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Spica  作者: 国見炯
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カレン視点



 副題・呼んでしまった人はとんでもないお方でした。





 彼と私の間に繋がる絆は、誰が見てもわかる程だった。

 確かに私は、魔術師と召喚師の称号を得る為に授業を選択しているけど、彼のような明らかに高位の存在を呼べる程、召喚師としては可もなく不可もなくという存在だ。

 戸惑う私を余所に、彼は辺りを見回し、口の端を少しだけ上げた。

 召喚獣は呼ばれて出現するまでの間に、召喚師の周りの状況を感じ取れる。出なければ、召喚直後に倒されかねない状況に陥る可能性があるからだ。

 彼も私の状況を知っているのだろう。カナルとリハヤを見ながら笑い声を漏らした。


「この茶番劇に、これ以上彼女を巻き込むのは止めてくれないかな。

 態々、ここで、人目に晒されながら──する話か?


 彼の表情は笑みのまま、淡々と言葉を紡いでいる。

 笑みと声のトーンが合ってなくて、それが逆に怖い。それは彼から発せられる魔力に圧倒されているのもあるかもしれない。

 他の人は気付いていないけど、彼を呼んだのは私らしいけど、私の魔力は一切使われていない。彼がここに存在しているのは、彼自身の魔力によるものだ。

 私の魔力が使われていたのなら、今頃私は昏倒していただろう。


「俺のマスターに失礼な真似をしないでくれないかな。

 さぁ、マスター。もうここに用事はないだろ? 帰ろうか」


 彼は、私がここにいる事が辛いという事を知っている。

 だからこそ、私をここから連れ出そうとしてくれているのだろう。

 戸惑う私に、彼は蕩けるような笑顔を私へと向けた。それに見惚れて別の意味で声をなくした被害者は私だけには留まらず、私の後ろにいた人たちの動きも止めてしまう。ただの笑顔だけで。何この反則的な美人っぷりは。

 私をマスターと呼び、手を差し出した。まるで引き寄せられるように、私は彼の手に自分の手を重ねた。温かい。

 そう思った次の瞬間には、私は自分の部屋に立っていた。転移だと気付くのに、少しの時間を有した。何でこんなに簡単に転移が出来るのか。それが不思議でたまらない。


「あ……貴方は……」


 私が召喚してしまったらしい事だけは解ったけど、どうしてこんなに凄い人が呼べてしまったのだろう。私じゃ明らかにレベル不足だ。


「俺は……ディーダでいい。いきなり肉体から魂を引っ張られた。俺にも不明。だけど、多分、ただの推測かもしれないけど、この世界の神が動いたんだろ。

 アンタ──じゃないよな。カレンの為なのか。他に思惑があるのかは分からないけどな」


 ディーダと名乗った彼は言い切った。神様? この星の? そんな凄い事が起きるのだろうかと、疑問が浮かんだ。


「俺は、俺の世界にいる6神のうちの2神から加護を受けている司という存在だ。そんな存在の俺を引っ張れるという事は神が動いたんだろう。神を動かせるのは神だけだ」


「……」


 さらりと、とんでもない事を言われた気がした。

 態々言葉にするという事は、司と呼ばれる存在は特別なのでしょう。けれど、本当にこんな綺麗な人、見た事ない。

 見惚れて言葉を失う私に気付かないのか、ディーダは私の方を見た。黄金の眼差しが私を捉える。さっき失恋したばかりだというのに、別の男の人に見惚れて視線が逸らせない。


「軽く自己紹介しておくか。心の読みあいは止めておきたいしな」


 ディーダの言葉に、私はハッとする。ディーダは召喚獣として。私は召喚者として、知ろうと思えば分かってしまう。


「そうですね! お茶を煎れて……」


 私がお茶を用意しようとすると、ティーセットと私の間にディーダが腕を伸ばす。


「カレンは座っておきな。俺が煎れるから」


 そう言うと、私をふかふかのソファーに座らせ、手馴れた動作で紅茶を煎れていく。手馴れてる。私よりもずっと。紅茶を煎れる所作さえも綺麗。


「俺の事はさっき言った通り、ディーダって呼んでくれ。18歳の時に家を出て冒険者をやってる。現在は20歳。魔法騎士をやってるが、この姿の時は基本的に何でも出来る」


「若く見えますね」


 私よりも年下でも通るのは、人懐っこいあの笑顔の所為だろうか。


「皆に言われるよ。さっきは隠せなかったけど、通常はこの姿だから」


 私の前に紅茶とお菓子が置かれた。けど、ディーダの姿が変わっていくのを見て、再び声をなくした。

 銀と金がなくなり、緑の髪と瞳になった。

 それでも人目をひく事はかわらないけど。


「俺の世界だと、金と銀は神と、神に選ばれた司だけの色でものすごく目立つんだ。っつーわけで、普段はこっちで」


「わかりました」


 この世界にも、金や銀の色を持つ人はいますが、それよりもずっと綺麗で輝いていたのは、きっとディーダが特別な存在だったから。理由が分かれば納得の事だった。


「ありがとう。いただきます」


 折角煎れてくれた紅茶が冷める前に、一口飲んだ──瞬間、ディーダとティーセットが置いてある棚を交互に見てしまう。

 美味しい。何これ美味しい。私と同じ茶葉を使っているはずなのに、全然違う。


「俺がいる間はいつでも煎れるから、落ち着けって」


 ディーダの言葉が嬉しくて、何度も何度も頷く。

 本当に失恋したばかりだというのに、へこむ所が気分が浮上していくから不思議だ。神様ありがとうございます。

 どんな思惑があるのかは普通の人間の私には分からないけど、幾ら礼を言っても足りない気がした。






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