1時間目:桜並木の道中で
卒業ソングの定番に「桜」というワードをよく見かけるけれども、ここ数年は卒業シーズンに桜を咲いているのを見ることはあまり無くなってきたなぁと思う。
むしろ、俺的には入学シーズンの方が「桜」というワードはしっくり来るんじゃないかなと思っている。
入学式というのは先輩視点から見るとただの長ったらしい式典ではあるのだけれど、新入生当人としては物凄く緊張するのだ。実際、俺もかなり緊張している。
「侑士、お前さっきからブルブル震えすぎじゃねえか?」
「うるせえ、武者震いだっつうの!」
幼馴染である増島謙也からの問いに対して、俺は声を張って返答する。
「……そこは素直に『めっちゃドキドキしますぅ』とか言っとけよ」
「俺、そんな喋り方してねえよ…。俺はな、ワクワクしてんだよ」
『ワクワクしてる』というワードに反応したのだろうか、謙也は表情をニヤリとさせた。
「へえ、なかなか言うじゃねえか。ま、俺もそんなところだ」
「今日から俺達、獣使いになるんだもんなぁ…」
そうだ……。今日から俺ー鹿野侑士はこの御旗学園に入学して、獣使いになる為のカリキュラムを受けるのだ。
今、俺達の前に聳え立っているこの『御旗学園』は今日まで多くの著名な獣使いを輩出してきた、超の付く程の進学校と呼ばれている。早い者では、高校1年生…つまり入学して間も無い生徒の中にも全国に名の知れ渡っている生徒もいると聞く。
巷で噂のアイドルテイマー、藤咲詩織もその一例だ。そのような生徒達が俺のクラスメイトになる可能性があるのだ。ワクワクしないわけが無いのだ。
「あのさ、入学式っていつからだっけ?」
「ここってそういうのやらねえらしいぜ?なんでも、教室で顔合わせするらしいからな」
「はぁ、お前なに言ってんだ?」
「すまん、言い方が悪かった。口で説明するのは苦手だ……。これを見てくれ」
謙也は肩に提げた有名スポーツブランドのエナメルバッグから紙の資料を取り出して差し出してきた。
「どれどれ……。『御旗学園入学案内』…だって?」
目を通した資料には『当校では入学式は行いません。』と、確かに書いてあった。その後に『新入生は第一闘技場に集合して下さい。そこでクラス発表をします。』と追記されていた。
「はぁ?そういうのって普通、入り口に張り紙して発表するもんだろ」
「な?俺もそう思ったんだよ。……これは何か裏がありそうだな」
謙也の考察はだいたい当たっているだろう。名門校だ。いきなり凄いイベントが来ても驚かない自信がある。
「そろそろ校門に着くな。まあ、何があるかはこの眼で確認すればいいさ」
「ん……そうだな。」
多くの新入生っぽい人が沢山歩いている桜並木の道は心なしか、俺達の入学を祝福しているかの様だった。