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宇宙(そら)の運び屋は、あなたの想いを届けます  作者: 角山亜衣


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1-2.禁断の単独ワープ

『マスター、もうじき監視宙域を抜けます』


「オッケイ、ワープドライブ起動!」



――単独ワープ


 それが可能な船舶は、銀河連邦軍の超弩級戦艦くらいなものだ。

 しかも、ワープアウトできる宙域は限定されている。


 大昔、ワープ航法を研究していた時代には、試験的にワープドライブを搭載した大型艦がいくつも建造されたらしい。

 でも、装置が巨大な上にエネルギー消費が半端ない。


 課題が山積みだった中での試験運用で、ワープ先の座標に僅かな誤差が生じて、恒星に突っ込んじゃう事故があったんだって。

 その衝撃で恒星は木っ端みじん……星系ひとつが消失する大惨事を引き起こしたとか。


 その後、方針を一転。船舶に搭載する研究は凍結し、各星系に一基ずつ、巨大なワープ・ステーションが建造された。


 ステーション間でしかワープ出来ないようになり、今に至る。



 でも、あたしの愛機レムリアスは、小型の貨物船なのに、超小型のワープドライブを搭載しているのです!

 そこいらのエンジニアが見ても、何の装置かわからないような凄いモノらしい。


 これが、レムリアスのオーパーツ的能力のひとつ、ね。




『ワープドライブ、起動しました。座標の設定……、……、完了。グラビティキャンセラー展開。ワープドライブ、臨界到達。いつでもワープ可能です』


「よし! それじゃ、行きましょうか!」


『了解。全システム、オールグリーン。カウントダウン開始、3、2、1――』


 一瞬だけ、シートに押し付けられるようなGを感じたが、グラビティキャンセラーの干渉で過度な影響は受けなくなる。


 窓から見えていた星空が、光の線となって引き伸ばされていく。

 船体は時空の狭間を滑るような、奇妙な静寂と微振動に包まれる――

 

 数分後、緩やかな逆Gとともに世界が引き戻され、外部モニターには別の星系の輝きが広がっていた。



『ワープ完了。座標を確認……、……、カルディア星系・カルディアⅡまで、約6.5AUの位置にいます。エネルギー残量、僅かです』


「よし! 小一時間でカルディアⅡに到着できるわね。エネルギーは向こうで補給しましょう」


 数日分の距離をショートカットすることができた。けど、保安局の《《お友達》》にバレたら大目玉だわ。



 ――銀河連邦保安局 情報部 統合本部長シリル・ハーシュ。


 訳あって、あたしのお目付け役(おともだち)、となったお偉いさんだ。

 大概のことは、彼の庇護で助けられている。


 ちなみに、レムリアスに単独ワープドライブが搭載されていることを知る、数少ない人物である。



「ところでリリス、貨物室の“お荷物”は、大人しくしてくれているかしら?」


『はい、前回のアラートから三時間二十九分が経過しましたが、静かなものです』


「よしよし、早いとこ届けちゃいましょう! 亜光速でぶっ飛ばしてちょうだい!」







カルディア星系:第二惑星・カルディアⅡ 宇宙港――


『こちら管制官。貨物船レムリアス、入港を許可します。十七番ドックを解放します。運搬ドローンは必要ですか?』


「ありがとう、小型コンテナがひとつなので、ドローン一機お願いするわ」


『了解しました。小型コンテナの中身は何でしょうか?』


「え、えーっと……支援物資よ」


「(リリス、コンテナのカモフラージュお願いね)」


『承知しました、マスター』


 ほどなくして、運搬ドローンと一緒に検査ドローンが飛来した。


 検査ドローンが小型コンテナのスキャンを始める。


――カモフラージュが作動しているとはいえ、緊張するわぁ。


『支援物資、確認できました。搬入出エリアD-3へ運搬します』


「はーい、よろしくね♡」


 運搬ドローンが小型コンテナを吊り下げて運び出すのを見送り、ほっと胸をなでおろした。


「リリス、受取人には連絡できてるかしら?」


『はい、マスター。搬入出エリアD-3にて待機されてます』


「ありがと、それじゃ受け渡しを済ませてくるわね!」




 搬入出エリアD-3には、ローブ姿の人物が待っていた。

 深いフードに隠れた顔は、やはり仮面で隠されている。

 そしてボイスチェンジャーによる合成音声。


『いやぁ、お疲れさま! 予定よりずっと早かったですね。いや本当に、今回の依頼は時間との戦い。こちらとしては気が気じゃなかったんですよ。いやいや、お見事、さすが、プロの仕事です!』


 容姿とは裏腹に、随分とよく喋る人物だ。


『さっそく確認させてもらいますね。あぁ、バッチリ偽装されていて、さすがです! 今の時代、検閲が厳しくなっちゃって……手続きに要する手間と時間を考えると、ねぇ? それにしても、あなたの船、なんというか、渋いですねぇ』


 やたらと口数が多いが、手際よく電子署名を済ませ、コンテナの受け取りも抜かりがない。

 その仕草の合間、ローブの隙間から“聖パラディア教団”のワッペンが覗いた。


(……パラディア教団か。信者の遺体だったみたいね)


