ!」

信二は唯の腕を強く引き、走らせるのを止めた 捕まった唯は仕方なく足を止め、手を膝についている

「はぁはぁ、はぁはぁ、んっ、、、はぁっはぁっ、、、」

唯は信二の方を見ず、全身を揺らして息を整えていた 慣れない浴衣とサンダルで、さすがの唯も疲れ切ってしまったようだ

(信二の手、、、大きい、、、)

以前気付いた肩の高さに続き、また信二の変化に少し驚かされていた

「、、、あのさ、今日は、、、これだけ、唯に言っとこうと思って、、、来たんだよ」

信二は改まった声と顔で、まだ息の荒い唯に言った

「、、、え、、、?」

速くなった鼓動がさらに加速していく 唯は自分の胸を押さえ、この感情を確認した

「家で1人でいたらさ、、、どうしても気になって頭から離れねえから、、、言っとくわ」

信二はそう前置きし、小さく深呼吸をした

「っっ!?」

(えっ?し、信二、何を、、、!?)

唯は心臓の音が、手を押さえなくても感じるほどに大きくなっている事に気付いた

「俺、、、ばかじゃねえから!」

「、、、は?」

信二の訳のわからない言葉に唯は途端に冷静になった

「お前、この前俺にばかっつったろ!唯に言われるほどばかじゃねえからな俺!学力とか大して変わんねえからな!?佐山とかに言われるならまだしもよ!」

信二は堰を切ったように言いたいことを吐き出した 唯にばかと言われた事がこの数日間、ずっと気になり続けていたようだ

「、、、な、、、何言ってんの?ばかじゃないのホントに!」

唯はため息をつき、ホッとしたようなムカつくような、色んな感情がない交ぜになっていた

「だからばかっていうな!腹立つんだよそれ!」

「はいはい、もう分かったから!」

唯は信二から顔をそらし、少し乱れた浴衣を出来る範囲で整え直していた

「あと、、、やっぱさ、、、今から、一緒に回らねえか?俺も、射的とかやりてえし」

「えっ、、、なんで?別にいいって、見てやってくれなくても」

勇気を出してまた誘った信二だが、唯は以前と同じように冷たく断ろうとする

本当はその信二の言葉が嬉しくてたまらないはずなのに、信二にいて欲しいと思っていたのに、唯は素直にそう答えられなかった

「いや、見てやるとかじゃなくてさ、、、毎年一緒に来てんじゃん?今年もさ、、、」

「だから今年はのぞみんと来てるんだって 今はちょっと別行動だけど」

素直に答えられない理由を、唯は自分で分かっている しかしそれを認めたくなかった その理由はとても女らしいもので、自分には不似合いなモノのような気がするからだ

「別行動なんだろ?じゃあちょっとだけでもさ、、、」

「毎年一緒に来てるから、お父さんに言われてるから、、、そんなの理由になってない、、、もういいよ 信二はばかじゃないです ほら、これでいいんでしょ?」

唯は信二が持ってきた紙袋を受け取り、いま来た道を戻ろうとした

「ま、、、待てって!」

信二は唯の背中に言葉をぶつけるように言い放った 唯はピタっと足を止め、信二の言葉に耳を傾ける

「そのばかがどうとかっていうのは、、、ついでみたいなもんで、ホントは、、、唯に会いたくて来たんだよ、、、」

「、、、なんで、、、私に会いたかったの、、、?」

信二も唯も、綱渡りのように張り詰めた緊張感の中で会話をしていた 一歩踏み違えれば全てが壊れるような、そんなせめぎ合いに先にしびれを切らしたのは信二だった

「、、、ああっ、くそっ、、、もっとちゃんとしたとこで、ちゃんとした時に言おうと思ったのに、、、」

信二は頭をかきながら、少しイラついた様子で呟いた

ふうっ、と最後に息を吐いて、信二はゆっくりと口を開いた

「好きだからだよ、、、唯のことが」

「、、、っっ、、、っ!」

