第15話:ダンジョン・リゾート、本日グランドオープン!
その日、かつて「北の廃棄ダンジョン」と呼ばれていた場所は、大陸で最も予約の取れない聖地となっていた。
「いらっしゃいませ! 『アメリア・パラダイス』へようこそ!」
エントランスでは、ベルボーイ姿のゴロー(ミスリル製)が、貴族たちの馬車から恭しく荷物を預かっている。
ロビーの床は、メイドのスー(クリスタル製)によって鏡のように磨き上げられ、シャンデリアの光を反射して輝いていた。
「すごい……本当に魔法のような空間だ」
「見て、あの温泉! 肌が10歳若返ったわ!」
「こちらのビーフシチューも絶品だぞ!」
ロビーは、帝国や近隣諸国から訪れたVIP客たちの歓声で溢れかえっていた。
ルーカス皇帝の「ここでの一泊は、不老不死の薬に勝る」という口コミが広がり、予約は3年先まで埋まっている。
私のダンジョン経営は、大成功を収めていた。
「ふぅ……。グランドオープン初日、なんとか回ったわね」
夜。
全ての業務を終え、私はテラスのベンチに腰を下ろした。
心地よい疲労感。けれど、かつて王城で感じていた「虚無の疲れ」とは違う。
自分が作った場所で、人々が笑顔になる。その充実感が、私の胸を満たしていた。
「……お疲れ様、主よ」
月明かりの下、フェンリルが静かに現れた。
彼は私の隣に腰を下ろすと、そっと温かいハーブティーを差し出してくれた。
「ありがとう、フェン。あなたのおかげよ。あなたが魔物を追い払ってくれたり、たまに(勝手に)接客してくれたおかげで……」
「礼には及ばん。我が主の城が繁盛するのは、鼻が高い」
フェンは夜空を見上げ、少し躊躇ってから、真剣な黄金の瞳を私に向けた。
「だが……少し、忙しすぎるのではないか?」
「え?」
「客が増えれば、主と我の時間が減る。……我は、メンテナンス不足だ」
彼は拗ねたように、私の肩に頭を乗せてきた。
その重みと体温に、私の心臓がトクンと跳ねる。
以前なら「はいはい、修理ね」と流していただろう。でも今は、その言葉に含まれる熱量がわかる。
「アメリア」
彼は初めて、私の名を呼んだ。
そして、私の左手を取り、薬指に口づけを落とす。
「貴女はあらゆるものを『修繕』し、新品にする。……ならば、我のこの制御不能な『恋心』も、責任を持って管理してくれないか?」
「フェン……」
「我と『永久独占契約』を結んでくれ。……死が二人を分かつまで、いや、魂が消滅してもなお、我はずっと貴女の番犬でありたい」
それは、世界で一番不器用で、重たくて、温かいプロポーズだった。
私は涙が滲むのを堪え、彼の銀髪を優しく撫でた。
「……修理代、高いわよ?」
「ああ。我の全てで支払おう」
私たちは月光の下、初めての口づけを交わした。
壊れた世界で出会った二人が、互いの欠けた部分を埋め合わせ、完全な形になった瞬間だった。
* * *
一方、その頃。
隣国の薄暗い鉱山にて。
「ぜぇ、ぜぇ……! ま、待ってくれ! 私は元王太子だぞ! こんな重い岩、運べるわけがない!」
泥まみれのカイル殿下が、看守の足元で這いつくばっていた。
亡命先の国でも彼の無能さは知れ渡り、王族としての待遇など得られず、借金のカタに鉱山へ売られたのだ。
リリナは早々に、金持ちの商人に媚びを売って逃げ出していた。
「あぁ? うるせぇな。使えねぇ奴だ」
鉱山の現場監督は、カイルを冷ややかな目で見下ろした。
彼は片眼鏡を取り出し、カイルを鑑定する。
「体力なし、知力なし、根性なし。おまけにプライドだけはエベレスト級……」
監督はパタンと手帳を閉じ、残酷な判決を下した。
「おい、こいつは廃棄だ。――『修理不可能』」
「ひぃぃぃっ! アメリアァァァ! 助けてくれぇぇぇ!!」
暗い坑道の奥へ連れて行かれるカイルの絶叫は、誰にも届くことはなかった。
* * *
――アメリア・リゾート。
朝日が昇る。
今日もまた、新しい一日が始まる。
「さあ、行きましょうか、フェン!」
「ああ。今日も忙しくなるぞ、我が愛しき主よ」
私はエプロンの紐を締め、最高のパートナーと共に、輝くリゾートの扉を開け放った。
『修繕師』アメリアの幸せなスローライフは、まだ始まったばかりだ。
本作品は100%Gemini3による執筆です。




