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俺様ヒーロー  作者: 真山羊野
本編
7/45

MISSION7 時にはヒーローだってはっちゃけたい


「疲れた―!」


ドサリと音を立てて青年は柔らかくフカフカしたベットに倒れ込んだ

でもまたモソモソと起き上がってワイシャツを脱ぎ捨てる

背中には激戦を駆け抜けた古傷―…ではなくある種では痛々しい徹夜明けサラリーマンの様な湿布が貼ってあった


総帥と呼ばれる彼は悪者部隊一番の苦労人で素晴らしい程の不幸体質

悪運も強いから流石に怪我はしないが部下のみならず上司のミスのフォローは全て彼の役目という損な役回りを受け持っていた


「もーやだぁあああああああ。あの馬鹿上司ぃぃぃあああああ!!!!やめてやるからなあ!いますぐやめるぅぅええええああっ!!!!」


枕を口に押し当てて叫ぶ

実際くぐもった声にしかならないがそれは気持ちの持ち様で…

スッキリさえすればいい


「疲れてるねぇ総帥」


ふと後ろからかかった声に驚いて振り向くといつの間に入り込んだんだか一人の青年が嗤いながら歩いてきた

リズムを取りながら青年は総帥の横に立つ


「辞めちゃえば?疲れなくなるよ総帥」


あっけらかーんと言い捨てる青年に総帥は呆れながら言った


「……でもお前らの不始末を片付けるのは誰だ?」


「あはははっ。そうだね。辞めないで総帥」


溜息を吐いたあと青年が勝手に部屋に入ったのを咎めようかと思ったが気心知れた相手なので寛容で見逃すことにした

かわりに何時もの低い声を出す


「何の用だ狼々(ろうろう)」


さっきの今では余り迫力が無いがそこは…まあ、仕方無いという所だ


「え―?うん、明日の任務僕が出たいってだけなんだけど。良いよね?」


「…いきなりなんだ?明日はアンドロイド02号の役目じゃないか」


総帥が言うと狼々は頬を膨らませて拗ねる


「言うと思った!駄目とは言わせないよ。別に向こうの力量が知りたいだけ。外出許可ぐらいでも良いから―!拒否権はないよ?」


その後にねぇねぇねぇと言い続ける。諦めが悪いのか生意気なのか…

内心、総帥は何処で捻くれたんだと泣きたくなった


「…はぁ。ったく仕方無いな。出してやるよ」


結局折れたのは総帥でベットから腰を浮かせて書類を取ろうとしたら狼々が止めた


「僕が行く。………えっと、これ?」


狼々が机の紙の山を漁って何とか書類を引っ張り出す


「そうそう」


総帥は一枚の羊皮紙を受け取るとそこにサラサラと慣れた手つきでサインを書いた


「建て前は情報収集だから倒すなよ?…じゃ、俺寝たいんだが…」


羊皮紙を狼々に押し付けてまくらを叩いて見せると流石にすままなさそうな顔をした


「嗚呼、ごめんね。それじゃゆっくりお休み総帥。あ、拒否権は無いよ?駄目とは言わせない」


「………言わねぇって」


そしてそのまま総帥は崩れ落ちる様に眠りについた

そんな総帥を何とか普通の体制にして布団をかけてやった後狼々が嗤う


「あははっ。戦闘員じゃないのにこんだけ疲れるんだねぇ上司って。お休み狼々」


昔の名前が自然に口から零れて狼々は慌てて手で塞いだ

チラッと盗み見ると総帥は起きる気配は全く無く規則正しく寝息を立てていた

安堵して口から手を離すと苦笑いで呟く


「つい、うっかり。内緒だよ?拒否権は無いよ」


そう嗤って『もう一人の狼々』は足音も無く部屋から出て行った





……ー後少しで真夏の炎天下。夏休みまではまだ長い

そんな日の休日、俺は大きな袋を抱えて人込みの端を歩いていた


「にゅいーーーーーーん」


これまた後ろから気の抜けた声がする


「にゅいーん」


「にゅーーーへみゅーーん」


動くたびの効果音かソレ?!


