二人のネリー
「お金はいりません」
と一人の女は言った。
「お金をください」
ある女は言った。
「分かりました、本物の貴方にお金をあげましょう」
欲した女に男は渡した。欲しなかった女には
「エルファ共和国首都アーマサラスで花売りをしている、ネリーと言います。名前はありません。花屋の説明はいりませんでしたよね?」
「はい」
貧乳だった。絶壁ではない。強いて言うなら良く見れば盛り上がっているのが分かる丘だった。見目麗しいのは間違いない、金髪碧眼どことなく気の強そうな目だが同時にどことなく気品も感じる。おそらく誘拐されたか、あるいは没落して身売りした貴族の娘なのだろう。服装も柔らかそうな布で作られたドレスでどことなく高価そうな気がしないでもない。ただ本人の気品で高価に見えているという可能性もあるが。
「ヒッジ様とはそこで知り合ったのですが、良くしていただいて、偶には小さい胸も良い、とおっしゃっていました」
「なるほど」
ありえそうな話ではある。偶には気まぐれを起こすこともあり得るだろう。偶にはと言う言葉から基本的に巨乳好きであるということを示す発言も何となく信憑性はある。やはりこちらももう一人同様本物に見える。
「気に入られたようで週に2,3度は店に来られていました。2か月ほど滞在した後別れの挨拶をされた後去って行かれましたが、まさか私の名前が出てくるなんて……いや、それよりヒッジ様のお墓はどこですか!? 私、会いたいんです!」
その剣幕に少し驚きながら後で案内しますよ、と言って落ち着かせる。
「お金なんていりません! 私、ヒッジ様のお骨が欲しいんです! 一部が欲しいんです! 駄目ですか!?」
駄目とは言いませんが、少し待ってくれませんか、と言った後一端宿屋に帰ってもらった。
「エルファ共和国首都アーマサラスで花売りをしている、ネリーです」
普通の子だった。金髪碧眼、別に容姿が優れているわけでも無かった。服も目の粗そうな安価そうなシャツと丈の短い黒のスカートだった。素足が眩しいが肌が抜群に綺麗と言うわけではない。ただ一点だけ特徴があった。
「はい」
「偽物はいなくなったんですよね? ならお願いです。 本人なのでお金下さい。私、花売りから身を洗いたいんです。こんなこと言ったら偽物扱いされると思って前は言わなかったけど、もう大丈夫なんですよね?」
……何となく思った。この子がネリーだと。まず巨乳だ。というより爆乳だった。後、彼女から感じるヒッジに対する愛のなさが本物らしいというとヒッジが可哀想だろうか。
「元々孤児で?」
「はい、元々同じ境遇の十数人の集団で行動していたんです。ある時仲間に犯された後身売りされちゃってそのまま花売りになったんです。ヒッジさんとは店で会いました。この街にはお前しか巨乳がいないから仕方ないって」
ヒッジ……うん。言いそうだなとは思った。むしろ性欲を抑えて歯を光らせて愛を囁いている姿が想像つかない。
「胸が気に入ったようで毎日のように来られて……何度も……搾乳などもされました」
……帰りたくなってきた。いたたまれない。だがファラとリースに同じことをした俺に搾乳に関してどうこう言う資格は無いだろう。
「お前の胸は国の宝だ、また来るからな、といってそのまま……今まで会う事はありませんでした」
本物だろうな、と思う。そんな事を言って結局行かないあたり今までの流れで感じたヒッジと言う人間に合っている、と思った。
「お願いします。お金下さい! 私、学校に行って魔術師になりたいんです!」
「分かりました。後でお渡ししましょう。おそらく貴方は本物でしょうから」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。他の方の面接があるのでそれまでお待ち頂けますか?」
「わ、分かりました!」
嬉しそうに笑う彼女にヒッジへの思いは微塵も感じられなかった。たぶんこちらが本物だと思う。じゃあもう一人は誰なのか。
「貴方が偽物だと判断しました」
「そ、そんな、私は!」
愕然とした様子で口を大きく開けて呆然とした彼女は十数秒たって気を持ち直したのか目を吊り上がらせて声を荒げた。
「そもそも花売りだというならその服装は高価すぎませんか?」
「ヒッジ様の前に立つならと一番高い服を着て来たんです!」
「そんな余裕が花売りに? 金に困った女性が基本なるものですよ。一番高いという事は他にもいくつか服があるという事ですね。確かに自分をより良く見せようと服は何着もあるでしょう。でも」
普通は性的魅力を示すためにはしたない服ばかりになるものですよ、と言った私にでも、となおも続けようとした。
「貴方ともう一人エルファ共和国首都アーマサラスのネリーと名乗られた方がいましたがまず、あちらが本物だと判断した根拠は3つあります」
「3つ?」
「まずはみすぼらしい服を着ていた事。貴方と違って本当に金銭に余裕が無いと見える」
「だからお金目的の騙りと言う可能性が!」
「後、これはただの私見なんですけどね。彼女もそうですがヒッジと言う男はあまり女に好かれていないのですよ。五人のうちの一人の本物で間違いないだろうと判断した方が二人いますがどちらもヒッジに愛は無い、と言われたようで。近い場所にいると愛が冷める男なんでしょうな」
そういうと
「そ、それは愛が足りていないだけで!」
「最後に、貴方の話から貴方はヒッジの性癖をご存じだと思いますが」
生粋の巨乳好きでもう一人は爆乳だったのですよ、と言うと彼女は泣き出した。
「わ、私好きだったんです! かっこよくて強くて勇者様で、だから身体だけの関係でもいいから抱いてくださいって!」
貴族の娘だった。アーマサラスの子爵の二女で一目ぼれだったらしい。
「でも、胸が無いから駄目だって! 胸が無くても私満足して頂けるように努力しますからって言ったのに! あの女のところにばかり!」
「お好きだったんですね」
「当たり前です! 私はあの女なんかよりあの人を愛しています!」
本物の方はお金だけしか望んでおられないようなので遺体の一部は持って行ってよろしいですよ、と言ったら
彼女はじゃあ頭をお願いします! と言って全てが終わった後頭蓋骨を持って行った。頬ずりしていた彼女に少し恐怖を感じた事を覚えている。