鏡に何も映らない
mirror——それは、真実を映し出す鏡。
もしも鏡に自分の姿が映らなくなったら、あなたはどう思いますか?
本作は、日常の裏側に潜む「不条理な恐怖」を描いたショートストーリーです。
鏡の向こうに引きずり込まれた夏菜子が辿り着く、残酷な真相とは——。
ぜひ、最後までお楽しみください!
ある夏の朝、夏菜子(夏さかなこ)はあまりの暑さに目を醒ました。
まだ陽が昇り始めて間もない時間帯のようだった。夏菜子は身体じゅうに汗を搔いていた。
眠気はまったく感じなかった。
━━ならばこのまま起きてしまおう。
夏菜子はそう決意したのだった。すれば 1日の使える時間が増えるというものだわ。
早速、ベッドから起き上がってパジャマを脱いだ。今日は友達と遭う日だからと、お気に入りのワンピースを着ることにした。
おけしも念入りにしなくちゃ……。友達と会うのは通っている大学のキャンパス内だ。友達もお洒落をしてくるはずだ。負けるわけにはいかなかった。
夏菜子は負けん気が強いのだ。お化粧をしようとドレッサーの前に座った。まずお化粧水と乳液で顔の保湿から始めようと、して抽斗を開けた。
そして三面鏡をみようとして目を上げた時だ。
鏡の中に映っていたのは、**何ひとつ存在しない「ただの空間」**だった。
ドレッサーの正面に立っているはずの自分の姿も、背後の部屋の風景すらも映っていない。そこには、どこまでも深い闇のような無が広がっていた。
「え……?」
困惑して鏡へ手を伸ばした瞬間、鏡面の「無」から、ぬっと冷たい何かが伸びてきて夏菜子の手首を固く掴んだ。引きずり込まれる視界のなか、彼女は悟る。
鏡に何も映らないのではない。
映るべき自分は、とっくに「こちら側」にはいなかったのだと。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
当たり前にある鏡という存在。もしそこに「自分」が映っていなかったら……という、ふとした日常の恐怖を描いてみました。
結末の真相にゾッとしていただけたなら幸いです。
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