龍動く①
衝突は思いがけないところで起きる。
一門衆の降伏で、北陸地方に一気に空白地帯が現れる。
動いたのは越後の龍、不識庵を号し、自らは毘沙門天の化身と名乗る戦国最強と目される大名である。
近年真言宗に傾倒していた謙信が、真言宗本山高野山が信長による宗教分離の圧力をくわえられているのに加え、自身の最大の悩みの種である一向宗の圧力が弱まった事による。
上杉家を支える国人衆の最大の経済獲得手段の一つである乱妨取りが一向宗との争いでは実入りが少なく、国人衆、当時越後国の兵である農民達の不満が鬱積してのことである。
当時、兵農分離をすすめる織田家以外の大名にとって、奴隷の確保、食料、物資の獲得手段である乱妨取りは必要悪であり、正義の義将と評される上杉謙信でさえも、戦の目的の一つは乱妨取りであった。
越後国は奴隷ビジネスで賑わっており、上杉家の経済活動に欠かせない物の一つであった。
その上杉謙信が越後から、越中を席巻し、加賀へ乱入してきたのである。
「奪え!さらえ!」上杉家の将兵の怒号が響き渡る!
その様子を馬上より微動だにせず、謙信は眺めていた。
「柴田勝家、織田長政が出てくるようであります。」
謙信の重臣である河田長親は織田方の動きを謙信に伝えた。
「その数8万」
謙信はその報告を受けても微動だにしない。