唯はバッと勢いよく振り返り、信二の顔を見る 信二は顔を赤くし、頬を引っかきながらも唯の目を見る

「だからその、、、夏祭りだって一緒に行きてえし、、、高校も同じとこ行きてえし、、、ずっと、、、その、、、一緒にいたい」

「嘘」

信二の言葉尻にかぶるように、唯は吐息とともにこの言葉を吐いた

「え?」

「嘘つかないでよ 嘘だよ 私、覚えてるもん 小学5年生の時の夏祭りの事、、、」

「小5の時、、、?」

暗い表情と声色で信二の想いを【嘘】だと言った唯は断固として受け付けなかった そして4年前から積もりに積もった気持ちが爆発した

「その時、、、私の事、かわいくねーって言った!女の子らしくねーって言った!お前なんかにはそんな服似合わねーって言った!覚えてるんだからね!?私!」

「えっ、、、」

突然声を上げる唯に、信二は戸惑った

唯の目から勝手に涙が溢れ出てきていた

「かわいくねーやつ好きになる訳ないじゃん!いくら信二がばかでもさ、、、!」

自分の意識とは反対に、止まらない涙を必死で拭い続ける 信二はどうしていいか分からないまま立ち尽くしていた

「、、、もうどっか行ってよ!信二がそこにいるだけで、、、!ムカつく!近くにいると思うだけで、、、、、」

唯は信二から顔を背け、そのまましゃがみこんだ 信二から気を紛らわすため、紙袋を抱きしめる

「、、、ごめん」

信二はボソッと呟くように謝った

「俺、、、唯にそんな事言ったの、、、全然覚えてなかった だから、なんでそんな事言っちまったのか分かんねえ、、、けどさ」

信二は背中を丸めてしゃがんでいる唯に、一歩近づき、顔を上げた

「小5の時にはもう、、、俺、唯の事好きだったから、、、!」

「っ、、、!?」

信二の重ねての告白に唯は動揺した

「だから、、、テレ隠しでそんな事言ったのかもしれない、それは分かんねえけど、、、4年前の俺が、そう思ってたはずなのに言えなかった事、、、俺が今も思ってる事、今なら全部言える、、、!」

信二はそう言いながら息を深く吸い込み、唯のしゃがんだままの後ろ姿を見た

「唯はめちゃくちゃかわいいし、女の子らしいよ、、、!その白い浴衣だって、、、かわいくて、めちゃくちゃ似合ってる!」

「、、、、、」

「放課後、サッカーしてる時も、一緒に帰ってる時も、親父さんと喋ってる時も、笑ってる時も怒ってる時も、唯はずっとかわいい!だから、、、好きだ、、、!」

信二は途中からヤケになったように、思いつく限りの言葉を並べた ただその言葉の中に、嘘は決してない 普段から思っていたことを口にしただけである もちろんそうであることは、幼馴染だからこそ唯も分かっていた

「、、、、、やっぱり、、、ばか」

「、、、、、っ」

唯の返事に、信二は歯がゆそうに息を吐く

「ばか、、、!好きな女の子がしゃがみこんで泣いてたら、抱きしめるぐらいしてよ、、、!」

「え、、、、、?」

「、、、ホントに、、、好きならね!」

唯は息を引きつらせながら、怒ったような口調で言った

「、、、、、」

信二は黙って唯の後ろでしゃがんだ そしてその背中を唯の言う通り、優しく抱き締めた

信二の腕は余裕を持って唯の肩口から肩口を包み込んでいた

「、、、私だって、、、!」

「、、、ん?」

抱き締める信二の腕をぎゅっと握りながら、唯は口を開いた

「私だって、、、小学5年生の時にはもう、信二の事好きだったよ!だから、信二にかわいいって言って欲しくて、いつもと違う服を見せたの!なのに、似合わねーって言った!」

「、、、うん、ごめんな」

「2人でお祭り行こうって言ってくれて嬉しかった、、、でも、なんでって訊いたらなんかテキトーな事ばっかり、、、好きだからって言って欲しかったの!ずっと、、、今日も!」

