一四話
シエオと隷属契約して約三年の月日が流れ、その間で日課になった事がある。
「はぁぁぁ!」
「遅いですよ」
目の前に広がっているシリアとシエオの戦闘風景。
まあ、戦闘と言っても訓練の様なもので危険はあまり無い筈なのだが、最近は白熱し始めていた。
五歳児とは思えない速さでシエオの蹴りが、シリアの顔に目掛けて振るわれる。
しかし、シリアは移動せずに頭だけを後ろに引くことで蹴りを躱した。
その後もシエオは蹴りだけでなく、殴ったりしていたがシリアに全て避けられている。
そんな攻防を続けること約三十分ほどで、
「シエオそこまで」
「はぁはぁ、はい」
シエオを止める。
汗だくのシエオに比べシリアは涼しげな顔で立っていた。
「大丈夫か?」
「はい」
この三年間でシエオは成長し、身長は約百三十センチになり、ガリガリだった身体は今では程良い筋肉に覆われている。
「『命令する』お風呂に行ってくるといい」
「はい。
分かりました」
しかし、今も隷属契約は解くことが出来ず、俺から離れる際には命令しなければいけない。
その事に慣れ始めている自分が嫌になってくる。
風呂に向かう後ろ姿を見送りながら、そう思っていると。
「それではルカ様」
「ああ、始めよう」
シリアが俺と向き合う。
「“強くなる身体”」
発動語を唱えると身体が軽くなり、力が溢れ始めた。
だが、数十秒もすると身体は重くなり、力も消えていく。
「持つのは、数秒が限界だな」
「はい。
効力も低く、やはり想像力が足りないせいでは無いかと」
「分かってはいるんだが、難しいんだ」
俺は魔法の勉強を始めている、今のところ上手くいってはいない。
一年前に教えて貰えるようになった、この世界の魔法は想像することによって現れるのだが、それが難しい。
例えば、火の玉を出すにも発動位置、熱量、形状などを細かく、そして正しく想像しなければ発動しないのだ。
発動語は想像をしやすい様に出来ていて、数千種類あるらしい。
正直に言うと、俺には魔法の才能があまり無いらしい。
結果、俺が使えるのは肉体強化だけで、これさえも数秒維持するだけなのだ。
だが、シリアが言うには俺の年でそれだけ出来るのは凄いことらしい。
理由は分かっている、もうあまり思い出せない前世の知識の中に人体の構造に関係するものがあるからだ。
じいさんから学んだ格闘技術は効率よく相手を倒すもので、人体の構造などに詳しくなっていた。
そのおかげで、想像しやすく肉体強化の魔法だけは発動している。
「それではもう一度お願いします」
「分かった。
“強くなる身体”」
持続時間の強化が今の目標だ。
何回も繰り返せば想像もしやすくなると、シリアの助言を聞いたのでそれを実践している。
一年前はニ〜三秒だったのが数十秒まで伸びたのが成果と言えた。
実際は一瞬だけ使用するのが正しいのだが、俺は唯一使えるこの魔法を伸ばすしかない。