ミミのごしゅじんさま2
それからミミとの生活がはじまった。
「ミミ~」
僕が呼ぶと、ミミはこちらへ駆け寄ってくる。
「どうしました~?ごしゅじんさま~。」
「これから釣りにいくから着替えておいで。」
侍女たちの用意した青いドレスは似合って可愛らしいけど、釣りには不向きだ。といってもミミを着飾らせたがる侍女たちは、あまり僕と遊ぶ用の服を用意してくれないのだけど。仕方ないから僕が直接仕立て屋に依頼して作ってもらっている。
ミミは僕の言葉にきょとんとして、首をかしげる。
「でも、今日はメイ先生のじゅぎょうじゃないですか?」
「今日はとてもいい天気だから釣りを優先させていいんだよ。」
「そうなんですか~。」
僕の言葉にミミは素直に納得する。しかし、そううまくはいかなかった。
「殿下!ミミさまに嘘を教え込まないでください!ミミさま、セルドさまの言ったことはすべて偽りです。」
耳ざとい侍女たちが、聞きつけて飛んでくる。僕が授業をさぼることより、ミミが嘘を教え込まれることのほうが重要らしい。
「うそだったんですか?」
「ミミと一緒に釣りに行きたかったんだ。仕方なく嘘をついたんだよ。」
僕の言葉にミミは悲しそうな顔をした。
「ごしゅじんさま、うそついたりじゅぎょうさぼったりしたらいけませんよ。」
ミミの純粋な瞳に、思わずうっとなる。
「わかったよ。ぼくも行く。そもそもミミがいないと遊びにいく意味もないしね。」
ミミは素直でがんばり屋だ。ミミが城に来てからは、侍女たちも何かにつけてミミの面倒を見たがる。僕への監視はそのおかげで薄くなったのだけど、ミミと一緒に遊べなければ意味がないので、状況的には厳しくなったと言える。
「こんにちは、セルド殿下、ミミさま。」
「こんにちは~、メイせんせい!」
厳しいことで有名だったメイ先生もミミが来てからは、柔らかく微笑むようになってきた。相変わらず僕には厳しいけど。ミミは成績は良くないけど、授業にはまじめに取り組む。生徒としては僕なんかより好ましいのだろう。
「セルド殿下、さぼらないでください。」
バシッ
「いててっ。」
メイ先生がミミに付きっきりで教えているうちに、それを見ながら休憩しようとしてたらあっさり見つかった。
***
部屋に戻った僕はミミを抱きしめる。
「どうしたんですか?ごしゅじんさま。」
ミミはきょとんとした顔で、僕の顔を見上げてくる。
「ミミは人気者だね。」
「そうなんですか~?」
「そうだよ。」
ミミは城にきてからあっという間に、みんなの心を掴んでしまった。無邪気な笑顔、可愛らしい仕草、素直で優しい性格で侍女たちだけでなく、城に訪れる貴族たちやその息女、兵士や騎士たちにも人気がある。
みんなが構いたがるものだから、僕が触れられる時間がその分短くなる。
「あんまりみんなと仲良くしすぎたらだめだよ。」
僕のそんな言葉にミミはよくわからないと言った顔をする。
「みんなやさしくしてくれるのにだめなんですか?」
「僕がみんなにずっとチヤホヤされてたらミミはどう思う?」
「ごしゅじんさまがにんきだとうれしいです。」
ミミの笑顔は曇りない。僕ははぁと溜息をつく。
まだ嫉妬なんて知らないんだろうね。
「でも僕が人気ものでみんなと仲良くしてたら、ミミとあんまり遊んであげれないよ?」
実際はミミのほうが引っ張りだこなので、僕が暇になってるのだけれども。
「それはさびしいです。」
ミミは想像したのかシュンとうなだれてしまう。
「ごしゅじんさまはそうなったら、ミミとはあそんでくれませんか?」
「とんでもない!ミミとずっと遊ぶよ!」
「えへへ~、よかった~。」
なんか話が違った方向にいった気がするけど、ミミの笑顔が可愛いからと納得しそうになる。でも、もうちょっとだけがんばらなければ。
「だからミミも僕とだけ遊ぼうね~。」
「はいっ、えいいどりょくします!」
ミミは笑顔でうなずく。
「………、それ誰から教わったの?」
「女官さんがごしゅじんさまの言うことにはこう返事しなさいって。」
女たちはしたたかだ…。