抱えるのが精一杯の大きな紙袋を抱えている俺の後ろ、片手で器用に同じサイズの紙袋を持ちもう片方で俺のズボンについているシルバーチェーンをこれまた器用に掴んでいるアンドロイド03号通称『おかん』が変な擬音とともに歩いていた


「なあ」


「うぃ」


振り返ると向こうも見上げて来る。…でもちっさいから紙袋でよく見えないけどな…


「なんか他に買い物あったか?」


「ほぁぁぁ…?」


少し考えたあと03号は首を振った…気がする


まぁ、見ての通り今日は買い物で夢吉のお使いをしに来ている


ここだけの話、サイズは同じでも実は03号の方がかなり重い筈だから軽々と抱えてるのが少し悔しい


これから鍛えよっかなぁ…?


「お前語源能力無いのなー?」


「うぃ」


03号は幾つかの単語とジェスチャーで会話するから些かつまらない気がしないでもない


「…む?」


会話を続けようとしてケータイのバイブに気付いた

電話番号をみて路地裏に走って行って通話ボタンを押す


「こちら龍太郎。何?」


(拙いで、龍太郎!悪者や!直ぐに変身してぇな!)


よほど焦って居るのかそれだけ言って夢吉はケータイを切ってしまった


仕方ねぇ。えーと…荷物…


「へみゅー」


03号が服の裾を引っ張った

俺が見るとジャージのジッパーを下まで下げた


「!?」


中にあったのはぽっかり開いた黒い闇だけ

その中に03号は器用に紙袋を押し込んだ

そして俺に手を差し出した


………って、


「これも!?どこ行ったその荷物!?」


俺から荷物を受け取ると03号はソレもしまい込んでジッパーを元に戻した

まったく膨らみもなく元の体型のまま。青いネコ顔負けの収納能力だな


「さて、次は俺か」


ケータイを出して…困った

何を撮れば良い?


今日は仕事する気なくって前ケータイを家に置いて来たからな


「………………」


「うぃ?」



ピロリィーン



03号を撮った

…無機物だし。多分何かにはなるさ


(青龍、海賊@初代モデル!いっくでー!)


夢吉の声でいつもと違う姿に少し驚く


スリットの入った青いロングコートにはシルバーアクセサリーがついていて通信機はヘッドマイク型になっている


へー。03号ってこうなるんだ

でも初代モデルってなんだ?

………ま、いっか


「いくぞ03号!」


「へっみゅーーーーーん」


俺と03号は高く跳躍する

ビルを軽々超えて久々なる全身タイツの前に躍り出た


(青龍!悪いんやけど今日は03号と闘ってな!白虎も朱雀も鳳凰も風神も別々の所で戦闘中なんや。どうやらバラバラにして闘うっちゅう魂胆やな)


お前、さっきはあんなオタオタしてた癖に今はイマイチ焦って無い気がするが…


(だって青龍、一人でも十分なんやもん。それにさっきは電話対応中やってん。ん、まぁ…じゃあ、バックアップを後で送ったるわ。少し待っててくれる?)


了解。さて、行こうか?



「ハッ、今日は全身タイツでも最強な俺達が相手だ!覚悟しろ青………」


「ソレはこっちの台詞だ!」


何時もの如く相手の台詞を無視して蹴り飛ばす

今日は撮る物が少ない町中だから余り武器のストックが無い

とりあえず前に使った拳銃と棒…後は朱雀にデータ送ってもらった剣か?


