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エロゲ―の悪役に転生したらしい  作者: ゴロフォン
本編
9/21

過去のVRMMOの話

過去話です

『なぜ我が彼の者に力を譲り渡したか?』

『世界最高峰の素体であったから? ははは、そんな馬鹿な』

『私は、ナグナロンもレジナーもおそらくきっと同じ理由のはず』

『あの忌々しき神を打ち倒す可能性がある、我は思ったからだ』

『あの神にひと泡を吹かせる奴だよ。あれが怖いのは身体ではない』

『我らは彼の魂があの神に届くと信じたから譲ったのです。神に祝福されたあの魂に』



 ルールオンライン。世界で二番目のVRMMOにして、デスゲームを引き起こした糞ゲーだった。

 ようやく明日、ラスボスがいるという天空神殿に行って終わりを迎える。


「いよいよ明日だね……」

「あれ? 兄貴、きたんですか?」

「うん。探したらさ、いなかったから。どうせ人に馴染めないで外に出たんだろうって思って探したら案の定ね」

 明日のための景気づけの宴会。今まで入手した高級食料をあとに残さない勢いで最高レベルの料理人が作成した料理で、今貸切設定の高級レストラン、ではなく居酒屋風の店でラスボス討伐戦のメンバーは飲み食いしながら騒いでいた。高級レストランは性に合わないから、と場末の居酒屋のテーブルに高級料理が並ぶ様はちょっとシュールだった。


「あいつらはどうしたんです?」

 いつも一緒にいる兄貴オッスオッス団のメンバー。心の中だけでそう呼んでいる彼らもこのゲームの中では兄貴の次に長い付き合いになる。

「騒いでる。僕が出ることも気づいてたみたいだけど君が大勢でいるのが苦手だって知ってるからまあしばらくは二人でいさせてあげようって思ったみたいだよ?」

「あー気を使わせたかな」

「大丈夫、仲間外れなんかにしてないから、ね」

 いつか言っていた中身がまだ高校生の女の子だというのは事実なのだろう。金髪の優男の顔が笑みを浮かべているだけのはずなのにその声だけで優しげな女の子の表情を想起させた。

「分かってますって。ところで兄貴、俺に何か用事ですか?」

「いつも君はこう、気が利かないよね。理由が無いと話しかけたら駄目? もうこのやり取り72回目だよ?」

「いつも言われて良く数えてるなって思いますよ。でもいつも思うんですよ。俺なんかに話しかけて楽しいのかなって、まあ明日が最後だから言っちゃいましたが」

「そうじゃなかったらこんなに話す?」

「そう、ですよね」

 声には表情があるのだ。金髪のただのアバターを困ったような表情をしている女の子に声だけで変えてしまう。

「僕は君の事を頼りにしている。君が自分を信じられなくても、それでも僕は君の事を信じているよ」

 どうしてそんなに俺を信じられるのか正直分からない。壁としてはそれなりに役立っている、とは思うがそれでもそれなりだ。


 体力極振りをして、馬鹿高いHPで兄貴の壁をしていただけだ。



「ルールは守られるべきなんだ」

『ルール?』

「そうさ。これをしてはいけない。これこれをしなければならないという決まり事さ」

『決まり?』

「そうさ、そう難しい事じゃない。この世界を強引に改変しない。余計なプログラムを持ち込んではならない。この世界はこの世界の物だけで構築されるべきだ。チーターだろうとBOTだろうとこの世界にいてはいけないんだ」

『チーター?』

「反則という意味さ。私の娘でこの世界の二人目の神様」

『そうなの?』

「そうさ、だから私はこの後行われる強制お披露目イベントが終わったら正々堂々戦うつもりさ。その結果負けても仕方ない。多くの犠牲をこれまで払って来たんだ。ゲームクリアが出来ないなんて不義理はしないよ」

『神様の力、使わないの?』

「使わないさ。そんな反則して勝つなんてただの糞ゲーじゃないか。ただラスボスに相応しい能力値は持たせるけどね」

『そうなんだ』






「良く来たね。まずは開発者としておめでとうと言っておこう。ここまでの道程、辛く険しいものだっただろう。その努力に敬意をひょおっと! 話の最中に攻撃はやめてくれないかな。それに今の僕はイベント仕様の無敵状態さ。攻撃に意味は無いよ」

