ミミのごしゅじんさま3
最近、ミミの様子がおかしい気がする。
近頃は字がだいぶ読めるようになって、図書室で本を読んだりしているのだけれど。何か様子が変だ。僕が何かしているとじーっと見てくる。遊んでほしいのかなと思って、ぱぱっと手早く終わらせると何故か悲しそうな顔をする。
「ごしゅじんさま、てつだうことありませんか~?」
「ううん。ぜんぜん大丈夫だよ。」
そういうミミの頭を優しく撫でて上げる。いつも笑うミミの笑顔が少し悲しそうなのは気のせいだろうか。
それに最近、心配事がある。城の者の多くはミミのことを好いている――それはもう僕が困るほどに。でも決して好意的な人間ばかりではない。
市井の人間たちの間では、まだ獣人への差別が根強い。下働きのものの中には、露骨にミミに冷たい視線を向ける者もいる。ミミにはあまりそんな人間がいることを、気付かせたくない。だから侍女たちに注意させる程度に留めているけど――。
部屋にもどるとちょうど、図書室から帰ってきたミミが嬉しそうにかけよってきてこういった。
「ごしゅじんさま、わたしをたべてください。」
思わずくらりとなる。
「そんなこと言ったらだめだよ。」
まだ幼いとはいえ、ミミはとても可愛い容姿をしているのだ。万が一、他の男にそんな台詞を言ったら、血迷った相手に襲われるかもしれない。
侍女たちはミミにいろいろと教えているようだが、これはちょっといきすぎだ。後で注意をしておかなければならない。
そうのんきに考えてた。
ミミがこのときも悲しげな表情をしていたことに、気付かないままで…。
***
最近よく寂しい表情をするミミのために仕事を珍しくまじめに――それはシュウが驚かんばかりに――こなした僕は、ミミに会うため部屋に戻ろうとしていた。
調理場の前を通りかかったとき目に映ったのは、桜色の綺麗な毛並み。
ミミ?
僕が疑問に思う間に、ミミは調理扉に入ってしまう。
何をしているのだろう。しかも兎の姿になって。そう疑問が浮かんだとき、悲鳴が聞こえた。
「きゃー!ミミさまが!」
「はやく!はやく火を消せ!」
悲鳴がひびいた瞬間、背筋が泡立った。
駆け出し調理場の扉を開ける。目に映ったのは赤い火の中にいるミミの姿。
「セルドさま、危険ですおやめください。」
頭は真っ白だった。ただ無我夢中で手をのばす。じゅうっと何かが焼ける音がしたが気にならなかった。痛みも感じなかった。必死でミミの体を掴み、火の中から抱き上げる。
「ミミ!ミミ!」
綺麗になった桜色の毛が真っ黒にこげ、焼き切れた毛の間から赤く爛れた皮膚の色がのぞく。自分の手も同じように火傷していた。だが、それ以上に目を開かないミミの姿が心に痛みを走らせた。
何故…。幸せじゃなかったのか…。何か酷い目にあわせてしまったのか…。火の中に飛び込むなんていったいなんで…。
「ミミ!おねがいだ。目をひらいてくれ。ミミ!」
僕が何か君を傷つけてしまったのなら謝る。どんなことでもしてみせる。だからお願いだ。もう一度、目を開けてくれ。
「ごしゅ…じんさま…。」
腕の中、小さな体を横たえたままのミミの目がわずかに僕を見た。わずかな安堵とが胸に流れたが、その弱々しい姿を見てこうしている場合ではないことに気付く。
「はやく医者を。」
「連れてまいりました。」
シュウがどうやら連れてきてくれていたらしい。ずっと抱きしめていたいという衝動を抑え、治療のため連れて行かれるミミの姿を見送った。