武闘会で無双をしたらドン引きされたこと
欄外冒険者というのがどういうものなのか生徒に見せてあげてください
学園長のその願いに
「嫌です」
と言った。言ったのに
特別試合欄外冒険者、オル・ファーフ! なんて当日に名前を呼んで強制的に出すのは酷いと思うんだ。
更に酷いのは俺の名前がオル・ファーフだということを覚えているのが全校生徒の1割もいなかったことだ。
「ついに来たか。ゲームでもやった武闘会が」
「ゲームでこういうのってよくあるよな」
毎年年に一度全校生徒の中で希望者を募ってぶつかり合う武闘大会がある。迷宮実習と同じく原作でもあったらしいそれは優勝者に栄誉と少しの金と戦闘実習の単位免除があるそうだ。だが、戦闘能力を磨きに磨いている優勝者が戦闘実習免除なんて学習を放棄する権利基本使わないと思うんだがどうなんだろうか。
「で、お前は誰が勝つと思う。正直俺にはさっぱりわからん」
「お前は……まあお前はそうなんだろうな」
知る必要ないからな、と小声で言っているが聞こえているぞ。いや、聞かないふりをするが。
「まあ」
教師用の観覧席で動きやすい身体のラインの浮いた赤い学園講師支給の戦闘服を着たファラが少し考え込むように顎に手を当てた後
「二年の1組のレクス・ギッシュだろうな」
「三年じゃないのか?」
「才能が突出してるってかお前見たことあるだろ」
生徒は正直パンツ事件以来やたら兄貴兄貴と言ってくるあのむさ苦しい男6人とレズのリッタしか覚えていないからな。後はよく覚えていない。
「リッタとジョロンと」
「その名前はやめろ」
少しトラウマになってきているようだ。勝ったらパンツ見せてください! って週に二、三度あの後から挑んでるもんな。怖いのはうっかりで負けそうな場面が月に一度はあることだ。情熱は時に才能を凌駕するとはこのことだろう。負けそうになった時は大抵いつもよりリッタ達はぼろぼろでファラは小刻みに恐怖で震えている。後ろでは座るファラの尻を見ていたどこかで見たまだ若そうなのに禿げた貴族の服装をした男教師が女教師三人にどこかに連れていかれる光景が見えた。
「あいつらなら案外上に行くんじゃないか? ここ三か月でほんとに伸びてるからな。エロの力で」
「出すな、て言っただろ?」
「で、後は有望な奴は?」
「後は」
その後も何人か有力そうな生徒を挙げるファラに普通に教師に馴染んでるじゃないかと改めて思った。もう俺は帰っても多分問題ない。
個人部門はファラの予想通りレクス・ギッシュだった。決勝に進んだ強さを持つ三年の一組のカーマ・セルを苦戦すらせずに倒していた。武器は杖でつまりは後衛の魔術師だ。とはいえ杖を上手く使い接近戦もこなせるようだった。得意とする属性はまあ闇だろう。基本闇と光属性の術を得意とする者は強大な力を持っているものが多い。今回は炎主体にして一度も闇系統は使わなかったが使うまでも無い、という事だろう。というより杖にはまってる石が黒宝珠だからそれで闇属性の術が得意だと分かる。
「まあ大番狂わせも無かったよな」
「リッタ」
「やめろ」
リッタもジョロンも準決勝まで行ったのに酷い……
「さて、出番かな」
「出番?」
何かあるのか?
「何のためにこの服着てると思ってるんだよ」
「エキシビジョンマッチさ」
特別試合と言え。この世界にその言葉は無いぞ?
