10歳の転生TS幼女が襲撃してきた。
刻印師として知る人ぞ知るという感じになった。
冒険者としては大したことは無かった。
単体戦闘力は世界で最強の一角だが協調性のないバ火力というのが冒険者内での評判だった。
スラーさんが巨大スライムになって家を形作った。
ジュタンさんは家全体の床を網羅するスーパー絨毯になった。
31歳。冒険者を引退し、俺はこれから後世に残る魔剣を作って見せる。
7歳の頃、逃亡者として追われた時は早死にするかと思ったが特に問題なく冒険者になり、中級冒険者になり、戦闘能力だけは高い集団とされる一応は最高ランク冒険者とされる、欄外冒険者に認定された。人望は正直大したことは無いが、二、三人くらいは腐れ縁の友人?はいるし、一流冒険者になった刻印魔術の客も数人いて収入にも問題ない。案外楽な人生を送っているのではないだろうか。
最難関迷宮の一つも倒壊させて、実績は作った。今は冒険者稼業は引退して、後世に残る魔剣を十三本作ろうとしている。時計を模した12本、隠された最強の13時の魔剣。何となく格好良い。
スラーの一部である座り心地の良い水椅子に揺られながらまずは一本目はどういうのにしようかと考える。何かアイデアあるかと返事は返せないのは分かっているがスラーと床一面を覆っている豪奢な絨毯にレベルアップしたジュタンに聞いてみる。水!と言いたげに目の前に浮いた水の塊を生み出したスラーに、風とこちらは言いたいのか私の頬を強い風が流れて行ってその風に絨毯の端がめくれ上がっていた。
「水と風が混ざり合った魔剣か、まあそういうのもありかもしれねえな」
本当? 興奮しているようにと水椅子が心地よい振動と絨毯がばたばたと派手にめくれ上がっているのを見て笑顔を浮かべながらさて、じゃあ少し作ってみるかなと椅子から立ち上がろうとしたとき
巨大な火球が窓を直撃していた。幸い、スラーの防御性能と俺が付与している防御障壁で問題なかったが誰だ? こう見えても欄外冒険者として挑んでくるような敵はいないはずなんだが。奴隷商人をつぶして回っている正義感溢れる欄外なんかは良く攻撃されているみたいだが、俺としては必要悪と割り切って基本的に自分の敵にならなければ殺しにいかない、というスタンスをとっている。どうせ組織なんて潰してもさらに分かりにくいところで新しい組織は生まれていざという時に所在がつかみにくくなったなんてことになるのがオチだ。というより顧客に暗殺者が一人いる。それなのに悪は滅ぼすべし、なんていうわけがない。その基本悪には無関心というスタンスが功を奏したのか襲撃なんて年に1度あるかないかくらいだったはずなんだが、どこのどいつだ?
「姿を見たいから中に入れてやれ、応接間に誘導で」
了解と壁の一部に穴が開いた。代わりに襲撃者に触手が伸びているのだろう。
「ほんとに最低の鬼畜野郎だな! 幼い女の子に向かって触手で縛るとか!」
「言葉も無しにいきなり人を火で焼き殺そうとしたお前が言うのはおかしいだろ……」
襲撃者は幼女だった。10歳かそこらだろうか。赤い髪に赤い瞳いかにも気が強いと言わんばかりの吊り上がった瞳。だが将来は絶世の美少女になって美女になるのだろうなと思わせる幼女だった。動きやすさと趣味袖の短い赤いシャツとこれまた赤い滑らかな質感をしていそうなハーフパンツを履いている。
まさに火、を体現したような幼女だった。
「4年前にさっさと殺してげんさく潰しやろうとしたのに!」
「ん?」
妙な言葉が聞こえた。
「良い? お前は4年後この国のロクタール学園で教師になって何人もの女の子を凌辱して奴隷にする屑野郎になるんだ! だから今のうちに死ね」
誰だお前は。怪しい預言者か何かにでも目覚めたのか。医療院に送った方が良いかもしれない。
「……いきなり何おかしなこと言い出すんだこいつは。教師になる予定なんかない。教える頭も無い。俺はここで穏やかに武器を作って余生を過ごす予定だ。教師なんて頭を使いそうな仕事に就くわけがないだろ」