 誰もが思っただろう。だから誰もが攻撃したあいつを咎めないだろう。みんな思っただろう。天空神殿の最奥で出会ったそれがただの白衣を着た冴えない中年の男を見たら。

「ふざけんなっ!」

「糞開発者が! 何がおめでとうだ! どの面下げて出て来たんだよ!」

「落ち着き給え。話を聞かないとクリア出来ないかもしれないよ?」

「っ!」

「落ち着こう。今は耐える時だよ」

 何かを抑えている兄貴の一人だけが冷静さを装った声音で落ち着くように、と皆に言った。怒りを抑えて言った。

「話を聞こうか。でも君はこのゲームの思い出話も開発秘話も余計な事は何も言わなくていい。ただ必要な情報だけを短く、言え。その後に君を倒すよ。どうせ君がラスボスだ、なんて言うんでしょう?」

「まあ君たちの払った犠牲を思えばその態度も仕方ない。ちなみにゲームクリアしたら生き返るなんてことは無い」

「余計な情報は良いと言ったよね」

「すまない。話がそれる性質なんだ。ふむ、まずいうなら今回ラスボス遭遇イベントという事になるね。イベントだから僕に傷はつけられないよ。戦う意味は無い」

「それで」

 俺はこんな兄貴の声を一度も聞いたことは無い。怒った時もあった、笑った時もあった、悲しんだ時も泣いた時もあった、いろんな声があったけど、いつだってどこか優しげな声だった。たぶんラスボスの死が現実の肉体の死であっても兄貴は彼を許さないだろう。前に出る。壁として先頭にいないといけないだろう。


「うん、短く言うとね。このイベントが終わったら始まりの街に行くといい、新しい遺跡が見つかったという話が出てね。古代の神の遺跡へ行けるようになるんだ。そこの奥で最後の戦いが始まるよ」

「そうか」

「後ね、今、即死魔法が起動したよ」

「え?」

 沈黙が下りた。

「お約束だよ。10分だ。制限時間内に脱出できなければどかん、てね。もちろん転移魔法使用不可さ」

「お前!」

「大丈夫、今から敏捷10以上もあればぎりぎり脱出できるよ。50もあれば余裕かな。まあ何かミスったりしたら死ぬかもしれないけどね」



 10も無い阿呆がここにいた。装備補正も全部体力筋力の阿呆が。愕然とした顔で兄貴と仲間たちが俺を見る。

「おや、一人10も無いプレイヤーがいたんだね。残念だが彼はどうしようもないよ」

 聞いたことも無い叫びを上げながら兄貴が開発者に切りかかった。

「無駄だよ。イベント仕様だ。脱出しないと無駄死にでゲームクリアは出来なくなるよ?」

「っ!」

「兄貴! 皆、行ってくれ!」

「君も!」

 他の壁も筋力体力装備。装備を変えても意味が無かった。ただ、ステ振りにスタン攻撃スキル用に素早さを30だけ振っている。だからみんなは逃げられるはず。

「やりたいことがあるんです」

「え?」

「効かなくても、俺は何発もこいつを殴ってやりたいんです」

 だからその後こいつをブチ倒す役目は、兄貴たちにお願いしますと言って

「行ってください!」

 オッスオッス団の仲間達に腕をひかれて兄貴も行った。皆敏捷40以上はあるから大丈夫だろう。俺みたいに体力極振りでHP防御特化! 魔法防御は装備で補うさ! な事をしていないから大丈夫。まさかこんな所で逝くとは。HP二番目と二倍以上差をつけて物理防御も魔法防御も最高峰のつもりだったんだけどな。タゲ取りが目標強制変更という形でプレイヤーの動きも阻害すると知ってプレイヤー相手にも壁もやれる、と安心していたはずなんだけど。最後の最後でこれか。ちょっとくらいは皆みたいに他に振ったほうが良かったな。どうしてこんな馬鹿なことをしたのか。