白虎は体術だから武器は俺より少ないしな


「転送『剣』!…これでもつかなぁ―っと!!」


考えながらも相手を取りあえず切り裂いて行く


安心しろ、気絶させただけだ


「はぁ?!もう全滅?弱っ」


俺が嘲笑って踵を返して立ち去ろうとすると上から声が掛かった


「だよね?ねぇつまらないでしょ?僕と遊ぼうよ。拒否権はないよ?駄目とは言わせない!」


同時に上からいきなり降って来た攻撃を条件反射で防いだ


「勝手に攻撃しないで!」


直ぐに隣りに女の子が下り立った


「ねぇ君って名乗らないんだよね?やったあ。仲間だね」


全く、不名誉な仲間だな


「名乗ってよバカァ!私はアンドロイド02号!」


「えー。仕方無いなぁ。僕は狼々だよ」


02号と名乗ったのは顔や細かい造りは違うもののデフォルトが03号とほぼ同じの女の子

下がスカートのジャージを着ていた


狼々は長い髪を一纏めにして顔立ちは幼くないのに子供らしい雰囲気の青年

ブカブカ過ぎるチャイナ服っぽい服装だった


「遊ぼうよ。ね?拒否権はないよ。駄目とは……」


『言わねぇよ!!!』


ニコリと笑って口癖を言いかけた狼々を遮って叫んだのは他でもない語源能力が乏しい筈の03号だった


『バックアップ完了!初代紫陽花様参戦してやったぜ?』


敬礼みたいなポーズでセリフとともにキメる

テテケテーンと律儀に効果音付きだ


「バックアップ…?!」


唖然とする02号の声に少しドヤ声で答えたのは夢吉だった


(補助機能や!初代や歴代ヒーローが担当するんやで!03号は初代紫陽花の通信機で03号を通してバックアップしてくで!人数が足りない時とかに使うんや)


おk。把握した


「そしてこれが助っ人なのだよ!!!!」


いきなり背後から聞き覚えのある声と共に03号の頭に黄色い物体が


『べぇぇぇっっっくっっっっ』


という奇声をあげてスコーンと03号に刺さった


「稲穂!…と…流れ星…?」


稲穂は03号に刺さった身体つきの流れ星を力任せに引っこ抜きながら言った


「久し振りだねたまご!あ、龍太郎君紹介します、アンドロイド01号通称Beck!特技はおかんに刺さること!」


『特技言わん!通信回路壊す気か?!』


紫陽花の抗議をスルーして稲穂は俺に言う


「たまごは任せて!龍太郎君は狼々を!」


切実に不安だなぁ!?


「…うん。人数が増えても同じだよ?悪いけど負けてよ。拒否権はないよッ!!!」


何となく状況を把握しきれてない様な顔で、でも一応キメるとこはキメて狼々が空中に『剣』と言う字を書く

それが実体化して彼の手の内に収まった


「驚いた?僕は言霊師なんだ!」


いや、別に?似た様な事を俺らもするからな

でもそっちが本気ならやりやすい。俺はニッコリと笑ってから手に棒を出した


「いくよ!」


狼々が切りかかって来る

俺はそれをかわして棒を回す様にして叩き付ける

狼々は咄嗟の判断で身体を引くと『盾』と書いた。それで俺の一撃を防ぐが少し顔を歪める

多分腕に多少の負荷が掛かったんだろう

俺はそれを見逃さずもう一度上から叩き付ける


「ッ…!」


狼々はそれを剣で受け止めようとしたがそんな玩具で止められる訳も無く剣は大破した


「やるね。もっと君と遊びたいなぁ!拒否権はないよ…!」


こちらこそ。俺はそう言う意味の笑顔を返して飛び掛かる

強くしなやかに華麗に蒼い焔を携え龍の如く

猛々しく無邪気に残酷に紫煙を携え狼の如く

二人は己の最凶で最高の一撃を互いに打ち込んだ




…んで。もう一方はというと


「久し振りに手合わせするね、たまご!」


笑う稲穂に02号が飛び跳ねながら叫んだ


「たまご言うなあっ!私は02号っていうちゃんとした名前があるし!」


それを興味なさそうに紫陽花が流す


『そーかそか。それは置いといて…』


「おかないで!」


『…。…て!俺達もガチで行くぜ!』


紫陽花はそう言ってジッパーを下げると先程の異次元空間に手を入れる

中から取り出したのはよく分からない真っ白い物体だった


『ほい、ヒーロースーツ試作版』


「お、ありがとう」


稲穂はそれを受け取ってゴソゴソと着込んだ


「フッフッフッヒーロースーツ試作版第二百三号!」


ジャジャーンという効果音で立ち上がったのは(*゜∀゜*)←こんな顔した真っ白な猫だった


「訳がわからないよ?!」


02号が叫ぶ


『更には!』


そう言いながら今度は長い丸まった紙の物を取り出した


「ポスタァソォードッ!バージョン立派やっぱパリ♪」


「もっと訳がわからないよ?!!」


うん。俺にもわからない

つかなにやってんだオメーら!!!


