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第4話:ゴミ山? いいえ、宝の山です

 洞窟の奥へと進むにつれ、空気は澱み、鉄錆とカビの混じった独特の臭気が鼻をついた。

 足元には、無造作に捨てられた金属片や、割れたガラス管、ひしゃげた歯車などが散乱している。歩くたびにジャリ、ガシャ、と乾いた音が響く。


『グルルル……』


 闇の奥から、低い唸り声が聞こえた。

 無数の赤い光――魔物モンスターたちの瞳が、こちらを品定めするように光っている。

 廃棄ダンジョン。

 王都から出たゴミが不法投棄され、その魔力汚染によって生まれた変異種たちが巣食う、死の領域。

 普通の貴族令嬢なら、この時点で悲鳴を上げて卒倒していただろう。

 あるいは、恐怖で足がすくみ、動けなくなるかもしれない。

 けれど、私は違った。

 私の頬は紅潮し、心臓は早鐘を打っていた。もちろん、恐怖ではなく、興奮で。


(なんて……なんて素晴らしいの!)


 私は足元に落ちていた、泥だらけの「ゴミ」を拾い上げた。

 一般人には、ただの錆びた鉄くずにしか見えないだろう。

 だが、私のユニークスキル『修繕』の解析眼スキャンを通すと、世界はまったく別の情報を見せてくれる。


 【解析結果:古代式魔力増幅器(破損率85%)】

 【素材:オリハルコン合金、深紅の魔石】

 【推定修復時間:3分】


「嘘でしょう……? これ、オリハルコン合金じゃない!」


 私は声を震わせた。

 オリハルコンといえば、王家の宝剣に数グラム使われているだけで国宝扱いされる伝説の金属だ。それが、こんなところに「燃えないゴミ」感覚で捨てられているなんて。


「……あっちの山は、ミスリル銀のスクラップ。そっちは……えっ、飛空艇の浮遊石の欠片!?」


 私はよろめくように歩き出した。

 右を見ても、左を見ても、宝、宝、宝!

 王城で予算申請書を書いては「却下」のハンコを押され、安物の鉄くずを何度も修理して使い回していた日々が、走馬灯のように脳裏をよぎる。

 ここはゴミ捨て場ではない。

 私にとっては、王家の宝物庫よりも価値のある「資材置き場」だ。


『ガアアアッ!』


 不意に、瓦礫の山から巨大な影が飛び出した。

 全身が刃物のような金属で覆われた狼――「スクラップ・ウルフ」だ。汚染された金属を取り込み、狂暴化した魔獣である。

 鋭い牙が、私の喉元に迫る。


「危ないなもう。ちょっと待ってて、今忙しいの」


 私は視線を魔獣から逸らし、近くに突き刺さっていた「一本の杭」に手を伸ばした。

 それは、苔むし、今にも折れそうなほど腐食した金属の棒だった。


 【解析結果:聖域結界発生装置・杭型(破損率99%)】

 【状態:機能停止】


「見つけた。まずは拠点の確保ね」


 私はスクラップ・ウルフが飛びかかってくるのと同時に、その杭を強く握りしめた。

 体内の魔力を練り上げ、指先から流し込む。


「スキル発動――『修繕リペア』!」


 カッ!


 私の手から、まばゆい黄金の光が迸った。

 光は瞬く間に腐食した杭を包み込む。錆が剥がれ落ち、歪みが矯正され、曇っていた魔石が鮮烈な輝きを取り戻す。

 それは時間を巻き戻すかのように、あるいは新品以上に強化されるように変貌を遂げた。


 キィィィィィィン……!


 修繕された杭から、澄んだ高周波音が響き渡る。

 次の瞬間、杭を中心に半透明のドーム状の光――「聖域結界」が爆発的に展開された。


『ギャウンッ!?』


 空中にいたスクラップ・ウルフが、見えない壁に弾き飛ばされた。

 結界は私の周囲、半径五十メートルほどを覆い尽くし、洞窟の一角を完全な「安全地帯セーフティ・ゾーン」へと変えた。

 結界に触れた魔物たちが、恐れをなして闇の奥へと逃げていく。


「ふぅ。……性能よし。王城の結界発生装置より、三倍は出力が高いわね」


 私はピカピカになった杭を愛おしげに撫でた。

 王城の装置は旧式で燃費が悪かったが、この古代文明の遺物は非常に効率が良い。私の魔力をほんの少し流すだけで、これだけの結界を維持できる。


「さて」


 私は安全になった空間で、改めて周囲を見渡した。

 結界の外では、まだ魔物たちがこちらの様子を窺っているが、中に入ってくることはできない。

 静寂が戻った空間で、私は鞄を下ろし、大きく伸びをした。


「家賃ゼロ、光熱費ゼロ、資材使い放題。おまけに、うるさい上司もいない」


 私は足元に落ちていた手頃な大きさの木箱(これも古代の高級木材だ)に腰を下ろし、鞄から工具セットを取り出した。


「ここなら、私が何を直そうが、何を作ろうが自由。……ふふ、最高の職場じゃない」


 私はニヤリと笑った。

 公爵令嬢としての品位? そんなものは王都に置いてきた。

 今の私は、ただの技術屋アメリアだ。

 手始めに、この湿っぽい地面をどうにかしよう。

 あそこにある石版を『修繕』して組み合わせれば、床暖房付きのフローリングができそうだ。

 照明は、天井の蛍光石を磨けばいい。

 水は、さっき見かけた壊れた濾過装置を直せば、天然水が飲み放題。

 私の頭の中で、ボロボロの洞窟が、王都の最高級ホテルをも凌ぐリゾート空間へと書き換わっていく。


「さあ、始めましょうか。私の『国作り』を」


 私はモンキーレンチを片手に立ち上がった。

 その目は、かつてないほど生き生きと輝いていた。


挿絵(By みてみん)


第5話予告 「野宿は嫌なので、廃材で豪邸を建てます」

安全地帯を確保したアメリアの次なる目標は、マイホーム建設!「野宿なんて絶対に嫌」という固い決意のもと、彼女はゴミ山から古代の高級木材を発掘する。

チートスキル『修繕』と『錬金術』を組み合わせれば、たった半日で上下水道完備・システムキッチン付きの豪華ログハウスが完成!?王都の貴族よりも優雅な、極上のサバイバル生活が幕を開ける第5話!

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