「へえ、案外冷静なんだね」

「―――なわけねえだろ」

 渾身のストレートを撃った、重装備用に振った最低筋力だがそれでも並み以上に高い力だ。

「無駄だよ。さっきも言ったじゃないか。イベント仕様の無敵状態だって」

「そんなの知ってるさ」

 顔面を殴る。効かない。

「ん?」

「お前を殴るって言ったろ。効かなくてもお前を殴るって決めたんだ」

 顔面を殴る。この糞開発者を殴る。効かない、効いた様子は無い。

「へぇ」

「俺が死ぬまでお前を殴るって決めたんだ。殺したい野郎を殴るのがおかしいか?」

「まあ悪いことはしたと思っているよ。まあラスボス戦負けたら僕も死ぬからそれでチャラ、としてくれよ」

「ふざけんな」

 目を殴る。



 ほんの僅か、後ろへ動いた。


 ああ、そうだった。そりゃそうだ。



 中身は人間なんだから目の前に迫る拳は怖いに決まっている。VRでも目で見て景色を見るのは変わらないんだったな。


 目を殴る、効かない、目を殴る、効かない。目を殴る、後ろに下がった。



「無駄なことはやめるべきだと思うんだ」

「さっき言った。俺が死ぬまでお前を殴るのをやめない」

 目を殴る、僅かに下がった。目を殴る。あ、これ目を閉じたな。目を殴る。同時に自分を逆の手で殴る。派手な音にびくりと更に後ろに下がった。

「最期くらい人間的に話し合いをしよう」

「お断りだ」

 目を殴る。自分を殴る。音が鳴る。びくりと震えてまた少し下がる。


 目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。

 目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。目を殴る。自分を殴る。


 下がらなかった。


「え?」

「怖くて目を閉じてて気づかなかったのか? お前端まで下がってんだよ」

「な」

「効かないんじゃなかったのか? 自慢げに言ったじゃないか? これはどういうことかな? あれ? 神の遺跡でラストバトルなんて神様気取りでいるくせに、ただのプレイヤー様にビビったのか」


 思いっきり憎たらしい声で言ってやった。

「大したことない神様だな」

 HPが0になった。馬鹿が。やったぞ。馬鹿が。


「おい、10分にはまだ30秒足りてないぞ、エセ神様が」

「ふざけるな、私は、俺は!」

 何かわめいているが知らないな。すいません、兄貴、時間縮めてしまいました。みんな無事だと良いんだが…余裕とは言ってたからだいじょ……ぶ


 見ていた。この戦いを見ていた。この世界の神は見ていた。見ていて、首を傾げた。




「皆出れたか!?」

「揃ってる! ……あいつ以外は」

「クソがっ! ふざけんなよ! 絶対殺す、殺してやる!」

 置いてきた大事な仲間の名前を金髪の男が呟いた。



「ふざけるなよ! あの男!」

 虚空から男が現れた。白衣の中年男が現れた。

「はっ!?」

「どうして!?」

「もう良い、プレイヤーなどやはりただの屑だ! 今すぐ死ね! みんな消え失せろ!」

 怒りに飲まれた神が現れた。

「おい、ここじゃ戦わないって!」

「知るか! 屑に礼儀など払うものか! 今すぐ皆死んでしまえ!」

 男がそう言って手を振った。


 何も起こらなかった。

「は?」

 こんどは白衣の男が呆ける番だった。どうして? と疑問に感じていることは誰が見ても明白だった。

『ルール違反だよ』

 少女の声がどこかから聞こえた。

「な、お前何を言って!」

『さっき言った。反則しちゃいけないんだって。言ったよ? 神様の力は反則で使ったら糞ゲーだからラストバトルには使わないって』

「」

『反則しちゃ、駄目だよね。お父さん』

 生まれたてのこの世界の神が言った。

「おいっ! そこのガキっ! 今そこのそいつは無敵じゃないんだな!?」

『うん』

「よお、こんな所でラストバトルするなんざ思ってなかったけどよ」

「倒させてもらうぞ。最悪な開発者よ」

「絶対に殺してやる」

 金髪の青年は何も言わなかったが笑顔を浮かべていた。やっぱり君は凄いや、と。小さくつぶやいた。



 神は倒れた。怒りで平静を無くした神はまともに戦えなかった。娘に力を封じられて何が使えて何が使えないのかを把握できないでまともに戦えなかった。


 だから誰一人道連れを作ることは出来なかった。


 ゲームは何の盛り上がりも無く、ただの神殿前でその物語の終わりを迎えた。







 神は見ていた。復讐の神と呼ばれた神は見ていた。たった一人で多数の世界を管轄する神は見ていた。

『こいつだ』

『お前まさかまたただの人間を』

 同じく見ていた八人の部下のその筆頭が神に尋ねた。


『うん。丁度良い。彼なら行けそうだ。一つだけ能力をつけて魂をあそこに流そう。世界のすぐ外で地球人の魂が流れていたら食いついてくるはずさ』

『あれは馬鹿みたいな遊びを好む神だからね』


 一つの魂がとある世界に転生した。






もちろん第二回パンチ大会もあります。

今回はバッドエンドはありません。

胡散臭い復讐の神が最後にいますが今回は味方です。

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