「紅の幼女教師、ファラ・ラグラ・マチスト。若干10歳にして炎の魔術を使わせたら右に出るものなし! しかもこの年で教師という仕事をしている恐ろしい才女! 教師としての力を生徒に見せられるか! 対するは二年一組レクス・ギッシュ。圧倒的な強さで今大会を優勝まで駆け上がりました! その強さは10歳とはいえ教師の彼女に通じるのか!」
まあ問題は無いと思う。やっぱり魔力でも技術でもファラが上だ。問題なく勝てるだろう。と観覧席から見る。教師は今回は仕事はお休み。何でも武闘大会関係のイベントの開催を専門とする業者に全て任せているようだ。というより叫んでいる巨乳の女のアナウンサーさんもスタッフの一人だ。
「では開始!」
あ、これはまずい、と思った時にはもう終わっていた。そういえば
あいつ誰かとまともに殺し合いもどきした覚え一度も無かったよ。俺とは正直ただのじゃれあいだ。
実力は上だった。ただレクスは思っていた以上に強かったのだろう。ある程度は殺す気で行かないと駄目だったのだろう、だが教師の仕事に染まりすぎて生徒を殺してしまう事への忌避感を抱くようになったあいつは自分の術の殺傷性の高さに迷ったのだ。つまり術を出す反応が致命的に遅れたのだ。
直撃で腹に穴が開いた。敏捷と強力な攻撃が持ち味のあいつは身体は脆い。動きが止まったらそりゃそうなるに決まっている。
悲鳴が上がる。
……まあ問題ない。
何しろ俺は治癒の刻印も最高峰だ。
「思ってたより俺、弱かったのかな……」
「生徒を思いすぎて手が出なかっただけだろ。あいつよりは絶対に弱くはねえよ」
思ったより、いや予想通り酷いショックを受けたようだった。
泣いたところなんて親元を去ってうちに来た時の一度しか見たことは無かったのに涙をボロボロ零している。
ふと視線を感じた気がして見ると視線の先には同情と、失望の視線を向けるレクスがいた。きっと生徒の殆どは同じ目を向けているに違いない。正直、イラッとした。同情されてやるほどこいつは弱くねえよ。殺さず加減する方法を知らなかっただけだよ。それを含めて未熟というんだろうが、気に入らないのに変りはない、歯が鳴る。ぎりぎりと鳴る。
「さて、今の試合は残念な結果に終わりましたが、実はもう一試合! この後にあるのです!」
?
「特別試合第二試合、あの欄外冒険者の一人、冒険者の一部では有名な『愚神降誕』オル・ファーフ! 本来は学園長との試合をする予定でしたが想定していた以上にレクス選手が損傷が少ないので! これも良い経験になるだろうという学園長の判断により、彼と戦ってもらいましょう!」
当日に名前を呼んで強制的に出すのは酷いと思うんだ。
更に酷いのは俺の名前がオル・ファーフだということを覚えているのが全校生徒の1割もいなかったことだ。
だがまあ良い。
大人げなくぼこっても問題ないんだよな?
「ああ、補佐をしていた頭の悪い助手の人でしたか。まさかあなたが冒険者最高峰の欄外冒険者だとは思いませんでした」
欄外冒険者も質が落ちたな、と小声で呟く敵に特に何も思いはしなかった。
開始の合図が響く。魔術を発動させようとする。無詠唱に近いそれを俺はただ単純に発動した魔術ごと敵の腹を殴った。
「頭が悪くても欄外やってるのはな」
単純に冒険者の中で強いからだよ。と腹に穴の開いたレクスに向かって言った。
治す道理もないので治療術師に引き渡した。お前が治せよ、と言わんばかりに視線を向けてきたがうちの居候を馬鹿にされてまで治療する気は正直起きなかったので、ははは。と笑っておいた。こいつ八つ当たりしやがったと気付いたように目を見開くが正直評判は元々悪いから気にならないな! ファラの評判も下がりそうだがそれは悪いとは思っている。思うだけは思っている。
「圧倒的! さすがは欄外! あのレクス選手を赤子扱い! だが正直大人げなさすぎる!」
歓声より圧倒的に罵声が多かった。
「あんな大人げないやり方があるか! 欄外は強いって分かってんだよ。もうちょっと若い生徒に胸を貸すような戦い方を」
「目が気に入らなかった。反省はしないな」
「……はぁ。全く」
何か諦めたように大きな溜息だけ吐いてそれ以上言葉は続かなかった。
「お前はもうちょっと人と戦うってこともすべきかもな。俺とじゃなくお前より弱い奴に。俺より脆い奴にどうすれば殺さず済ませられるのかか。炎は殺傷力が高いからな。リッタとは力の差が大きかったから大丈夫だったがあいつは余裕が無かった。でも強いのに生徒思いが過ぎて負けて馬鹿にされるなんて馬鹿は今度からやめろよ」
経験が足りないのがお前の弱点だったんだな、と続けた俺に
「……は、はは。はぁ」
溜息をついたかと思うと急にじっとこちらの目を見て数秒経った。
「ん?」
「お前耳が良いから心の中だけで言った」
「ん?」
意味が分からない。
いきなりポイントが倍以上増えていてビクッとしました。後戦闘描写が書ける人が羨ましいと心から思いました。