第12話:王都壊滅? 私は神獣の抜け毛でセーターを編みます
「あら、雪かしら?」
リビングの窓から外を見た私が呟くと、ソファでくつろいでいたフェンリル(人型)が気まずそうに顔を背けた。
「……すまない、主よ。これは雪ではない。我の毛だ」
そう、ダンジョン内は快適な気温に保たれているはずなのに、部屋の中にはフワフワと銀色の綿毛が舞っていた。
犯人はフェンだ。
どうやら季節の変わり目で、神獣様も「換毛期」を迎えたらしい。
「歩くだけで毛が落ちるのだ。掃除してもキリがないだろう。……いっそ、我が外で寝ようか?」
しょんぼりと耳を垂れるフェン。
しかし、私は床に落ちた毛の塊を拾い上げ、目を輝かせた。
「何を言ってるの! 出ていくなんて許さないわ」
「主……?」
「見て、この光沢! この弾力! 最高級のシルクより手触りがいいじゃない!」
私は『解析眼』を発動させた。
【素材:神獣フェンリルの換毛(Sランク)】
【特性:絶対保温、物理攻撃無効、魔法反射、自動洗浄】
「……これ、ただの抜け毛じゃなくて、最強の防具素材よ」
私は即座に決断した。
掃除機に吸わせるなんてもったいない。
私はブラシを持ち出し、フェンに詰め寄った。
「フェン、じっとしてて。あなたの抜け毛、一本残らず私が有効活用してあげる!」
* * *
その頃、王都。
状況は「危機」を通り越し、「壊滅」の二文字が現実味を帯びていた。
「ひいいっ! 来るな! こっちに来るなあああ!」
カイル殿下は、王城の廊下を無様に逃げ回っていた。
北の城壁がオーガによって破壊され、魔物たちが城内に雪崩れ込んできたのだ。
自慢の近衛騎士団は、北のダンジョンへ向かったまま行方不明(※アメリアの庭で空の彼方へ飛んでいった)。
城に残っているのは、戦えない文官と、逃げ遅れた聖女リリナだけだ。
「きゃあああん! 殿下ぁ、助けてぇ!」
「離せ! お前が重くて走れないだろうが!」
リリナの手を振りほどき、我先に逃げようとする殿下。
かつての愛など見る影もない。
ボロボロの服、煤けた顔。寒さと恐怖でガチガチと歯を鳴らす彼らの視界に、ふと、空の映像が飛び込んできた。
そこには、暖炉の前で楽しそうに編み物をするアメリアの姿があった。
* * *
カチャカチャ、カチャカチャ。
リズミカルな編み棒の音が、ログハウスに響く。
私はフェンから採取した大量の毛を、錬金術で瞬時に「毛糸」へと加工し、ものすごいスピードで編み上げていた。
スキル『修繕』の応用だ。編み目の一つ一つを魔力で最適化しながら繋いでいくので、通常の十倍の速度で編める。
「できたっ!」
完成したのは、上品なシルバーグレーのセーター。
見た目はふんわりとした可愛らしい部屋着だが、その性能は凶悪だ。
「試着してみるわね」
袖を通した瞬間、ポカポカとした温かさが全身を包み込んだ。
まるで温泉に入っているようだ。
試しに、テーブルの上のナイフを軽く腕に当ててみる。
ガキンッ!
ナイフの刃が欠けた。セーターには傷一つない。
「すごい! これならドラゴンのブレスでも防げるわね!」
「……主よ。我の毛皮を身に纏うとは……その、なんだ。……嬉しいぞ」
フェンが顔を赤らめて、尻尾をパタパタさせている。
自分の体の一部で私が守られていることが、彼の忠誠心(と独占欲)を大いに満たしたらしい。
「ふふ、あったかい。これで冬も越せるわ」
私はセーターに顔を埋め、淹れたてのミルクティーを啜った。
窓の外では、雪がちらつき始めている。
遠く王都の方角から、黒い煙が上がっているような気もするけれど……まあ、この防音結界の中では関係のないことだ。
「さあ、次はフェンの分のマフラーも編んであげる」
「! ……主の手編み……!(感涙)」
平和だ。
王都が炎に包まれ、元婚約者が逃げ回っているその時、私は世界で一番頑丈で温かいセーターに包まれ、穏やかな午後のひとときを過ごしていた。
第13話予告「玄関に『元婚約者』が落ちていますが、拾いますか?(いいえ)」
命からがら逃げ延びたカイル殿下一行が、ついにアメリアの楽園へ到達!
「頼む、入れてくれ!」と泣きつく彼らに対し、アメリアはインターホン越しに冷酷な一言。「申し訳ありません、当リゾートは『完全会員制』となっております」。
後悔と絶望の扉が閉ざされる、直接対決(インターホン越し)の第13話!




