十三話
「風呂場で確認したのですが。
かなり高位の魔法刻印が発動していました」
「でもルカとの契約が、まだ完全じゃないの」
シリアと母が俺に今の状態を説明してくれた。
どうやら、俺と少女はまだ完全な隷属契約を結んでいないようだ。
「それなら、契約も無かった事に出来るんですか」
「出来ないわ。
完全で無いけど、既に糸が繋がっているから。
あの子が喋らないのも、その所為かもしれないわ」
「そうなんですか!」
もう契約破棄が、出来ない事での落胆はあまり無い。
しかし、不完全な所為で少女が喋れないことには驚いた。
思わず聞きかいしてしまうが母は頷いて肯定する。
「恐らくですが、発動条件を満たして無いせいです」
「発動条件?」
確か少女が、俺を見た時に発動したと聞いたけれど。
「はい。
最初の発動条件は、目を覚まして見た人。
次に、名前を呼べば契約は完全になると思われます」
「名前か」
そう言えば、名前を知らない。
知っているとしたら少女を連れてきた父だ。
「父さん、知っていますか?」
「ああ、知っている。
あの子の名前はシエオと言う」
「シエオ」
倒れこんだままの父から少女の名前を教えてもらう。
すると母が俺の前に出た。
「それが、あの子の名前なのね」
「そうだよ」
少女の名前を確認するとき、声の響きに違和感を感じた。
後ろ姿しか見えないが、まるで泣いている様に聞こる。
それに父は優しい言葉で返していた。
「母さん?」
「如何したの」
思わず、母を呼ぶがその返事は何時もと同じだ。
振り返った姿も変化は無かった。
「何でもないです」
気の所為だった様だ。
とにかく、名前も分かったので後は名前を呼ぶだけで良いのかをシリアに聞く。
「はい。
彼女の意識がある時に、名前を呼べば発動します」
「でも、寝てるんだが」
「大丈夫です。
後もう少しすれば、魔法効果が切れて目が覚めますので」
「そうなのか」
そういえば、いつの間にか鎖も消えている。
少女いやシエオを改めて見ると、美少女だった。
無造作に伸びていた髪はポニーテイルの様に纏められていて、光沢が出るくらい綺麗な黒髪になっている。
顔はかなり整っていて、将来はシリアや母にも劣らないだろう。
汚れで黒いと思っていた肌は褐色で健康的に見え。
最も異彩なのが、額から真っ直ぐに伸びている一本の真紅の角だろう。
そんな事を思いながら観ていると、シエオの目がゆっくりと開き、漆黒の瞳が俺を見る。
「ルカ様」
「ああ」
俺はシエオを視界に納めながら口を開く。
「シエオ」
名を言うとシエオは、
「はい、我が主」
少女とは思えない低い声で、滑らかな言葉を紡ぎながら、俺に跪いていた。