2時間目:入学式
俺と謙也は何とか集合場所の体育館に辿り着いた。しかし、混雑に巻き込まれたおかげで2人の精神的疲労はピークに達していた。
「なあ、体育館ってここで良いんだよな?」
疲れ切った声で謙也が確認してきたが、俺は声を出せないほどに疲れていたので、頷きで返した。
正直な所、俺もここが何処なのか把握出来ていない。多くの新入生っぽい人が集まっていることから推測すると、体育館だとは思うが。
それにしても、大きな体育館だ。その大きさを例えるならば、東京ドームの4分の1程度だ。
こんな広大な所に呼びつけて一体何をするつもりなのだろうか?
そんな事を考えていると、体育館に設置されてあるスピーカーから声が聞こえてきた。
「新入生全員の受付が完了しました。これより第18回御旗学園入学式を始めます。」
場の空気がざわついた。それは俺たちも例外ではなかった。
「入学式はやらないって言ったよな?」
俺と謙也は入学案内のプリントを見返しながら互いに確認しあった。周囲からも似たような会話が聞こえて来る。
そんな場の空気を断ち切るように、再びスピーカーは音声を発した。
「まずは学園長の挨拶です。御旗学園長、お願いします」
そうアナウンスされて出てきたのは、俺たちとほぼ同年代であろう女の子だった。
「皆さんこんにちは。私は学園長の御旗瀬奈です。入学おめでとうございます」
そう言って喋り出した彼女は、茶髪の肩まである髪をヘアゴムで束ね、身長は150cm代後半、顔は美しいと言うよりは可愛い系のいわゆる美少女というやつだ。
「今回ここに集まってもらったのは、これからの学園生活について説明する為です。」
「これからって…そりゃあ、獣使い(ビーストテイマー)になるための授業を受けるんじゃないですか?」
ある男子が学園長に質問した。
「いえ、違います。これから2週間、新入生の皆さんには休学してもらいます。」
体育館全体が凍りついたような雰囲気に包まれた。それも当然だ。入学して早々に休学させられるのだ…無理はないだろう。
「休学って言いましたが、それは表面上の理由です。休みの間、皆さんには3年間苦楽を共にするパートナーを探してもらいます」
そう言うと、多くの生徒が安堵したような表情になった。
「パートナーにするのは野生の動物でもペットショップの動物でも構いません。自分の大事な相方になるはずなので、慎重に考えてくださいね。これで私からの挨拶は終わりです。皆さん、頑張ってくださいね」
挨拶を終えた学園長はステージの脇に消えていった。と同時に、学園のスタッフらしい人たちが大勢入ってきた。
「今度は何だ?」
「新入生の皆さん、こちらのスタッフの前に並んでください」
またスピーカーからアナウンスが読み上げられた。それに従って新入生達は行列を形成した。
数分後、ようやく俺の番になった。
「鹿野侑士さんですね?これをお受け取りください」
俺が受け取ったのは封筒だった。なんか少し中身が厚いようだが…。どうやら謙也も受け取りが終わったようで、こちらに向かってきた。
「侑士、お前は何を貰ったんだ?」
「ん、俺はなんか厚い封筒。お前は?」
「奇遇だな。俺もなんか厚い封筒だ」
「何なんだろうな?」
「さあな…」
二人で話していると、背後から叫び声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには100万円の束と電子タブレットを持った少年がいた。
「あのさ、突然話しかけて悪りいんだけど…それ何?」
俺が話しかけると、髪の毛が目にかかる程長い少年は焦ってそれを背中の後ろに隠してしまった。
「あ…あの、封筒に入ってたんだ!持ち込んできたわけじゃないんだ!本当だよ?」
「別に疑っている訳じゃねえって。教えてくれてありがとうな!俺は鹿野侑士。で、こいつは親友の増島謙也って言うんだ。よろしくな!」
「よろしくな。俺の事は謙也って呼んでくれ」
俺は質問に答えてくれた少年に自己紹介した。ついでに謙也も紹介しておいた。
「ぼ、僕は高槻七斗。よろしくね!」
「おう!…でさ、これって何なんだろうな?」
「推測なんだけど、これでパートナーを購入しろって事なんじゃないかな?」
七斗が自分の考えを言葉にした。その考えは、俺も理に適っていると思った。でなけりゃ、こんな大金をここにいる奴全員に配布する訳がない。ありえないとはっきり断言できるであろう。
それから一分後、七斗の案とほぼ一致した内容の説明が全員にされた。その後、俺らは解散するように言われたので、とりあえず学園の中にある食堂で昼食を摂ることにした。
「ここの食堂って何でもあるんだなぁ」
謙也が食堂で頼んだマルゲリータピザを頬張りながら話を切りだした。
「和洋中の全てのジャンルでトップクラスのシェフが揃っているらしいからね。大抵の料理は頼めば出てくるんじゃないかな」
七斗も寿司を両手に返答する。
「七斗もすっかり馴染んできたなぁ。」
「うん。二人ともフレンドリーで助かったよ!僕、一人でここに来たから…」
「俺らもそうだぜ。な、謙也?」
「あぁ…ド田舎からな」
「そこ強調する所かぁ?」
「あははははははははは」
テーブルが笑いで包まれた。そんな俺たちを周囲が怪しいものを見る目で見てきたので、声のトーンを下げて話を切り替えることにした。
「ところでさ、これからどうする?」
「俺は酪農系のペットショップに行くことにするわ」
「謙也くんって酪農系の動物が好きなの?」
「あぁ、俺はここを卒業したらウチの牧場を継ぐつもりでいる。七斗、お前はどうするんだ?」
「うーんとね、霊長類系かな。チンパンジーとか育ててみたいんだ」
「なるほどな…で、侑士は何育てるのか決めたのか?」
「いや、まだ決めてない」
謙也と七斗が声を揃えて「おいっ!」と突っ込んできた。
「決めてないって、お前どうするつもりだ?」
「まあ、焦んなくたって2週間あるんだぜ?その間に決めれば大丈夫だろ」
「はぁ……」
謙也のため息をよそに、俺は饂飩をおかわりした。