「いくよBeck!」


『べくっ』


01号が敬礼する。そして…


「いっけぇえぇ!流れ星☆ポスターブレイド!フランスペシャルー!」


「「こらこらこらこらこらこら!」」


流石に知らぬ振りをしきれなくなった俺と狼々が突っ込んだ


「ちょっと待った!あからさまにおかしいわ!某魔法少女まど☆●ギの名言が混じってるから!卵どうした!」


「え?私何か言ってた?」


02号がコクッと首を傾ける


「無自覚かよ!?」


俺は溜息を吐く

正直戦う気が失せたんだが…

でも倒さない訳にはいかないので手に握った棒を強く握り直した


…よし


「ったく、何だよ今日のはっちゃけ回は!」


俺はそう言ってロケットスタートをした


「さあ?僕は知らない」


狼々が02号の前に立って『壁』と書く

直ぐに壁が現れたが俺は棒では無く手を握り締めて壁に勢いよく殴り付けた


「嘘…でしょ?」


嘘だったら兄貴は倒せないけど?

砕け散った壁に驚いた顔の狼々に今度こそ棒を叩き付ける


「あ…ぐッ…」


倒れた狼々の後ろで02号が臨戦体制を作るがもう遅い。俺は首筋(?)にピタリと棒を当てた

俺の勝ち。そう言う意味で笑顔を見せる

02号はそれを見て諦めたらしく素早く狼々を回収して俺と合間をとった


「あんな奴が…お兄ちゃんの弟…?!」


02号が叫ぶ

お兄ちゃん?…の弟?

心当たりは一人しかいない


「お兄ちゃん?…んぁあ―!兄貴か」


えー…アレが『お兄ちゃん』なんだ


…でも昔は俺もそうだった。手を繋いで買い物に言って、欲しい物を買ってもらったな


昔の思い出に浸りかけて慌てて戻る

全く…仕方無い。今日は『お兄ちゃん』に免じて見逃してやるか


俺は02号を見て言った


「あの兄貴バカを宜しくな。機械のお嬢さん(おちびさん)」


パチっとウインクしてみせるとキョトンとしたあと慌てふたいて


「な、なによ!覚えててよねバカァ!」


と動揺が丸分りな捨て台詞を言って逃げる彼女に苦笑する


兄貴か…

またいつかちゃんと皆で買い物いこうか?

俺はそう考えて首を振る


「…ないわー…流石に無理がある」



そういえば、俺のデレ期は過ぎたんだった




「…で?失敗したのか狼々」


「だってアイツ思いの他、目茶苦茶強いよ。怒らないで!拒否権はない…よ…多分…。…ゴメン」


本部総帥の事務室、椅子に座った彼の机の前で狼々がショボくれていた


その姿に総帥は少し笑ってから手元の資料を見る

02号からだったが取りあえず混乱が治って落ち着いたらまた書いてもらわないと…

何があったのか知らないが『おろろろ』が多過ぎて流石に読めない


「ったく。怒らねぇよ。でもこれからビシバシ扱いてやるからな?訓練が足りない様だし?言っとくが拒否権はない、駄目とは言わせないからな?」


「はぁーい…師匠」


ゲッソリした顔の狼々の肩を叩いて総帥は言う


「でもその前にお茶でもしようか?お疲れ様」


笑いかけると狼々はアッサリと反省モードを切り上げてしまった


「うん!わかった総帥」


狼々の輝く様な笑顔を見てふと思う

最近は基地から出てないから気分転換にもなるだろう


「狼々、今度久々に買い物にでも行こうか」


さらに嬉しそうな顔をした弟子に総帥は微笑みかけた




「お兄ちゃん!」


02号は実験室で機械弄りをしていた龍夜に声を掛けた

龍夜はいつもと同じ優しい笑顔で振り向く


「なに?」


あのね…と続けようとして辞めた

ここで龍太郎に言われた事を言ったら何か負けた気がして悔しい。変わりに別の事を言った


「買い物行こう!お兄ちゃん」


龍夜は驚いた後少し考えてから言った


「良いよ。気分転換に今度行こっか」


02号は頷いて自分の部屋にニコニコ笑いながら駆けて行った



無論後日、彼らは同じ町で鉢合わせることになるのだが…それは別の話で


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