「うん、、、ずっと言えなくてごめん」

「わがままばっかり言ったけど、、、私わがままだから!これからも言いまくるから!わがままばっかり!」

「うん、、、知ってる」

「それでいいんなら、、、こんなわがままで、髪も短くて放課後にサッカーとかしちゃうような女の子でも、信二が良いって言うんなら、、、!私も、、、言うよ、、、?」

「うん、、、」

「信二ぃ、、、好き、、、」

信二の腕に顔を埋めていた唯は、ずっと泣いたままだった 信二の腕はその涙を染み込ませ、唯の不安さえも拭い去っていた




信二と唯は近くの石段に腰を下ろしていた

泣きじゃくっていた唯が、疲れたので休みたかったようだ 信二に買ってもらったジュースを飲みながら一休みする

「あーあ、せっかくのぞみんのお母さんに綺麗に着付けてもらったのに、、、崩れちゃうわ土が付いちゃうわで最悪だよ」

唯は手を広げてまとまりの無くなった浴衣を見た ため息をついて残念そうに唇を尖らす

「そういや佐山は?はぐれたのか?」

「特設ステージの方に行っちゃった なんかどうしても見たい人がいるみたいで 猫がどうとか言ってたなぁ」

「ふ〜ん、、、」

信二は唯から顔を逸らしながら小さく頷いた

「、、、、、」

「、、、、、」

2人の間に沈黙が流れる しかしそれは気まずい間というよりは、生まれざるを得ない必要な空いた時間だった

「、、、あのさ、、、確認するみたいでカッコ悪いけど、、、」

「、、、うん」

「俺と、、、付き合ってくれる、、、?」

先ほど盛大に告白したばかりだが、改めて想いを口にするのはやはり恥ずかしく、緊張した しかしこの段階を踏まないと先に進まない事は信二も唯もよく分かっていた

「、、、無理」

「うん、、、えっ?」

信二は反射的に頷いた後、ハッと顔を上げ唯の方を見た 自分の耳がおかしいのか疑いながら唯の様子をうかがう

「付き合うのは無理 ごめんね?」

「え、、、マジで?」

信二はショックというより驚きの表情を浮かべながら唯に確認した 唯は黙って首を縦に振った

「あ、、、あの、俺の事、好きって言ってくれたよな、、、?」

「うん 言った」

「俺も唯の事好きなんだけど、、、付き合っては、、、」

「あげない」

「なんでだよ!?意味分かんねーんだけど!?」

信二はいつもの幼馴染に向けるツッコミのような口調で唯に言い放った 告白の照れ臭さからはもう抜け出せたようだ

「だって、、、これから勉強大変でしょ?」

「え?まあそうだけど、、、!」

「だから、、、2人とも青葉高校に行けたら、、、そしたら、付き合お?」

唯はそう言いながらゆっくりと信二の方を見た 優しく笑いながら無邪気に小首を傾げたその表情は、【幼馴染】として見せたモノではなかった

「っ、、、う、、、」

信二は再び照れ臭くなり顔を逸らした 見慣れない唯のその笑顔は、信二には刺激が強すぎたようだ

「、、、おう、分かったよ」

「ふふっ、やった」

信二のぶっきらぼうな答えを聞き、唯は小さく笑いながら喜んだ その様子を横目で見ていた信二は、1人で顔を赤くしながら恥ずかしがっていた

「信二っ!」

顔を逸らしている信二の肩を叩き、唯は耳元に口を寄せた

「一緒に勉強、頑張ろうね」

「、、、っ!」

夕日が公園全体と2人をオレンジ色に染める中、そのとても小さな声は、息が吹きかかるほど信二の耳の近くから発せられた そしてそう言うと同時に、唯は信二の肩に自分の頭を預け、もたれかかった

「、、、ああ、頑張ろうな」








そして、冬


青葉高校合格発表当日



信二と唯は軽自動車の後部座席に並んで座っていた 運転手は唯の父親である

「うぅ〜っ、さみぃ〜!なんだって冬はこんなに寒いんだよぉ〜」

信二は腕を組み、震えながら体を丸める

「雪も結構積もってるね 帰ったらかまくらでも作るかね!?二階建てのやつを!」

唯は車の中から窓越しに外の雪を見つめる

「もっと積もらねえと無理だよ二階建ては」

「やる前から諦めたらあかーん!やるしかないんやで!?ウチらは!」

「なんで関西弁なんだよ、、、」

2人はいつもと変わらない調子で会話を繰り広げる そうしている間にも車は少しずつ合格発表の場所、青葉高校へと向かっていた

(、、、この何ヶ月、ずっと勉強してきて、、、多分生まれて初めてこんなに勉強したけど、、、受かってんのかな、、、)

信二は不安な気持ちがよぎるたびに、今までの努力を思い出していた

(佐山にもめっちゃ教えてもらったし、、、唯とも毎日のように勉強したし、、、絶対大丈夫だよな、、、大丈夫、、、)

そう思い込むと、次に先日の試験本番を思い出してまた暗くなる

(でも、、、あんまり良くない出来だったんだよなぁ、、、本番って怖い、、、ヤマが当たってないと厳しいよな、、、)

信二は不安の連続に苦しくなり、大きくため息をついた

「どうした信二っ!ため息ついて!」

するとそれを見ていた唯が信二の頭を叩いた

「ぶぇっ!痛えな!」

「頑張ったから大丈夫!ため息つくなっ!」

唯は明るく元気にそう言うと、また前を向きなおした

「わ、、、分かってるよ、、、」

信二は叩かれた頭を撫で、唯を見ながらある事について考えていた

(つかこいつ、、、覚えてんのかな、、、青葉高校に2人とも受かったら、付き合おうって話、、、あれから一切そんな話しねえけど、、、)

