信長の怒り
信長は最大の強敵であった本願寺に関しては非常に冷酷で厳しい条件を突き付けているのである。
それは、次期宗主である教如筆頭に主戦派であった坊官達の『死』であった。
この条件に主戦派は怒り狂ったのである。
彼らは断固徹底抗戦を叫び、石山の要塞に立てこもり寺内にて華々しく散る覚悟を決めている。
しかし、門跡である顕如や、頼廉、雑賀孫一など現実を知る者たちはこれらの動きを冷ややかに眺めていた。
「このままではあきません。幸いな事に門跡には他にもお子がおられます。」
頼廉は教如に見切りを付け、弟である准如の存在価値を言った。
「そやけどなあ、あれらは押さえがきかんわな。このままやったら本願寺そのままが消されてしまう。意地は通したんやけど、どうもそこらの線引きが分からんのやろな。」
顕如はまさか信長が次期門跡の命まで欲するとは思わなかった。
信長の思慮や行動が怒りにまかせて動いていた頃とは明らかに変わっていた、まさか信長の『虫歯』が抜けたので、癇癪が収まったなどとはだれも想像できない。
それゆえに、信長の怒りの大きさは激しかったのである。
何より門徒を使い各地で騒乱を起こして日の本を混乱させた報いは受けさせなければならない。
それには一宗派として分をもってのみ存在を許す以外は無かった。
幼いころより本願寺浄土真宗門徒の力を見てきた教如には織田軍なにくその気持ちが強い。
実際現状においても各地の門徒達が立ち上がれば負ける事など端から考えの内にはない。
つい今しがたも教如の右腕である、粟津 右近が鉄砲隊を率い、織田軍に撃ちかけて戻ってきた。
「門跡様も織田を過大評価しすぎておる。この石山に籠れば、どれだけ大筒を撃ちかけてこようとも、返り討ちにしてくれるわ!」
教如はたった今織田軍を一当てしてきた粟津 右近に興奮した様子で早口でまくしたてる。
「教如様、戦は兵の強きも大事ですが、人間は食わな生きてられません。石山の補給も止められて、門徒達は飢えてます。」右近はこの御曹司が末端の門徒の心情など理解出来ない事を当然理解している。
が、現実には本願寺上層部は飢える事はない。
飢える事を知らない御曹司はその怖さなぞ理解できない。
「そろそろ信長さんも堪忍袋の限界やろか・・・・。」
意味深な顕如のつぶやきを頼廉は聞き逃さなかった。