『ではでは、本当にありがとうございました! またご縁があれば、是非……!』


「あはは……(二度とごめんだわ)」


 ローブの人物は陽気に手を振り、“積み荷”とともに姿を消した。




――聖パラディア教団。


 銀河系最大の宗教組織だ。どこの星へ行っても、教会を目にする。

 入信すれば、教育や医療に多額の保証がつく星もあるとかで、それを目当てに移住する信者が後を絶たないとか。

 とにかく、“教団”の影響力はものすごいらしい。


 ま、あたしは興味ないけどね。




「さてと、懐も温まったことだし、たまには最上級のホテルで贅沢したいわ~。リリス、この辺りの三ツ星ホテルに予約を入れておいてくれる?」


『承知しました、マスター。特殊燃料の補給も手配しましょうか?』


「ええ、満タンでお願いするわ。あたしは、そう! カルディアⅡといえば、名物の“ラザーニャ”よね!」


 一時はどうなることかと肝を冷やしたけれど、終わってみれば報酬もたんまり頂けて、良い仕事だったわ。お葬式にも間に合ったことでしょう。


 宇宙港を出たあたしは、浮かれた足取りでメインストリートを歩く。


 壁面の巨大スクリーンには、華やかな映像と共に、胡散臭いナレーションが流れていた。


《あなたも、“神の星域”で真理の光を。その歩みは銀河に安寧をもたらすでしょう。

 聖パラディア教団が、全宇宙に愛と希望を届けます――》


 画面には、白いローブを纏った男女が手を取り合い、輝く惑星群と共に微笑んでいる。


「はぁ~。“神の星域”ねぇ……そんなの、どこにあるっていうのよ」


 インカムからリリスの声が聞こえた。


『“神の星域”とは、人類発祥の星域とされ、その星域の座標はあらゆる情報から完全に消去されております。存在自体の真偽を問う専門家もいるようです』


「“人類発祥の星域”ときましたか。いつ、どこで生まれたのかもわからないあたしにとっては、スケールが大きすぎる話よね~」


 リリスは沈黙で答えた。




――数年前。


 レムリアス内のコールドスリープで目覚めたあたしは、過去の記憶の大半を失っていた。

 覚えていたのは、自分の名前と船の名前、搭載されているAIの名前くらいだった。

 それでも、無自覚のままレムリアスを操船して、リリスとも当たり前のように会話できていたので、深層心理で“覚えている”ことがいくつかあったのだろう。


 ちなみに、その時にお世話になったのが、銀河連邦保安局 情報部 統合本部長シリル・ハーシュだった。

 彼はあたしの素性を深く追求することなく、この銀河系で生活できるよう各種ライセンスと住む場所、それに“運び屋”という仕事も用意してくれたのです。




 それにしても、“人類発祥の星域”、その類のワードに反応して、一瞬だけ脳裏に浮かぶ景色がある。


(“青い星”……チキュウ……)


 このことをリリスに聞いてみても、情報閲覧権限にロックが施されているとかで、詳しいことはわからない。


 わからないことを気にしてても始まらないし、今のあたしにとって重要なのは、どのお店のラザーニャを頂くか、なのよ!


 軒を連ねる飲食店、大概の店でラザーニャを名物として推しているが、店ごとにその味は異なる。


 悩んだ挙句、あえて、待ち行列の無い店をチョイスした。

 これはバクチである。


 果たして、そのお味は――――







『おはようございます、マスター。私が選択した三ツ星ホテル、カレイド・コートはいかがでしたか? カルディアⅡにおいて衛生評価とセキュリティランクが最も高いホテルのひとつです。マスターのように単独で行動される運び屋にとって、滞在先の安全性は重要な選定基準となりますからね。また、全客室には最新型のAIアシスタントが配備されており、追加のサポートも充実しているとか。最新型AIといっても、私ほどではないようですが。さらに、レストランのラザーニャが“絶品”だと銀河グルメ情報で高評価でした。せっかくですから、ご褒美も大事かと。ちなみに、バスルームには――』


 リリスは朝っぱらから随分と饒舌に語り続ける。

 AIなのに“言い難いこと”があるらしく、そういう時は無駄に喋るのよねぇ。


「リリス? 朝から随分と元気ね。もっと“大切なこと”が、あるんじゃなくて?」


『……さすがはマスター。お見通しですね』


「ちなみに、昨夜は失敗。大失敗だったわ。やっぱり、閑古鳥の鳴く店が出すラザーニャはあんなもんなのかぁ……。で? 何があったの?」


『ご愁傷様です、マスター。追い打ちをかけるようで申し上げにくいのですが、前回のワープで消費した特殊燃料のアストラム・セルを補給したところ、口座残高が底を尽きそうな状況です』


「ええー!? あの依頼で報酬はたんまり出てたじゃない!」


『この星のアストラム・セルが異常なほど高騰しており……加えて、三ツ星ホテルの請求額が思いのほか高額でした』


 あんなに怖い思いまでして運んだっていうのに――


 そりゃ、三ツ星ホテルも、燃料満タンでって言ったのも、あたしだけど……。


「嘆いていても後の祭り。すぐに“窓口”に向かうわ! 次の依頼を探さなくっちゃ! それはそうと、この辺りの最新トピックスをチェックしておいてね」


『承知しました。昨日の“お荷物”に関係してそうなニュースを重点的に検索します』


 さすが、わかってるわね。

 最新型AIより優秀だと自負するだけのことはある。

 けど、もう少し――なんだよなぁ。


 ・

 ・

 ・


 “窓口”へ向かう途中にある教会では、厳かに葬儀が行われていた。

 昨日運んだご遺体かもしれない。


 どうぞ、安らかに――。

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