「唯も信二も、毎日毎日勉強ばっかしてたから、おかげで今年の夏はつまらなかったが、その分、この受験は大丈夫だ!受かってるに決まってらぁ!」

唯の父親は運転をしながら2人を勇気付けようと高らかに笑った

「もちろん!余裕だよ青葉ぐらい!」

唯は意気揚々と元気良く答える

(、、、まあ唯が忘れてても、高校に入る頃にもう一回告白しねえとダメだと思ってたから、別に良いけどな、、、)

信二は1人、受験以外にも恋路と戦いながらこの日を迎えていた





青葉高校に着き、駐車場に車を停めて信二と唯は合格発表の張り出しへと向かう

「おーい、おっちゃんも来いよ」

「いや行かねえ!俺は待ってる!」

信二の呼びかけを、唯の父親は首を振って断った

「まあいいじゃん 信二、行こ?」

唯は信二の服の裾を引っ張り、校舎の方へと向かおうとする

「おっちゃん、相変わらずビビリだな」

信二は小馬鹿にしたように笑いながら駐車場に背を向けた

「私達が小ちゃい時から変わんないねー」

唯の返事に信二は笑いながら頷く

(、、、唯、、、髪伸びたな)

少し後ろを歩く信二は、唯の髪を見ながら何気なく思った 夏の時点では耳が隠れる程度のショートカットだった唯の髪は、もう肩につくほどに伸びていた

(それになんか、、、小さくなったな 昔は同じぐらいだったのに、、、)

信二は唯を見ながら、昔とは確かに変わっていく全てに悲しいような寂しような、憂いた気持ちになっていた


「俺は15024番だから右の方だな」

「私は14811番だから、左の方!」

2人は違いの進行方向を指差しながら、目を合わせた

その後拳を突き合わせ、少し笑いながら二手に分かれた


(受かってる、、、絶対受かってる、、、)

信二は念じるように何度も心から唱え、深呼吸を繰り返す

目の前に合格発表の紙が貼り出されていた

15015、15017、15018

(落ちてる訳ねえ、、、ある、、、ある、、、)

15021、15024

「、、、あっ」

信二はあっさりと、その番号を見つけた

「あった、、、15024、、、」

信二は驚いた顔のまま、喜びを口にするよりも表情に出すよりも先に、首を勢いよく左に向けた

そしてすぐに駆け出していく

(あった!受かってたぞ!唯!)

目線の先に唯の姿を見つける

「唯!受かってたぞ!俺!受かってた!」

信二は無我夢中で唯に結果を伝える こんなに上ずった声を出した事はもしかしたら生まれて初めてかもしれない

「、、、、、」

唯は無言で合格発表の掲示板を眺めていた

「、、、唯?」

唯のその呆然とした表情を見て、信二の背中に寒気が走る 自分の合格で頭がいっぱいだったが、急に現実に引き戻されたような気分だった

「ちょっ、、、貸せよ」

信二は唯から受験番号の紙を受け取る

唯の番号は14811である

(嘘だろおい、、、ここまで来たのに、、、)

信二は唯の番号の付近を目で追っていく

14799、14806、14807

(唯の番号、、、絶対ある、、、!)

14811、14813、14819

「、、、えっ?」

信二は目線を二つ前の番号に戻した

14811

「あ、、、ある!んだよおめー!あるじゃ、、、!」

信二が安心した様子で唯の方を向くと、それ以上口が動かなくなった それは、物理的にである

視界を覆い尽くしているのは、目を瞑った唯の顔だった そして口は、自分のそれより小さく柔らかい口で、そっと栓をされていた

「んっ、、、!?」

少しして、信二は唯に口づけをされている事に気付いた 唯は信二の肩を持ち、懸命に背伸びをしながらギリギリで高さを合わせていた

そして信二の肩を持ったまま、唯はゆっくりと唇を離した

「、、、背、随分と差が付いちゃったからさ、、、?一苦労だよ、、、」

唯は手の平を頭に乗せ、信二の頭と比べながらそう言うと、はにかみながら小さく笑った

「えっ、、、あ、ああ、、、」

自分の身に起きた事が何なのか今になってやっと気付いた信二は、頬から一気に顔が赤くなった

「えへへっ、照れてるっ!」

唯はバカにしたように楽しそうな笑顔を浮かべ、信二の顔を指で差した

「う、、、うっせーな!てゆうか、、、覚えてたのかよ、、、」

信二はいつもの調子で言い返そうとしたが、やはり照れ臭くて目をそらし、口元を腕で覆った

「うん 当たり前じゃん 信二の事好きだもん!」

唯は満面の笑みでそう言うと、信二の腕に抱きつき、肩に頬をすり寄せた

「おっ!お、おい、、、!」

「照れるなって♪カッコ悪いぜー?」

動揺してばかりの信二に対し、唯はイジワルそうな笑みを浮かべている




(今までと変わっていくという事は、、、とても怖い事だ、、、)