「は? 今はそうでも4年後そうなるんだよ。俺まで凌辱して肉奴隷に……慟哭の学園なんて凌辱エロゲのヒロインになりたくねえんだよ!」
「は?」
こいつ今、凌辱エロゲって……ん? まさかこいつは
「お前まさか前世の記憶がある転生者ってやつじゃないだろうな」
「はい?」
「なるほど、この世界はその慟哭の学園とやらのエロゲ―の舞台となった世界に酷似している、と。で俺はその凌辱ゲーでヒロインを凌辱する教師なわけか」
顔を見る。間違いなく適役の顔だった。だからこの顔か。前世よりはマシではあるが、うん。
「ああ。ハード系で寝取られ系だよ。主人公がいて、仲が良い女達……俺は関わらないようにしてきたけどがお前に次々に調教されて寝取られていくんだよ。選択間違えなけれなお前は倒されてハッピーエンドだけどな。でもそれなら原作開始前にさっさとお前殺しておけば良いや、って思って来たんだけどお前も転生者かよ」
拘束を解いて応接間の向かいの水椅子に座った赤髪の幼女はふわぁと妙に気持ちよさそうな表情をしながらその表情に似合わぬ物騒な言葉を吐いた。
「そもそも俺はネトゲ専門だからそんなの知らねえよ。前世の記憶持って転生したな、くらいの印象しか持ってなかったよ。ついでに言うと女抱いた経験すらねえよ」
「あ、うん。そうか……中身がネトゲやってる無職だからな。そうか」
俺の前世を察したのだろう。どことなく暖かいに生がつきそうな笑顔を浮かべて慰めるような弱い調子で言う。
「だから前世が前世だから正直頭の出来は原作よりだいぶ低いぞ? つまり教師になるわけがない。生徒にまともに話せる社交性なんてないから教師になりたいわけがない」
「あ、うん。ごめんな……」
人をさくっと焼き殺そうとしておいてその態度は微妙にイラッとしたがまあ怒っても仕方ない。とりあえず対策は取ろう。つまり学園とやらとかかわりを持たない。
「おう。お前の話を聞いて思ったよ。ロクタール学園には絶対に行かない」
ん? スラーどうした? ……? こんな時に郵便? 刻印付与依頼か何か来たのか。
「ちょっと待て。郵便が届いたらしい。ん、これか」
「床から浮いてきたのかよ。どういう仕組みだ」
「この家全体が巨大スライムなんだよ。その椅子も家具も全部スラーという巨大スライムの体の一部だ」
「え」
「この世界では旅とかでスライムに汚れ落としてもらったりで衛生面で重宝してるってのは知らないのか? それの巨大版だよ。ほんとに今までジュタンと同様世話になって来たよ」
「お、おう……そうか。この椅子も……」
道理でひんやりしてると思ったと小声で呟きながら気持ち良さには抗えなかったのか椅子から立ち上がることは無かった。
さて、手紙の内容はと、ん? これはどこの蝋印だ?
『ロクタール学院の非常勤講師へのお誘い』
ちょっと待て。
「とりあえず無かったことにして燃やそう『そんな手紙来ていなかった』で」
「いやいやいや無理だから。もう一回来るだけだから。ってか四年前に教師になっていたのかよ」
「行かない。行く気も無い。出来る気もしない。教師の話なんてなかった。俺は魔剣13本を作って見せる!」
「待て待て……現実逃避すんな。とはいえどう見ても教師失格なお前なのに原作強制力でも働いているのかね」
「なら絶対行かなければ良い。何が付与術師の講師がいないからぜひ教授お願いしますだ。そもそも付与術なんて感覚でやってるから教え方なんて分からねえよ! 理論、技術? そんなものありましたっけね? という状態だぞ!?」
「それはどうなんだよ、と言いたいがうん、まあ死んだら大丈夫じゃね」
「そんな馬鹿な理由で死にたくねえよ! 良し、代役がいれば問題ないな」
「お前、付与術師になって講師になれ」
「生徒で今は幼女の俺に何言ってんだ」
「幼女教師なんて良くいるさ」
「ふざけんな」