「信二ってさー、手も肩も大きくなったし背も高くなったし、カッコよくなったね!」

「な、なんだよお前は急に、、、前までそんなの言った事ねえだろ」

無事合格を確認した2人は、腕を組んだまま駐車場に向かって歩いていた

「だってせっかく付き合ったんだから、思ってた事全部言いたいじゃん!」

「だからってよくいきなりスイッチ切り替えれるな、、、」




(でも、変わるのを恐れてるだけじゃ、何も進まない それは、恋だってそうなんだと思う、、、)




「そんな事よりさ、信二も言ってよー 私の好きなとこ!ほら、前みたいに!」

「えっ、、、こ、今度にしようぜ?またそのうち、、、」

「なんで!?言って言って言ってー!」

「〜〜、、、あっ!」

信二は驚いた表情で前を向いた

「何しとんじゃ信二〜!コラァ!」

信二の視線の先には、怒り狂った唯の父親の姿があった





(俺は、変わっていく事が恥ずかしくて、寂しくて、そして何より怖かった、、、)






「ったく、てめえだけ置いて行ったっていいんだぞボケ信二?おぉ?」

なんだかんだ信二を車に乗せてくれた唯の父親は、ミラーから信二を睨みつける

「いい加減子離れしろおっさんが いい年して」

「てめまだその口を聞くか!憎たらしい野郎だ!ったく!」

信二と父親の言い合いを聞きながら、唯は楽しそうに笑っていた





(でも今までの関係から変わる決意が出来たからこそ、俺は今、こいつの幸せそうな笑顔を、一番近くで見る事が出来る、、、、、)





「、、、なぁ」

信二は車のエンジン音でかき消されるほどの小声で唯を呼びながら肩をつつく

「?なに?」

唯もつられて小さい声で答えた

「髪、ちょっと伸びて、、、女の子っぽくなったな、、、」

「、、、へっ?な、なになにいきなり?」

「だ、だから、唯の、、、好きな所だよ」





(だから、俺も今までの自分とは変わって、、、もっと素直に言葉を伝えていきたい)






「えっ、、、?」

唯は顔をポッと赤くして、動揺しながら前を向きなおした

「あと、、、俺の事、誰よりよく分かってくれてるとこ、顔も声も喋り方もすげえ可愛いとこ、器用で料理とか裁縫とか出来るとこ、、、、、」

信二は指を折りながら一つ一つ上げていく

「なんだよー、ちゃんとあるじゃねえかよー?んー?」

唯はたまらなく嬉しそうな表情を浮かべ、信二の二の腕を殴る

「あ、あとは、あれだよ、、、チビなとこ」

「、、、はぁ?チビじゃないし!私、のぞみんより1センチも高いし!」





(やっぱり最後は照れ臭くて意地張っちまうけど、、、それは、、、幼馴染だからって事で)





「ムキになんなって、あー、あれだ 気が合うとこだよ」

「なんかテキトーになった!あと、ムキになってないから!」

唯は拗ねた口調でそう言うと、窓の方へ首を向けた

「、、、、、」

信二は呼吸を整え、勇気を出して唯の手を握った

「っ!?」

その瞬間、唯がビクッと反応したのが顔を背けられていても分かった





(変わるモノも、変わらないモノも、、、俺にとってはどっちもかけがえのないモノだ、、、だから絶対にどっちも離さない、、、それが出来るって、自信を持って言える)






「ま、その、、、なんか色々言ったけどよ、、、好きだよ、って事な、、、?」

顔を逸らしている唯に、信二はそれだけを優しく伝えた

唯はパッと振り向き信二の顔を見ると、シートにもたれこみ、照れながらだがパーっと明るく笑った

「気が合うね、、、、、私も好きだよ」

唯はそう返事をすると、信二の手を握り返した







(俺と唯だから、、、、、絶対に離さないって、誓えるんだ)










最後まで読んで頂きありがとうございました。



これを読んで頂いた皆さんは是非、私の他の連載小説【縁】とかも読んで欲しいですね。

猫評論家が出てくる【猫な彼女】という短編も読んで欲しいですね。

もう、とりあえず読んで欲しいですね。

ありがとうございました!

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